12 / 23
13.コントロール不可能(9)
しおりを挟む放課後、部活が終わって、いつもの裏道を沢垣先輩と駅まで歩いて帰ってるときに、
「今週末なぁ、うちの親が親戚連中と温泉に行くんだ」
先輩がそっぽを向いて言った。
なんで、人んちの塀を見ながらしゃべってんだろう。ああいう塀が好きなのかなあ。
「へー、先輩も行くの?」
先輩の後頭部を見ながら取りあえず、相槌を打ったら、
「だから、土日にウチに泊まりに来ないか?」
くるりと振り返った先輩が、ボクが言ったコトはスルーして早口でそう言った。
ボクは、ぱちっと、一回、まばたきをした。
それから、
「・・・、うん」
って、はにかんで返事した。
「マジ・・・?」
先輩は自分から誘ったくせして、うなずいたボクに、目をすごく見開いて驚いた顔をした。
その、カッコイイ顔が台無しなおどろきの表情に、少し笑ってしまった。
「・・・意味わかってんのか?」
って、真剣に聞いてくるから、
ボクは、先輩の手をつかんだ。
「うん・・・――――、わかってる」
言った瞬間に、顔がじわっと熱くなった。
照れ隠しで、へへっと笑いながら、先輩を見上げると、先輩の顔もうっすらと赤くなってるように見えた。
夕方の西の空みたいな色。
先輩が、きゅっとボクの手を握り返してきた。
汗ばんだ大きな力強い手に握られて、どきどきして胸が破裂しそうで、
そして、
先輩のことが、すごい好きだ、と思った。
「お邪魔しまーす」
先輩の家の玄関で、誰も居ないとわかっていても、一応、言ってしまう。住宅街の中にある一戸建て。ここに来るのは2回目だ。
今日は、土曜日で学校は休みなんだけど、県下でも強豪で名を馳せているバスケ部は土曜日も部活がある。だから、先輩とは、バスケ部の部活が終わる夕方に駅で落ち合う約束をしていた。
「お、おう」
ボクのうしろで先輩が返事した。
「あ、カレーのにおいがする」
靴を脱いで玄関をあがると、スパイシーな香りがした。
「母親が出掛ける前に、夕食にって作って行ったんだ」
「へー、先輩のお母さんってマメだねえ。うちだったら、お金置いていって、なんか適当に食べときなさい、だよ」
半歩先を歩く先輩についていくと、リビングに続くガラス戸を先輩が開けた。
すぐに先輩の部屋に行くんじゃないとわかって、ちょっと、ホっとした。
肩にかけていたデイバッグを握っていた手の力が少しゆるんだ。
(・・・いきなり、スルわけじゃないんだ)
この前、先輩んちに行ってから今日まで、それらしいことは全然していない。キスとかも、なんか、先輩は遠慮がちで、かるい感じのをちょっとするぐらいだったけど、
でも、すごく強い感じの目でボクを見つめてくる時があったから、
その、
ボクを捕まえて離さないみたいな雰囲気が、
こわくて、甘くて、
ボクも以前みたいに気安く先輩に触れたりできなかった。
いつでもどこでもすぐにでも暴発しそうなエネルギーがボクと先輩の間に満ち満ちていて、ボクらはずっと、そのエネルギーを燃焼させるキッカケを探していたのだと思う。
だから、ボクは先輩の誘いに自然とうなずいていた。
自然の流れのような、ボクらの作為のような、今日 ――――。
「なんか、飲むか?」
リビングに入ってすぐ先輩が聞いてきた。リモコンでテレビをつけると、うしろかついてきてたボクに向き直った。
「あ、うん」
「じゃあ、持ってくるから、ソファにすわってろよ」
リビングにくっついているキッチンに行きながら先輩が言った。
ボクは、肩からデイバッグをソファの横に下ろすと、
「手伝うよ」
ボクは先輩のあとにつづいた。
「たいしたことはしないぞ」
と、先輩が言ったけど、
だって、ちょっとでも一人になったら、緊張のあまりどうにかなってしまいそうだったんだ。
キッチンの中の大きな冷蔵を開けながら、
「ふぁんた?」
と先輩が聞いてきた。
「なんでもいいよ」
と言ったけど、
「ほい」
と、手渡されたのは、ふぁんたのミニ缶だった。グレープ味。
「たくさんあるから、また飲みたくなったら言ってくれ」
ありがと、と言って手の中の缶ジュースを見た。
先輩、知ってたのかな、ボクがグレープ味が好きだって。
「カレーはあるけどさ、サラダは自分で作れって言われた。―――― とりあえず、トマトとレタスとキュウリはあるみたいだな」
冷蔵庫のいちばん下の野菜室を開けて先輩が言った。
「・・・洗って、切ればいいんだよな」
なんか、すがるような目で見られてるけど、ボクだって料理は全然したことがない。
「うん、多分」
だから、そんな頼りない返事しかできなかった。
それから、ソファでふぁんたを飲んで喉を潤すと、先輩が「腹も減ったしメシ喰おうぜ」と言ったから、ボクと先輩は家庭科の調理実習よろしく、キッチンで並んで、慣れない手つきで、野菜を洗ったり切ったりした。
先輩のお母さんが作ってくれていたカレーをあっためてるときに、先輩が、「そうだ、カレーに目玉焼きを乗せよう」と言ったから、また、大騒ぎで、フライパンを探したり、油を見つけ出したりして、
先輩は黄身がトロトロの目玉焼きを目指したけど、出来上がったのは、しっかり火の通った目玉焼きだった。
「ごめんな、陸」
シュンとして先輩が言った。
「なんで? 美味しいよ」
白身のはしがパリっこ焦げててこうばしいし、黄身だって崩れることなくちゃんと目玉になってる。
それにボクだって、不器用に刻んだトマトだってキュウリだって一口サイズじゃなくて、口を大きく開けてもごもごさせないといけないサイズだし。
それでも、そんなふうに、先輩と一緒に料理して夕食を食べたのがすごく楽しくて、
ボクは、今日、先輩と会ってからずっと緊張してたのがウソみたいに、すっかりリラックスしていた。
夕食のカレーを食べ終えて、食器を先輩と洗ってると、
「風呂、入るだろう」
先輩がサラリと言った。
え、もう?
