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6.100年の恋も
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「まぁ、凛ちゃんどうかしたの?」
夕食後、居間のソファーで膝をかかえて体育座りをしてたら、
食後のデザートにりんごをむいてきてくれたママさんに言われた。
テレビはつけていたけれど、気がついたら、ぼーっと宙を見つめていた。
別のソファでは、パパさんが新聞を読んでいる。
うちのママさんは、菩薩像のようにいつもおだやかな顔をしている。
とっくに高校生になっている息子に、ちゃん付けなんかもまだしてくるから、
抵抗して、「もう、子どもみたいに呼ばないで」って言ったら、
いつもおだやかに笑んでいる目が、すっと糸目になって「いけないからしら?」と、ひやっとした声で返されたので、それ以来そのこについてはふれないようにしている。
ママさんは、ときどき、般若のようなオニの顔になる・・・。
本当は、『ママさん』とかじゃなくて、『かーちゃん』とかのほうがボクは呼びやすいんだけど、それも却下された。
「ねぇ、ボクってイビキすごい?」
今まで、言われたことがなかったから、聞いてみた。
「すごいわよ」
ママさんがにっこりと答えた。
そんな、あっさりと・・・。
「そ、それほどじゃないよね?」
おそるおそる尋ねると、
「そうねぇ、快速列車なみかしら」
と教えてくれた・・・・・・。
「パパさんのを初めてきいたときは、地震かしらと思ったから、遺伝かしらねぇ」
い、イビキ父子?
ところが、新聞を読んでいたパパさんがのんびりと、
「僕がママさんのイビキを聞いたときは、カミナリが落ちてきたんだと思ったなぁ。
きっと遺伝だろう」
って言った。
・・・・・・イビキ親子、なんだ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごいわよねぇ」
「ああ、そうだったね」
2人はにっこりと、微笑みあった。
ボクには12歳と10歳はなれた、兄と姉がいて、2人ともとっくに結婚して家から独立している。
イビキ家族かよっっ。
一度寝つくと朝まで起きない性質だから、全然、気づかなかった。
そうか、ピアノもないのに、各部屋が防音壁になってるのって不思議だったんだけど、
これだったんだ・・・・・・。
近所迷惑、防止??
「最近、よく泊まりに行っているお友だちに言われたの?」
「う、うん」
友だち、っていうか先生だけど。両親にはそういうことにしている。
鏡の前で、
ソレをおそるおそるはめてみた。
・・・・・・・・・・・・。
だめだ。
ボクの顔はたいしてカッコイイわけでもないし、かといってヒドイわけでもない。
まあ、ほどほどにふつう、といった顔立ちだ。
だけど、
こんな顔を先生が見たら、きっと100年の恋も冷めてしまう。
うちの高校は私立なので、公立とはちがって、週休2日じゃない。
土曜日もしっかりと午前中授業がある。
ボクは、小中学が公立だったから、土曜日に学校に行って勉強するってのに、なかなか慣れないくて、土曜日の朝に起きるのがけっこうつらい。
生徒が授業なら、教師ももちろん出勤なわけで、
先生からのお泊りの誘いは、必然的に土日、ということになる。
「明日から来れるか?」
金曜日、国語科教務室で、先生に言われた。
「―――― うん、あの」
他には誰もいなくて、先生は教務机の椅子にすわっていて、
ボクはそのすぐそばに立っていた。
クラスで集めた論文の宿題を先生に提出するという名目で、この部屋に来ていた。
ちょっと、だけ手を伸ばせば、先生にふれられる距離。
いつもは、ボクは先生を見上げてるけど、今は立場が逆転している。
(こんな体勢でキスしたことなかったな)
と、少しだけ不埒なことを考えてしまった。
けれど、
他に誰もいないけれど、
ボクらは絶対に、学校ではソレらしいことをはっきりと言ったり、行為に及んだりはしない。
それが、暗黙のルール。
先生が、明日から、って言ったから、泊まりに、ってことで、
それは、すごく、嬉しい誘いなんだけど、
「夜、家族で出かけることになってるから、土曜は夕方に帰って、また日曜日に来るんでいい?」
とウソをついた。
土曜日の放課後、先生のマンションで、
リビングのガラステーブルの上、
ホットプレートで、じゅうじゅうと焼きそばを炒めてるとき、
「最近、凛一の家は行事が多いんだな」
って何の気なしげに言われて、
「ぅ、うん」
ギクリ、とした。
先週も先々週も、家族の用事があるからって言って、土曜日の夜は家に帰っている。
でも、ホントは・・・・。
本当のこと言ったほうがいいのかな、と思って、下に向けていた視線を修平に戻したとき、
修平の手にある赤黒い物体を見て、思わず叫んだ。
「あっ、ケチャップはボクのぶんにもかけないでよね!」
「これが、うまいのになー」
ときどき、修平の味覚にはついていけない。焼きそばソースをかけてさらにケチャップだなんて、人としてありえない。
「なに言ってんだよ、修平。焼きそばには、林檎酢だろ」
そう! 焼きそばには、林檎酢でフルーティかつスッパ味のかくし味を足すのがうちのやり方なんだ。修平んちには林檎酢がないっていうから、来る途中にコンビニで買ってきたし。
「お前、俺の麺にそれかけるなよ」
いやなモノでも見るみたいに、テーブルの上の林檎酢のビンを箸で指した。
「おいしいのに、ヘンなの」
キャベツだって、修平はちっさく切ってくたくたになるまで麺と炒めるけど、ボクはぶつ切りにしたのを半ナマでばりばり食べるのが好きだ。なので、今、ホッとプレートの上には、二種類のキャベツがじゅわじゅわ炒められている。
「今日、何時ぐらいにここを出るんだ?」
またまたギクリ。
ボクはあまり、ウソつき体質ではないらしい。いやな汗が背中をつたう。
「ろ、ろくじはんぐらいかなぁ」
やべ、プレートの上の麺に林檎酢をかけすぎて、酢がじわっと修平のテリトリーに侵入した・・・。
ちょうど修平が青海苔のパックを開けようとしてるところだったので、視認はされてないみたいだから、麺をまぜるふりして、プレート上の証拠をけした。
「そろそろ、出来上がるね。ボク、ご飯をチンしてくる」
「あー、俺の分はいらないからな」
「わかってるって」
びっくりすることに、修平は麺ものをたべるときはご飯を食べないんだ。
炭水化物に炭水化物なんか食えねーよ、とか言うけど、
ぼくんちは、食事がウドンだろうがチャンポンだろうが、必ずご飯もいっしょに、食べる。
だって、焼きそばって、オカズだし。
焼きそば味のキスってヘンな感じだ。
「なんか、ケチャップの味もする」
なんだろう、ナポリタン風味焼きそば?
換気のために開けてる窓から、気持ちのいい秋風がはいってきて、空色のカーテンをゆらしてるのがさかさに見える。
床に敷いているラグの上に押し倒されてた。
ボクも修平も、午前中は学校だったから、遅めの昼食を食べて、
食器をふたりで片付けたあと、満腹感にほへーっとなってて、修平と並んでソファを背もたれにして床に腰をおろしてまったりしてたら、
いつのまにか、こういう体勢。
「うまいだろ」
「えー、ビミョーだよ」
あ、修平の手、が。
「青海苔、取れた?」
も一回、イーってして見せた。
「もう、ちょっとだな」
そう言って、修平が再び、ボクの口の中を舌でなめはじめた。
わき腹をなでていた修平の手が、今度はボトムの上から脚のつけねあたりをなで始めた。
ぞくぞくとした気分がもりあがってきて、布越しの感触がもどかしい。
もっと、直接、修平の手を、肌に感じたい。
「んんん、ねぇ、ベッドに行こうよ」
キスの合間に言ってみる。
ここでするのもドーブツ的でたまにはいいけど、やっぱり背中や腰の骨が痛くなる。
「いいさ、そこまでしないから」
「なんで? ボクいいよ。しようよ」
「夜、出かけるんだろう? 今、始めると、帰したくなくなりそうだしな」
ちょっと切なそうな顔して、
そんなふうに、言ってくれるから、
用事とか本当はないのに、
ウソついたことがすごくうしろめたかった。
修平のマンションから家に帰る途中で、ケータイが振動した。
サブウィンドゥをみると、イトコの剛にいちゃんからだった。
『ヒマ?』
母方のイトコの剛にいちゃんは簡潔明瞭の人だ。
