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第8章「イストギールの夜明け」
ロザリエーヌ・レゴラ
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「彼女の名前はロザリエーヌ・レゴラ。伯爵の一人娘です」
いきなり声がして振り返ると、青い髪の青年が階段の踊り場に立っている。
「ヒューゴさん??」
髪は三つ編みにしているものの、聡明さを窺わせる紺色の瞳は瓜二つだ。足まで覆い隠さんばかりの長いローブが、青年に神秘的な風格を感じさせる。
「彼女は、十年前に忽然と姿を消したそうです。貴女と同じ年頃だったと聞きました」
となると、肖像画は十年前に描かれたのだろうか。青年はそろそろと階段を降り、二人に歩み寄る。
「みち、ヒューゴって、誰? この兄ちゃんのこと知ってるの?」
センテバはそわそわし、落ち着かない。青年は首を横に振り、
「私は、ルノディル・ド・オスギール」
と名乗った。
確かオスギールは、イストギールの前に栄えた王国の名前で、太古の勇者が築いたという。
「よく太古の勇者イサヤに似ていると言われます。私は、イサヤの末裔ではありますが、人智を超えた力は持っていません」
「ルノディル殿は、アスモゥ・ド・イストギール王子に次ぐ王位継承者でござる。拙者は、漆黒の騎士からルノディル殿をお守りするため、護衛の任に就いている」
話をつなげるようにして、鴻寨が現れた。
「待たせたでござるな」
彼の隣には、肖像画の紳士――レゴラ伯爵が立っている。白髪混じりなのか、絵よりも髪の色は薄く、目元には幾重もの皺が刻まれている。肖像画が美化して描かれているのか、かつての面持ちだったのか定かではない。
「私は、領主のアザヌスキー・レゴラと申します。鴻寨さんから話を聞きました。貴女は『神に選ばれし者』で、メルフ火山に行きたいとのことですね」
伯爵に教えたのは鴻寨なのではと、未知は勘ぐる。しかし、自分が神に選ばれし者だということをまだ鴻寨に明かしていない。
「李本銀にも言い伝えがあってね、勇者は異国から現れると伝えられている」
少女の心の機微を察してか、鴻寨は説明する。
「おらは、みちが勇者だってことは、ユニコーンから聞いて知ったよ。どうしてコウサイは分かったの?」
「未知殿の眼差しでござる。ルンサームで初めて会った時に確信した」
神に選ばれし者の眼差しとはいかなるものだろうか。太古の勇者から連想すると、勇壮で、揺るぎないに違いない。
「みちの眼差し?」
「強いて言えば――なぜ私はここにいるのだろう、狼狽え、世界に違和感があると」
鴻寨の答えは思いもよらないものだった。だが、内心を言い当てられて、ホッとしてもいる。自分はこの世界の住人ではないし、理も知らない。旅を続けても、違和感がなくなることはないだろう。
「漆黒の騎士はフェニックスの命も狙っていると噂されています。聖獣が祀られているメルフ火山の立ち入りを禁止しているのはそのためです。しかし、事情が事情です。貴女方が火山に入れるよう、尽くしましょう」
レゴラは未知とセンテバに会釈した。
「コウサイは火山に行かないの?」
伯爵の視線が鴻寨に向いていないのをセンテバは訝しむ。
「今の拙者は、ルノディル殿の護衛でござる」
「そっか。でも、もうすぐユンが戻ってくるから、心配ないね」
と言うと、胸を張った。
いきなり声がして振り返ると、青い髪の青年が階段の踊り場に立っている。
「ヒューゴさん??」
髪は三つ編みにしているものの、聡明さを窺わせる紺色の瞳は瓜二つだ。足まで覆い隠さんばかりの長いローブが、青年に神秘的な風格を感じさせる。
「彼女は、十年前に忽然と姿を消したそうです。貴女と同じ年頃だったと聞きました」
となると、肖像画は十年前に描かれたのだろうか。青年はそろそろと階段を降り、二人に歩み寄る。
「みち、ヒューゴって、誰? この兄ちゃんのこと知ってるの?」
センテバはそわそわし、落ち着かない。青年は首を横に振り、
「私は、ルノディル・ド・オスギール」
と名乗った。
確かオスギールは、イストギールの前に栄えた王国の名前で、太古の勇者が築いたという。
「よく太古の勇者イサヤに似ていると言われます。私は、イサヤの末裔ではありますが、人智を超えた力は持っていません」
「ルノディル殿は、アスモゥ・ド・イストギール王子に次ぐ王位継承者でござる。拙者は、漆黒の騎士からルノディル殿をお守りするため、護衛の任に就いている」
話をつなげるようにして、鴻寨が現れた。
「待たせたでござるな」
彼の隣には、肖像画の紳士――レゴラ伯爵が立っている。白髪混じりなのか、絵よりも髪の色は薄く、目元には幾重もの皺が刻まれている。肖像画が美化して描かれているのか、かつての面持ちだったのか定かではない。
「私は、領主のアザヌスキー・レゴラと申します。鴻寨さんから話を聞きました。貴女は『神に選ばれし者』で、メルフ火山に行きたいとのことですね」
伯爵に教えたのは鴻寨なのではと、未知は勘ぐる。しかし、自分が神に選ばれし者だということをまだ鴻寨に明かしていない。
「李本銀にも言い伝えがあってね、勇者は異国から現れると伝えられている」
少女の心の機微を察してか、鴻寨は説明する。
「おらは、みちが勇者だってことは、ユニコーンから聞いて知ったよ。どうしてコウサイは分かったの?」
「未知殿の眼差しでござる。ルンサームで初めて会った時に確信した」
神に選ばれし者の眼差しとはいかなるものだろうか。太古の勇者から連想すると、勇壮で、揺るぎないに違いない。
「みちの眼差し?」
「強いて言えば――なぜ私はここにいるのだろう、狼狽え、世界に違和感があると」
鴻寨の答えは思いもよらないものだった。だが、内心を言い当てられて、ホッとしてもいる。自分はこの世界の住人ではないし、理も知らない。旅を続けても、違和感がなくなることはないだろう。
「漆黒の騎士はフェニックスの命も狙っていると噂されています。聖獣が祀られているメルフ火山の立ち入りを禁止しているのはそのためです。しかし、事情が事情です。貴女方が火山に入れるよう、尽くしましょう」
レゴラは未知とセンテバに会釈した。
「コウサイは火山に行かないの?」
伯爵の視線が鴻寨に向いていないのをセンテバは訝しむ。
「今の拙者は、ルノディル殿の護衛でござる」
「そっか。でも、もうすぐユンが戻ってくるから、心配ないね」
と言うと、胸を張った。
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