だって、まだ7時過ぎだ。いつもは10時ぐらいにしか入らないんだけど、とそこまで思って、
あ、っと気がついた。
あんまり賑やかな夕食だったから、ちょっと忘れていた。
(―――― そうか、今日するんだよなあ)
他人事のように思ってしまったのは、あんまり意識するとまた身動取れなくなりそうだから。
「うん、・・・入る」
先輩が洗った皿を受け取って水ですすぎながら、答えた。
さっきまで、なんでもない話しを先輩としていたのに、視界の端っこに入る、先輩のスポンジを握っている大きな手だとか、筋肉のしっかりついている腕だとか、ボクよりはるかに高い身長だとか、が、今夜、ボクに重なってくるんだ、と意識すると、顔が上げられなくなってしまった。
それから、ボクはうつむいたまま黙々と洗剤にまみれた食器を水で流した。心臓がうるさいくらいにどきどきしてる。
なのに、先輩はなんだか楽しそうに食器を洗ってる。ボクはカチコンコチンに硬くなってんのに・・・。
最後の一枚をすすいで、横の水切りラックに置くと、先輩が身体を寄せてきた。
うわっ、と思うまもなく、
耳にキスされた。
「せ、先輩っ」
イキナリでびっくりして、半歩飛び下がって、ぬれたままの手で、とっさに耳を覆った。
隣を見上げると、にこっと笑った先輩が、
「やっとオレのほうを見た」
と言った。余裕の笑みに見えた。なんだよ、ボクばっか、緊張してる・・・。
うううっと、思ってると、
太い筋肉質な先輩の腕に腰をつかまれて抱き寄せられた。
え、え、え、
も、もう?!
あ、でも、お風呂に入るんだよね。ねっ!!
ぴったりくっついてる腰だとか、絡んでる腕だとか、鼻をすり寄せられてる頬だとかにあせっていると、
「今日、陸のかわいいトコ、いっぱい見せてくれるんだよな」
耳元でそんなふうに囁かれて、
ボクのキンチョー感に心臓がこわれそうで、そのままひっくり返りそうだった ―――― 。
「手を入れてもいいか?」
「あ、・・・うん」
先輩の部屋のベッドにすわって、キスの後、そう聞かれて、うなずいた。
お風呂から上がったばかりの先輩の身体はほかほかしていて、先に入ってもう冷え始めていたボクの身体に気持ちよかった。先輩の身体からは、ボクが使わせてもらったのとおんなじボディシャンプーの香りがしてくる。
あの後、すぐ逃げ込むようにしてもう沸かしてあったお風呂に入ったら、少し気持ちが落ち着いたけど、
またこんなふうに、身体を寄せられると、
なんだか、それだけで、くらくらしそうだった。
先輩の手が、風呂上りに着替えていたスウェットシャツの中に入ってきた。あたたかくて、硬くて、迷わない手がボクのわき腹をなでる。
ひゃぁっと、くすぐったく思いながら、
ボ、ボクもなんかしなくていいのかな、と考えてると、
ゆっくりと身体をベッドに倒された。
ボクの身体をスプリングがきいているマットが静かに受けとめてくれた。
すぐ目の前に先輩の顔。今日はこの前にみたいに怖い表情じゃない。
顔に先輩の息がかかる。それだけで、涙がにじんでくるみたいになるのは、なんでだろう、――――。
「首んとこ舐めてもいい?」
真面目な顔で聞かれて、
「ぅ、うん」
戸惑いながらも、そう答えたらすぐに湿った舌に首筋を舐められた。
そのくすぐったい感触に、首なんか舐めて楽しいのかなあ、と思った瞬間、温かいぬめっとした舌に舐められたとこがぞくぞくっとして、思わず先輩の肩をつかんだ。
そこを、―――― 身体がびくっとなるとこを何度も執拗に舌を這わせてきたあとに、
「シャツをめくっていいか?」
と、先輩が言った。声が、低い。何か感情を抑えてるみたいな声だった。
うわ、何すんだよ、先輩、ボクに何すんだよ! って頭の中はサイレンがなってるみたいにさわがしいのに、気持ちも身体も、先輩に向かってひらいていく。
「めくってもいい?」
も一度、聞かれて、恥ずかしかったけど、うん、とうなずいた。
けど。
「乳首吸っても ―――― 」
我慢できなかった。
覆いかぶさってる先輩の胸をバンっと押し返した ―――― それでも、びくともしなかったから、横から無理やり先輩の身体の下から抜け出した。
「ち、乳首・・・・・・、り、陸?」
きょとん、と先輩がボクを見上げてくる。
ずらされていたスウェットをもとの位置に戻して、
キっと先輩をにらみつけた。
「なんで、いちいちいちいち・・・、聞くんだよ!」
なんの意地悪なんだ、コレ、と頭にきた。
さっきからずっと、ヤらしくねちねちねちと、あれこれしてもいいかと尋ねては、「気持ちいいか?」とか「感じる?」とか、ボクが返事をするまで聞いてきて、始めは、恥ずかしくても返事してたりしたけどっ、
そんな調子でずっと続けられて、
もう、我慢の限界だっ!!
