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第4章「見えるもの、見えないもの」
はじめての旅
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――それは、あなたが決めることです。
「私が? ……え」
岩の上に何かがいた。
まだ月は出ていないはずだ。しかし、その人の後ろ姿は空にちりばめられた星のきらめきとは違い、夜空よりもほのかに明るい柔らかな光を照らしだしていた。
「やっと会えましたね」
青年は振り向き、未知は首を傾げる。
彼の瞳は海のように深い青をたたえ、少女を見つめている。顔立ちは幼さが残るが、それでも目鼻立ちがくっきりとしていて、美しかった。頭には金の輪っかがはまっており、肩まで伸びた髪は瞳よりも淡く、風になびきながら光の粉を散らしている。
「あの、あなたは……誰、ですか?」
一目で、神話に登場しそうな人だと感じた。無論今までに一度として会ったことはない。
「初めまして」
青年はそう言った。
剣の柄を掴んでいた未知の手が緩む。
「もしかして……」
聞き覚えのある声。この世界に来てから、一度ならず二度、彼女に呼びかけた姿なき声。
「神魔羅殿で私に話しかけてきた方ですか?」
「はい。私は、ヒューゴ・デリッタです」
相手の透き通った声と、名前と、姿が一致する。未知は、災厄の後の暗闇で、神魔羅殿で聞いた声の主とようやく対面できたのだった。
「未知、その剣は決して夜に抜いてはいけません」
ヒューゴは軽やかに岩から着地し、未知の隣に座った。光の粉は今なお、彼の体から解き放たれている。
「あなたは晩に剣が光るのを見たでしょう。時として、剣は不穏な光を放つときがあります」
心当たりがあった。昨晩鞘から出ていた怪しい影は、不穏な光と関係があるのではないだろうか。
「夜の剣は、危険です。しかし、剣の代わりに鞘は武器としても使えます。あなたが念じれば、剣は鞘から抜けず、杖のように扱えるのです」
「その……ヒューゴ・デリッタさんは、一体」
「私は剣の守護者です」
神魔羅殿に行き、神の剣を抜くように導いた理由が分かる気がした。でも、
「どうして、私がこの剣を持たなくてはいけないんですか?」
古の勇者クラン、太古の勇者は剣の腕が立ち、かつ周りの人々に尊敬された逞しい人だったに違いない。けれども、私はその扱い方も知らないし、友達もいないし、第一、この世界の人間じゃない。神に選ばれし者にふさわしくない。
「不安は大きければ大きい程、怖い。体が震えて何もできない。その不安はあなたの弱みになり、やがて後悔という災いを招く」
まるで心を見透かされたようだった。
「でも、その不安が大きいからこそ、乗り越えたときに、あなたはもっともっと強くなれる」
ヒューゴは手を伸ばして柄に触れる。
「善くも悪くも、剣はあなたの心を映し出します。あなたが気持ちを強く持てば、剣はあなたの力となり、鞘はあなたを守ります」
光の粉が未知に降り注いでいる。
――私は、いつもあなたとともにいます。
本当に剣の守護者なのだろうか。未知は剣を見ようとヒューゴからちょっと目を離した隙に、彼は忽然と姿を消していた。
「お、異常はないようだな。交代の時間だ」
地平線のすぐ上に、半分よりやや欠けた月が顔を出している。もう見張り交代の時間がやってきたんだ。ジュリスは寝足りないという表情を一切していなかった。
「今日一日疲れただろう。心置きなく寝ていいぞ。明日は日の出とともに出発だ」
まだ眠くないと思っていても、岩に体を預けたら、急激に眠気が襲ってきた。未知は、十も数えないうちに眠りに落ちたのだった。
「私が? ……え」
岩の上に何かがいた。
まだ月は出ていないはずだ。しかし、その人の後ろ姿は空にちりばめられた星のきらめきとは違い、夜空よりもほのかに明るい柔らかな光を照らしだしていた。
「やっと会えましたね」
青年は振り向き、未知は首を傾げる。
彼の瞳は海のように深い青をたたえ、少女を見つめている。顔立ちは幼さが残るが、それでも目鼻立ちがくっきりとしていて、美しかった。頭には金の輪っかがはまっており、肩まで伸びた髪は瞳よりも淡く、風になびきながら光の粉を散らしている。
「あの、あなたは……誰、ですか?」
一目で、神話に登場しそうな人だと感じた。無論今までに一度として会ったことはない。
「初めまして」
青年はそう言った。
剣の柄を掴んでいた未知の手が緩む。
「もしかして……」
聞き覚えのある声。この世界に来てから、一度ならず二度、彼女に呼びかけた姿なき声。
「神魔羅殿で私に話しかけてきた方ですか?」
「はい。私は、ヒューゴ・デリッタです」
相手の透き通った声と、名前と、姿が一致する。未知は、災厄の後の暗闇で、神魔羅殿で聞いた声の主とようやく対面できたのだった。
「未知、その剣は決して夜に抜いてはいけません」
ヒューゴは軽やかに岩から着地し、未知の隣に座った。光の粉は今なお、彼の体から解き放たれている。
「あなたは晩に剣が光るのを見たでしょう。時として、剣は不穏な光を放つときがあります」
心当たりがあった。昨晩鞘から出ていた怪しい影は、不穏な光と関係があるのではないだろうか。
「夜の剣は、危険です。しかし、剣の代わりに鞘は武器としても使えます。あなたが念じれば、剣は鞘から抜けず、杖のように扱えるのです」
「その……ヒューゴ・デリッタさんは、一体」
「私は剣の守護者です」
神魔羅殿に行き、神の剣を抜くように導いた理由が分かる気がした。でも、
「どうして、私がこの剣を持たなくてはいけないんですか?」
古の勇者クラン、太古の勇者は剣の腕が立ち、かつ周りの人々に尊敬された逞しい人だったに違いない。けれども、私はその扱い方も知らないし、友達もいないし、第一、この世界の人間じゃない。神に選ばれし者にふさわしくない。
「不安は大きければ大きい程、怖い。体が震えて何もできない。その不安はあなたの弱みになり、やがて後悔という災いを招く」
まるで心を見透かされたようだった。
「でも、その不安が大きいからこそ、乗り越えたときに、あなたはもっともっと強くなれる」
ヒューゴは手を伸ばして柄に触れる。
「善くも悪くも、剣はあなたの心を映し出します。あなたが気持ちを強く持てば、剣はあなたの力となり、鞘はあなたを守ります」
光の粉が未知に降り注いでいる。
――私は、いつもあなたとともにいます。
本当に剣の守護者なのだろうか。未知は剣を見ようとヒューゴからちょっと目を離した隙に、彼は忽然と姿を消していた。
「お、異常はないようだな。交代の時間だ」
地平線のすぐ上に、半分よりやや欠けた月が顔を出している。もう見張り交代の時間がやってきたんだ。ジュリスは寝足りないという表情を一切していなかった。
「今日一日疲れただろう。心置きなく寝ていいぞ。明日は日の出とともに出発だ」
まだ眠くないと思っていても、岩に体を預けたら、急激に眠気が襲ってきた。未知は、十も数えないうちに眠りに落ちたのだった。
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