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第6章「四聖獣ユニコーン」
いざないの子守歌
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「あっ」
キラリと、ツルバイェットの股の向こうで何かが煌めくのが見えた。部屋の異変に感づいたセンテバは、ツルバイェットの図体を曲芸師のように軽やかにすり抜けて、中に駆け込んだ。
「床が光ってる!」
淡い七色の光が部屋の真ん中から漏れ出ている。光源に近寄ると、床に頭一つ分の丸い石がはめ込まれていた。
「もしかして、こっちも結界が張られたんだ……」
同じ光をクロボルのアジトでも目の当たりに見た。ニャッカの結界は二つで一つだ。魔物の侵入よりも、魔王が力を付けて復活するかと思うと、全身が縮み上がる。
「くそっ」
センテバは、矢筒から矢を取り出すと、矢尻を突き立てて石の表面を引っかき始めた。
「センテバ、何をしているの?」
おぼつかない足取りで、エルザが部屋に入ってきた。
「何って、結界を破壊するんだ。そうしないと、魔王が力を付けてしまうよ!」
結界と、魔王の封印の解放に、どのような因果関係があるのか分からない。しかし、友達が悲しむことは悪いことだと、センテバは直感していた。石を砕かなくても、表面の何かを傷つければ、結界が解除されるはずだ。
「少年よ、気が狂ったか? なぜ結界を破壊しようとする? アスナー様の作戦を無下にするつもりか!」
ツルバイェットの目には、センテバの行為が異常だと映ったに違いない。少年をたやすく組み伏せると、矢をもぎ取った。俯せといえども、鉄の塊を彷彿させるツルバイェットにのしかかられては、身動きがとれない。
「待って、ツルバイェット」
エルザは、ツルバイェットの正面に立ちはだかった。
「待てますか! 姫様、この少年は謀反を起こそうとしているのですぞ」
ツルバイェットは、センテバから矢筒も引ったくると、部屋の隅に投げ捨てた。
「センテバ」
エルザに呼ばれて、少年はぴくりと体を震わせるが、喉元を圧迫されて、声が出ない。姫の眼差しが意味するところを察すると、ツルバイェットは、センテバをしぶしぶ羽交い締めにして、立ち上がった。
「結界は世界中にあるんでしょう? エルガンヴァーナに、イストギール、先日災厄に見舞われたルンサームにも……魔物の襲撃から免れているなら、張っていた方が良いと思います」
「……おらもそう思ってた。でも、ユニコーンが嘘をついてるとは思えない。きっと結界には、おら達の知らないことがたくさんあるんだ」
「結界について、アスナーに教えてもらわなくてはいけませんね」
センテバは目を剥き、頬を紅潮させ、
「アスナー、アスナーって、エルザはあいつのことが好きなの?」
と発奮した。じたばたと手足をばたつかせ、ツルバイェットの拘束から逃れようと奮闘する。
「エルザは、あいつの肩を持つけど、肝心なときにいない奴なんて、いてもいなくても同じだ!」
「センテバ――最後に忠告してあげる。いつまでも力任せでは、結界は解けませんわ」
少年は足掻くのを止めた。
「紋は、内側に仕込んであるの。ちょっとやそっとでは、解除できないわ」
「何言ってるんだよ……エルザ?」
どうしてエルザが結界の仕組みを知っているのだろうか。もしかして、魔術と一緒に、結界についても、アスナーから教わっていたのか。
「それは――俺様が結界を張ったからだ」
少女の柔らかな声は、音階を下るように、低く穏やかな声に変化した。
「エルザ……?」
「お前の目は、節穴だな」
エルザは、体表を水のように波立たせたかと思うと、瞬く間に変化した。栗色の髪は皮膚に引っ込まれて蒼白い肌に、ドレスは真っ黒に染まり、丈の長いローブになった。
キラリと、ツルバイェットの股の向こうで何かが煌めくのが見えた。部屋の異変に感づいたセンテバは、ツルバイェットの図体を曲芸師のように軽やかにすり抜けて、中に駆け込んだ。
「床が光ってる!」
淡い七色の光が部屋の真ん中から漏れ出ている。光源に近寄ると、床に頭一つ分の丸い石がはめ込まれていた。
「もしかして、こっちも結界が張られたんだ……」
同じ光をクロボルのアジトでも目の当たりに見た。ニャッカの結界は二つで一つだ。魔物の侵入よりも、魔王が力を付けて復活するかと思うと、全身が縮み上がる。
「くそっ」
センテバは、矢筒から矢を取り出すと、矢尻を突き立てて石の表面を引っかき始めた。
「センテバ、何をしているの?」
おぼつかない足取りで、エルザが部屋に入ってきた。
「何って、結界を破壊するんだ。そうしないと、魔王が力を付けてしまうよ!」
結界と、魔王の封印の解放に、どのような因果関係があるのか分からない。しかし、友達が悲しむことは悪いことだと、センテバは直感していた。石を砕かなくても、表面の何かを傷つければ、結界が解除されるはずだ。
「少年よ、気が狂ったか? なぜ結界を破壊しようとする? アスナー様の作戦を無下にするつもりか!」
ツルバイェットの目には、センテバの行為が異常だと映ったに違いない。少年をたやすく組み伏せると、矢をもぎ取った。俯せといえども、鉄の塊を彷彿させるツルバイェットにのしかかられては、身動きがとれない。
「待って、ツルバイェット」
エルザは、ツルバイェットの正面に立ちはだかった。
「待てますか! 姫様、この少年は謀反を起こそうとしているのですぞ」
ツルバイェットは、センテバから矢筒も引ったくると、部屋の隅に投げ捨てた。
「センテバ」
エルザに呼ばれて、少年はぴくりと体を震わせるが、喉元を圧迫されて、声が出ない。姫の眼差しが意味するところを察すると、ツルバイェットは、センテバをしぶしぶ羽交い締めにして、立ち上がった。
「結界は世界中にあるんでしょう? エルガンヴァーナに、イストギール、先日災厄に見舞われたルンサームにも……魔物の襲撃から免れているなら、張っていた方が良いと思います」
「……おらもそう思ってた。でも、ユニコーンが嘘をついてるとは思えない。きっと結界には、おら達の知らないことがたくさんあるんだ」
「結界について、アスナーに教えてもらわなくてはいけませんね」
センテバは目を剥き、頬を紅潮させ、
「アスナー、アスナーって、エルザはあいつのことが好きなの?」
と発奮した。じたばたと手足をばたつかせ、ツルバイェットの拘束から逃れようと奮闘する。
「エルザは、あいつの肩を持つけど、肝心なときにいない奴なんて、いてもいなくても同じだ!」
「センテバ――最後に忠告してあげる。いつまでも力任せでは、結界は解けませんわ」
少年は足掻くのを止めた。
「紋は、内側に仕込んであるの。ちょっとやそっとでは、解除できないわ」
「何言ってるんだよ……エルザ?」
どうしてエルザが結界の仕組みを知っているのだろうか。もしかして、魔術と一緒に、結界についても、アスナーから教わっていたのか。
「それは――俺様が結界を張ったからだ」
少女の柔らかな声は、音階を下るように、低く穏やかな声に変化した。
「エルザ……?」
「お前の目は、節穴だな」
エルザは、体表を水のように波立たせたかと思うと、瞬く間に変化した。栗色の髪は皮膚に引っ込まれて蒼白い肌に、ドレスは真っ黒に染まり、丈の長いローブになった。
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