ボクはベッドから素早く降りて、部屋のまんなかに立った。
まだパジャマを着たままだった先輩もすぐにボクのそばにやって来た。やや、前かがみで。
「なんで? って、―――― だって、陸がこの前、『勝手にいろいろするから』って言っただろ、だから、ちゃんと聞きながら、」
「だからって、こ、こんな、恥ずかしいことにいちいち答えられないよっ!」
ここにきて、今日一日の緊張感が、ぱあっと膨張して破裂した。
「聞くにしたって、限度ってものがあるだろっ!! 先輩、ほどほどっていう言葉知らないのかよ!」
「で、でもな、陸、」
オロオロと言う先輩に向かって、
「もう、やんないから、」
と言った。
「へ?」
ほうけてる先輩の後ろにまわって、背中を押して、部屋から追い出した。
「先輩とはしない、って言ったんだよ! 入ってくんなよ、ゼッタイ! 入ってきたら、ボク、先輩のことセロリよりキライになるからな!!」
呆然としてる先輩にそう言って、ドアをガンっと閉めた。
セロリはキライ。あの青い味が超濃縮されたようなニオイを嗅ぐと気分が悪くなる。
この前だって、先輩とキスしようとしたら、先輩の口からヘンな青いニオイがしてくるから、逐一食べたものを尋ねたら、どうやら野菜ジュースの中にセロリが含まれていたらしい。ので、キスを拒否したから、先輩はボクがどれだけセロリを嫌いか知っている。
だからか、先輩はドアを開けてはこなかった。
けど、トントントンっと控えめなノックと、陸、とボクの名前を呼ぶ声がしてくる。
それにも、イラっとして、
「静かにしてくんないと、キライになるっ!」
と強く言ったら、
どうやら、その脅し文句は効いたようで、扉の向こうはシンとなった。
それでも、興奮がおさまんなくて肩でハアハアと息をしながら、ボクはどさっとベッドにすわった。
時刻は、8時ちょっと前。
家に帰ろうと思ったけど、持って来てたデイバッグも着替えも1階のリビングに置いたままだ。ドアの前にはまだ先輩は居るみたいな気配がするから、もう、しばらくしてからリビングに行くことにした。
それでボクはベッドにゴロンと横になった。
なんだか力が抜けた。
そして、一気に疲れがでてきた。
本当言うと先輩に泊りに誘われてから、あんまり眠れてなかった。
なんか、色々と考えてしまって ――――、この前、先輩の部屋でされたこととか、自分の反応とか思い出していたたまれなくなったり、
へ、ヘンに期待したり・・・。
それから、
先輩は慣れていたなあ、とか思って・・・・・・、どこの誰とどんなふうにシタんだろう、とか考えてちょっとイラっとして、
ボクなんか、全然、経験がなくて、手順とかわかんなくて、もしかしたら、先輩、あんまし楽しめなくて、ガッカリしたりあきれたりしたら、どうしよう、とか不安になって、
そういうことをぐるぐると考えこんでたもんだから、
ここんとこ睡眠不足だったんだ。
しばらくは枕に頭を乗っけて、ゴロゴロしていたけど、
部屋を満たしている豆球だけのオレンジの明かりがやけに穏やかで、部屋も静かで、
あくびが出てきて、まぶたが重くなってきたから、
少しだけ、と思って、目を閉じた ―――― 。
けど、・・・・・・、
ボクはそのまま、コトンと眠りに落ちていってしまった。
ぱちっと目が覚めた。夢も視ずに深い眠りの中に入っていたような感じの目覚めだった。
オレンジ色の電球が照らす部屋・・・・・・、いつもとは肌触りの違う寝具、それから、見慣れない天井、一瞬、自分がドコに居るんだかわからなくて、
アレっと思って、身体を起こした。
そして、壁に貼られているNBAの選手のポスターを見て、
(あ、そっか。先輩んちに泊りにきてたんだった)
と、気がついた。
窓辺に置かれているデジタル時計を見ると午前0時すぎだった。
(ボク、4時間ぐらい寝てたんだ)
・・・先輩、どうしたかなあ。
勢いで追い出しちゃったけど、―――― 。
思わず反省モードに入ろうとしたけど、
ううん、と頭を横に振った。
だって、
あんなふうにドコがどんなふうにイイとか言わせるのって絶対ヘンだ。
先輩、ボクのことからかったのかも、と思うと、また一層、腹が立ってきた。
イヤとイイの境目なんかよくわかんないのに、「イヤならやめるから」って言われても答えようがないってことぐらい、わかれよな。
寝起きで妙に冴えた頭でそんなことを考えながら、ううん、と背伸びをした。
なんか、ノドが乾いたなあ。
変な時間に起きたからか、妙に目が冴えている。
ボクはベッドを出た。
そして、キッチンで水でも飲もう、と思って部屋の扉を開けたら、
「わっ!!」
扉の前になんか物体が転がっていた。
