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19.フードバトル

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「ぅうッ、さむっ」
容赦なく吹きつけてくる寒風に、ボクは首をすくませた。
制服の上にはダッフルコート、首には毛糸編みのロングマフラーをぐるぐる巻いて、両手には手袋、という防寒バッチリなカッコウだけど、
夕方の6時を過ぎれば、まるっきり夜みたいに暗い1月の寒さに、負けそうだ。
むき出しの顔にもろにあびる北風に、顔がきゅきゅきゅーっと凍えて、痛いし。
駅から徒歩15分の道のりが、いつもの倍くらいに感じてしまう。
でも、
右手に持ったコンビニの袋がカサカサという音をたてるから、
その中身の見たときの修平の喜ぶ顔が浮かんでくるから、
なんだか足取りも、軽くなる。
ボクは息をはぁーっと吐いた。
白くなった息がふわーっと広がって、すぅっと消えてゆく。
そうして、
寒さにこわばっていた身体がふっとゆるんだ。
視線の先、見慣れた風景の中に修平が住むマンションが見えてきた。







左手でドアのチャイムを押して、右手でさっきエレベーターの中でカバンから取り出しておいた鍵を差し込む。
修平には駅に着いたときにメールをしておいたから、チャイムの応答を待たずに、ボクはもうすっかりなじんだ動作で鍵を開け、
真冬の冷気から逃れるように、すばやくドアの内側へと身体をすべりこませた。
とたんに室内の温かな空気が冷え切っていたボクの身体を包み込んできた。
「わ、あったかーい」
思わず口にすると、
「お、来たな」
と、玄関から3歩ほど行ったとこにあるキッチンから顔をだした修平が声を掛けてきた。
その笑顔に、そのはずんだ声に、待ちかねていたような空気を感じて、ボクは自然と顔がほころんだ。
履いていた革靴を蹴飛ばすように脱いで、ボクはタッタッタと修平が居るキッチンへ向かった。
別にすごい久しぶりに修平と会うわけじゃない。学校では毎日、会ってるし、ついこないだの日曜日に、ここに来たばかりだし。
なのに、やっぱり、うれしくてしょうがない。
「寒かったか?」
目を細めて修平が言った。
「うん、すっごい寒かった。もう顔が凍りそうだったよ」
ボクは、肩にかけていた学校指定のサブバックを足元に降ろした。
「本当だ。かなり冷えてる」
修平が手をのばしてきて、ボクの頬にふれた。
その手はあたたかくて、そして、少し濡れていた。
修平の背後のキッチンに目をやれば、まな板の上には切っていた途中らしい白菜がのっている。
今日の夕食は、鍋にするって言ってたから、その準備の途中なんだろう。
「さっき、ニュースで今晩からまた寒くなるって言っていたからな」
本当は、修平にじっと見つめられるのは少し、苦手だ。
その意志の強そうな瞳に、思っていることをなんでも見透かされそうだから。
でも、今は、目じりがやさしい感じにタレている。
「じゃあ、明日、雪が降るのかなあ」
自然と、甘えるような声が出た。
もっと修平の体温がほしくて、ボクの頬をつつむ修平の手にすりよせるように、顔を動かした。
「かもな」
修平が着ているグレーのニットは、やわらかそうで、抱きしめてもらえたら気持ち良さそうだなあ、と思った。
