放課後シリーズ 妄想暴走な先輩×鉄拳の後輩

ヒイラギ

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7.コントロール不可能(3)

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あのくちびるが、ボクにキスをした ―――― 。
教室の窓から見えた沢垣先輩の姿を目で追いながら、
昨日の光景がまざまざと目に浮かんだ。
目に浮かぶだけなら、まだよかったけれど、
ふれられた、感触までリアルに思い出して、
今居る現実から、不意に、切り離されたような感じがしたから、
慌てて意識を、「今」に戻した。
それでも、気がつけば指をくちびるに当てていた。
もっと、指よりもやわらかくて、そして湿っていて、それから、くちびるだけじゃなくて、
「――― ら、」
し、舌で、―――― 。
「おい、小笠原ってば」
「うっわ、なに!!」
いきなり、肩をつかまれて、驚いた。
思わず大きな声が出て、近くに居たクラスメイトたちがなんだ?ってな感じでこっちを見た。
「なに、って、オレのほうが何? なんだけど」
いつの間にかボクの隣りに立っていたらしい北野が、
ボクが出した大声がうるさかったらしく、顔をしかめている。
ボクとおんなじで、やや小柄で、
ボクとちがって、頭がいい。
「何、ぼーっと見てたんだ」
「え、別にボク、ぼーっとなんかしてないよ」
「そうか?」
「そうだよ」
ま、まさか、頭の中身が顔に出てたりなんかしないよな。もし、そんなんだったら、この3階の窓から飛び降りるぐらいの勢いで恥ずかしすぎる。
「じゃあ、小笠原のニュートラルな表情がぼーっとしてるんだな」
北野は頭がよくて、
口も悪い。
「・・・なんか用?」
「ムッとするなよ。小笠原ってわかりやすいなあ」
北野は、口が悪いけれど、根に持つところがないし、言いたことは隠さず言うヤツみたいだから、ボクにとっては話しやすい。北野の直截な言い方が苦手だって言ってるヤツもいるけれど。
高校に入学して1ヶ月弱。
そろそろクラスメイトの性格も把握できてきた。
「健康診断のアンケート出してないだろう?」
北野が言った。そうだ、北野は保健委員なんだった。
「あ、ごめん。持ってきてるから、ちょっと待ってて」
自分の机に戻ろうとしたら、北野が言った。小声で。
「いいのか?」
「え、ナニ?」
と聞くと、
北野が目線で、窓の外を示した。
なんだろう、とその目線をたどると、
すぐ下の渡り廊下で、沢垣先輩が立ち止まってこっちを見上げていた。








沢垣透。
―――― オレ、ちっちゃいころから騒がしい騒がしいって言われててさ、とうとう小学校の担任からは、「お前は沢垣透じゃなくて、“騒がしいのが通る”、だ」って言われたよ。
って、自分の名前をボクに教えてくれた。教えられる前に、もう、とっくに、先輩の名前は知っていたけれど。
学校から私鉄までは歩いて12、3分ぐらい。
私鉄を利用する生徒はたいてい、正門を出てすぐの大通り沿いの道を歩いて駅に行く。それがいちばんの近道だからだ。
だから、わざわざ、大通りをそれた住宅地を抜ける裏道を通る生徒はほとんどいない。駅につくまでコンビニもないし、けっこうな回り道になるからだ。
その道を、ボクと先輩は歩いて帰る。駅まで一緒に。
それぞれの部活が終わっての待ち合わせは、その、裏道を入ってすぐにある理容店の前の自販機のところ。
「待ったか?」
先に着いていたボクに先輩が言った。ちょっと走って来たっぽい。
「ううん」
敬語はつかうなよ、と言われたから、1コ上だけどタメ口。
たったの24時間前とおんなじ光景。
でも、あの時は、キス、なんかしてなかった先輩と。
ただ、話しながら一緒に帰るだけの関係だったのが、
今は、どこかしら、空気がちがっている。


ヒジをつかまれた。やわらかく。
まっすぐ歩けば、駅までもうすぐ、な道の途中の公園の前で。
「こっち」
こそり、と言葉が落とされた。
ひそやかな声は、けれど爆撃なみの威力だった。
立ち止まれない。促されるまま、公園の中に入っていった。
立ち止まれ、立ち止まれ。警告音が鳴り響く。
それなのに、大きな楠の木の、公園の入り口から隠れるようなところでしか、立ち止まれない。
そこで、別に、普通に、さらっとつかまれていたヒジははなされて、
さっきまでの歩きながらしゃべっていた話しのつづき、
なのに、
もうすぐにでも、先輩がボクにふれてくるだろう予感と予想がボクをがんじがらめにする。
わらって、先輩の話しに答えながら、
ボクの中学時代のことも話しながら、
先輩の気配が、動き出すのを、
―――― 待っている。






( つづく )

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