めろめろ☆れしぴ 1st

ヒイラギ

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14. めろめろの食べもの

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「げ、・・」

「どうかした?」

「う、・・ぅん、ちょっと」

体育館裏での、いーんちょーとふたりっきりのうきうきランチタイムに黒い影がさしたのだ。
せっかくの晴れた日の外でのお弁当時間なのに・・・。
オレはそろっと、目の前のいーんちょーを見上げた。
何かあった? みたいな顔をしてオレを見てるいーんちょーに、
へへって、精一杯の笑顔をつくって、

「あのさぁ、」

ちょっと甘えた声を出してみた。

「ん?」

「―――― きんぴらごぼう、食べる?」






だって、残して帰るとかーちゃんに「もう、お弁当つくらないわよ」って言われるし、
かといって、食べ物を捨てるのは、なんだかしのびない。
ので、いつも、宇佐見とか松下に食べてもらっていた。
この頃、弁当に入ってこなかったから、かーちゃんもようやくオレの言い分を聞いてくれたんだー、とか思ってたけど、・・・・・そうじゃなかったみたいだ。
いーんちょーとふたりっきりのランチタイムだから、うきうきしながら、お弁当箱をあけてみれば天敵にご対面だったし・・・。
でも、
いーんちょーが、「もうらうよ」って言ってくれたから、
きんぴらごぼうが入ってる銀色のギザギザホイルごと、いーんちょーのお弁当箱に移動完了!
お隣さんだった鶏のから揚げに、ちょっとニオイがうつってるんだけど、
それは、我慢しよう ――――。

「嫌いなんだ?」

お箸で、きんぴらごぼうをつまみながら、いーんちょーが言った。

「うん、なんか、ごぼうって、土のにおいがするし、木の根っこ食べてるみたいだし」

「確かに、根っこなのは違いないけどね」

いーんちょーは、苦笑すると、きんぴらごぼうを口に入れた。
をを、すばらしー! どんどんと、オレの敵が、いーんちょーの口の中に消えていく。

「おいしいよ、このきんぴら」

うそうそ、そんなのウソだし。だまされないし!

「キミは、わりとなんでも食べるんだと思っていたよ」

うぇーって顔したオレに、いーんちょーが言った。

「えー、そお? オレ、けっこう、キライなものあるよ」

生のピーマンに、くたくたに煮たシイタケに、クスリみたいな味のセロリ!

「いーんちょーは、食べられないものってある?」

「―――― うーん、特に、思い浮かばないな」

そうなのか。
いーんちょーって、偏屈・・、じゃない偏食っぽく見えるけど。

「えー、じゃあ、ナスを焦がしてぐちゃぐちゃに煮たのとかも平気?」

「・・・僕はキミのお母さんに、同情するよ」






「はい、口あけて」

え、えーっと、いくら校舎から離れた体育館の裏で、人目がないからって、――――・・・・・・こういうことされるのって、恥ずかしい。

「ぇ、でも・・・」

「大丈夫だから」

それイヤなんだけど・・・、
でも、そうはしてもらいたい気もして、
恐る恐る、
ちょびっと、口をひらいた ―――― ところに、きんぴらごぼう!

「ゴボウの風味に七味がピリッときいていて、美味しいよね」

しょう油のしょっぱいのと砂糖の甘いのと土っぽいにおいと、木綿の布みたいな食感・・・、
七味はわかんなかった。
もぐ、っとして、ゴク、っとしたから。
オレは買っておいた、コーヒー牛乳を急いで飲んだ ―――― ら、ますます、口の中がヘンな味になった。

「食べられたね」

「・・ぉいしくない」

「ゴボウは身体にいいんだよ」

「ごぼうなんか食べなくても、オレ、すっごい健康だから」

言ったら、

「そうだね、キミはいつも元気だよね」

って、笑った。

(あ、・・・どうしよう)

ぱぁ、って夜の空に花火が咲いたみたいに、
時間が止まった。
校庭を平気で10周ぐらいできそうなパワーが身体に充電された感じ。

(いーんちょーと居るから、オレ、いっつも元気でいられるんだよ)

「――― 口の中、土の味がしてる」

気持ちがもじもじっとしたから、照れかくしにそんなふうに言ってみた。

「じゃあ、これで口直しする?」

いーんちょーが、今度は自分のお弁当箱から、
甘辛く炒めたみたいな肉を、
お箸でつまんで、
さっきみたく、オレの口のとこに持ってきた。

(え、・・ま、また?!)

って、どきどきしながら、
素直に口を開けたら、いーんちょーがまた、オレの口の中におかず入れてくれた。
すきやきみたいな味付けの牛肉だった。
今度は、ゆっくりと噛みしめた。

「・・おぃしぃ」

こんなふうに、食べさせてもらえるのって・・・、なんか、こ、恋人同士みたいだ。

「そう? よかった」

「うん。オレ、牛肉が大好物なんだー」

オレは、うれしくて恥ずかしくて、手の甲で鼻の頭をすりすりした。









翌日。
昼休み、昨日と、同じ場所で、いーんちょーとふたりで、ランチをしていたら、
また、いーんちょーが、箸でつまんだおかずをオレの口の前に持ってきた。

「はい、ごぼうの牛肉巻きだよ」




・・・いじわる。





( おわり )
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