ボクより断然、広い肩幅とがっしりと厚い胸板を、その薄地のニットが強調している。
「かもな、って。道路が凍ったら、修平、車で学校に行くの大変だろ」
「ま、そんときゃ、そんときだ」
おおっぴらに遅刻が出来るじゃねーか、と修平が笑った。
「なんだよ、それ。センセーのくせに」
顔がゆっくりと近づいてくる。
修平は、ボクの目じりに、くちびるでふれて、
それから、
ボクが首に巻きつけていた紺色のマフラーをほどき始めた。
くるり、くるりと深い青の色が舞う。
「なっげぇなー、これ」
「・・修平が買ってくれたんじゃないか」
ボクが両の手を広げたよりも長いこのマフラーは、この前のドライブの途中でフラリと立ち寄ったインポートショップで修平が買ってくれたものだ。
お前、寒がりだからこんくらいないとな、って言って修平が手に取ったのは、毛糸編みのすごいあったかそうなマフラーだった。
今まで使っていた馬のワンポイントが入ったチェックのマフラーもわりと気に入っていたけれど、今年の寒波には太刀打ち出来そうになかったから、
ほら、と渡されたマフラーに、「これ、長すぎるよー」っていいながらも、すごく手ざわりがよくて、あったかかったから、近くにあった鏡の前で首に巻いてみたんだった。
修平は、その色似合う、って言ってくれた。
「まあ、そうだけど。急いでるときには面倒かもな」
(・・急いでるとき、って)
甘い予感に、
気恥ずかしさと、・・期待とで、視線がさだまらないでいると、
口の近くまでおおっていたマフラーのやわらかな毛糸の感触は消え、
そして、
かわりに、修平のくちびるが重なってきた。
「ああ、ここもすっかり冷えきっている」
まるで、ただ、体温を計っただけ、みたいに、修平のくちびるはすぐに離れていった。
「・・風、つめたかったし」
やわらかな名残りが、なんだか切なくて、ボクは口元に手をあてた。
どこの場所とも違う、修平の部屋のにおいがする。
キッチンとリビングをへだててるのはL字型のカウンターだけだから、
リビングのつけっぱなしのテレビからは陽気な声がダイレクトに聴こえてくる。
「そうか」
修平は、ささやくようにそう言うと、手に持っていたボクのマフラーを、すぐ横のL字型のカウンターに置いた。
そして、もう一度、くちびるがふれあう。
ただそれだけで、重なった部分から、ぴりぴりと甘いしびれが生まれてくる。
ゆっくりと何度も角度をかえて、そうされているうちに、修平の手はボクの背にまわっていて、その腕に、ぐっと強く身体を引き寄せられ、ボクは気づいた。
(ぁ・・、)
今のこれは、ふゎっとやわらかいアイサツのキスじゃない。
腰の部分がぴたっと密着している。
したくちびるをちゅっと吸われて、修平の片方の手がボクの耳をおおうようにして撫でてゆく。その行為に、修平が何を求めているのかわかって、ボクは少しだけ口を開いた。
そろりと、舌が入ってきた。濡れた感触がボクのにかぶさってくる。
「・・んっ」
わかってる。こぼれるようなそんな甘い声がもっと修平があおるってことを。
でも、止められない。
床置きのファンヒーターが送ってくる温風と、
ガスレンジにかけられている鍋からわき上がっている湯気と、
修平との間に生まれてくる熱が、
ボクの体温を急激に上げてゆく。