びっくりして思わず声が出た。
「帰るのか?」
その物体がしゃべった。
ぎゃぁっと叫びそうになったけど、聞き覚えのある声に、あっ、と気づいて、
部屋からもれてるオレンジ色の電灯で、よくよく目を凝らして見ると、毛布にくるまった先輩が廊下に寝っころがっていた・・・・・・、壁のほうを向いて。
「せ、先輩・・・・・?」
毛布からはみ出た黒髪に恐る恐る声を掛けてみた。
「―――― 陸、帰るのか?」
ボクのほうを見ずに、壁を向いたまま先輩が、また同じことを聞いてきた。はっきりした声音に、先輩がしっかりと起きてるのがわかった。
「あ、ううん、ノドが乾いたから。 ―――― 先輩、こんなとこで何やってんの?」
「寝てんだよ」
「寝てるって、こんなとこじゃなくても ―――― 」
いくら春だからって、夜はまだ冷える。ボクは、てっきり、先輩は他の部屋で眠ってるんだと思ってた。
ボクは先輩に近づいた。廊下の床がヒヤっとしてるのが足の裏で感じられた。
「先輩、こんなとこに寝てたら風邪ひくよ」
「いい、ここに居る。陸にいちばん近い所で寝るから」
・・・・・・・・・・・。
なんだよ、この人! と思った。
そして、もう、たいして自分が先輩には怒ってないことがわかった。
それよりもむしろ、
先輩を好きだという気持ちに、明かりがさしたみたいになった。
・・・・・・ボクって、趣味ワルイんだろうか?
「じゃあ、いいよ。一緒に眠ろう」
めくった毛布の下で見つけた先輩の腕をつかんで引っ張った。
5月とはいえ、夜は冷える。毛布一枚で、板張りの廊下になんか寝せられない。
「無理だ」
先輩が言った。ようやくボクのほうを振り向いてくれた。
「なんでだよ」
「オレ、絶対、陸と同じベッドに入ったらスルから」
「・・・・・・」
もう一度先輩の腕を引っ張った。
「陸?」
「だから、いちいち、全部聞くなって言っただろ」
またグイっと引っ張ると、
がばっと先輩が立ち上がった、と思ったら、今度はボクが腕を取られて、そのまま部屋へイン、ついで、ベッドへイン。
早っっっ!
気がつけばボクはベッドの上に仰向けに寝そべっていて、その上に、先輩が膝立ちでまたがってた。
「い、いいんだよな」
確かめるように先輩が聞いてきた。すごく強い瞳でボクを見ている。
さっきは、あんなに、デリカシーのない先輩なんかもうやだ、って思ったのに、
先輩のボクを欲しがってる熱を感じたとたん、ボクの中の先輩を想う気持ちがすごくすごく深くなってった。
身体の輪郭がぼやけて泡になっていくみたいな気持ちで、ボクのココロとカラダが言ってる。カラダもココロもボクの深くに、奥に、先輩を招き入れたいと、言っている。
熱が、だって、
頭の中で色々と考えこんでしまうボクを、コントロールできなくする。
もう、いいや、なんでも、と半ばやけくそ気味に、
ボクは先輩に、いいよ、と言った。
そしたら、
先輩がボクにまたがったまま、勢いよくパジャマの上を脱いだ。
けど、――――――――。
あ、それ、ボタン外してないから、頭がひっかか・・・・、と思ってると、
「わ、なんだ、これ、チクショウ」
と先輩が叫んだ。
両手は抜けてるけど、頭に裏返しに引っかかったパジャマ姿の先輩がオタオタしている。
えーと、・・・手伝ったほうがいいんだろうか。
でも、
わたわたと無理に頭を抜こうとしてパジャマをひっぱってる先輩に手のだしようがない。
とりあえずボクも服を脱いでる先輩につられるようにしてベッドに寝そべったまんま、もぞもぞと身体を動かして着ていたスウェットの上を脱いだ。
「はぁ、なんってことだ」
ようやく、パジャマを引っぺがした(どうやらボタンが一個、飛んだみだいだ)先輩が、
「あ、陸! 何、脱いでんだ」
ボクを見て、驚いたように言った。
あれ? しないのかな。
「オレが脱がすのに!!」
・・・いや、する気マンマンだ。
「ほら、もう一回、着て」
先輩がボクが脱いだスウェットを差し出した。
・・・・・・・・・。
ボクは確かに経験はないけれど、コレはかなり違うような気がする。
「え、やだよ。せっかく脱いだのに、面倒だよ」
「陸ぅーー」
「ヤダ」
これ以上言うと、さっきの二の舞いになりそうだと悟ったのか先輩はボクにスウェットを着せるのをあきらめたようで、しぶしぶといった感じでスウェットを脇に置くと、
ガバっと、すごい勢いでボクを抱きしめてきた。
お互いの裸の胸が、初めてあわさった。直に感じる先輩の体温と鼓動と肌と硬い筋肉。
ボクもそろそろと先輩の背中に手をまわした。
そのまましばらく抱き合って、
それから、
心臓がおんなじくらいの早さだねって、ボクは先輩に言った。
