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第1章「はじまり」

目覚め

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 私を助けてくれた人にお礼を言いたい――未知は心の中で呟き、ベッドの反対側にあるドアを見つめる。

「……あっ」

 再びベッドから立ち上がろうとした時、上着の間からコロンと音を立てて丸いものが落ちた。それは絨毯の上を転がり、テーブルの下に潜り込んだ。

「……良かった」

 未知はホッと胸を撫で下ろす。テーブルの影できらりと輝くのは、怪物に奪われたと思っていた大切なペンダントだったのだ。

「……痛っ」

 ペンダントを拾おうとして体を屈めたら、テーブルの端に頭をぶつけた。
 これが夢なら痛みは感じないだろう。刺すような頭の痛みに、未知は自分が生きていることを実感する。

「……ペンダントが割れている!?」

 手にとってみて異変に気付く。銀色の断片はもとの形より二回り小さく、真ん丸い。青い宝石がはめ込まれているそれは、太陽のペンダントトップだった。
 もう一つのペンダントトップはどこにあるのだろうか……もしかしたら、この部屋のどこかに隠れているかもしれない。

「……ここはどこかな」

 未知は顔がくっつくくらいに窓に近づいた。
 目の前には紺青色の真っ平らな海と雲一つない水色の空が広がり、眼下にはなだらかな山が見え、斜面に沿って煉瓦の家々が建てられている。パステル調のペンキで塗られた外壁は異質で、石畳の街路も見慣れないものだ。
 まさか川から海に出て外国に流されたのだろうか。否、きっと港湾沿いのテーマパークに流されたのだろう。外国人のようなメイドの名前も設定のものであって、本名ではないのだ。
 未知は窓から顔を離し、脇に飾ってある二枚の絵画に視点を移す。一枚はたった今未知が見た街の眺望が、別の一枚は肖像画だ。未知は肖像画の方をじっくりと眺める。顎の辺りで切り揃えた黒い髭が目立つ初老の男性と、うなじで一つに纏めた灰色の髪が印象的な色白の青年が並んでいる。

「……あ」

 この人が私を助けてくれた。未知は肖像画の中にいる青年を見つめる。助けられた時の記憶、さざ波の音が鮮やかに耳に蘇る。

 ――俺はイグエン

 あの時、相手の顔はしっかり見えなかったけれど、肌に触れた灰色の髪と、体を包む温もりはしっかり覚えている。肖像画に描かれたイグエンは柔和な面持ちをしていた。
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