キスをほどく時に、湿った音がした。
目をやれば、修平のくちびるがテラテラっと濡れている。
頬もさっきよりは上気している。
きっと、ボクもおんなじなんだろうなあと思って、それが、なんだか恥ずかしくてボクはうつむいた。
けれど、修平は、いたって普通のことのようにボクが着ているダッフルコートのボタンをはずし始めた。
放課後に修平のマンションに立ち寄る日は、
学校から帰宅した修平が夕食をつくるのを手伝って、いっしょにご飯して、
それから ―――、
するときもあるけどしないときもある。
話すだけとかくっついてるだけとか。
ただ、ソファにならんですわってくっついてるだけだったのが、
なんか、気分がもりあがってきてそうなっちゃいそうなときも、たまに、っていうか、よく、ある。
手をつなぐとか、くりかえしキスをするとか、だけじゃなくて、
もっと、
もっとそばに居たくて、
近づき合いたくて、
肌と肌をくっつけあいたくて、
気持ちも身体も、なんだか、泣くみたいにせつなくなるのに、
そんなときでも、修平はムズカシイ顔して、時計の時刻を確認する。そして、絶対にボクが家に9時までには帰りつくように送ろうとする。
うちは門限とかないし、親も全然ゆるいんだ、って言っても、修平は断固として首を縦にふらない。
だから、
限られた時間しかない平日は、
視線の温度とか、声の深さとかを敏感にキャッチしあって、
夕飯もそこそこにふたりして服を脱がせあう。
だけど、今日は、
晩ご飯、鍋にするって、修平、言ってたし。
だから、すっかり、ゆっくりと夕食をふたりで食べるんだぁ、って気分で来てたから、
そ、そーゆーことは、全然、頭になくて、
身体は、さっきまでのキスでぐんにゃりとなってたけど、
ボタンをはずすために身をかがめた修平の髪が、さらりとボクの頬をなでてく、その、秘密めいた感触に、
がまんできなくて、
「あの! これっ! 買ってきた!!」
ボクはまだ右手に持ったままだったコンビニの袋を無理矢理、ボクと修平の間にわりこませた。
修平は、一瞬、驚いた顔して、それから、ふっと苦笑した。
(だって、しょーがないだろっ)
ふたりともに同じ速度で、お互いにふれあう密度が濃くなってくのはいいんだけど・・、
なんにもヨコシマな気持ちはありません、みたいな大人の顔してたくせに、急に雄の空気をにおわせてこられると、
すこぅしだけ、こわくなる。
今だって、コートだけじゃなくて、制服まで脱がされそうな感じだったし。
「これは、アレか?」
ボクが渡したものを、修平が確かに手に取ってるのを確認すると、ボクは何気なさをよそおって、修平から離れた。
「・・うん、そう。修平が、この前、言ってたやつ」
修平が食べてみたいって言ってた豚の角煮まんを買ってきてたんだ。
いつもおごってもらうばっかじゃなくて、ボクだって修平にゴチしたい。
高校生のボクが出来ることなんて、本当にささやかだけど、それでも、修平に喜んでもらえたら、すっごく、うれしいから ――――。
まだちょっとアヤシイ気配を漂わせていた修平が、ボクが渡したコンビニの袋の中身を見ると、嬉しそうに笑った。
その切り替えの早さに、ボクはやっぱりついてけなくて、まだ、どきどきと脈打っている心臓をかばうようにして、胸の上に手をあてた。
修平にすっぽりと抱きしめられるとすごく安心するのに、その手が肌をさぐろうとする気配を感じると、最速で逃げ出したくなる、のに、その腕の中にずっとずっと囚われていたいという思いのほうが遥かに強いから、身動きができなくなるんだ。
「サンキュー。凛一、憶えていてくれたんだな」
普段通りの笑顔に、オトナの余裕みたいなものを感じて、自分ばっかりが、ふたりを覆う密度にふりまわされているようで、なんだか、悔しくなる。
「わ、わざわざじゃないからな。たまたま、コンビニに寄ったら、あったから、それで、思い出しただけだからっ・・」
修平が手を伸ばしてきても届かないとこまで後退して、ボクは、自分でコートのボタンを外し始めた。
にこにこ顔の修平に、
ほっとして、
「―――― もぅ、なんだよ急に、」
ひとりごとのつもりで呟いたら、
「あんまり、お前がきらっきらした目で俺のこと見るからだ」
と、耳ざとくボクの声を聴きつけたらしい修平がそう返してきた。
あー、ヒトのせいにしたっ!!
「そんなのオトナの理性でなんとかしろよ」
「そこを学生の本分で流されろ」
・・・、意味わっかんないし!










