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第9章「四聖獣フェニックス」

死の舞踏

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 †


「無駄だよ。君は僕に敵わない」

 ローザは息を荒げ、ユーゾンと距離を取って体勢を整える。岩肌には、斬撃の跡が無数に刻まれている。

「十年前のひ弱な僕とは違うんだよ」

 大剣を地面に突き刺すや否や、四方に尖った岩が飛び出し、ローザの足にぶち当たった。

「すごいだろ。サレプス様のおかげで、魔法を使えるようになったんだよ」

 ユーゾンは、よろめいたローザにすかさず近づくと、伸ばした手で首根っこを掴んだ。

「君はいつも真っ直ぐだよね。戦士になっても、変わらないね」

 じりじりと腕を上げ、彼女を宙吊りにする。

「やっとこの手で君に触れた。抱っこじゃなくて、こういう形になったのは残念だけど」

 ローザは歯を食いしばり、痛みを堪える。両手で籠手を掴んで上下に揺すろうとするが、びくともしない。

「もしあの戦いがなかったら、君を連れてイストギールから逃げた。君だって、親の言いなりになって、アスモゥと一緒になりたくなかっただろう?」

 ユーゾンは空いた方の手で兜を外し、ローザをしかと見つめる。

「今からでも遅くない。死にたくないなら、君もサレプス様の眷属けんぞくになるんだ」

 眼差しは狂気に満ち、唇から牙が垣間見える。血生臭い口臭だ。魔族は血を好み、生臭いという。恐らく何人か人を殺めたに違いない。

「さぁ、返事を聞かせてよ。僕のさっきの魔法で地面に穴が開いて、君の真下に溶岩が見えるよ」

 むあっと、真下から溶岩の熱気が立ち上ってくる。地面の亀裂は小さいが、人っ子一人が落ちるのなら十分だ。

「させぬ!」

 隙を狙い、アスモゥは大岩を持ち上げてユーゾンに投げつけた。ローザにすっかり気を取られていた漆黒の騎士は岩の下敷きになった。

「……ロザリエーヌ」
「アスモゥ、大丈夫か?」
「君が来てくれたおかげで、楽になった……」

 と言いながらも、息は絶え絶えだ。

「惨めな姿だろう。すまない、君に時間稼ぎをさせてしまった」
「慣れてる」

 一時は死にかけたローザだが、事もなげに言う。

「ロザリエーヌ。私は彼を覆っている鎧を引き剥がす。君はむき出しになった本体を仕留めてほしい」
「どうして、奴の弱点が分かった?」
「彼が自慢気に言っていた。四肢を失って衰弱していた身体を蘇らせたのは魔王だと。彼を覆っている鎧は、核となる身体を守るための外殻だ」
「ただの女たらしに成り下がったわけじゃないようね」
「市井の女は色々知っている。籠の鳥は御免でね、彼女らは普段城では聞けない情報を持っている。ただエルスンの件は遺憾でならない」
「エルスン……?」
「父上の代から仕えている神父だ。城の地下からうめき声が聞こえて、こっそり行ったら、手足のない獣のような者がいたと。エルスンはそいつをなだめすかしていた。その話を聞いて以来、彼女には会っていない。恐らく魔王の手下に始末されたのだろうな」

 ――彼はイストギールのために戦い、殉死した騎士です。間もなく、殉死者とともに共同墓地に埋葬されます。

 あの神父は嘘を吐いていたのか。もし、あの時ユーゾンが生きていると知っていたら。
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