ママさんの末の弟の子どもで、ボクとは5つしかはなれてないから、兄弟みたいに仲がいい。
もともとは、隣市に住んでいたけれど、剛にいちゃんが就職して、職場が近いからっていって、うちの近くのアパートに住み始めてからいっそう行き来をするようになった。
チャリで10分くらいの距離だから、アソビに行きやすいし、時々、ママさんが作った煮物やなんかのオカズをチャリで持って行ったりする。
そんなときはたいてい、ピザとかを取ってくれるから、あんまり食費の節約にはなっていないんじゃないかなー、と思ったりするけどね。
「うー、いちおう」
『なんだそれ? こいよ、メシおごるから』
「どこに?」
それだけで、OKの意が伝わる。
『オレの部屋』
「デリバリー?」
『いや、ちゃんとしたメシ屋。そのあと、面白いところに連れてってやるからさ』
「あー、うん。今、駅んとこだから、20分ぐらいでつくと思う」
『わかった』
で、切れた。
外をうろちょろすると先生にバッティングするかな、って思ったけど、今晩はずっと部屋に居るっていってたから、大丈夫だろう。
剛にいちゃんもオトコのヒトとつきあっている。
それを知ったのは、
まだ剛にいちゃんが実家に住んでいる頃に偶然、剛にいちゃんの部屋でゲイ雑誌を見つけたのがきっかけだった ―――― 。
ママさんに電話して剛にいちゃんとこに行くからと連絡した。もしかしたら、泊まるかも、とつけ加えて。
「さ、着替えようか」
部屋を訪れてすぐに剛にいちゃんに言われた。
「これじゃダメなの?」
先生んちに行く前に、一回に家に帰って着がえていた。
ボトムはジーパン。トップスは色と素材違いの長袖Tシャツの重ね着。
まあ、高級レストランには入りづらい格好だけど、剛にいちゃんと行くのはたいてい、居酒屋か焼き鳥屋だし。
「わるかーないけど、オッシャレしよーぜ」
陽気に言って、剛にいちゃんがロフトつきワンルームの部屋の作りつけのクローゼットをあけた。
剛にいちゃんはアパレルメーカーで働いている。
今は、百貨店にテナントをだしているショップに勤務しているけど、ゆくゆくは洋服のデザインを提案したり、新規の店をオープンさせたりするほうの業務に就きたいのだそうだ。
剛にいちゃんはきれいな顔立ちをしている。スタイルも西洋マネキンみたいにスラリとしていて、ちょっと長めの髪にゆるくウェーブをかけて、おちついた感じの深みのある茶色にカラーリングしているのがとても似合っている。
性格は豪胆で、アマノジャクで、お調子者なのに、口を閉じているとちょっとはかなげな印象だ。
大きな瞳は猫みたいにシャープで、この目でじっと見られて、そのいつも楽しそうにしている唇で接客されたら、女のヒトならうっかりと色々買ってしまいそうだなぁ、と剛にいちゃんの口車に乗せられてしまうお客さんに同情する。
先月も支店の売り上げナンバーワンになって、支社長賞をもらったって言っていたし。
「シルク?」
剛にいちゃんに渡されたのは肌に吸いつくような感触の、やわらかな布の黒シャツだった。
「そう、気持ちいーだろー」
ボクは剛にいちゃんの服を着せられていた。身長は剛にいちゃんのほうが高いけど、身体つきはそんなに変わらないから、たまに、こんなふうに、剛にいちゃんの「着せ替え遊び」につきあうことがある。
遊び、だから、言いなりになってるとものすごい格好をさせられるので、最近は服を着る前にちゃんとチェックするようになっていた。
一度は、穴あきだらけのジーンズに、どうみてもヨレヨレのTシャツ(ものすごい高いんだぞって憤慨してたけど)を着せられて、髪の毛を逆毛立たせられたこともあったし・・・・・・・。
「うん、でも、肌着を着ないと寒いよ」
「何言ってんだ、凛一。おしゃれは気合だゾ!」
剛にいちゃんがコーディネートしてくれたのは光沢をおさえたシルクの黒のシャツに、ダークブルーのパイソン柄の細身のパンツ。パンツ丈は、ボクには長すぎて足首のところがくしゃってなるんだけどサ。
それに、
「このパンツ、ちょっとキツキツなんだけど」
「それがいーんじゃないか。せっかくのカワイー尻を見せて歩かなくてどーすんだ」
どーすんだ、って。どーもしないし、むしろどうにもしたくないんだけど。
けど、テンション負けで、しぶしぶウエストのボタンを留める。破れ目から、太ももが見えていたあのジーンズよりはマシだし。
「これって、へび皮?」
「そ、模様はな。合皮にプリントしたもんだけど、型押しだから、立体感がでていて、本物っぽいだろ」
確かに、ボコボコがあってウロコっぽい。
上着は、丈の短い切りっぱなしの砂漠色のジャケット。わざとなのか、肩の縫いあわせや、袖のところがほつれた感じになっている。無表情なシルクの黒シャツと、やんちゃな感じの綿生地ジャケットとのズレた合わせかたが剛にいちゃんらしいなあと思った。
でも、シャツもジャケットも着丈が腰上だから、キツキツで浅履きのパンツは、なんか恥ずかしい。
「で、シャツの胸元をあけて、見せアクセに金や銀をもってくるとウォーター系になるから、ここは、抑え目に編み革紐のチョーカーだな」
嬉しそうに、クローゼットの中のから取り出したものをボクの首にはめてくれた。
きっと、いつもこんなふうに接客してるんだろうな、と思った。
それから、ワックスで髪をなでつけられて、
普段は前髪をぱらっとたらしている額を全開にされた。
「え、眉毛いじるのはダメだよ。学校でなんか言われるよー」
「なんだよ、つまんねーな。じゃあ、揃えるだけにすっか」
どんどんとコトが運び、剛にいちゃんいわく眉毛のムダ毛を一掃された。そして、色鉛筆みたいなので、眉をなぞられた。
「をを、上出来!」
鏡を見ると、みなれない自分の顔があった。
耳をだして、額をあらわにして、眉毛はちょっと上向きに整えられてて、ほんのり茶色。
なんか、性格ワルソーだなあ。
自分ではそう思ったけど、
「凛一は、額をだしたほうがオトナ顔になるな」
満足って顔して、剛にいちゃんがボクにスプレーから液体をプシュっと吹きかけた。
ツンとしたスパイシーな香りがした。
「さ、行こうぜ」
派手なオレンジと黒の迷彩柄のシャツに白っぽくてソフト目な感じのゴートのパンツに、同じ色のジャケットをはおった剛にいちゃんが、ボクの肩をたたいて、高らかに言った。
剛にいちゃんにレストランで夕食をおごってもらってから、連れて来られたのは、街中心地からやや外れたところにある歓楽街の2つ手前の通りのクラブだった。
地下2階分を階段で降りた。
「今日は、ゲイ・ナイトだから、よりどりみどりだぞ」
なんだかヘンなテンションで剛にいちゃんが楽しげに言ったけど、いまいち表情の緊張感を隠しきれていないような気がする。
「ボクはいいよ」
「なんだ、つきあってるヤツとうまくいってるのか」
つまんねーな、と言って笑った。
剛にいちゃんには、ずっと自分のことを話してきた。今、年上の人とつきあってるとは言ってるけど、さすがに、それが、学校の先生だとは伝えていない。
きっと剛にいちゃんは気にしないだろうけど、言うんなら、ボクが高校を卒業してからかな、となんとなく決めている。
そういう、剛にいちゃんにもオトコの恋人がいる。
剛にいちゃんが今つきあってるヒトは、確かデザイン関係の仕事の人だっていってたっけ。
ボクが知る限りでは、すごいことに、もう一年ぐらい続いていて(今までにはなかったことだ!)、会うたびに悪口を聞かせられる。
まるで、幼い子どもが大事な宝物について話すみたいな顔をして、剛にいちゃんはそのコイビトの悪口を楽しそうにボクに聞かせてくれるから、よっぽど好きなんだなーと思ってた。
でも、今日はその恋人の話しが一度も出ない。
先生とのことで相談したいことがあったけど、剛にいちゃんにはどうも気持ち的に余裕がないみたいだった。
ここのクラブは、週末は、月のうち1回だけが、男性だけのゲイ・ナイトになるのだという。そして、今日は0時からドラアグクイーンのパフォーマンスがあるということだった。
「凛一もそろそろオトコのあしらいかたを知らないとな。迫られてきたときに、スマートにかわせるぐらいにはなっとけよ。怒らず騒がず従わずの撃退法をオレが教えてやるからさ」
「迫られるなんて、あるわけないよお」
剛にいちゃんみたいに、きれいな男前だったらそうかもしれないけど、ボクにはそんなことがあるわけない。
「いーからさ、百聞は一見にしかずだ」
その慣用句の使い方、間違ってない?