ああ、って答えた先輩の声になんだか泣きたくなる感じがした。学校の帰り、駅で先輩にさよなら、をするときの気持ちに似ている。
先輩の胸の厚みに、身体の重さに、ボクを抱きしめてくるの腕の強さに、
ああ、そうか、と思った。
全然、知らないことなはずなのに、まるで、とっくの昔から知ってたみたいだった。
すきだすきだすきだ
という先輩の声に、ぐるぐると渦巻いていたいろんな強張りが溶けて流れていく。
先輩の背中を抱き返しながら、先輩の汗のにおいをかぎながら、
ボクは、ボクを全部、先輩に、あずけたいんだ、と思った。
―――― 先輩に、ボクを全部。
「あ、あれ、」
先輩が枕の下に手をつっこんでゴソゴソしている。
あ、さっきのを探してるんだ。
「ソコ」
高まった熱を先輩の手で放出させられて、全力疾走のあとみたいな、激しい動悸のまんま、ぐったりとしていたボクはベッドの横の窓を指差した。
さっき先輩を部屋から追い出して眠ろうとしたときに、なんか、枕がゴロゴロするから、なんだろうと思って、枕をどけてみたら、コンタクトの洗浄液みたいなボトルと、コンドームが出てきた。
で、
眠るのに邪魔なので、窓の桟に置いておいたんだ。
個包装のコンドームは10個もあったけど、先輩、一体、何回するつもりなんだろうか・・・・・・。
うるんだ目で、膝立てしたボクの両脚の間にすわりこんでいる先輩を見やると、
ラブローションとロゴのあるボトルを手にとった先輩がフタを開けて、中身を手のひらに垂らそう、としていた。
でも、
「あ、あれ、出ない」
先輩があわてたように言った。
逆さにしてボトルの腹を押しても振っても出てこないみたいだから、
「・・・中栓とかあるんじゃない?」
と言ってみた。
「ああ、そうだったかも」
先輩がボトルの先のところをクルクルっと回して外した。
「あ、あったあった」
と安堵の笑みを浮かべながら、先輩が中栓を外した。そしてそのまま先端のキャップをはめずに、手のひらに、ボトルを傾けたから、
「わ、うっわ、わ、わ、わ」
中身が大量に、だらだらだらー、っと・・・・・・。
ボクの胸の上にも先輩の手からあふれてきたものがぼとぼとぼとっと落ちてきた。自分で迸したのがお腹から胸にかけて飛び散ったまんまだったのの上に・・・・・。
ローションは室温であったまってたみたいで、冷たくはなかったけど、なんか、ぬるんとした触感。超ゆるゆるスライムみたいだ。
「ティ、ティッシュ」
またまたあわてたように、先輩があたりを見回した。
あ、やっぱりさっき、枕元にあったのが邪魔で、先輩の勉強机の上に移動させたんだった。
ので、
「ええと、あそこに置いた」
ベッドとは逆側の壁際にある机を示した。
ボク、取ってきてもよかったけど、このまんま立ち上がると、だらだらっとなるし。
というか、この開脚状態はまだ続けないといけないのだろうか・・・。
さっきまで気持ちよさにとろん、としていたけど少し冷静になってきた。
先輩がどいたすきに脚を閉じて、背中側で右ヒジをついて上半身を起こした。ゆるーっと、液体が下に向かう。シーツにこぼれ落ちないように、手で押さえていると、
ベッドから降りてティッシュの箱を取ってきた先輩が、ティッシュで手を拭きながら戻ってきた。
そして、ボクのお腹を拭いてくれようとしたから、
「あ、自分でするよ」
先輩の股間で大きく勃ちあがってるものから、なにげ目をそらしながら言ったけど、
「いいから」
と言って、なんだか、楽しそうに、ボクの肌の上をティッシュで拭きはじめた。
「いいけど、先輩、今度はアレ、机の上に置いてきてるよ」
机の上のローションを指差しながらボクは言った。
ええっっ! と首をめぐらせた先輩がおかしくて、思わず笑ってしまった。さっきまでのとろり、とした熱気の中に居たのがウソみたいな感じで。
「・・・なんか、オレ、カッコわりーな」
バツが悪そうに先輩が言った。ローションを取りに行くのかと思ったら、そのままベッドに腰掛けて、ボクのお腹にまだたくさん残っている液体を手のひらでゆるく伸ばし始めた。
ゆるゆるとお腹を撫でられて、なんかヘンな気がしてきた。それで、その手が、もっと下のほうに忍んできた。
閉じていた脚を割り開くように・・・。
息を吐いた。
このまま、つづけるんだ、とわかって、
ちょっと、緊張で息が苦しい感じになったから、気をそらせるように、
「いつも、先輩、余裕なのにね」
と、からかうように言うと、
「ねえよ、そんなの」
ぶっきらぼうに先輩が答えた。
「え?」
「陸と居て、余裕がある時なんかねえよ。いつもムチャクチャ緊張してる」
そ、そうなんだ・・・。
いつも、ボクにキスしてくるときとか、大人で余裕で、とか思ってたけど、
