放課後シリーズ 妄想暴走な先輩×鉄拳の後輩

ヒイラギ

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1.帰り道

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「今日、城島が陸の尻をさわってたな」
ボクの恋人の沢垣先輩が怖い顔して言った。
沢垣 透先輩は2年生で、バスケ部だ。
ボクは小笠原 陸。卓球部の1年生。
で、
はて? と隣を歩いている沢垣先輩が今言った言葉を考える。
城島っていうのは、多分、卓球部の2年生の先輩のことで、バスケ部も卓球部も同じ体育館で練習してるから、そのときのことなんだろうけど・・・。
そんな、セクハラまがいのことを城島先輩された覚えはない。
どっちかっていうと、城島先輩は、マジ体育会系のヒトなので、気を抜くと鉄拳が飛んでくるし。
なので、
なんのこと? と首をかしげつつ沢垣先輩を見上げると。
「ヒザでこう、ヤらしく、ぐいっと ―――― 」
・・・・・・ああ、なんだ。
あれは、「なんだっ! 今のレシーブはっっっ!!」と凡ミスしたボクに城島先輩がヒザ蹴りを入れただけのことで、―――― 。
「陸が大人しくて何も言えないのをいいことに、アイツ!! すぐにでもぶん殴りに行こうかと思ったけど・・・」
「先輩!」
ぴしゃり、とボクが言うと、
「・・・部活中は絶対に口出ししてくるなって、陸が言うから、」
くちびるを突き出して、イジっと言った。
前もそんな感じで似たようなことがあって、勘違いした沢垣先輩がバスケットボールを投げつけてきたことがあった。
部活間の占有スペースを区切るネットのカーテンがあったから大事に至らなかったけど、すごい勢いでネットに投げつけられたバスケットボールに卓球部のみんなは一瞬シーンとした。
あれを、「あ、手がすべったんですね。沢垣先輩」とおそろしく棒読みなデカイ声をはりあげて、「そういえばバスケ部の監督から伝言を頼まれていました」とウソついて先輩を体育館外に連れ出して、なんとかその場をごまかしたボクの気苦労を思い知れ!と思って、
一週間おあずけ、の刑にした。
「今日のも、別に城島先輩はボクにさわったわけじゃなくて、」
「アイツをかばうんだな、陸っ!!」
や、そのでかい声は住宅地の皆さまにご迷惑なんだけど。
「陸は・・・、も、もう、オレのことなんか、好きじゃあないんだ・・・・・・」
先輩は立ち止まると、部活帰りの夜空を見上げた。夏なのでまだ空は明るい。
「―――― 城島のことが好きなのか?」
あ、また、
「いいさ、オレは陸が幸せならそれでいいんだ。いつだって、陸のためなら身を引くゼ」
妄想、暴走開始。
先輩、外見も中身も男気あふれててカッコイイのに、ことボクのこととなると、弱気で後ろ向きだ。
あんなに、堂々と「好きだ」って言ってきたのに。あっというまに、手をだしてきたくせに。
「でも、これだけは憶えていてくれ! オレほど陸をアイしたヤツはいないってな」
もちょっと、自信持って欲しいんだけどなあ、
と、斜め45度の角度で哀しげに空を見上げてる横顔を、ボクに見せてる先輩を見ながら思った。
こういうことは、もう何回もあったので慣れた。
たいていここらへんでボクが「そんなことないよ」って止めに入るんだけど。
一度、いい加減面倒くさくて、どこまで行くんだろうと静観してたら、
「さようなら、陸」と言って、どこかへ走っていってしまった。
あんまりな猛スピードだったんで唖然として、先輩の後姿を見送って、
それから、「ま、いっか」と思って家に帰ったら、泣きそうな声でケータイに電話してきた ―――― せいぜい、翌日ぐらいに連絡してくるかなあと思っていたけど、意外と早かった。
で、今日は、
「先輩、コンビニ寄って行こう」
無視。
いつも買ってる週刊マンガ雑誌の発売日なんだ。
さり気なく手をのばして、まだ空を眺めている先輩のグー握りしてる手をつかんだ。
「り、りりり陸っ!」
ボクが知ってるヤらしいことのほとんどをボクに教えたのは先輩のくせして、いまだに普通に手をにぎるのをそんなに照れるのはどうしてなんだろう?
「ダメ?」
と聞いてみたら、思いっきり顔を横にふるので、
先輩の手を引いて、さくさくと歩き出した。
学校と駅の間の住宅街の細い裏道。大抵の生徒は駅まで大通りの道沿いを行くので、ちょっと遠回りなこのコースを行く生徒はほとんどいない。
「ボク、新発売のふぁんた、まだ飲んでないんだ」
マンゴー味、だったっけ?
「半分コにして飲もうね」
おずおずと先輩も手を開いてきて、ふたりで手のひらをあわせるようにして、手をつないだ。
先輩とつきあいだして、
今日みたいに後ろ向きに想像力過多なところとか、カッコワルイ姿をがんがん見せられて、
驚いてあきれてあっけに取られて、なんなんだこのヒトはと、考えてるうちに、ほのかな憧れだった想いはきれいさっぱり消えてった。
それで、キライになったかというと全然別で、
気合入れてバスケしてる姿を見ると今も胸がドキドキするけど、
かっこワルクて情けないとこも、なんだか胸がじわんと甘くなる。
「陸、オレが好き?」
半歩後ろを歩いていた先輩がぼそっと言った。
見上げると、眉毛を八の字に下げてボクをじっと見ている。
そんな顔してそんな声でそんなこと聞いてくるから、
イタズラゴコロがむくむくと沸いてくる。
先輩の顔見て、にっ、て笑って、
「ナーイショっ」
言って、ぱっと手をはなした。
「先に行くね!」
びっくり顔の先輩を置いて、住宅街を抜けたところにあるコンビニまで全力疾走!
もし、
コンビニ到着前に、
ボクをつかまえられたら、
言ってもいいけどね。

いつも、おもってることを。




( おわり )




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