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第7章「魔王の生まれし森」

獣と人と

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 儀式は明日に延期になった――目が覚めてから、すぐにセンテバに聞かされた。
 延期ということは、儀式は必ず執り行われる。行って然るべき儀式のはずなのに、まだ胸に引っかかっている。たとえ王墓がもとに戻ったとしても、魔王サレプスは復活したんだ。もはや魔王に魅入られし者を浄化する儀式は無意味だというのに。
 しばらく睡魔は襲ってこないだろう。未知は梯子を降りて、地面に降り立つ。前を向いた時、茂みの向こうで白い影が閃いた。

(ユン君?)

 白い影の隣に、一際小さな影が見える。
 未知はユンが監禁されていることを知らなかった。ただ今日は一度もユンの姿を見なかったと思ったくらいだ。ユンは白い女性と話している。女の肌と髪は透けるように白く、赤いワンピースが異彩を放っている。何を話しているのか聞こえないが、女性は始終苛立っているように見て取れた。

「ミチだよね?」

 こっそり立ち去ろうとしたけれど、見つかってしまった。白い女は既にいない。

「ヴァレンはね、ユンの友達なの」
「ヴァレン?」
「うん、ヴァレンはユンと同じ悪魔なの」
「悪魔?」

 未知は目を丸くした後に、再度ユンを見る。

「うん。ユンはね、みんなから悪魔って呼ばれてる」

 と言うと、被っていた麦わら帽子を取った。現れたのは、黒い毛に覆われた身体と、こめかみあたりに生えた三角の耳だ。髭を生やし、切れ長の瞳孔は猫そのものである。

「驚いた?」
「ううん」

 口では言うも、内心驚いていた。今まで、ニャッカで、スピリジやサールといった獣人を目の当たりにしているといっても、未だに二足歩行で人語を話す動物と対面するのには違和感がある。

「ミチは獣人を知ってるよね?」

 未知はこくりと頷く。

「獣人は世界中にいる。でも、猫族は陰影の森にしかいないの。ユン達猫族はね、日の光に弱くて、日中帽子を被っていないといけないの。でもね、獅子や豹は別だよ。猫族は魔族の血が濃いって言われているの――もっと前から話した方が良いよね? 獣人はね、闇の帝国によって造られた生き物なの」

 同じ話をジュリスさんが話していた。確か、獣人狩りが『宵の獣人』を狙うのは、獣と交わった人間の魂を解放するとか言っていた覚えがある。

「ユンは、前に人と獣の姿を持つ獣人を見たの。外の人は、その人を宵の獣人と言っていたの。話に聞くと、獣人が人と交わって生まれた子を宵の獣人って呼ぶんだって。でもね、ユンにもね、人間の血が流れてる」

 どういうことだろう。

「帝国は、光の王国――今でいうイストギール王国を指すよ――を侵略しようと、人間を改造しようとしたの。その多くは、捕虜などの奴隷なんだけどね。獣の能力が加わった人間は帝国の戦力になると信じられていたの。人間と獣を融合させるために使われたのが悪魔族の血なの」

 獣人の祖先は人間だった。人が人を亜種に改造する。大いなる力を手に入れるために、支配のために。

「考えてもおかしいでしょ? 獣と人がねんごろになって、宵の獣人という子どもが生まれるなんて。獣人に人の血が流れていなくちゃ、宵の獣人は生まれないの」

 ユンは自嘲気味に言う。
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