自分ばかっりがオタオタしてる、って思ってたけど、
先輩も、そうだったんだ。
なんだか、ふうっと肩の力が抜けた。先輩の手に、促されるままに、脚を開いていった。ぬるんとした手のひらが、イったばかりで萎えていたボク自身をもう一度つつみこんだ。背骨をぞくぞくっと甘い予感が走った。
―――― さっき手でしてもらったのが、すごく、悦よくて・・・。
また、のぼせていくように熱が上がる。
わずかに起こしていた上半身を、またベッドに沈めると、ぬるぬるしてる先輩の指先が、今度はボクの入り口に触れた。
こわい、と思ったけど、
イヤって、口が言ってしまわないように、
「―――― 全然、カッコ悪くなんかないよ。先輩は、いつもカッコイイよ」
って、熱い息を吐きながら、ささやいた。
先輩はボクのあちこちに口づけを落としていきながら、何本かの指でボクたちがつながる場所をゆっくりと拓いていった。
あとずさりしたくなる感覚に眉をひそめるたびに、先輩が「好きだ」と言っては、ボクのくちびるに深いキスをしてきた。
ボクもだよ、
ボクも好きだよっと叫びそうになったけど、
先輩の指が、ボクをせつなくさせるところをくすぐるから、
口からは、かすれたような息をつぐ音しかだせなかった。
そこを、指がなでる。
ノックするみたいに。
「ぁ、」
やさしいけど、ビクっとした。
「イヤか?」
でも、だって、そこから、先輩、ボクの中に入ってくるんだよね。
ボクが「イヤ」って言ったらどうするんだろう・・?
「・・ゃ、じゃないけど」
そう言ったら、もっと、ゆびがまわりをなでた。
先輩の肩にしがみついた。
くるくるとまるで薬でもぬるみたいにまあるくなでてくる。
緊張する。でも、くすぐったい、みたいな感じ。
「陸」
呼ばれて、肩にふせていた顔を上げた。
声でわかったから、
口にキスを待った。
しっとりと重なって、それで、ぬるっと舌が入ってきた。
淡いふれあいに唾液があふれだすと、
指がするっと入ってきた。
何かで濡れている。
あ、こんな感じなんだ。入ってくるのって、こんなんなんだ。
身体がビクっと硬くなった。
でも、舌がボクの口の中をなだめるように、舐めていくから、
段々と緊張を解いていくと、
指がもっと深くに入ってきた。
「陸の中、あったかいな」
やらしいんだから、やらしいんだから。
ボクは怖くてどうしようもないのに、うまく出来るか心配でしようがないのに。
先輩はそんなことをのん気に言う。
指が抜けていって、ほっとしたら、また入ってきた。
それをぬるぬると繰り返されて、どこで緊張していいのかわかんなくて、
「かわいいな、陸。俺、どうにかなりそうだ」
ウソ、ちがう。
どうにかなりそうなのはボクのほうだ。
涙、出る。
「・・ぁん」
うそうそうそうそ、ヘンな声が出た。
もう、やだ。
「いや?」
「いや、それ、いや」
そう言ったつもりなにの、あ、とか、っん、とかの声にしかならなかった。
だから、首を横に振って、やだやめてって示したつもりだったのに、
「・・・ここ?」
違うから、それ、ぜんぜん、ちがう・・・、
でも、身体が、
頭で考えるより先に身体が感じて先輩に反応を返すから、
先輩の指と舌とくちびるが、
ボクをどんどんとどうしようもなくさせる。
「じゃ、じゃあ入れるから」
「う、うん・・・」
目が合って、なんだか、照れ笑い。
先輩の手がボクの体勢を整えるみたいにしてくる。
そうか、身体の構造的にこういう角度が必要なんだなあ。あ、これ、ちょっとあした筋肉痛になりそうな体勢だ。も少し、柔軟がんばらないと。
「いっ」
グイっと広げられて、思わず声が出た。
「痛いか?」
「あ、ううん」
痛いというか、変というか、出来れば勘弁してほしいような・・・、と思ってたら、
っう! く、くるしい・・・・・。
本当に、世の中のオトコ同士の恋人たちはこんなことをやってんの?! さっき、指でぐるぐるとかされたのと全然ちがう。これって、人として無理があるんじゃないだろうか。
さらにググっと押し進んできたから、
「うっわぁ、待った、待った」
思わず叫んだら、
先輩が、ピタっと動きを止めた。
ほぉっと息をついたら、
先輩が、じーっとボクのことを見つめてきた。
その瞳の熱に、ちょっと迫力負けで、
「え、えっと、・・・どうぞ」
と言ったら、先輩がコクリとうなずいて腰を進めてきた。
はいってくる。先輩が。
熱い。
ボクのじゃない体温が、ボクの中に入ってくる。
痛みよりも身体を割られていくような感覚がつらくて、でも、どうしようもなくて、もう、全部、先輩にまかせるしかないんだ、っていう感じがして、ボクは目を閉じた。