クラブの踊りのスペースは、教室一個分くらい。
曲がかかっているあいだは、照明がおとされるから、くるくるまわっているスポットライトを浴びない限り近くの人の顔がなんとなく見えるくらいの明るさしかない。
大音響の音楽は、会話もままならない。
そこに、当たり前だけど、オトコノヒトばかりが、ゆっくりとした音楽に、それぞれのテンポで身体をゆらめかしていた。
まだ、9時少し過ぎだから、そんなに派手な音楽は流れていなかった。
右手の壁際に飲み物をだすバーカウンター。それから、立ったままドリンクが飲めるように背の高い丸テーブルがいくつも置かれていた。
椅子はどこにもないから、疲れたらきっとみんな地べたにすわるのだろう。クラブに居る人たちはほとんど20代っぽいし。
高校生になって、何度か剛にいちゃんにクラブに連れてきてもらったことはあったけど、それはたいてい普通にオトコの人もオンナの人もいるところだったから、
今日は、右を見ても左を見ても、オトコ、男、漢、で、ちょっとくらくらする。
ついてそうそう、ダンスフロアに剛にいちゃんが飛び込んで、ボクもいっしょにゆるい音楽に身体を遊ばせていた。
音に乗るのは好きだ。自分の動きと音のリズムがぴたりとあって曲のもりあがりめがけて進んでいくのは、少し、セックスににているなあ、と思う。
激しい曲だと、特にそう。自分が音楽に連れられて行かれているのに、自分こそが音をリズムを高みへ導いていっているような、そんな恍惚感に浸ることができる。まだ、2人で紡ぐ性的快感を知らなかった、高校受験が終わったばかりのころは、ソレを求めて、よく、激しい曲に身体を乗せていたっけ。
なんか、さっきからやたらと他の人の身体があたる。
香水とお酒と汗とタバコ、そして、地下特有の湿ったコンクリのにおい。
それから、レーザービームのように時折、照射される極彩色の光。
そして、音。
久しぶりの感触に浸っていたら、
スペースはほどほど開いているのに、ボクの後ろの人が、なんかやたらと身体をぶつけてくる。
なんだよ、と思っていたら、イキナリ腰に手をおかれて、身体をぴったりとくっつけられた。
びっくりして、目の前で向き合って踊っていた剛にいちゃんの手をつかんだ。
ん? って顔をした剛にいちゃんがボクの背後に顔を向けると、ああ、って納得顔して、
ボクの腕をぐいっと引っ張って、ボクの身体を抱きむと、腰をつかんでいた手は簡単に離れていった。
「あーゆーときは、身振りで、お前にゃキョーミーねーよ、って伝えれば簡単にひいてくさ。気が合えば、そのまま一緒に踊るし、そのあとも別の場所でオドッテもいいしな」
なんか、含んだ言い方でにしししと剛にいちゃんが笑った。
ちょっと、オトナの世界を垣間見た気がした。
バーカウンターで、頼んでもらった、カンパリオレンジはオトナ仕様なのか、なんだか苦味がつよかった。
しだいに流れる音楽が派手になってきて、ボクたちは、最初に休憩したきりずっとフロアに出ずっぱりだった。
で、
さすがに、疲れてきた。
けど、剛にいちゃんは激しく身体を動かしている。音に乗っている姿がとてもカッコイイけど、なんだか、やけくそ気味にみえないこともない。
暑くてノドが乾いたから、フロアから出る、と身振りで伝えたら、剛にいちゃんも一緒にでてきた。
「いいよ、踊ってきなよ。なんか飲んでるから」
ダンスナンバーの轟音に負けないように叫んだ。
「ばーか、お前を一人にできっかよ」
剛にいちゃんも叫びかえしてきた。
「へーき、だって。それに、剛にいちゃん、この曲すごく好きだろう。部屋でいつも流れてるバンドの曲だしさ。せっかくだから、踊ってきなよ。ボク、ボクのせいで剛にいちゃんが楽しめなかったら、なんか申し訳ないよ」
そこまで、言うと、観念したように剛にいちゃんが、ちょっと待ってろと言って、フロアの人波に消えると、すぐにフロアから一人の男の人を連れて戻ってきた。
背がひょろりと高くて大人し目の顔立ちの人で、剛にいちゃんと同じくらいの年に見えた。
「凛一、こいつ、シュウ」
剛にいちゃんが、その人を指差し、
「シュウ、じゃあ、目をはなすなよ」
それだけ言って、足取りも軽く、音の渦の中にもどっていった。
どうやら、ボクのお目付け役として連れて来られたのらしかった。
申し訳なくて、断ろうかと思ったけれど、
その人は気にしたふうもなく、バーカウンターを指差した。
「何がいい」
耳元で叫ばれたから、
「ノンアルコール」
と答えた。
この大音量では、まともな会話は無理そうだ。
ボクは、カウンターの向こうのバーテンダーの制服を着た人がだしてくれたジンジャーエールを手に持って、見るともなしにフロアのほうに目を向けた。
そしたら、
すぐに剛にいちゃんを見つけられた。
すごく、目を奪われた。
激しいリズムにあわせて身をくねらす肢体が扇情的だった。
そして、その剛にいちゃんの後ろでかなり大柄な男の人が、剛にいちゃんの後ろにぴったりと身体をくっつけて踊っていた。動きが力強くて、それでいて腰の動きがセクシーすぎた。重ね合わせこすり合わせるふたりの腰の振りが、ただ、踊っているだけなのに、激しいセックスを連想させて、なんだか、見てはいけないものを見ているような気になる。
音楽が一段と激しく早くなってくると、2人は向き合って身体をあわせた。けれど、今度は叩きつけるような音に、あえて逆らってるみたいに、ゆるやかな動きになって、でも、より一層身体を絡めあっていた。
ちょっと、もう見てられなくて、ジャンジャーエールを口に運んで、フロアから視線をそらせた。
そうしていると音楽がやんだので、ほっとして剛にいちゃんのいたほうに目を向けると、一緒に踊っていた人と、舌のこすれあう音まで想像できるようなディープキスをしていた。
びっくりして目を丸くしていると、
「驚いた?」
隣からシュウさんが声をかけてきた。
音楽がやんだから、会話ができる。
「あ、ハイ」
剛にいちゃんにクラブに連れてきてもらったことはあるけど、あんなにエロティックに踊っているのは、はじめて見た。
それに、誰かとキスしているのも。
シュウさんを見ると、別段、おどろいてもいないから、見慣れた光景なのかもしれない。
「それ、くれ」
剛にいちゃんが戻ってきて、ボクが手に持っていたグラスを奪うと、あっという間に飲み干した。
額が汗で光っている。
唇がやけにあかく、なまめかしく見えるのは唾液でつやがついたせいだろうか。
「一緒に踊ってた人って知り合い?」
「いや、知らねー」
そう言って、グラスをカウンターに置くと、別の飲み物を注文した。
「サンキュ、シュウ。もういいよ」
言って、手を振った。
そんなそっけない剛にいちゃんの態度を、シュウさんは別段気にした風もなく、「じゃあ」と言って去っていた。
ボクはぺこりと頭を下げて、その背中を見送った。
「ちょっと、べたべたしてくんね?」
「へ?」
壁際の丸テーブルで立ったまんま、
骨付きあら引きウィンナーが美味しくて、かぶりついてるときだった。
ダンスナンバーは相変わらず続いていたけれど、ボクも剛にいちゃんもここで、少し休憩をいれていた。
今はさっきまでの激しい音楽とは違って、男性ヴォーカルの入ったゆるやかな曲にかわっていた。
身体をよせあって、音に身をまかせているカップルが何組もにフロアに漂っている。
0時からのパフォーマンス目当てのお客さんもぼちぼち増えてきているようで、クラブの中はほぼ満杯だ。
「恋人のふり」
剛にいちゃんを見ると、ボクの肩越しに入り口付近を見ていた。
誰か知り合いでもいたんだろうか。
その視線が何か痛々しげだった。
えーと、恋人の、フリ、だよね。
フリ、だから、きっと、キスする、フリなんだろうけど・・・。
剛にいちゃんのマネキンみたいなきれいな顔が近づいてきて、アルコールであかくなってるくちびるがからもれる息が、もう、ボクの頬をなでていく。
フリ、なんだろうけど、こんなに間近で見たことない艶っぽい表情に、
なんだか胸がどきどきしてくる。
さっき、踊っていた剛にいちゃんの身体が頭に浮かんできて、
その、色気になんだかのまれそうになった。
だから、うっかり、
「目、閉じて」
言われて、あ、そうか、と目を閉じてしまった。
息が、くちびるにかかった、
と感じたとき、
急に、身体が後ろに引っ張られた。
つかまれた腕に驚いて、振り返った。
「やっぱり、凛一か」
「―――― 修平・・・」
びっくりしすぎてそれ以上声もでなかった。
どうして、先生がここにいるのかわけがわからなかった。
ただ、とてつもなく恐ろしく怖い顔をしていることだけが理解できた。
「ナンパなら間に合ってるけど?」
邪魔すんなよ、って顔で、だけど、軽く剛にいちゃんが言った。
これが、アシライカタってやつなんだろうか、とパニックになってる頭のすみで思った。
「え、と、」
とっさに、言葉がでなかったけど、
ボクが先生に腕をとられたままさして抵抗することもなく身体をあずけてることに気づいたらしい剛にいちゃんが、
「なに、知りあい?」
と、ふしんげな表情を解いて言った。
「あ、うん。―――― いつも話してる、」
そこまで言ったとき、
「剛、」
静かな落ち着いた声がした。
剛にいちゃんの隣に一人の男の人が立っていた。
ひどく場違いなヒトだった。
濃いグレーのスーツに清潔に後ろになでつけられてる髪、シルバーフレームのメガネ。どう見ても、昼間、オフィスで働いているようないでたちだ。表情も声と同じで、静かに落ち着いている。
銀行員みたいなキチっとした印象のその人に、
あ、この人だ、って直感した。
今日一日の剛にいちゃんの妙なテンションの高さは、この人が関わってるんだって。
そうわかったのは剛にいちゃんが、ひどく、追い詰められたような顔をしてるからだった。
剛にいちゃんと夕食しに行った田舎のスペイン家屋を模したらしいこじんまりとしたレストランは、お客さんでにぎわっていたにもかかわらず、もう席が予約されていたし、
このクラブの入場だって、剛にいちゃんは前売りチケットを2枚持っていた。
全部、この人と過ごすためのものじゃなかったのかなあ。
そんなことを考えていると、剛にいちゃんがその男の人を無視して、先生を指差しながら、ボクに話しかけてきた。
「リンの今カレ? 元カレ? ああ、さっき、元カレになるかもしれない、って言ってたヒト?」
