めろめろ☆れしぴ 1st

ヒイラギ

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7. めろめろの涙

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「えっと、えっと、えっと、」

指、抜いて、って言いたい。
だって、ここ、学校だよ。
社会科準備室のせっまい部屋で、
壁際にぴとって、
押さえつけられて、
ボタンを外されて、ゆるめられたウエストの、
後ろから、いーんちょの指が入ってくる。
指が乾いてないのは、オレの唾液がついているからで・・・。
そんなにグニグニしないで。

「ここはあまり気持ち悦くない?」

「よくない・・、よ、よくない」

だから、もう、ヤダってば。
でも、いーんちょーは、

「ふーん」

って言って、
今度は、
シャツの下から入れてきた手で、
胸のとんがりをクリって、
ゆるくねじった。
うーうーうー。

「すごい勢いで勃って、濡れてるよ」

も、しないで、
イジワルしないで。








「ほら、だから、ここのところにⅹを代入してуの近似値を求めるんだ」

オレは、今、授業の間の休み時間に、竹岡に数学をならっている。
竹岡の机に教科書乗せて、ノート開いて、頭よせあって、けっこう真剣に。
マンガ好きでマンガにめっちゃ詳しい竹岡と、
バスケ部で背の高い松下と、
遊んでそうに見えるけどわりと根が真面目な宇佐見と、
それから、チビっちゃくて、天然、天然って言われてる、オレ。
クラスでは、いつもこの4人でぎゃあぎゃあ騒いでる。
4人で一緒に居ることは多いけど、べったり、とかじゃない。けっこうみんな、気がつけばふらりといなくなってたりするし。
みんな、なんとなく、気が合ってて、いっしょに居るのが心地いい友だちで、オレといーんちょーのことも知ってる ―――― ってか、バレた。オレの視線や行動は、ものすごく判り易すぎって言われた・・・。
で、オレら4人の中で、竹岡がわりと成績がいい。マンガとバイクが好きな竹岡は、しょっちゅうマンガやバイク雑誌を読んでて、いつ勉強してんの? って感じなのにな。
数学はオレにとって外国語なみに、意味がわからない。
それで、うっかり授業中に寝ちゃったりしてて、
気がつけば5月過ぎて、そろそろ6月、なのに、
オレの数学の教科書は、ほんの最初の数ページにしか書き込みがなかった。
このまんまじゃ、まじに、やばいかも、って、あせって、
いーんちょーにお願いしたんだ。
「数学おしえて」って。
そして、教科書開いて、わからないトコ指さしたら、
ふーーーっって、
ため息。

「悪いけど、僕にはキミが何がわからないのかが、 ―――― わからないな」

それが、あんまり、「キミ、バカ?」ってぽい言い方だったから、
ムッカーときて、

「もう、いいっっ!!」

って、ふんっ、てした。いーんちょーに。
その日は一日、いーんちょーのことシカトして、帰りもさっさと教室をでた。
いつもは、いーんちょーがいろんなクラスの雑用が終わるのを待って、一緒に帰ってたけど。
あんまり、ムカムカしたから、なんにも言わずに帰った。
そんで、オレがどんだけ怒ってるか、いーんちょーはわかっただろうって、思って、
翌日、絶対、あやまりにくる、って思って、
学校に行ったのに。
教室の入り口んとこで、ばったり会っても、いーんちょーは、全然、普通に「おはよう」って言っただけで、なんにもナシで、
そのまんま、自分の席に歩いてったから、
なんに言うことないのかよっ?! て、さらにムカッとした。
それで、やっぱり、その日も、いーんちょーのことは視界の中に入れないようにした。
大体、いーんちょーは、ぜんぜん、オレのこと気にかけてくれないんだ。
数学、教えてくれるんだったら、一緒に居る時間が増えるから、うれしーなー、って思ったのに・・・・・。
それに!
こないだだって、学校じゃヤダっていったのに、
シてきたし。
おわったあとに、「ひどい!」って言ったら。

