放課後シリーズ 妄想暴走な先輩×鉄拳の後輩

ヒイラギ

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5.コントロール不可能(2)

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となりを歩くのが気恥ずかしい・・・。
さっき、キスされた。
心臓はさっきよりもだいぶ静かにはなったけれど、
いつもよりドキドキしてることにはかわりない。
部活を終えて、学校を出たときはまだ夕暮れだったのに、今じゃすっかり日が落ちて、道路の両側に建つ家々の灯りと街灯が進む道を照らしてくれている。
こんな時間になるまで、キス、と、抱きしめられてた。先輩に。
身体をすっぽりと覆われて、体重をあずける、なんて子どものとき以来だった。
それに、子ども時分には、抱っこされてもおんぶされても、あんなに心臓が痛かったり甘かったりしなかった。
まだ、抱きしめられてたときの先輩の身体の感じがリアルだ。
それに、くちびるも、舌も、歯も。リアルにボクの中に入り込んだままだ。
「陸」
「えっ、はい!」
うつむいて地面を見ながら歩いてたら、突然、名前を呼ばれてびっくりして声が裏返った。
ついさっきまで、ボクの苗字の小笠原、とボクを呼んでいたのに。
「明日も一緒に帰ろう」
やさしい顔で先輩が言った。
「は、はい」
まだ帰ってる途中なのに、なんだろう? もう、明日の約束。
どこかの家からの漂ってくる夕食のにおい。
窓からこぼれているオレンジ色のあかり。
青暗い色の塀や庭先。
春先の夜のあたたかい空気。
それから、それから、―――――――― 。
五感が全部、先輩全てになってしまわないうちに、いろんな情報を取り入れる。
けれど、そんな努力も、
ただひとすじ、
サラリと髪をなでられるだけで、おしまいだ。
「―――― 」
先輩が何かを言った。
聞こえないくらいの小さな声だ。
けれど、それをボクの中の小さな受信機が言葉じゃないなにかを受け取って、胸がきゅうっとなった。泣きたい気分になった。
こんな気分は好きじゃない。迷子になったみたいに、自分が進む道がわからない。このまま、元の道にもどろうか、なんてぐらいに心細い。
先輩は立ち止まってた足をまた進めながら、
「腹減ったなー」
と、のんびりと言った。
その明るいのびやかな声が、また濃密になりそうだった空気をかろやかなものに、一瞬にして変換させた。
ボクはぱちりとまばたきをして先輩を見上げた。
「おっ、ここんちの夕食はコロッケみたいだな」
わざと鼻をクンとさせた様子をみせながら先輩が言った。
さっきまでの、大人びた空気はなくて、ただの普通の高校生。
「陸はなにコロッケが好きなんだ?」
「・・・ふつーに、牛肉」
「お、オレと一緒だな」
・・そんなにコロッケの種類ってないと思うんだけど。
そんなツッコミもうれしそうにニコニコしている先輩の顔を見てると意味がなくなる。
「ミンチカツも好きだよ」
そのニコニコ顔を見ていると、すうっと気持ちがかろやかになった。
こういう感じの先輩となら、すらすらしゃべれる。
「ソースかけて、キャベツと一緒に食パンにはさんだりとか、」
「あ、するする。でも、そうやって食べてると、母さんに『ご飯も食べなさい』って言われるんだ」
「へー、ご飯もパンも両方食べないのか?」
「そんなに食べられないよ」
と言ったボクに、先輩がハハハとおかしそうに笑ったから、きっと先輩は両方食べるんだと思った。
「オレは両方食べてるけどな」
やっぱり、そう言ったからおかしくて、笑った。
「陸、笑うとアレだよな」
まじまじっとボクの顔をみて先輩が言った。
「あれ、って?」
「なんか、小動物に似てる」
あ、それ、仲良くなったヤツからは、よく言われる。
なので、ちょっとムっとして口をとがらせた。
「いいよ、わかってる。―――― よく、言われるもん」
なんか、長ったらしい名前の南米のカラフルな色のちっこいサルだ・・・・・・。
そのサルが去年の夏にヒットした映画に登場してから、言われるようになった。
・・・ボク、そんなにサル顔かなあ、ってしばらく洗面台の鏡を見る日々が続いたっけ。
「そうか?」
「そーだよ」
まあね、おんなじ霊長類だからいいけどさ。トンボに似てるって言われてもヤだし。
「なんだ、みんな、思うことはいっしょなんだな」
ニヒ、って感じで笑ったから、あ、くやしい、と思って、
「先輩だって、」
「ん? オレ?」
うーんと、うーんと、ナニに似てるだろう???
なんか、あれだよな、動物にたとえるんだったら足が速い猟犬だ。あ、でも、そんなカッコイイっぽい犬に似てるって言ったら、言い返したことになんないし―――― 。
「あれ、あのお笑いの人。最近、ふりかけのCMに出てる」
派手な衣装と、へんなサンバのリズムで腰をふるコマーシャルだ。
ご飯どきによくテレビで流れてるから、けっこうみんなに知られている。
クラスでも物まねしてるヤツも居るし。
「マジかよ。オレってあんな顔」
ちょっといやそうな顔して先輩が言ったから、
してやった、って感じて愉快になった。
ま、そうだろう。なんだかのほほんとした顔の芸能人だから似てるって言われたらイヤかも。顔ってよりは、顔の輪郭とか身体つきとかが先輩に似てる。表情だって、もっとひきしめたら、先輩みたいなきりっとした顔に近くなるかも。
「うん、ふりかけ持ってバカ笑いしてるとことかそっくり」
ほんとはもっとずっと先輩のほうがかっこいい。
なんてことは一切言わずに、
なんだよ、マジかよってぶつぶつ言う先輩をからかいながら、駅まで歩いてった。




( つづく )
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