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第9章「四聖獣フェニックス」
死の舞踏
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「みち、やるなら今だよ!」
「わ、私が」
「おらの攻撃は駄目だった。ユンも、よく分からないけど、しょんぼりしてる。クロボルをやっつけた時のように、みちの剣しかない」
怖くなって視線を逸らした先に、ローザが映る。
「未知、あんたの番だよ」
今まで全く目に入らなかったが、ローザのコートに血が滲み、下に着ているワンピースの裾は既に黒ずんでいる。おそらく漆黒の騎士と戦った時に深手を負ったに違いない。
「ローザさん……」
「私が神父を見張っている」
先程とは打って変わった物言いは、とても足の痛みだけを堪えているようには見えない。
ローザの声に呼応してか、石像が屈み、未知の足元に剣の切っ先を着けた。仰いで見ると、ナツの女神は凛々しい顔つきをしている。どうやら乗れということらしい。
フェニックスは首をもたげ、まぶたを開けた。相変わらず眼は血走り、狂気に見開いている。
迷っている暇なんかない。これは、ドン・クロボルとの戦いの時と同じなのだ。未知は切っ先に足を乗せ、抜剣した。石の剣にも、無数のヒビが入っている。もはやいつ砕け落ちてもおかしくない。
先程と同じく、フェニックスのくちばしの内側に、蒼い火種が灯った。盾を失ったナツの石像は剣を突き出し、未知をフェニックスの頭上に放った。少女が飛び降りると同時に、ナツは剣の切っ先から粉々に砕けて崩壊した。
眼下に、巨鳥のくちばしが迫り、熱気が陽炎になって見える。両手で柄を握り、切っ先を額に向ける。
(でも)
やっぱり剣を聖獣フェニックスの額に突き刺せない。咄嗟に、未知は剣を手放した。くちばしの上に着地すると、額に触れた。
幸い体はフェニックスの体毛の炎で燃えなかった。ナツの石像が動き出す前、岩壁に触れた時に感じた温もりを思い出す。辺りを包み込む蒼白い光が夕暮れ前を彷彿させる淡いクリーム色の光に変化した。
――お母さんなの?
フェニックスの声が聞こえる。奇声ではなく、イグエンと話していた時の声と同じだ。
「お母さん??」
――僕がどんなにぶつかって行っても、お母さんは手を上げなかった。手を失っても……僕に会いに来てくれたの?
もしかして、フェニックスはナツの女神の石像を目の当たりにして、そう言っているのかもしれない。
「フェニックス、私はあなたのお母さんじゃなくて、月城未知……さっきの神に選ばれし者です」
午後を思わせる光の中から、聖獣が姿を現した。大きさは、サレプスに洗脳された時よりは落ち着いている。体毛はまだ辺りの光と同系色で、溶け込んでいるようにも見える。
「月城未知と言うの? 僕を助けてくれて、ありがとう」
自分を『神に選ばれし者』と名乗るのは恥ずかしかった。自分はそんな大それた存在ではない。だが、フェニックスの誤解を解くためにも言わなければならなかった。
「……あ」
とんでもない失態をやらかした。今こそフェニックスの力を借りなければと、背中の鞘に手を伸ばしたら、ナツの石像から飛び降りる時に剣を手放したことを思い出した。辺りを見回しても、剣らしきシルエットは見当たらない。そもそもこのつかみ所のない空間はどこなのだろう。
「剣がないの?」
「え……その」
慌てる未知をなだめるように、フェニックスは鷹くらいの大きさまで縮むと、少女の右肩にふわりと降り立った。
「僕の力を君に直接送るから。後で剣に触れれば、大丈夫」
力を直接体に送るって? ちょっと触れて、火傷するのとは違うのだ。全身火だるまになったらどうしよう。
否、現に自分の肩にフェニックスが乗っていても、火傷をしていない。フェニックスの言葉を信じたい。
「わ、私が」
「おらの攻撃は駄目だった。ユンも、よく分からないけど、しょんぼりしてる。クロボルをやっつけた時のように、みちの剣しかない」
怖くなって視線を逸らした先に、ローザが映る。
「未知、あんたの番だよ」
今まで全く目に入らなかったが、ローザのコートに血が滲み、下に着ているワンピースの裾は既に黒ずんでいる。おそらく漆黒の騎士と戦った時に深手を負ったに違いない。
「ローザさん……」
「私が神父を見張っている」
先程とは打って変わった物言いは、とても足の痛みだけを堪えているようには見えない。
ローザの声に呼応してか、石像が屈み、未知の足元に剣の切っ先を着けた。仰いで見ると、ナツの女神は凛々しい顔つきをしている。どうやら乗れということらしい。
フェニックスは首をもたげ、まぶたを開けた。相変わらず眼は血走り、狂気に見開いている。
迷っている暇なんかない。これは、ドン・クロボルとの戦いの時と同じなのだ。未知は切っ先に足を乗せ、抜剣した。石の剣にも、無数のヒビが入っている。もはやいつ砕け落ちてもおかしくない。
先程と同じく、フェニックスのくちばしの内側に、蒼い火種が灯った。盾を失ったナツの石像は剣を突き出し、未知をフェニックスの頭上に放った。少女が飛び降りると同時に、ナツは剣の切っ先から粉々に砕けて崩壊した。
眼下に、巨鳥のくちばしが迫り、熱気が陽炎になって見える。両手で柄を握り、切っ先を額に向ける。
(でも)
やっぱり剣を聖獣フェニックスの額に突き刺せない。咄嗟に、未知は剣を手放した。くちばしの上に着地すると、額に触れた。
幸い体はフェニックスの体毛の炎で燃えなかった。ナツの石像が動き出す前、岩壁に触れた時に感じた温もりを思い出す。辺りを包み込む蒼白い光が夕暮れ前を彷彿させる淡いクリーム色の光に変化した。
――お母さんなの?
フェニックスの声が聞こえる。奇声ではなく、イグエンと話していた時の声と同じだ。
「お母さん??」
――僕がどんなにぶつかって行っても、お母さんは手を上げなかった。手を失っても……僕に会いに来てくれたの?
もしかして、フェニックスはナツの女神の石像を目の当たりにして、そう言っているのかもしれない。
「フェニックス、私はあなたのお母さんじゃなくて、月城未知……さっきの神に選ばれし者です」
午後を思わせる光の中から、聖獣が姿を現した。大きさは、サレプスに洗脳された時よりは落ち着いている。体毛はまだ辺りの光と同系色で、溶け込んでいるようにも見える。
「月城未知と言うの? 僕を助けてくれて、ありがとう」
自分を『神に選ばれし者』と名乗るのは恥ずかしかった。自分はそんな大それた存在ではない。だが、フェニックスの誤解を解くためにも言わなければならなかった。
「……あ」
とんでもない失態をやらかした。今こそフェニックスの力を借りなければと、背中の鞘に手を伸ばしたら、ナツの石像から飛び降りる時に剣を手放したことを思い出した。辺りを見回しても、剣らしきシルエットは見当たらない。そもそもこのつかみ所のない空間はどこなのだろう。
「剣がないの?」
「え……その」
慌てる未知をなだめるように、フェニックスは鷹くらいの大きさまで縮むと、少女の右肩にふわりと降り立った。
「僕の力を君に直接送るから。後で剣に触れれば、大丈夫」
力を直接体に送るって? ちょっと触れて、火傷するのとは違うのだ。全身火だるまになったらどうしよう。
否、現に自分の肩にフェニックスが乗っていても、火傷をしていない。フェニックスの言葉を信じたい。
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