「だけど、キミが挿れてと頼んだよね」

って言うし。
だって、・・・それは。
いーんちょーが、言わせたくせに!
あのときは、
もどかしくて、熱くて、うるうるしてて、

「指だけじゃイヤなの?」

って聞いてくるから、うなずいた。
そんで、

「じゃあ、なにが欲しい?」

って、耳にかすれた声をふきこむから、
つい・・・・・・。
あんなふうに、熱を煽られたら、そう言うしかないじゃないか!
それに、なんか、他のときも、いっぱいヤらしいことも言わせるし。うそつきだし。
あー、もう、いーんちょーってサイアク!! ミガッテでオーボー!!
―――― って、そんなふうに怒りがヒートアップしていって、
気がつけばもう、4日もいーんちょーとまともにしゃべってなかった。
いーんちょーにバカにされた数学は竹岡に頼んで教えもらうことにした。

「ぜったいに、見返してやる」

「あー、ハイハイ。痴話ゲンカのことはどうでもいいから、とにかく公式を憶えろよ」

竹岡が、こつんと軽く、オレの頭を叩いて、意識を数学に戻させた。









ほんと、言うと、ちょっとだけ、心配。ほんのちょっとだけ。
いーんちょーが、オレがシカトしてても、全然、気にしたふうじゃなくて、実は今日は、今朝からいーんちょーのことを盗み見してた。

「早く、あやまっちまえば?」

体育の授業中、班対抗のサッカーのミニゲームの出番が終わったオレと松下が並んで座ってるとき、
松下がそう言った。

「え、なにが?」

意味わかんなくて聞き返したら、

「委員長に」

って松下が言った。
・・・・・・、オレが全然、いーんちょーとしゃべってないの、やっぱ気づいてたんだ。
でも、オレがあやまんなきゃいけないことなんてしてない!

「何、言ってんの松下? だって、オレ、全然、悪くない」

だから、そう言ったら、
いつもは、けっこうニヤニヤ笑いをうかべてる松下が、真面目な顔をして言った。

「あーのなぁ、どっちが悪い悪くないじゃなくて、態度の問題だろう。お前の委員長に対する態度は、はたから見てても、けっこう失礼だと思うけど?」

態度、って・・・・・・。
確かに、昨日、話しかけてこようとしたいーんちょーを見ない振りしたり。廊下歩いてて、そばに来たりしたら、駆け出したり・・・・・・。
それは、今日もおんなじで、
いーんちょーのこと目のすみで追いながら、オレに近づいてきそうになったら、
松下とか宇佐見に話しかけに行ったし。
・・・・・・やっぱ、失礼だった、のかなぁ ―――― 。

「―――― でも・・・」

でも、もう今更、いーんちょーにどんなふうに話しかけていいか、
わかんない。

「いーのか、委員長はけっこうモテるって知ってんだろう?」

ギクっ。

「あーあ、もう、見限られちゃったりしてて」

え、え、え、

「や、やだ。どうしよう、オレ、」

うろたえるオレに松下は、いつものニヤって笑顔をして、
「ごめん」ってだけ言えばいいんだって教えてくれた。
それから、さっき、いーんちょーが水飲み場のほうに、一人で歩いて行った、って。
そう聞いた瞬間に、もう、
オレは、駆け出していた。








「なんで、あんなのと付き合ってんだ」

声が急に耳に飛び込んできた。
グラウンドから少し離れた水飲み場に、
いーんちょーが、一人で居ると思ってたけど、いーんちょーの隣に、いーんちょーの友だちの生徒会の執行部の人が居た。
いーんちょーの友だちは、髪がちょっと長くて、いつも制服のネクタイとかもゆるめててなんか、ワルそうな感じだけど、生徒集会のときのマイクを通した「静粛に!!」の声がすごくて、いつも、みんな一瞬で静かになる。
外見は、えー生徒会ー?? みたいだけど、統率力とかすごい。
隣のクラスだけど、体育は男子と女子に分かれて、それぞれが2クラス合同になるから、一緒になるんだ。
どういう話しの流れなのかわかんなかったけど、「あんなの」が、なんとなく、オレのことを言ってるような気がした。

「まぁ、」

いーんちょーが口を開いた。
なんて言うんだろうって、どきどきした。

「ヒマだからね」

そう言って、くすって笑った。


オレは、目の前が真っ暗になった。








そうかー、本当に本当に哀しいと、涙って出ないもんなんだなー。
トボトボとグラウンドに戻りながら、思った。

「れ? 委員長は?」

松下が聞いてきた。
一瞬、どう言ったらいいか、わかんなかったけど、

「―――― 見つかんなかった」

ウソついた。




そんで、それから、なんかグッタリ疲れてて、無理に笑う気力もなくて、休み時間は机につっぷして、眠ってるふりした。
でも、目ぇつぶっても、ぜんぜん落ち着かない。
さっきの、いーんちょーの台詞が頭ん中、ぐるぐる回る。
―――― ヒマだから。
なんか、やっぱり、っていう気持ちと、
ウソ、って驚いてる、気持ちとで、半分で、
すごく、胸が苦しい。
だって、確かに、オレ、
いーんちょーに、一度も「好き」って言われたこと、ナイ。