「や、まっ、マッテ・・」
ボクを抱いて、ボクの奥まで身体を進めてきている先輩に強く抱きついた。
「痛い?」
「ちがっ・・・、で、でも、ヤ ―――― い・・や」
なんで、そんなに、ボクの身体の中の感じるところばかりをすりあげるだけじゃなくて、他のトコも刺激するんだよ、と、泣いた。
ひとりでスルときの悦さと全然ちがう。
身体全部が嵐みたいな勢いで、
どんどんと高く高く高くへと連れて行かれる。
「ヤ、こわい、」
激しく揺すられて言葉から息がこぼれていく。あまりにも身体がゆるみすぎて、そこに一点をえぐる快感が響いてきて怖かった。こんな感覚、知らない。
どくんどくん、と身体中の血管が音をたててるみたいに響いてくる。
首を振った、涙がにじんで先輩の顔がはっきりと見えなかった。荒い息遣いだけがはっきりと耳に飛びこんでくる。
「イイ? 陸、ほら、オレといっしょに」
「・・い、っしょに・・・?」
「そう、いっしょに気持ちよくなろう」
指がだって、ソコをなぶるから、もう、弾けそうだ。
「い、、く、」
「ココ? もっと?」
「・・も、モット」
そうされて、
腰が細かくふるえはじめた。
もう、そこまできてる。
「せ、んぱい、ボク、ボク ―――― 」
「―――― オレも、もう、」
とけてながれだす寸前に声を、あげた、と思う。
でも、抱きしめる先輩の身体が大きくふるえたのしかわからなかった。
あとは、ただ、身体を貫いた強烈な快感と、そのあとに広がったまどろみに先輩といっしょに浮かんでいるばかりだった。
ボクをやさしく抱きしめてくる先輩の腕の中で、ボクは、ボクのこころの深いところを開いた。
―――― ボクのほうこそ、先輩をずっとずっと好きだったんだよ。先輩がボクを好きになってくれたから、それがわかったんだよ。
先輩に、最初に会ったのは、ボクが部活の見学に行った体育館だった。会った、ていうか、本当はボクが一方的に見てたんだけど。
体育館の出入り口を入ってすぐがバスケ部のスペースで、本当はその奥で練習をしている卓球部を見学するつもりだったのに、――――――――。
体育館に入ったとたん目に飛び込んできたバスケ部員に目を奪われた。
ドリブルをしながら、相手チームのディフェンスをくぐりぬけて、ゴールポストに向かう姿は荒々しくて獰猛だったのに、シュートをするためにジャンプして伸び上がった身体がすごくまっすぐで静かだった。
ドリブルの力強い響き、シューズが体育館の床に擦れる音、ボールがゴールに吸い込まれて、床を跳ねる音。
目がはなせなくて、本来の目的をわすれ、ボクは、試合形式の練習をしているその人をずっと見ていた。
他の生徒たちと交代になって、その人がコートから居なくなっても、さっきの残像が繰り返し繰り返し思い出されて、体育館の入り口に突っ立ったまんま、ぼおっとしていた。
そしたら、
その先輩に話しかけられたんだ。新品の制服を着たいかにも新入生っぽいボクに「部活の見学か?」って。首にまいたタオルで汗をふきながら。
それが沢垣先輩だった。
声をかけられてびっくりしながらも先輩を間近で見上げると、さっきまでの猛々しい雰囲気はなくなっていた。すべてを睨みつけるみたいな強い表情もウソみたいに柔和な感じで、ボクに笑いかけてくれた。
あ、やさしい人なんだな、って感じたのに、なぜか、つきん、と胸が痛かった。
話しかけられたのがうれしくて、いろいろとバスケ部のことを説明してくれる先輩に、しばらく、本当は卓球部を見学に来たんですって言い出せなかった。それでも、あんまり、熱心に説明してくれるから、段々、居心地が悪くなって、意を決してそう言ったら、
「なんだ、残念だなあ」
って、本当に、残念そうに先輩が言って、すごい、胸がギュウっとなった。
―――― ボクは、もう、その時には先輩を好きになっていたんだと思う。ただ、あの時は自分の気持ちに気づかなかっただけで・・・。
卓球部に入っても、ずっと、気持ちを送っていた。ボクのほうを見て、ボクを見て、って。だから、チラリとでも目があうとうれしかったし、すれ違ったときなんかに、ちょっと声を掛けられたりしただけで、すごい幸せだった。
けど、
好きだって言われたときは、先輩はボクの何かを勘違いしてるんじゃないのかなって、なんか不安だった。
先輩との距離がちぢまるたびに、本当のボクをみてがっかりするんじゃないかなって、心配だったんだ。
でも、
先輩と抱きあって、
不安も心配も、ちゃんと安心と信頼にかえることが出来るんだってわかった。
なんで、好きあってる恋人同士がこういうことをするのかわかった気がした。
重なりあった肌で、