ちょっと一服って感じで、ホットウーロン茶で角煮まんを食べて、ボクと修平は夕食の準備を始めた。
準備と言っても、今晩も鍋だし、材料はもう、すでに修平が切って土鍋の中に並べていたから、ボクがしたはの食器や卓上カセットコンロをリビングに運ぶくらいだった。
「今日は、キムチ鍋だぞ」
うん、部屋に充満しているにおいでわかってたよ・・。
去年の末に、鍋料理セットを買った修平が出してくれる夕食は、ずーっと鍋だ。
本当に、ずーっと鍋料理責めに遭っている。
一度として同じ鍋料理じゃないのが救いといえば救いなんだけどさ。
うん、まぁ、確かに、牡蠣もおいしかったし、すき焼きもグーな味だったし、初めて食べた和風カレー鍋にボクはおいしいを連発した。
けど・・・。
「寒いからな、辛いのであったまろうな。これがまた、最後に玉子をいれて麺をいれるのが旨いんだよな」
カセットコンロの上に、もう食材をきれいに並べている土鍋を置きながら修平が言った。
キムチの赤に、白菜と長ネギの緑が映えている。その隣の豆腐とメインの豚肉もおいしそうだ。
「えー、最後はご飯でシメようよ。雑炊がいい」
「お前はキムチ鍋の極意を知らなすぎるぞ、凛一」
でた! 鍋奉行・・・。
「豚肉や野菜の味が染みこんだただ辛いだけじゃないキムチスープにだな、もちもちのうどん麺がその味を吸い込んだところに、とき玉子を雑ぜ込んで ――――、」
「ボク、キムチ雑炊がいい。この前だって、シメは麺だったじゃないか。たまにはご飯にしようよ」
ボクは、鍋奉行に物申した。
「もう、うどん玉を買っている。それにな、凛一」
ふんぞりかえって、勝ち誇ったような顔をして修平が言った。
「うちには、今、飯がないんだ」
今から買ってくるって意地でも言ってやってもよかったけど、もう真っ暗になっている外へ出るのは正直気が進まない。
「・・・、次は絶対、雑炊だからな」
「わかってるわかってる」
悪代官ヅラしたにやにや顔のおっさんの横ッ腹に蹴りを入れたい気持ちをぐっと抑えて、ボクはカセットコンロに火をつけた。









修平がテレビのリモコンを手に取った。
8時からのニュースを見るのだろう。
キムチ鍋をたらふく食べて、ふたりでさくさくっと後片づけをして ――― すっかり手馴れたもんだ ―――、それから、リビングのソファにふたりですわったのがついさっきだ。
壁の時計を見れば、もう、タイムリミットがせまっている。
ニュースキャスターが、今日の主なニュースを流し終えて、スポーツコーナーへと移る頃に、「そろそろ行くぞ」と言って修平はキッチンカウンターに置いてる車のキィを取るために立ち上がるんだ。
それから、換気扇の下でタバコを一本吸って ――― 最近、修平はリビングでタバコを吸わなくなった ―――、ボクを家まで送ってくれる。
それはいつものことで、
それは、いつも淋しい。
明日は学校だってあるから、いつまでもずっと一緒に居られるわけじゃないと頭ではわかっているけど、出来るだけ長く一緒に居たいと思う気持ちは抑えられない。
ボクはふざけたふりして、修平の肩に寄りかかった。
ぐぅーっと体重をかけてゆく。
なのに、ビクともせずに、修平は顔を前に向けたままテレビを観ている。
「今日は何の課題が出たんだ?」
視線はテレビ画面に向けたまま修平が言った。
もう、なんだよ、その色気もそっけもない話題は!
「グラマーと数Ⅱ。でも、提出は来週」
ボクもそっけなく返事した。
あーあ、ニュースよりもクイズ番組が観たいんだけどなー。
「明日、提出のがあるだろう?」
「古文の意味調べはもうしました。読み下し文も書いてますから、曽根崎先生は安心して下さい」
ボクはわざと生徒ぶって言った。ボクだって、ちゃんとすべきことはしてるんだから!
「学校にノート持って来るの、忘れんなよ」
「あー、もぅっ! たった一回のミスをいつもで言う気だよ」
ボクは、プイっと修平に背中を向けた。
どうせまた、からかうようなことを言うんだろう、と身構えてたけど、修平はうんともすんとも言わない。
ボクも自分から話題を振る気もなくて、壁のほうを見つめる体勢をキープしていた。
(なんか、言えばいいのにさ。・・それとも、ニュースを観るほうが大事なのかなー)
離れてしまった体温を寂しく思っていると、
「凛一、」
静かな声がした。
首筋に吐息を感じた瞬間、背後から抱きすくめられた。
修平が僕のことを背中から抱きしめてきて、
ぐりぐりと鼻先をボクの後頭部にこすりつけてくる。
まるで、なんだか、甘えてるみたいだ。
さっきまでのそっけなさがウソみたいな密着に驚きつつも、
せつない感じに胸がさわいだ。
ウエストにまわされてる修平の大きな手に自分の手を重ねた。
「どうしたんだよ、修平、」
「―――― ああ、ちょっと鼻の頭がかゆいんだ」
「じゃあ、ボクがかいてやるよ」
ボクはくるりとふりかえった。
そして、手をのばしてツメの先で、修平の鼻をぽりぽりとかいてやった。
「どう?」
「――― 気持ちいい」
修平が目を細める。
衝動的に、「好きだよ」って言いたくなった。
すぐ意地悪言うし、オレ様だし、駄々っ子みたいに自分の主張を貫くし、大人の理性のかけらもナイし、
ほんっとーに、いいトコなんて全然ないのにさっっ・・・、
こんなふうにボクに言わせるのは、すごい、ずるい。
修平の鼻の頭をかいていたボクの指先を、修平が握ってきた。
さっきの、おさまったように見えていた熱は見えないところでまだくすぶっていたんだ。
だって、ふれあっているトコからびりびりと伝わってくる。
見つめあう瞳の中に確かな欲望を確信した。
じわっと目がうるんでくる。
なによりも深いところで交じり合いたいたいという気持ちはどこからくるんだろう ―――― 修平にしか向かわないこの熱は・・。
こんなふうに、少しずつ熱が高まってくのがいい。
さっきみたいな急な展開にノれるほど、ボクはまだ大人じゃない。
「修平・・」
そっと名前を呼んだ。
キスして欲しくて、
その先も欲しくて。
「あー、くそっ、ヤバイ」
くちびるがふれあう寸前に、修平が唸るように言った。
「・・なに?」
「自分に負けそうだ」
キスだけじゃおさまりそうにない、と修平がつぶやく。
「たまには負ければいいだろ」
じっと修平を見つめる訳をわかって欲しい。
一秒だって長くいっしょに居たい気持ちをわかって欲しい。
自分が、高校生だから、修平に無理や我慢をさせてるのを悔しがってることを、本当はわかって欲しい。
「――― そんな訳いくかよ」
短く、修平が言った。
そのわざとらしい乱暴な口調の真意を汲めないほどボクはコドモじゃない。
「ちぇー、頑固なんだからさー、修平は。別に、遅く帰ってきたって、うちの親、全然、怒んないのにさー」
だから、ボクは軽い口調で言った。
「お前の両親が怒るとか怒らないとかの問題じゃない。物事にはケジメってモンが必要なんだ」
修平が真面目な顔をして、それから、お前が大事なんだよ、と言った。
なんだよソレ、意味わかんないし、勝手にルール作ってるし、大体、教師の修平が教え子のボクの手を取った時点で、その“ケジメ”の箍は外れてるじゃないか。
って、言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡ったけれど、
修平が真剣な表情をして言った言葉に、ボクはくちびるを噛んだ。
顔が、あつい。多分、真っ赤になっていると思う。
そぅっと、修平を見上げると、
眉間にシワを寄せている。
照れを隠そうとしているときのクセだ。
泣きたいような、切ないような、気持ちになって、ちぃさく「わかった」とつぶやいた。
修平は、その顔がヤバイんだよ、とぶっきらぼうに言うとボクの頬をつまんだ。
そして、
「今度の土曜日、また、うちに来るんだろう」
全然、疑問系じゃない、決定事項のように言う。
どうしよっかなー、なんて、思わせぶりな台詞さえも言えずに、
ボクは、修平のほっぺたをつまみ返しながら、
「来るよ」
って、返事した。












そして、その土曜日・・・。


「うそつき! この前、次はご飯でシメるって言ったじゃないかッッ!!!」
「何を言ってるんだ凛一! モツ鍋をちゃんぽん麺でシメるのがケジメってもんだ。これだから、鍋道をわかってないお子様は困る」


・・・・・、もぅ、キライになってもいいですか?

もし、修平に出会ったあの日に、
修平のことを好きになったあの日に帰れるのなら、
ボクは、
自分を全力で止める!



( おわり )

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