「今日、うちにおいで」

HRが終わって、クラスのみんなが帰り支度でザワザワしてるときに、
スっと、いーんちょーの声が聞こえてきて、
顔を上げたら、いーんちょーがもう、カバン持って、オレの席の横に立ってた。
松下たちが、訳知り顔で、じゃあな、って手をあげて、教室を出て行った。


いーんちょーの家に着くまで、全然、しゃべらなかった。
いーんちょーもなんにも話さなくて、
オレも、
本当は、すごく、聞きたいことが、あって、でも、怖くて、
帰り道、何度も、いーんちょーの顔をうかがった。
でも、いーんちょーがオレの視線に気づいて、こっちを見そうになったら、ぱっと反対方向を向いた。
―――― 怖い。
もう、いらないよ、って言われたら、どうしよう。


いーんちょーの家は、しーんとしていた。だいたいは、いーんちょーのきれいなお母さんが出迎えてくれるんだけど。
今日は、夕方遅くまで、誰も帰ってこないんだ、っていーんちょーが言った。
だから、
ああ、するんだナって、思って、
いつもだったら、しびれるくらいドキドキするのに、
今日は、全然そんなことなくて ――――・・・・・・ 。
いーんちょーの部屋に入ると、
すぐに、いーんちょーがオレにキスしてきたけど、
なんにも、返せない。
いーんちょーは、全然、オレがずっとシカトしてたこととか、聞いてこなくて、イキナリこんなで、
オレのことなんか、やっぱり、スルだけでいいんだ・・・。

「気が乗らないの?」

って言われたけど、
ううん、って首振った。
ちゃんと、しなきゃ。
たぶん、オレって、コレするぐらいしか、いーんちょーがソバに置く理由がないのかもだから、
イラナイって言われないように、
ちゃんと。
けど、
いーんちょーがいっくらオレのソコをさわっても勃たなかった。
胸のとこ吸われても、なんか、あんまし感じなくて、
どーしよーどーしよー、って焦った。

「お、オレのことは、いーからもう挿れて、」

そんで、いつもの手順でいーんちょーがローションでならして指でひろげて、
挿ってきたけど、
オレは全然感じなかった。
あんなにいつもドキドキして、おかしくなるくらいヨくなってたのに、
全然、で。
泣きそうで。
いーんちょーに顔、見られたくなくて、ずっと、いーんちょーに抱きついてた。

「なんか、つまらなかったね」

オレの中で達ったあと、いーんちょーがオレの横にごろんと寝そべりながら言った。
責められてるみたいで辛くなった。
オレもう、本当にいーんちょーのなんの役にも立てないんだ・・・。

「―――― シャワーしてくる」

いーんちょーの家は、3階建てで、その3階にいーんちょーの部屋といーんちょーのお兄さんの部屋と簡易式のバストイレがある。
そこで、シャワーしながら、涙がでてきた。
喉にかたまりができたみたいに、苦しくて、
なんだ、これぐらい! って気合入れたはしから、
辛い気持ちが、頑張ってつくった元気を粉々に壊していく、
どうしようもなくて、ボロボロ泣いた。

「だって、知ってたじゃん、オレ」

ユニットバスの中で、ひとりつぶやいた。

「いーんちょーが、オレのこと、そんなに好きじゃないって、わかってたじゃんか」

それでも、もしかしたら、って思うこともあった・・・。
誰も居ない帰り道で、そっと手をつないだら、にぎりかえしてくれたり、
いーんちょーの家から帰るときは、必ず、駅まで一緒に歩いてくれたり、
キスしてくる直前の顔が、なんか、いつものクールな顔とちがって、やわらかい感じで、あ、オレ、この顔も好きって、
ドキドキして、
嬉しかった。
この、やわらかい表情のいーんちょーを知ってるのはオレだけなんだ、って、
なんか、いーんちょーを独り占めできてるみたいで、
すごく、嬉しかった。
のに、
やっぱり、そーいうのって、
オレの勘違いだったんだ。
きっと、オレだけじゃなくて、
付き合ってた人には、みんな、そんなふうだったのかもしんない。
もしかして、ちょっとはオレのこと好きなのかなーって期待してたけど、ホントは、全然、好きじゃなかったんだ・・・・・・。