溶けあった温かい粘膜のあわさったところから、
伝えあうことができるんだ ――――、こころの真ん中を。
翌朝、起きてもう一度、抱きあったあと、
呼吸がおちつくと、先輩がボクの肩に腕をまわしてきた。
顔をあわせるのが、なんだか恥ずかしくて、ボクは先輩の肩にヒタイをくっつけて、先輩の胸のあたりの逞しい筋肉に手をすべらせた。なめらかで弾力があって、つやつやしている。
汗でしめった肌が吸いつくように密着するのが心地よくて、ボクは先輩の腕の中にずっと閉じ込めてほしいような気さえした。
あ、胸の真ん中の赤いシルシは昨日、ボクがつけたアトだ。そうか、こんなふうに残るんだ。
へへ、もっと付けてみようかな。指でくるくるっとそのアトをさわってるとくすぐったそうに先輩が小さく息をはいた。
先輩が、りく、とボクの名前を甘く呼んだ。
「いっしょに、シャワーを浴びようか?」
「えー、やだよお」
「いいだろ」
「だって、はずかしい・・」
「じゃあ、オレ、目ぇつぶってるからさ」
「・・ホント?」
「ああ」
「ホントにホント?」
「本当。でも、目をつぶっていたら、オレ、自分の身体が洗えないから ―――― 、陸がオレを洗ってくれるだろ?」
んー、と考えてるふりをしていると、先輩が顔を近づけてきたから、わざと逃げるみたいに顔をそむけると、
先輩のくちびるが、ボク耳の下にふれて、首すじをたどって、それから、鎖骨をかるく吸い上げた。
んっ、て息がもれたのが合図みたいに、先輩の手が発見したばかりのボクの敏感な場所をいじりだす。
「・・・ボクばっかり、先輩を洗ってあげなきゃダメなの?」
悦くて、また、目が潤んでいく。さっき先輩を受け入れたばかりのところが、じんじんし始めている。
・・・ああ、こういう感じが「欲しい」っていう身体のサインなのかな?
「オレも陸の全身を洗う」
しゃべる息が唾液で濡れたところを乾かす。その微弱な感じに、んん、と声がでた。
「―――― 目、閉じたまま?」
「そう」
な、いいだろう?
って先輩が言ったのは、シャワーのことなのか、それとも今の行為の続きのことなのか判然としないまま、ボクは、うん、って答えていた。
「先輩・・、」
「うん?」
呼びかけて、すぐ返事してくれて、かるくキス。続けて2回もしたのに、もっともっとふれあっていたい。
「ボクと初めて会ったときのこと覚えてる?」
「ああ、おぼえてる。陸が部活の見学に来たんだよな」
「そう。先輩、ボクがバスケ部を見に来たって勘違いしたんだよね。それで、わざわざ説明しに来てくれて ―――― 」
ボク、あの時に先輩を、って続けようとしたら先輩が言った。
「オレは部活の説明をしに行ったんじゃなかったさ」
「え?」
先輩がイタズラっ子みたいな顔して笑った。
「陸と話しがしたかったんだ」
どき、っと胸が甘くうずいた。
先輩・・・・・・。
「斉藤と、体育館の戸口に立ってる1年 ―――― 陸がどの部活の見学に来たのか賭けててな」
・・ん?
「あそこに立ってる新入生は卓球部を見学しに来てるんだって斉藤が言ったけど、オレはきっとバスケ部だって言ったんだ。そしたら、満州屋のチャーシューラーメンを賭けようってことになってさ。オレが確かめに行ったんだ。
陸が熱心にバスケ部の練習を見てたからさ、オレは絶対、バスケ部だと思っててなあ。ラーメンはいただいたぜ、って気分だったから陸の口から卓球部って聞いたときはすごい残念だ ―――― 」
みなまで聞かず、ボクは先輩から離れて上半身を起こした。
「シャワー浴びてくる!」
「そうか、じゃ、俺も一緒に、」
「ヤダ」
強い口調で言った。
「え? り、陸・・・?」
ボクはきょとんとしている先輩にがばっと抱きついた。
「ん、陸。もう1回する、―――― え?? ・・・・・・・・っあ、っィテ!! ―――― り、 陸?!」
ボクは3人兄弟の末っ子なので、それなりに肉弾戦は切磋琢磨してきた。兄貴ふたりとはそんなには年が離れてないから、プロレスのワザのかけっこなんか小さいころからショッチュウだった。
今だって、ついうっかり居間でゴロンとしてると、格闘ファンの2番目の兄貴にワザをかけられてしまう。
なもんで、
裏四の字固めはボクの得意技だ。
「イタ、イタたたたたっ!! ―――― 陸っ、ロープっ! ロープっっ!!」
( おわり )
こうやって沢垣は陸にヘタレていくのでした・・・。めでたしめでたし☆
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説



寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる