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vs優等生
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「ひ、酷いわ、ローズ様。なんて酷いの。…二人を解放して頂戴!、いじめるなら、いつものように、私にすればいいじゃない!」
壇上から声がした。
「なんて優しいんだ、ティナ、君は本当に優しい。あの卑劣な女の苛めを受けてもいいから二人を助けたいだなんて!、やはり王妃には君が相応しい!!、ああティナ、私の聖女、私のティナ!!」
舞台女優の如く手を拡げ、ローズを見下ろしていた少女は、皇子と向かい合い、ひし、と抱き合う。
魔灯の柔らかな光が、二人を讃えるかのように揺らめく。
「いいんです、私、聖女として、皆を守りたいから!」
少女は煌めく瞳を皇子に向け、明るく笑いかけた。
「くっ、なんて心優しい。それに比べてローズ、貴様という女は!、さっさと人質の二人を解放しろ!」
「そうよ、ローズ様!、もう意地悪はやめて!、わたし、ずーっとずーっと貴女に酷いことをされていたけど、謝ってくれたらもう許してあげるから、二人を助けて!、もう皆に貴女の正体がわかってしまったんだから!、これ以上は無駄よ!、わたしとカイ様は愛し合っているんだから!」
「………」
ローズは小首を傾げてから、キラキラと瞳を輝かせる少女を眺め、その横で少女の腰を抱き続ける男を眺め、それからそのまま視線を、その後ろでディーンを助けようとしているのか、動かない男に向けた。
ベルナルド・レイス・バルバロス公爵子息は蔦を生やす魔法陣をじっと、難し気な表情をして見つめている。
「ベルナルドさま、私、意味の分からない言葉を先程から耳にしているのですけれど、「次期宰相」としてはどうお考えなのかしら?」
「往生際の悪い女だ!」
「そうよ、ローズ様、わたし、許してあげるって言ってるじゃないですか!」
ローズの声に一組の男女が声を上げるが、それを無視して、ベルナルドに視線を向け続ける。蔦に口許を覆われ、声が出せなくなっているディーンに頷きかけ、ベルナルドはローズを見返った。
「…少し、我慢していてくれ、ディーディー。…さて、仕方ないな、君が罪を認めないならば、罪状をつまびらかにする用意はあるよ」
「…あら、聞いてみたいわ」
ベルナルドは上着の内ポケットから、ノートらしきものを取り出した。
日付、何が起きたのか、それを順次読み上げる。
曰く、某日、にらみつけた。
曰く、某日、聖女なんて嘘だろうと罵った。
曰く、某日、取り巻きを使い、無視を指示した。
曰く、某日、持ち物を壊し、本を破いた。
曰く、某日、男爵家ごときがとさげすんだ。
曰く、某日、取り巻きを使い、嫌がらせをした。
曰く、某日、ドレスを破り、恥をかかせた。
曰く、某日、わざと脚をひっかけた。
曰く、某日、水をかけて馬鹿にした。
曰く、某日、噴水に突き飛ばした。
次々と読み上げられるくだらない内容にローズはため息をついた。
内容のくだらなさもさることながら、ローズには一向に覚えがない。
何せ、まったく近寄っていなかったのだから。
「ベルナルドさま、ちなみに証言、証拠は?」
「はっ、ティナがされたと言っているんだ!それが証拠だ!!」
壇上で大声を上げ、こちらに指先を向ける皇子を無視して、ローズは従兄弟でもあるベルナルドの銀の髪を眺めた。バルバロス公爵は、ローズの父方の家だ。気のせいか、父の面影がうかがえるものだと己と同じ銀の髪を見る。
ローザリアは母の家で、こちらも銀の髪の血筋だから、ベルナルドとローズの銀の髪は、源流をともにするのだろうか違うのだろうかと、ふとそんなことを思い浮かべた。
「正直なところ、私や君の家格からしてみれば、証拠や証言を消すなんてお手の物だからね。証明するのは難しいよ」
肩を竦めて見せるベルナルドの姿にローズはわかりやすくため息をついて見せる。
「では、言ってるのは本人だけ、ということですわね」
「残念ながら。だけどローズ、犯人は常に、証拠を出せというものさ。それに、僕たちは聖女を信じている。聖女の言葉に嘘偽りはない。証拠は、彼女自身だ」
一瞬、しん、となった室内に、私は多分、皆、同じ意見なんだろうなぁ、と思い浮かべた。
えぇえ~………。という呆れとか何とかしかない言葉なのか思いなのか何なのか。聖女て。よりにもよって聖女て。聖女はまずいだろう、聖女は。地雷だろう、聖女は。…聖女て。
て…あ、そうだ、わかった、聖女だ。それだ。発見していないがエウレカ!
さっきからなんか微妙にツッコミたかったナニは、聖女だ。ヒヤリハットじゃなくてアハ体験。うはー。
私はココロの中でうんうん頷く。
よく覚えていないんだが、そもそも聖女なんて要素、あのゲームにあったか?、いや、腐女子なんで、最初から主人公なんてのはアウトオブ眼中なワケだが、聖女要素が必要なイベントあったっけ?、いや、ない。はずだ。
というか。聖女はこの国に確かにいる。
この国…というか、この世界は多神教なので、一柱に最低一人は神の認めた巫覡がいるのだが、「聖女」はそういった存在ではない。聖女は治癒を司る神を祀る特定の教会国家――聖教国が、つまりは「人間」が「認定」する存在だ。
他の神を祀るのは各「神殿」だ。そして、「教会」の名を持てるのは、聖教国が認定するもののみ、だ。「聖人」「聖女」と同じく。
聖女や聖人という冠は、ただ治癒魔法がつかえる、のではなく、その知識から始まり、マナー、治癒能力、勿論魔力や他の魔法、治癒以外の魔術の能力、聖教国が制定している各種高等試験にパスして漸く授与される、称号のようなものだ。だから、「聖女」はまずい。聖女みたい、まではいい。だが、「聖女」を称するのはまずい。
どの国の誰が「聖女」と認定されているかは、毎年各国に聖教国発刊で届けられる名鑑にて把握できる。
そしてこの国で、その名鑑に名を連ねている者は、そう多くはない。
私が身近で知るのは、私の母の妹が嫁いだ伯爵家の長女、私より四つばかり上の従妹だ。
ちなみに父の兄のお家がベルナルドの家だ。どうでもいいけど。そしてベルナルドよ。DDて。いや、デぃーんドろてあ、なんだから、ディーディーであっているけれども!
「卒爾ながら、ベルナルドさま、証拠はちゃんとありましてよ。勿論、ローズ様が無実である、という証拠が」
壇上から声がした。
「なんて優しいんだ、ティナ、君は本当に優しい。あの卑劣な女の苛めを受けてもいいから二人を助けたいだなんて!、やはり王妃には君が相応しい!!、ああティナ、私の聖女、私のティナ!!」
舞台女優の如く手を拡げ、ローズを見下ろしていた少女は、皇子と向かい合い、ひし、と抱き合う。
魔灯の柔らかな光が、二人を讃えるかのように揺らめく。
「いいんです、私、聖女として、皆を守りたいから!」
少女は煌めく瞳を皇子に向け、明るく笑いかけた。
「くっ、なんて心優しい。それに比べてローズ、貴様という女は!、さっさと人質の二人を解放しろ!」
「そうよ、ローズ様!、もう意地悪はやめて!、わたし、ずーっとずーっと貴女に酷いことをされていたけど、謝ってくれたらもう許してあげるから、二人を助けて!、もう皆に貴女の正体がわかってしまったんだから!、これ以上は無駄よ!、わたしとカイ様は愛し合っているんだから!」
「………」
ローズは小首を傾げてから、キラキラと瞳を輝かせる少女を眺め、その横で少女の腰を抱き続ける男を眺め、それからそのまま視線を、その後ろでディーンを助けようとしているのか、動かない男に向けた。
ベルナルド・レイス・バルバロス公爵子息は蔦を生やす魔法陣をじっと、難し気な表情をして見つめている。
「ベルナルドさま、私、意味の分からない言葉を先程から耳にしているのですけれど、「次期宰相」としてはどうお考えなのかしら?」
「往生際の悪い女だ!」
「そうよ、ローズ様、わたし、許してあげるって言ってるじゃないですか!」
ローズの声に一組の男女が声を上げるが、それを無視して、ベルナルドに視線を向け続ける。蔦に口許を覆われ、声が出せなくなっているディーンに頷きかけ、ベルナルドはローズを見返った。
「…少し、我慢していてくれ、ディーディー。…さて、仕方ないな、君が罪を認めないならば、罪状をつまびらかにする用意はあるよ」
「…あら、聞いてみたいわ」
ベルナルドは上着の内ポケットから、ノートらしきものを取り出した。
日付、何が起きたのか、それを順次読み上げる。
曰く、某日、にらみつけた。
曰く、某日、聖女なんて嘘だろうと罵った。
曰く、某日、取り巻きを使い、無視を指示した。
曰く、某日、持ち物を壊し、本を破いた。
曰く、某日、男爵家ごときがとさげすんだ。
曰く、某日、取り巻きを使い、嫌がらせをした。
曰く、某日、ドレスを破り、恥をかかせた。
曰く、某日、わざと脚をひっかけた。
曰く、某日、水をかけて馬鹿にした。
曰く、某日、噴水に突き飛ばした。
次々と読み上げられるくだらない内容にローズはため息をついた。
内容のくだらなさもさることながら、ローズには一向に覚えがない。
何せ、まったく近寄っていなかったのだから。
「ベルナルドさま、ちなみに証言、証拠は?」
「はっ、ティナがされたと言っているんだ!それが証拠だ!!」
壇上で大声を上げ、こちらに指先を向ける皇子を無視して、ローズは従兄弟でもあるベルナルドの銀の髪を眺めた。バルバロス公爵は、ローズの父方の家だ。気のせいか、父の面影がうかがえるものだと己と同じ銀の髪を見る。
ローザリアは母の家で、こちらも銀の髪の血筋だから、ベルナルドとローズの銀の髪は、源流をともにするのだろうか違うのだろうかと、ふとそんなことを思い浮かべた。
「正直なところ、私や君の家格からしてみれば、証拠や証言を消すなんてお手の物だからね。証明するのは難しいよ」
肩を竦めて見せるベルナルドの姿にローズはわかりやすくため息をついて見せる。
「では、言ってるのは本人だけ、ということですわね」
「残念ながら。だけどローズ、犯人は常に、証拠を出せというものさ。それに、僕たちは聖女を信じている。聖女の言葉に嘘偽りはない。証拠は、彼女自身だ」
一瞬、しん、となった室内に、私は多分、皆、同じ意見なんだろうなぁ、と思い浮かべた。
えぇえ~………。という呆れとか何とかしかない言葉なのか思いなのか何なのか。聖女て。よりにもよって聖女て。聖女はまずいだろう、聖女は。地雷だろう、聖女は。…聖女て。
て…あ、そうだ、わかった、聖女だ。それだ。発見していないがエウレカ!
さっきからなんか微妙にツッコミたかったナニは、聖女だ。ヒヤリハットじゃなくてアハ体験。うはー。
私はココロの中でうんうん頷く。
よく覚えていないんだが、そもそも聖女なんて要素、あのゲームにあったか?、いや、腐女子なんで、最初から主人公なんてのはアウトオブ眼中なワケだが、聖女要素が必要なイベントあったっけ?、いや、ない。はずだ。
というか。聖女はこの国に確かにいる。
この国…というか、この世界は多神教なので、一柱に最低一人は神の認めた巫覡がいるのだが、「聖女」はそういった存在ではない。聖女は治癒を司る神を祀る特定の教会国家――聖教国が、つまりは「人間」が「認定」する存在だ。
他の神を祀るのは各「神殿」だ。そして、「教会」の名を持てるのは、聖教国が認定するもののみ、だ。「聖人」「聖女」と同じく。
聖女や聖人という冠は、ただ治癒魔法がつかえる、のではなく、その知識から始まり、マナー、治癒能力、勿論魔力や他の魔法、治癒以外の魔術の能力、聖教国が制定している各種高等試験にパスして漸く授与される、称号のようなものだ。だから、「聖女」はまずい。聖女みたい、まではいい。だが、「聖女」を称するのはまずい。
どの国の誰が「聖女」と認定されているかは、毎年各国に聖教国発刊で届けられる名鑑にて把握できる。
そしてこの国で、その名鑑に名を連ねている者は、そう多くはない。
私が身近で知るのは、私の母の妹が嫁いだ伯爵家の長女、私より四つばかり上の従妹だ。
ちなみに父の兄のお家がベルナルドの家だ。どうでもいいけど。そしてベルナルドよ。DDて。いや、デぃーんドろてあ、なんだから、ディーディーであっているけれども!
「卒爾ながら、ベルナルドさま、証拠はちゃんとありましてよ。勿論、ローズ様が無実である、という証拠が」
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