「どうかした?」

ユニットバスの扉の向こうからノックの音と、いーんちょーの声。
長く、シャワーを浴びすぎてたらしい。

「ご、ごめん。いーんちょーも使うよね」

オレは、いそいでシャワーを止めて、扉の向こうに返事した。
シャワーカーテン開けたときに、長めのシャツとルームパンツを着たいーんちょーが扉を開けて入ってきてるとこだった。

「ごめん、」

それだけ言うのが必死で、
裸を見られるのが恥ずかしくて、いーんちょーに背を向けた。
扉のフックにかけていたバスタオルで手早く身体をふいた。
いーんちょーは何にも言わなくて、でも、シャワーを浴びるふうでもなくて、オレのうしろに立ってた。
すごい、居心地が、悪い。
好きな人と、同じ場所に、居れるって、こんなに、幸せなんだーって、
いーんちょーと付き合い始めてから、知った。
けど、
今は、おんなじ空間に居るのがすごく、苦しい。
あらかた、身体を拭き終えたオレは、バスルームの中で着がえようと持ってきてた、服を掴んで、バスルームを出た。
もう、これ以上一緒に居れなかったから。




いーんちょーがシャワー終わる前に帰ろう、と思ったけど。
今、この家にはオレといーんちょーしか、居なくて、ちゃんと家に内側から鍵かけてもらわないと、
だから、
待たなきゃ。

「もう、着がえたんだ」

いーんちょーが、すぐ、戻ってきた。
いつも、シャワーが早いけど、今日はもっと早かった。

「帰るの?」

着がえて、手に鞄を持ってたオレを見ていーんちょーが言った。

「う、うん。用事があるの思い出した。あの、急いでダッシュで駅まで走るから、今日は一人で帰る」

「髪の毛、濡れてるよ」

「いい、そのうち乾くから」

「ほら、拭いてあげるよ」

いーんちょーが、椅子にかけてたバスタオルでオレの頭を覆おうとした、

「――っ、あ、・・・ゴメン」

オレは、咄嗟にそれを振り払ってた。

「ほんと、急ぐから、」

いーんちょーが、小さく息を吐いて、

「今日、体育のとき、水飲み場でわざと言ったんだよ」

と言った。

「え?」

「校舎の窓ガラスにね、キミの姿が見えたから、」

オレはいーんちょーが、何を言ってるのか意味が全くわからなくて、
でも、

「キミに聞かせたくて、わざと」

いーんちょーが繰り返した。

「・・・・・・な、なんで?」

「それは、キミが僕にイジワルしたから」

「え、なに、なに、言ってんの? オレ、いーんちょーにイジワルなんかしてないよ」

「そうかな。だって、キミ、この4日間、僕のこと無視していただろう」

それは、だって。

「だ、だって、それは、いーんちょーが、オレのこと全然、気にしてくれないから・・・・・・」

そう言ってると、
やっと、いーんちょーの言った意味が頭に入ってきた。

「わざと・・・言った?」

「うん、そう」

―――― そんな。・・・・・・わざと、だなんて。

「・・・オレに、聞かせるために・・・」

「そうだよ」

冷静にいーんちょーが言った。いつもより、ずっとずっと冷たい顔をしている。
―――― イタイ、
胸の痛みがわっと、でてきた。

「ひ、ひどい、いーんちょー。・・・オレ、オレッ、すごい傷ついた! すごい悲しかった! 
ヒマ、・・・ヒマだから、付き合ってるっていーんちょー言った。
ひどい!!」

叫ぶオレに、
いーんちょーが手を伸ばしてきた。まるで、抱きしめようとするみたいに。

「やだ、キライ。いーんちょーなんかキライ!」

けど、
いーんちょーの手を振り払おうとねじった身体は逆に、いーんちょーの身体の中に抱き込まれていった。

「や、やだ!」

じたばたしたけど、抱きしめられたまんまで、腕の拘束は強くて、
全然、ゆるまなかった。
こんな、胸が痛いのに、いーんちょーのことキライだ、って思ってるはずなのに、
抱きしめられてるのが、・・・全然イヤじゃなくて、そして、そう感じてしまう自分がイヤだった。
・・・オレ、いーんちょーのこと、キライになれない、んだ。
こんなに意地悪で、ヒドイことするのに ―――― 。
それでも、

「はなせって、ば!」

って言って、もがいてると、

「だめだよ」

強い声でいーんちょーが言った。

「―――― キミはずっと僕の側に居るんだよ」

ぴたりとオレの身体の動きが止まった。
・・・・・・なんかすごいこと言われた、ような。
見上げると、いーんちょーが、すごく真面目な顔をしていた。
いーんちょーの瞳の中に、オレのシルエットが映ってた。
・・・・・・なんか、吸い込まれそう。
いーんちょーの瞳に目を奪われていると、
ふっと表情をゆるませたいーんちょーが、唇を寄せてきた。
懐かしい体温を顔に感じて、オレは、反射的に目を閉じると、自然と唇が開いた。
濡れた舌が、何度もオレの唇を舐めた。
さっきは全然感じなかったのに、ただそれだけで、唇にぴりぴりと甘い刺激がうまれた。
オレの口の中に入ってきてくれない舌に焦れて、
唇を開いていて自分の舌をさしだして、いーんちょーの舌とふれあわせた。

「・・・あっ、」

生温かい感触に、ゾクゾクっとした。
もっと、ゾクゾクしたくて、強く舌を押しつけると、いーんちょーの唇で舌が挟まれて、ぬるんて上下からすられた。

「ひゃっ」

反射的に首がすくんでしまうぐらい、快感で。
顔がはなれてしまったオレを、いーんちょーが今度はやさしくだきしめてきて、「ごめんね」って言った。
その、たった一言で、あんなに激しく苦しかった気持ちが溶けていった。
いーんちょーの身体にぎゅっと抱きしめられて、あったかい体温がじわっと伝わってくる。耳にかかるいーんちょーの息もくすぐったくて心地いい。
ヒドイ・・・。
オレのこと冷たくしてすぐにやさしくするなんて、ヒドイ。
こんなふうにされたら、オレ、どんなことされたって言われたって、いーんちょーをキライになれなくなる。
それが、なんだか、無性に哀しくて、
でも、
気がついたら、オレもいーんちょーの背中に手をまわして、
抱きついていた。
もっと、あたためてほしくて。




抱きしめられて、あったかくて、ほっとしたから、聞いてみた。

「なんで、わざと、ヒマだからって言ったの?」

いーんちょーの胸にふせていた顔をあげて、いーんちょーの顔を見ると、いーんちょーの黒い瞳が一瞬、揺れたような気がした。
不思議な感じ。
まるで、動揺してるみたいに見えた。
でも、きっとそんなハズない。
オレのことなんかで、いーんちょーがそんなふうになるはずないし。
それに、だってもう、いつものクールな表情だ。
そのいーんちょーが落ち着いた声で言った。

「だって、僕もけっこう怒っていたからね」

え、
怒って?

「キミは僕を無視するし、竹岡と顔がくっつきそうなぐらい近づいて勉強してるしで。僕だって、とても腹が立っていたんだよ」

全然、そんな、感情が読めない顔していーんちょーが言った。
でもでも、
そ、その・・・腹が立ったってことは、
オレに無視されるのがヤで、オレが竹岡とすごく身体をくっつけてたのがイヤだったってこと?
ドキリ、と胸が期待で高鳴った。
オレは、「ごめん」と素直にあやまって、
それから、

「いーんちょーは、――― いーんちょーは、・・・・・ち、ちょっとはオレのこと、・・好き?」

今まで、怖くて聞けなかったことを、聞いた。

「そうだね、まぁ、わりと」

と、いーんちょーが言った。
で、
オレは、待った。
―――― その、「わりと」のあとに続く言葉を、待った。
けど、
・・・・・・それで、終わりみたいだった。

「そんだけ?」

「うん?」

「わ、わりと何?」

「ああ。―――― わりとキミのことそう、・・・かな?」

いーんちょーが首をひねった。

「そう、って! 何、ソレ!! そうかな、って!!」

また、いーんちょーの腕のなかで、じたばたしだしたオレに、
いーんちょーは、ふふんって笑って、オレの耳に口付けてきた。
そして、
―――― さぁ、そろそろ仲直りのイイことをしようよ。
って言葉で、一瞬で、オレをとろかした。






( おわり )






な、長くなりましたー。
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