おどけたような、大きな声は、けれど、その男の人をわざと煽っているように、ボクには聞こえた。
それから、そばに立っているその男の人をアゴで示すと、
「こっちはね。オレの元カレになったばかりのただの通りすがりのヤツだから、気にしなくていい」
元カレの部分を強調して剛にいちゃんが言った。
けれど、泣きそうな顔をしているのを自分できづいているんだろうか。
「剛、きちんと話しをしよう」
その男の人が剛にいちゃんの肩に手をかけて言った。
「話しなら終わってる。約束は、今日の一時だった。それに来ないんだったら、オレはもうアンタなんか知らない、と言ったはずだ」
身体全体で、その手を振り払った剛にいちゃんが、その男の人の正面に身体を向けて、冷たく言い放った。
剛にいちゃんがなおも何かを言い募ろうとしたとき、
その緊迫した空気の中、先生が割って入った。
「未成年者が居る場所じゃないな。こいつは、俺が送っていこう」
「あ、うん」
ボクも、そのほうがいいかも、と思ってうなずいた。
「今日は、ありがと。あとで電話するよ」
とボクも言って、帰るからっていう意思を伝えた。
その男の人が言うように、ちゃんと話しをしたほうがいいんじゃないかな、と思ったから。
剛にいちゃんは大げさに肩をすくめると、
「今夜は譲るさ」
と言ってハグしてきて、「凛一のカレシにごめんって言っておいて」とボクの耳に囁いた。と、同時に、つかまれたままだった腕がもう一度、先生に引っ張られた。
剛にいちゃんは、ぱっとボクから身体を離すと、
「じゃあね、リン」と、さも愛しげにボクに言った。
あくまで、ボクを新しいオトコに見立ててるつもりらしい。
無言で歩き出した先生に腕を取られたまま、ボクも先生とクラブの出口へむかった。
剛にいちゃんを振りかえり振りかえりしながら、
・・・うまくいくといいけど、と願った。
クラブの喧騒を抜けて、壁をレンガで装飾されている狭い階段を一つのぼりきったところの踊り場で、先生が足をとめた。
先生の手が伸びてきた、と思うまもなく、真ん中二つ以外ははずしていたボクシャツのボタンをはめていった。
クラブに着いたときに、剛にいちゃんが「これぐらいはしとかないとな」と言って、ジャケットの前はもとからひらきっぱなしだったけれど、さらにシャツのボタンをはずしていったのだ。
先生は、荒々しくボタンをとめてくれた。とても、お礼を言える雰囲気じゃなかった。
だから、あせった気持ちのまま、
「し、修平は、どうして、ここへ?」
そう言った。
「―――― 知りあいが、今晩のパフォーマンスの企画をしているから、暇なら出て来いと連絡があったんだ」
「修平、約束があるんだったら、あ、あのボク、一人でタクシーで帰れるよ」
先生の約束をつぶしちゃいけないと思ったからそう言った。
タクシー乗り場まででいい、と言おうと思ったときに、
「そのままどこかへ遊びに行くのか」
さっとボクの全身に目を這わせたあと、先生が地の底から出すような声で言った。
ボクの普段着ないような服装が、そんな疑わしそうな表情をつくらせたんだ・・・。
そして、
「今日は、家族と出かけるんじゃなかったのか?」
「あ、あの、」
うろたえた態度がよくなかった。
さらに先生の疑いを深めるだけだった。
「本当に、毎週、家族との用事だったのか?」
痛いところをつかれて、とっさに誤魔化すことができなくて、顔がこわばった。
それを目に留めたらしい先生の顔色が、怒りにみるみる白くなっていって、ボクのウソを見抜いてしまったことがわかった。
ボクに背を向けて、先生が地上を目指して再び階段をのぼり始めた。
その怒りの空気に声をかけあぐねて、おろおろしながら先生のあとをついていった。
細い路地を抜けると、大通りにでた。
「・・・・・・修平、」
ちゃんと説明しなきゃ思って、声をかけると、
「俺と別れたいのか」
冷たく先生が言った。
怖くて、身体がすくんだ。
「ち、ちが―――― 」
ちがう、って言うおうとしたけど、うまく言葉がでない。
そうこうしているうちに、手を挙げた先生の元に、タクシーがやってきて、停車すると、
スッと、後部座席の扉が開いた。
先生はフイっと、まるでボクを見捨てるみたいにして、タクシーに乗り込んだから、
ボクもあわてて、つづいた。
先生が、タクシーの運転手さんに落ち着いた声で、先生のマンションの住所を教えていた。
ここにきてようやく、先生が、ボクと剛にいちゃんのことを誤解してるんだって、ことに気づいた。
いきなり現れた先生にびっくりして、そこまで頭がまわっていなかった。
だから、
「あ、あの」
こんなに怒りにそまっている先生を見たことがなくて、舌がもつれそうになりながらも、先生がクラブで見たことの誤解を解こうとした。剛にいちゃんとはなんでもないこと。それから、週末の本当の理由 ―――― こんなにおおごとになるんだったら、ちゃんと先生に言えばよかった、と激しく後悔した。
でも、修平は、ちゃんと話せばわかってくれる、と思って、なんとか口を開いた。
「ちがうんだ。そんなんじゃないんだ」
「藤原」
落ち着いてる声で、でも、咎めるような低い声で返された。
学校以外で、苗字で呼ばれるのは、すごい久しぶりだ。
タクシーの運転手さんの手前、大人しくしてろ、みたいな感じだった。
はっとしてボクは口を閉じた。
そのまま、
先生は、ボクとは反対の方向を、窓の外に顔を向けたままで、
とうとう車が止まるまで、ボクのほうを振り向きもしなかった。
ボクは、心がいたくてしようがなかった。
20分ほどして、タクシーが先生のマンションの前に止まった。
先生は、お金を払うと、ボクに声をかけるとことなく、タクシーを降りた。
ボクも後を追った、けど。
先生はマンションのエントランスのガラス戸を押し開けると、
ボクを待つことなく、扉から手をはなした。
ガチャン、って金属の音がした。
先生がボクを拒絶する音に聞こえた。
早く先生のあとを追わないと、きっと、エレベーターが来たら、ボクを待つことなく乗っていってしまう。
先に部屋に行った先生は、そのままいつもの習慣で、部屋に入ったら鍵をかけてしまうかもしれない。
先生の部屋の鍵は持っているけど、チェーンをかけられてるかもしれない。
ちゃんと話せばわかってくれる、
だから、早く・・・・・・。
早く足を動かさないと、と気持ちばかりが焦っていたけど、
ボクは、一歩も動けなかった。
振り向いてくれなかった先生の背中が、ボクを拒絶してた背中が、あんまり、哀しくて、
涙ばかりが流れて、
身体が地面に縫いつけられたように、身動きができなかった。
どのくらいそこに立っていただろう。
夜中なせいか、マンションに来る人は誰もいなかった。
窓に電気がついている部屋もほとんどないし。
シンとした夜だった。
マンションの入り口の上部にとりつけられている電気だけがボウっと明るくて、星も月もない夜で、薄暗い空は、まるで、ボクの気持ちそのままだった。
「いつまで、そこにいるんだ」
気がついたら、さっきまで夜の空をながめていたはずなのに、膝をかかえてしゃがんでいた。
顔を上げたら、怖い顔をしてる先生がいた。
「・・・修平」
帰れって言いにきた?
たしかに、こんなとこに居たら、すごい不審者だ。
そう思って、バっと立ち上がったら、クラっと立ちくらみがした。足もしびれていた。
うわっ、って思ったら、
先生が腕をつかんで支えてくれた。
また、涙がだーだーとこぼれてきた。
「わ、別れない!」
そのまんま、先生に抱きついた。
頭の上で、大きなため息がして、ビクってなったけど、振り払われないようにしっかりとしがみついた。
先生が歩き出したけど、そのまましがみついて歩いた。
ガラス戸を開ける音がして、マンションの中に入っていった。
先生の部屋に入るまで、ボクはそのまんまの体勢で先生についていった。
「―――― ってことだったんだ」
いつものこげ茶色のソファに座って、クラブでの剛にいちゃんとのことを先生に説明した。
先生は、いつもみたいにボクの隣には座らなくて、フローリングに敷いてるラグの上に座っていた。
「そうか、今晩のことはは判った」
あいかわらず、厳しい声だったから、
一瞬、本当に判ってくれたのかなって思った。
「俺がいちばん、聞きたいのは、家族と用事があるからとウソまでついて、俺の誘いを断っていたのは、どうしてだ、ってことだ。
俺をイヤがっているとしか思えないだろう」
「違うよ。修平のことがイヤじゃないよ。全然、違うよ。ホントだよ」
先生のそばに行きたかった。
行って、いつもみたいに抱きしめて欲しかった。
でも、なんか、ふれたら切れそうな険悪な空気が、先生のまわりに漂っていて、近づくことができなかった。
「だって、でも、ぼ、ボク、修平に嫌われたくないし」
「お前が俺を嫌っているように思えるが?」
「そうじゃないって!」
ボクは思わず叫んだ。
「だって、だって、修平が言ったんじゃん。
ぼ、ボクがイビキかくって」
とうとう言ってしまった――――。
「はあ?」
先生が間の抜けたような声をだした。
「だ、だから、泊まったりしたら、修平眠れなくなるんだろう?」
ママさんとパパさんから、快速列車なみのイビキって言われたし。
「だから、あの、イビキをかかなくなるまで、泊まるのやめようと思ったんだ」
でも、そんなこと言ったら、先生のことだから、ガマンして「気にするな」って言ってくれそうだったから、そんな、あんまりガマンさせて、そのうち嫌気を差されるかも、って思って、それよりは、ちゃんと治してから、って思ったんだ。
「はああああ?」
また、先生が言った。
先生が、あぐらをかいていた足の上に肘をついて、頭を抱え込んだ。
「し、修平?」
それが、あんまり、深く深くだったから、心配になった。
それに、なんとなく、もう、そばに行ってもいいかなってぐらいに、
先生の空気のこわばりはとけていたから、
だから、思い切って、立ち上がって、先生のそばに行った。
先生の肩に手をおいて、すぐ隣にボクも座った。
「あの、だからだから。修平と別れたいとか全然思ってないから」
「俺は激しく落ち込んでいる」
先生が言った。
「そんなくだらない理由でやきもきさせられたことや」
・・・くだらない、?
「凛一がそんなに悩むほどとは思っていなかったから、からかうみたいに言ったことや」
か、からかって・・・って?!
「お前の従兄弟の猿芝居を見抜けなかった自分の眼力に」
猿芝居・・・・・・・、剛にいちゃんはあんなにおいつめられた感じだったのに――――。
しん、と気まずい沈黙がボクと先生の間に、流れた。
そうして、
先生の台詞を頭の中で反芻していると、突然、何かが一気に目が覚めた気がした。
ボクはすっくと立ち上がった。
「ボクのくだらない悩みや、剛にいちゃんの真剣な猿芝居につきあわせて悪かったね」
「凛一・・・、」
先生が顔をあげた。驚いた顔をしている。
自分の顔がすごい、無表情になってるのがわかる。
「もう、金輪際、こういうことないから。安心して、先生」
ボクは先生、と強調して言った。
「別れヨ」
あったまきたから、そう言った。マジで。
「わー、待て待て、凛一。話せばわかるから」
部屋を出て行こうとしたボクの身体をうしろから先生が抱いてきた。
「わかるか、バカ!」
先生を振り切ろうとしても、もとから、筋肉量が違う。
思いっきりあばれて、手足をばかすか、先生にぶつけても、
先生の腕の中から抜け出すことができなかった。
それが、くやしくて、バカバカ叫んでいたら、
また、涙がでてきて ―――― 、
しゃくりあげた。
「・・・・・・凛一?」
先生が少しだけ腕をゆるめると、素早くボクの正面にまわってきて、前からボクを拘束した。
「なに、泣いてるんだ?」
あんまり、やさしく言うから、こころのこわばっていたとこが、溶けてしまった。
「・・・さっき、―――― 修平が、ボク、を置いて・・・いった! ちがう、って言ったのに。・・・ちゃんと説明しようとしたのに、は、話しも聞いてくれなくて、」
ひくっひくってノドがゆって、話しにくかった。
「全然、ふりむかなくて・・・・・・、ボ、ボクのこと置いていった。 ―― ひどい、修平。ひどい」
先生が、手で頬に流れる涙をぬぐってくれたけど、全然、追いつかなかった。
「それは、お前が、」
って先生が言いかけて、でも、
「ごめんな」
って言った。
「やだ、キライ」
「ごめんな、凛一」
ぎゅうってされた。苦しくないぐらいの強さで。
さっき、もう、この腕はボクを抱きしめることはないんだって、死にそうに思った。
それを思い出したら、また、哀しくて哀しくて、身体が震えてしようがなかった。
そんなボクの背中を、先生がやさしく、ずっとなでていてくれた。
そうして、
のどのしゃっくりがとまったころ。
修平が、ボクの背中にまわしていた腕をといて、ボクの頬を両手でつつんだ。
あったかくて、おっきな手のひらの感触に、
うっとりと目を閉じてると。
まぶたんとこにキス、された。
くすぐったいから、
「修平のばか」
って言ったら、
今度は反対側の目じりに。
「うん、俺がばかだったよ」
うるっと修平を見上げると、困ったような顔をしてボクを見ていた。
「―――― くちびるにも、して」
言ったら、軽く、ちょこんとキスしてくれて、
それから、
「もっと、いいか?」
と聞かれた。ボクもそう思ってたから、うん、とうなずいた。
修平はいつも魔法みたいにボクの身体をかき鳴らして、ボクに甘い声をださせる。
身体が泡になって消えてしまうんじゃないかと思ってしまうくらい、気持ちよくて。
修平と一緒だったら、そんなふうに溶けあって消えてしまってもいいって思えるぐらい修平が好きでしようがなくなる。
修平が、いない世界なんて考えられない。
修平が寝入っていたのを見届けてから、ボクはそれソレをこっそりはめた。
剛にいちゃんちに泊まるって決めて、落ちあう前にコンビニで買っておいたんだ。
ぜったいに、こんな顔を修平には見せられないけど、
修平が起きだす前に、先に起きてはずせばいいや、と思ったから。
毎晩してれば、効果があがるみたいに説明書には書いてあるし。
修平は平気だって言ったけど、やっぱり、ボクのせいで起こすのは忍びないから、
その、
イビキ防止の鼻クリップをはめた。
翌朝。
携帯で目覚ましの設定をしておいて、いつも修平が起きる時間より早めに、起きた。
となりを見ると修平はまだぐっすり眠っている。
よかった。
ボクは、なんとか、寝ぼけた頭をクリアにして、鼻クリップを取り外した。あとでこっそり回収することにして、ベッドのスプレッドの下に隠して、それから、また、眠りの中に入っていった。
2人とも昼近くまで眠っていて、
11時くらいに、起きだした。
パンとコーヒーだけの簡単なブランチを取っているときに、
修平が、俺は昔から、夜中に一度はトイレに起きる習性があるんだって言って、だから、別に、ボクのイビキで起こされてるわけじゃないから、って言ってくれて、
ちょっと、安心したけど、
でもっっ!!
「お前の鼻輪顔、笑えたなーー。口からはヨダレたれてたし、おもしろ過ぎて、腹かかえて笑ったよ」
って、ぷぷぷって思い出し笑いをしながら、
「写メ、見るか?」
って言うから、
100年の恋もいっぺんに冷めるいきおいで、
「ばか修平っ!!! 絶対に、別れてやるっっ」
って叫んだ。
( おわり )
またもや「犬も食わない」話し、でした。
めでたしめでたし。
【 おまけ話 】
ある日のこと、またもや、
「いつか、ゼッタイ別れてやるから!」
あんまり、悔しくてそう言ったら、
「今でも、いいぞ」
と、ソファのとなりに座っている修平からシレっとした顔で言われた。
そんな切り替えし方は、はじめてだった。
修平が、くわえタバコのまんま、
ソファの前のガラスのローテーブルに置いていた修平の携帯を手にとって、
ストラップを外そうとする。
ボクが修平の誕生日にあげた、シルバーのイルカのストラップ。
修平が通っていたという大学のプールに連れて行ってもらったとき、
修平の泳ぐ姿があまりにも、水と一体で、びっくりしたから、イルカだ! と思って、
それを選んだんだった。
「え、なんで?」
考えるより先に、手が、修平の手をおさえていた。
「別れるんだろ?」
今日、ラーメン食いに行くか? ぐらいの普通さで言われて、
「いつか、だから。今じゃなくていい」
言って、修平の手から携帯をとりあげた。
「へー、俺は今でもいいけどな」
冷たい顔で言われた。
冗談だと思うけど、そこはかとなく本気がまぜられてるんだろうか・・・。
唇をキっと結んで、修平をニラミ上げる。
「・・・・・ゃだ」
ちっさい、それだけの言葉がこぼれでた。
「できもしねーことを、口にすんなよ」
不機嫌そーに修平が言った。
親指と人差し指で頬をつねられた。
いつのまにか、タバコは灰皿の中でもみ消されてる。
い、痛い。
なにすんだよ、ばか、
って言おうとした唇は、
タバコの残り香のする唇にふさがれた。
「あんまり、俺の繊細なハートをえぐるようなことを言うなよ」
・・・・・・ソファでやってしまいました。
ベッド行こうって言ったのに。
あっというまに、ボトムをぬがされて、上に着ていた長袖Tシャツは脱がずに、そのまんま――――。
なんか、狭いし、不安定で、おっこちそうで、ずっと修平にしがみついていた。
カーテンだって半開きで、近くにここより高いマンションはないけど、
青い空がのぞける昼間っからっていうのが、
なんか、イケナイことのようで、すこし、興奮した。
今も、ソファに横になったまんまで、足ははみ出していて、
ボクの上には今も修平がおおいかぶさっていて、
手とかは、まだ、Tシャツの中で、なんか・・・モゾモゾさせてるし。
びっくりするほど修平は準備万端で、
この部屋のあちこちに、ちゃんと、すぐ出来るようにいろいろアイテムが隠し置いてあるのが、なんか悔しい。
この前は、玄関のキーケースの奥に見つけて、びっくりした。
玄関って・・・。
そんなケダモノな修平の意外な発言、
繊細と、ハートと、えぐる・・・、どこからつっこんでいいか、すごい迷う。
とりあえず、
「ごめん」
あやまってみました。
そうか「別れてやる」ってのは、修平の繊細なハートをえぐってたんだ ―――― ちょっと、かわいーじゃん、とかって思った。
「今度言ったら、ヒドイからな」
真剣に言うから、おかしくて、
「ヒドイって?」
不安なふりして聞いてみた。
すると、
修平が、にやって笑って、ボクの耳元で、
とても、ボクの口では言えないようなヤらしいことを言うから、
なんだよ、また、ボクを恥ずかしがらせようと、からかって! って思って、
「―――― それ、今、して」
って、おもいっきり甘えた口調で、
からかいかえした。
ギョっとした修平の顔をみて、
笑ってやるつもりだったのに。
速攻、ベッドの上に運ばれて、
・・・・・・・本当に、されてしまいました。
ひどく残酷な愛撫で、高みに昇る寸前でずっと引き止められて、
息も絶え絶えになっても、いっくら頼んでもやめてくれなくて、
やっぱり、
いつか絶対、別れてやる!!
って、心の中で叫んでた。
( おわり )
夕食後、居間のソファーで膝をかかえて体育座りをしてたら、
食後のデザートにりんごをむいてきてくれたママさんに言われた。
テレビはつけていたけれど、気がついたら、ぼーっと宙を見つめていた。
別のソファでは、パパさんが新聞を読んでいる。
うちのママさんは、菩薩像のようにいつもおだやかな顔をしている。
とっくに高校生になっている息子に、ちゃん付けなんかもまだしてくるから、
抵抗して、「もう、子どもみたいに呼ばないで」って言ったら、
いつもおだやかに笑んでいる目が、すっと糸目になって「いけないからしら?」と、ひやっとした声で返されたので、それ以来そのこについてはふれないようにしている。
ママさんは、ときどき、般若のようなオニの顔になる・・・。
本当は、『ママさん』とかじゃなくて、『かーちゃん』とかのほうがボクは呼びやすいんだけど、それも却下された。
「ねぇ、ボクってイビキすごい?」
今まで、言われたことがなかったから、聞いてみた。
「すごいわよ」
ママさんがにっこりと答えた。
そんな、あっさりと・・・。
「そ、それほどじゃないよね?」
おそるおそる尋ねると、
「そうねぇ、快速列車なみかしら」
と教えてくれた・・・・・・。
「パパさんのを初めてきいたときは、地震かしらと思ったから、遺伝かしらねぇ」
い、イビキ父子?
ところが、新聞を読んでいたパパさんがのんびりと、
「僕がママさんのイビキを聞いたときは、カミナリが落ちてきたんだと思ったなぁ。
きっと遺伝だろう」
って言った。
・・・・・・イビキ親子、なんだ。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごいわよねぇ」
「ああ、そうだったね」
2人はにっこりと、微笑みあった。
ボクには12歳と10歳はなれた、兄と姉がいて、2人ともとっくに結婚して家から独立している。
イビキ家族かよっっ。
一度寝つくと朝まで起きない性質だから、全然、気づかなかった。
そうか、ピアノもないのに、各部屋が防音壁になってるのって不思議だったんだけど、
これだったんだ・・・・・・。
近所迷惑、防止??
「最近、よく泊まりに行っているお友だちに言われたの?」
「う、うん」
友だち、っていうか先生だけど。両親にはそういうことにしている。
鏡の前で、
ソレをおそるおそるはめてみた。
・・・・・・・・・・・・。
だめだ。
ボクの顔はたいしてカッコイイわけでもないし、かといってヒドイわけでもない。
まあ、ほどほどにふつう、といった顔立ちだ。
だけど、
こんな顔を先生が見たら、きっと100年の恋も冷めてしまう。
うちの高校は私立なので、公立とはちがって、週休2日じゃない。
土曜日もしっかりと午前中授業がある。
ボクは、小中学が公立だったから、土曜日に学校に行って勉強するってのに、なかなか慣れないくて、土曜日の朝に起きるのがけっこうつらい。
生徒が授業なら、教師ももちろん出勤なわけで、
先生からのお泊りの誘いは、必然的に土日、ということになる。
「明日から来れるか?」
金曜日、国語科教務室で、先生に言われた。
「―――― うん、あの」
他には誰もいなくて、先生は教務机の椅子にすわっていて、
ボクはそのすぐそばに立っていた。
クラスで集めた論文の宿題を先生に提出するという名目で、この部屋に来ていた。
ちょっと、だけ手を伸ばせば、先生にふれられる距離。
いつもは、ボクは先生を見上げてるけど、今は立場が逆転している。
(こんな体勢でキスしたことなかったな)
と、少しだけ不埒なことを考えてしまった。
けれど、
他に誰もいないけれど、
ボクらは絶対に、学校ではソレらしいことをはっきりと言ったり、行為に及んだりはしない。
それが、暗黙のルール。
先生が、明日から、って言ったから、泊まりに、ってことで、
それは、すごく、嬉しい誘いなんだけど、
「夜、家族で出かけることになってるから、土曜は夕方に帰って、また日曜日に来るんでいい?」
とウソをついた。
土曜日の放課後、先生のマンションで、
リビングのガラステーブルの上、
ホットプレートで、じゅうじゅうと焼きそばを炒めてるとき、
「最近、凛一の家は行事が多いんだな」
って何の気なしげに言われて、
「ぅ、うん」
ギクリ、とした。
先週も先々週も、家族の用事があるからって言って、土曜日の夜は家に帰っている。
でも、ホントは・・・・。
本当のこと言ったほうがいいのかな、と思って、下に向けていた視線を修平に戻したとき、
修平の手にある赤黒い物体を見て、思わず叫んだ。
「あっ、ケチャップはボクのぶんにもかけないでよね!」
「これが、うまいのになー」
ときどき、修平の味覚にはついていけない。焼きそばソースをかけてさらにケチャップだなんて、人としてありえない。
「なに言ってんだよ、修平。焼きそばには、林檎酢だろ」
そう! 焼きそばには、林檎酢でフルーティかつスッパ味のかくし味を足すのがうちのやり方なんだ。修平んちには林檎酢がないっていうから、来る途中にコンビニで買ってきたし。
「お前、俺の麺にそれかけるなよ」
いやなモノでも見るみたいに、テーブルの上の林檎酢のビンを箸で指した。
「おいしいのに、ヘンなの」
キャベツだって、修平はちっさく切ってくたくたになるまで麺と炒めるけど、ボクはぶつ切りにしたのを半ナマでばりばり食べるのが好きだ。なので、今、ホッとプレートの上には、二種類のキャベツがじゅわじゅわ炒められている。
「今日、何時ぐらいにここを出るんだ?」
またまたギクリ。
ボクはあまり、ウソつき体質ではないらしい。いやな汗が背中をつたう。
「ろ、ろくじはんぐらいかなぁ」
やべ、プレートの上の麺に林檎酢をかけすぎて、酢がじわっと修平のテリトリーに侵入した・・・。
ちょうど修平が青海苔のパックを開けようとしてるところだったので、視認はされてないみたいだから、麺をまぜるふりして、プレート上の証拠をけした。
「そろそろ、出来上がるね。ボク、ご飯をチンしてくる」
「あー、俺の分はいらないからな」
「わかってるって」
びっくりすることに、修平は麺ものをたべるときはご飯を食べないんだ。
炭水化物に炭水化物なんか食えねーよ、とか言うけど、
ぼくんちは、食事がウドンだろうがチャンポンだろうが、必ずご飯もいっしょに、食べる。
だって、焼きそばって、オカズだし。
焼きそば味のキスってヘンな感じだ。
「なんか、ケチャップの味もする」
なんだろう、ナポリタン風味焼きそば?
換気のために開けてる窓から、気持ちのいい秋風がはいってきて、空色のカーテンをゆらしてるのがさかさに見える。
床に敷いているラグの上に押し倒されてた。
ボクも修平も、午前中は学校だったから、遅めの昼食を食べて、
食器をふたりで片付けたあと、満腹感にほへーっとなってて、修平と並んでソファを背もたれにして床に腰をおろしてまったりしてたら、
いつのまにか、こういう体勢。
「うまいだろ」
「えー、ビミョーだよ」
あ、修平の手、が。
「青海苔、取れた?」
も一回、イーってして見せた。
「もう、ちょっとだな」
そう言って、修平が再び、ボクの口の中を舌でなめはじめた。
わき腹をなでていた修平の手が、今度はボトムの上から脚のつけねあたりをなで始めた。
ぞくぞくとした気分がもりあがってきて、布越しの感触がもどかしい。
もっと、直接、修平の手を、肌に感じたい。
「んんん、ねぇ、ベッドに行こうよ」
キスの合間に言ってみる。
ここでするのもドーブツ的でたまにはいいけど、やっぱり背中や腰の骨が痛くなる。
「いいさ、そこまでしないから」
「なんで? ボクいいよ。しようよ」
「夜、出かけるんだろう? 今、始めると、帰したくなくなりそうだしな」
ちょっと切なそうな顔して、
そんなふうに、言ってくれるから、
用事とか本当はないのに、
ウソついたことがすごくうしろめたかった。
修平のマンションから家に帰る途中で、ケータイが振動した。
サブウィンドゥをみると、イトコの剛にいちゃんからだった。
『ヒマ?』
母方のイトコの剛にいちゃんは簡潔明瞭の人だ。
ママさんの末の弟の子どもで、ボクとは5つしかはなれてないから、兄弟みたいに仲がいい。
もともとは、隣市に住んでいたけれど、剛にいちゃんが就職して、職場が近いからっていって、うちの近くのアパートに住み始めてからいっそう行き来をするようになった。
チャリで10分くらいの距離だから、アソビに行きやすいし、時々、ママさんが作った煮物やなんかのオカズをチャリで持って行ったりする。
そんなときはたいてい、ピザとかを取ってくれるから、あんまり食費の節約にはなっていないんじゃないかなー、と思ったりするけどね。
「うー、いちおう」
『なんだそれ? こいよ、メシおごるから』
「どこに?」
それだけで、OKの意が伝わる。
『オレの部屋』
「デリバリー?」
『いや、ちゃんとしたメシ屋。そのあと、面白いところに連れてってやるからさ』
「あー、うん。今、駅んとこだから、20分ぐらいでつくと思う」
『わかった』
で、切れた。
外をうろちょろすると先生にバッティングするかな、って思ったけど、今晩はずっと部屋に居るっていってたから、大丈夫だろう。
剛にいちゃんもオトコのヒトとつきあっている。
それを知ったのは、
まだ剛にいちゃんが実家に住んでいる頃に偶然、剛にいちゃんの部屋でゲイ雑誌を見つけたのがきっかけだった ―――― 。
ママさんに電話して剛にいちゃんとこに行くからと連絡した。もしかしたら、泊まるかも、とつけ加えて。
「さ、着替えようか」
部屋を訪れてすぐに剛にいちゃんに言われた。
「これじゃダメなの?」
先生んちに行く前に、一回に家に帰って着がえていた。
ボトムはジーパン。トップスは色と素材違いの長袖Tシャツの重ね着。
まあ、高級レストランには入りづらい格好だけど、剛にいちゃんと行くのはたいてい、居酒屋か焼き鳥屋だし。
「わるかーないけど、オッシャレしよーぜ」
陽気に言って、剛にいちゃんがロフトつきワンルームの部屋の作りつけのクローゼットをあけた。
剛にいちゃんはアパレルメーカーで働いている。
今は、百貨店にテナントをだしているショップに勤務しているけど、ゆくゆくは洋服のデザインを提案したり、新規の店をオープンさせたりするほうの業務に就きたいのだそうだ。
剛にいちゃんはきれいな顔立ちをしている。スタイルも西洋マネキンみたいにスラリとしていて、ちょっと長めの髪にゆるくウェーブをかけて、おちついた感じの深みのある茶色にカラーリングしているのがとても似合っている。
性格は豪胆で、アマノジャクで、お調子者なのに、口を閉じているとちょっとはかなげな印象だ。
大きな瞳は猫みたいにシャープで、この目でじっと見られて、そのいつも楽しそうにしている唇で接客されたら、女のヒトならうっかりと色々買ってしまいそうだなぁ、と剛にいちゃんの口車に乗せられてしまうお客さんに同情する。
先月も支店の売り上げナンバーワンになって、支社長賞をもらったって言っていたし。
「シルク?」
剛にいちゃんに渡されたのは肌に吸いつくような感触の、やわらかな布の黒シャツだった。
「そう、気持ちいーだろー」
ボクは剛にいちゃんの服を着せられていた。身長は剛にいちゃんのほうが高いけど、身体つきはそんなに変わらないから、たまに、こんなふうに、剛にいちゃんの「着せ替え遊び」につきあうことがある。
遊び、だから、言いなりになってるとものすごい格好をさせられるので、最近は服を着る前にちゃんとチェックするようになっていた。
一度は、穴あきだらけのジーンズに、どうみてもヨレヨレのTシャツ(ものすごい高いんだぞって憤慨してたけど)を着せられて、髪の毛を逆毛立たせられたこともあったし・・・・・・・。
「うん、でも、肌着を着ないと寒いよ」
「何言ってんだ、凛一。おしゃれは気合だゾ!」
剛にいちゃんがコーディネートしてくれたのは光沢をおさえたシルクの黒のシャツに、ダークブルーのパイソン柄の細身のパンツ。パンツ丈は、ボクには長すぎて足首のところがくしゃってなるんだけどサ。
それに、
「このパンツ、ちょっとキツキツなんだけど」
「それがいーんじゃないか。せっかくのカワイー尻を見せて歩かなくてどーすんだ」
どーすんだ、って。どーもしないし、むしろどうにもしたくないんだけど。
けど、テンション負けで、しぶしぶウエストのボタンを留める。破れ目から、太ももが見えていたあのジーンズよりはマシだし。
「これって、へび皮?」
「そ、模様はな。合皮にプリントしたもんだけど、型押しだから、立体感がでていて、本物っぽいだろ」
確かに、ボコボコがあってウロコっぽい。
上着は、丈の短い切りっぱなしの砂漠色のジャケット。わざとなのか、肩の縫いあわせや、袖のところがほつれた感じになっている。無表情なシルクの黒シャツと、やんちゃな感じの綿生地ジャケットとのズレた合わせかたが剛にいちゃんらしいなあと思った。
でも、シャツもジャケットも着丈が腰上だから、キツキツで浅履きのパンツは、なんか恥ずかしい。
「で、シャツの胸元をあけて、見せアクセに金や銀をもってくるとウォーター系になるから、ここは、抑え目に編み革紐のチョーカーだな」
嬉しそうに、クローゼットの中のから取り出したものをボクの首にはめてくれた。
きっと、いつもこんなふうに接客してるんだろうな、と思った。
それから、ワックスで髪をなでつけられて、
普段は前髪をぱらっとたらしている額を全開にされた。
「え、眉毛いじるのはダメだよ。学校でなんか言われるよー」
「なんだよ、つまんねーな。じゃあ、揃えるだけにすっか」
どんどんとコトが運び、剛にいちゃんいわく眉毛のムダ毛を一掃された。そして、色鉛筆みたいなので、眉をなぞられた。
「をを、上出来!」
鏡を見ると、みなれない自分の顔があった。
耳をだして、額をあらわにして、眉毛はちょっと上向きに整えられてて、ほんのり茶色。
なんか、性格ワルソーだなあ。
自分ではそう思ったけど、
「凛一は、額をだしたほうがオトナ顔になるな」
満足って顔して、剛にいちゃんがボクにスプレーから液体をプシュっと吹きかけた。
ツンとしたスパイシーな香りがした。
「さ、行こうぜ」
派手なオレンジと黒の迷彩柄のシャツに白っぽくてソフト目な感じのゴートのパンツに、同じ色のジャケットをはおった剛にいちゃんが、ボクの肩をたたいて、高らかに言った。
剛にいちゃんにレストランで夕食をおごってもらってから、連れて来られたのは、街中心地からやや外れたところにある歓楽街の2つ手前の通りのクラブだった。
地下2階分を階段で降りた。
「今日は、ゲイ・ナイトだから、よりどりみどりだぞ」
なんだかヘンなテンションで剛にいちゃんが楽しげに言ったけど、いまいち表情の緊張感を隠しきれていないような気がする。
「ボクはいいよ」
「なんだ、つきあってるヤツとうまくいってるのか」
つまんねーな、と言って笑った。
剛にいちゃんには、ずっと自分のことを話してきた。今、年上の人とつきあってるとは言ってるけど、さすがに、それが、学校の先生だとは伝えていない。
きっと剛にいちゃんは気にしないだろうけど、言うんなら、ボクが高校を卒業してからかな、となんとなく決めている。
そういう、剛にいちゃんにもオトコの恋人がいる。
剛にいちゃんが今つきあってるヒトは、確かデザイン関係の仕事の人だっていってたっけ。
ボクが知る限りでは、すごいことに、もう一年ぐらい続いていて(今までにはなかったことだ!)、会うたびに悪口を聞かせられる。
まるで、幼い子どもが大事な宝物について話すみたいな顔をして、剛にいちゃんはそのコイビトの悪口を楽しそうにボクに聞かせてくれるから、よっぽど好きなんだなーと思ってた。
でも、今日はその恋人の話しが一度も出ない。
先生とのことで相談したいことがあったけど、剛にいちゃんにはどうも気持ち的に余裕がないみたいだった。
ここのクラブは、週末は、月のうち1回だけが、男性だけのゲイ・ナイトになるのだという。そして、今日は0時からドラアグクイーンのパフォーマンスがあるということだった。
「凛一もそろそろオトコのあしらいかたを知らないとな。迫られてきたときに、スマートにかわせるぐらいにはなっとけよ。怒らず騒がず従わずの撃退法をオレが教えてやるからさ」
「迫られるなんて、あるわけないよお」
剛にいちゃんみたいに、きれいな男前だったらそうかもしれないけど、ボクにはそんなことがあるわけない。
「いーからさ、百聞は一見にしかずだ」
その慣用句の使い方、間違ってない?
クラブの踊りのスペースは、教室一個分くらい。
曲がかかっているあいだは、照明がおとされるから、くるくるまわっているスポットライトを浴びない限り近くの人の顔がなんとなく見えるくらいの明るさしかない。
大音響の音楽は、会話もままならない。
そこに、当たり前だけど、オトコノヒトばかりが、ゆっくりとした音楽に、それぞれのテンポで身体をゆらめかしていた。
まだ、9時少し過ぎだから、そんなに派手な音楽は流れていなかった。
右手の壁際に飲み物をだすバーカウンター。それから、立ったままドリンクが飲めるように背の高い丸テーブルがいくつも置かれていた。
椅子はどこにもないから、疲れたらきっとみんな地べたにすわるのだろう。クラブに居る人たちはほとんど20代っぽいし。
高校生になって、何度か剛にいちゃんにクラブに連れてきてもらったことはあったけど、それはたいてい普通にオトコの人もオンナの人もいるところだったから、
今日は、右を見ても左を見ても、オトコ、男、漢、で、ちょっとくらくらする。
ついてそうそう、ダンスフロアに剛にいちゃんが飛び込んで、ボクもいっしょにゆるい音楽に身体を遊ばせていた。
音に乗るのは好きだ。自分の動きと音のリズムがぴたりとあって曲のもりあがりめがけて進んでいくのは、少し、セックスににているなあ、と思う。
激しい曲だと、特にそう。自分が音楽に連れられて行かれているのに、自分こそが音をリズムを高みへ導いていっているような、そんな恍惚感に浸ることができる。まだ、2人で紡ぐ性的快感を知らなかった、高校受験が終わったばかりのころは、ソレを求めて、よく、激しい曲に身体を乗せていたっけ。
なんか、さっきからやたらと他の人の身体があたる。
香水とお酒と汗とタバコ、そして、地下特有の湿ったコンクリのにおい。
それから、レーザービームのように時折、照射される極彩色の光。
そして、音。
久しぶりの感触に浸っていたら、
スペースはほどほど開いているのに、ボクの後ろの人が、なんかやたらと身体をぶつけてくる。
なんだよ、と思っていたら、イキナリ腰に手をおかれて、身体をぴったりとくっつけられた。
びっくりして、目の前で向き合って踊っていた剛にいちゃんの手をつかんだ。
ん? って顔をした剛にいちゃんがボクの背後に顔を向けると、ああ、って納得顔して、
ボクの腕をぐいっと引っ張って、ボクの身体を抱きむと、腰をつかんでいた手は簡単に離れていった。
「あーゆーときは、身振りで、お前にゃキョーミーねーよ、って伝えれば簡単にひいてくさ。気が合えば、そのまま一緒に踊るし、そのあとも別の場所でオドッテもいいしな」
なんか、含んだ言い方でにしししと剛にいちゃんが笑った。
ちょっと、オトナの世界を垣間見た気がした。
バーカウンターで、頼んでもらった、カンパリオレンジはオトナ仕様なのか、なんだか苦味がつよかった。
しだいに流れる音楽が派手になってきて、ボクたちは、最初に休憩したきりずっとフロアに出ずっぱりだった。
で、
さすがに、疲れてきた。
けど、剛にいちゃんは激しく身体を動かしている。音に乗っている姿がとてもカッコイイけど、なんだか、やけくそ気味にみえないこともない。
暑くてノドが乾いたから、フロアから出る、と身振りで伝えたら、剛にいちゃんも一緒にでてきた。
「いいよ、踊ってきなよ。なんか飲んでるから」
ダンスナンバーの轟音に負けないように叫んだ。
「ばーか、お前を一人にできっかよ」
剛にいちゃんも叫びかえしてきた。
「へーき、だって。それに、剛にいちゃん、この曲すごく好きだろう。部屋でいつも流れてるバンドの曲だしさ。せっかくだから、踊ってきなよ。ボク、ボクのせいで剛にいちゃんが楽しめなかったら、なんか申し訳ないよ」
そこまで、言うと、観念したように剛にいちゃんが、ちょっと待ってろと言って、フロアの人波に消えると、すぐにフロアから一人の男の人を連れて戻ってきた。
背がひょろりと高くて大人し目の顔立ちの人で、剛にいちゃんと同じくらいの年に見えた。
「凛一、こいつ、シュウ」
剛にいちゃんが、その人を指差し、
「シュウ、じゃあ、目をはなすなよ」
それだけ言って、足取りも軽く、音の渦の中にもどっていった。
どうやら、ボクのお目付け役として連れて来られたのらしかった。
申し訳なくて、断ろうかと思ったけれど、
その人は気にしたふうもなく、バーカウンターを指差した。
「何がいい」
耳元で叫ばれたから、
「ノンアルコール」
と答えた。
この大音量では、まともな会話は無理そうだ。
ボクは、カウンターの向こうのバーテンダーの制服を着た人がだしてくれたジンジャーエールを手に持って、見るともなしにフロアのほうに目を向けた。
そしたら、
すぐに剛にいちゃんを見つけられた。
すごく、目を奪われた。
激しいリズムにあわせて身をくねらす肢体が扇情的だった。
そして、その剛にいちゃんの後ろでかなり大柄な男の人が、剛にいちゃんの後ろにぴったりと身体をくっつけて踊っていた。動きが力強くて、それでいて腰の動きがセクシーすぎた。重ね合わせこすり合わせるふたりの腰の振りが、ただ、踊っているだけなのに、激しいセックスを連想させて、なんだか、見てはいけないものを見ているような気になる。
音楽が一段と激しく早くなってくると、2人は向き合って身体をあわせた。けれど、今度は叩きつけるような音に、あえて逆らってるみたいに、ゆるやかな動きになって、でも、より一層身体を絡めあっていた。
ちょっと、もう見てられなくて、ジャンジャーエールを口に運んで、フロアから視線をそらせた。
そうしていると音楽がやんだので、ほっとして剛にいちゃんのいたほうに目を向けると、一緒に踊っていた人と、舌のこすれあう音まで想像できるようなディープキスをしていた。
びっくりして目を丸くしていると、
「驚いた?」
隣からシュウさんが声をかけてきた。
音楽がやんだから、会話ができる。
「あ、ハイ」
剛にいちゃんにクラブに連れてきてもらったことはあるけど、あんなにエロティックに踊っているのは、はじめて見た。
それに、誰かとキスしているのも。
シュウさんを見ると、別段、おどろいてもいないから、見慣れた光景なのかもしれない。
「それ、くれ」
剛にいちゃんが戻ってきて、ボクが手に持っていたグラスを奪うと、あっという間に飲み干した。
額が汗で光っている。
唇がやけにあかく、なまめかしく見えるのは唾液でつやがついたせいだろうか。
「一緒に踊ってた人って知り合い?」
「いや、知らねー」
そう言って、グラスをカウンターに置くと、別の飲み物を注文した。
「サンキュ、シュウ。もういいよ」
言って、手を振った。
そんなそっけない剛にいちゃんの態度を、シュウさんは別段気にした風もなく、「じゃあ」と言って去っていた。
ボクはぺこりと頭を下げて、その背中を見送った。
「ちょっと、べたべたしてくんね?」
「へ?」
壁際の丸テーブルで立ったまんま、
骨付きあら引きウィンナーが美味しくて、かぶりついてるときだった。
ダンスナンバーは相変わらず続いていたけれど、ボクも剛にいちゃんもここで、少し休憩をいれていた。
今はさっきまでの激しい音楽とは違って、男性ヴォーカルの入ったゆるやかな曲にかわっていた。
身体をよせあって、音に身をまかせているカップルが何組もにフロアに漂っている。
0時からのパフォーマンス目当てのお客さんもぼちぼち増えてきているようで、クラブの中はほぼ満杯だ。
「恋人のふり」
剛にいちゃんを見ると、ボクの肩越しに入り口付近を見ていた。
誰か知り合いでもいたんだろうか。
その視線が何か痛々しげだった。
えーと、恋人の、フリ、だよね。
フリ、だから、きっと、キスする、フリなんだろうけど・・・。
剛にいちゃんのマネキンみたいなきれいな顔が近づいてきて、アルコールであかくなってるくちびるがからもれる息が、もう、ボクの頬をなでていく。
フリ、なんだろうけど、こんなに間近で見たことない艶っぽい表情に、
なんだか胸がどきどきしてくる。
さっき、踊っていた剛にいちゃんの身体が頭に浮かんできて、
その、色気になんだかのまれそうになった。
だから、うっかり、
「目、閉じて」
言われて、あ、そうか、と目を閉じてしまった。
息が、くちびるにかかった、
と感じたとき、
急に、身体が後ろに引っ張られた。
つかまれた腕に驚いて、振り返った。
「やっぱり、凛一か」
「―――― 修平・・・」
びっくりしすぎてそれ以上声もでなかった。
どうして、先生がここにいるのかわけがわからなかった。
ただ、とてつもなく恐ろしく怖い顔をしていることだけが理解できた。
「ナンパなら間に合ってるけど?」
邪魔すんなよ、って顔で、だけど、軽く剛にいちゃんが言った。
これが、アシライカタってやつなんだろうか、とパニックになってる頭のすみで思った。
「え、と、」
とっさに、言葉がでなかったけど、
ボクが先生に腕をとられたままさして抵抗することもなく身体をあずけてることに気づいたらしい剛にいちゃんが、
「なに、知りあい?」
と、ふしんげな表情を解いて言った。
「あ、うん。―――― いつも話してる、」
そこまで言ったとき、
「剛、」
静かな落ち着いた声がした。
剛にいちゃんの隣に一人の男の人が立っていた。
ひどく場違いなヒトだった。
濃いグレーのスーツに清潔に後ろになでつけられてる髪、シルバーフレームのメガネ。どう見ても、昼間、オフィスで働いているようないでたちだ。表情も声と同じで、静かに落ち着いている。
銀行員みたいなキチっとした印象のその人に、
あ、この人だ、って直感した。
今日一日の剛にいちゃんの妙なテンションの高さは、この人が関わってるんだって。
そうわかったのは剛にいちゃんが、ひどく、追い詰められたような顔をしてるからだった。
剛にいちゃんと夕食しに行った田舎のスペイン家屋を模したらしいこじんまりとしたレストランは、お客さんでにぎわっていたにもかかわらず、もう席が予約されていたし、
このクラブの入場だって、剛にいちゃんは前売りチケットを2枚持っていた。
全部、この人と過ごすためのものじゃなかったのかなあ。
そんなことを考えていると、剛にいちゃんがその男の人を無視して、先生を指差しながら、ボクに話しかけてきた。
「リンの今カレ? 元カレ? ああ、さっき、元カレになるかもしれない、って言ってたヒト?」
おどけたような、大きな声は、けれど、その男の人をわざと煽っているように、ボクには聞こえた。
それから、そばに立っているその男の人をアゴで示すと、
「こっちはね。オレの元カレになったばかりのただの通りすがりのヤツだから、気にしなくていい」
元カレの部分を強調して剛にいちゃんが言った。
けれど、泣きそうな顔をしているのを自分できづいているんだろうか。
「剛、きちんと話しをしよう」
その男の人が剛にいちゃんの肩に手をかけて言った。
「話しなら終わってる。約束は、今日の一時だった。それに来ないんだったら、オレはもうアンタなんか知らない、と言ったはずだ」
身体全体で、その手を振り払った剛にいちゃんが、その男の人の正面に身体を向けて、冷たく言い放った。
剛にいちゃんがなおも何かを言い募ろうとしたとき、
その緊迫した空気の中、先生が割って入った。
「未成年者が居る場所じゃないな。こいつは、俺が送っていこう」
「あ、うん」
ボクも、そのほうがいいかも、と思ってうなずいた。
「今日は、ありがと。あとで電話するよ」
とボクも言って、帰るからっていう意思を伝えた。
その男の人が言うように、ちゃんと話しをしたほうがいいんじゃないかな、と思ったから。
剛にいちゃんは大げさに肩をすくめると、
「今夜は譲るさ」
と言ってハグしてきて、「凛一のカレシにごめんって言っておいて」とボクの耳に囁いた。と、同時に、つかまれたままだった腕がもう一度、先生に引っ張られた。
剛にいちゃんは、ぱっとボクから身体を離すと、
「じゃあね、リン」と、さも愛しげにボクに言った。
あくまで、ボクを新しいオトコに見立ててるつもりらしい。
無言で歩き出した先生に腕を取られたまま、ボクも先生とクラブの出口へむかった。
剛にいちゃんを振りかえり振りかえりしながら、
・・・うまくいくといいけど、と願った。
クラブの喧騒を抜けて、壁をレンガで装飾されている狭い階段を一つのぼりきったところの踊り場で、先生が足をとめた。
先生の手が伸びてきた、と思うまもなく、真ん中二つ以外ははずしていたボクシャツのボタンをはめていった。
クラブに着いたときに、剛にいちゃんが「これぐらいはしとかないとな」と言って、ジャケットの前はもとからひらきっぱなしだったけれど、さらにシャツのボタンをはずしていったのだ。
先生は、荒々しくボタンをとめてくれた。とても、お礼を言える雰囲気じゃなかった。
だから、あせった気持ちのまま、
「し、修平は、どうして、ここへ?」
そう言った。
「―――― 知りあいが、今晩のパフォーマンスの企画をしているから、暇なら出て来いと連絡があったんだ」
「修平、約束があるんだったら、あ、あのボク、一人でタクシーで帰れるよ」
先生の約束をつぶしちゃいけないと思ったからそう言った。
タクシー乗り場まででいい、と言おうと思ったときに、
「そのままどこかへ遊びに行くのか」
さっとボクの全身に目を這わせたあと、先生が地の底から出すような声で言った。
ボクの普段着ないような服装が、そんな疑わしそうな表情をつくらせたんだ・・・。
そして、
「今日は、家族と出かけるんじゃなかったのか?」
「あ、あの、」
うろたえた態度がよくなかった。
さらに先生の疑いを深めるだけだった。
「本当に、毎週、家族との用事だったのか?」
痛いところをつかれて、とっさに誤魔化すことができなくて、顔がこわばった。
それを目に留めたらしい先生の顔色が、怒りにみるみる白くなっていって、ボクのウソを見抜いてしまったことがわかった。
ボクに背を向けて、先生が地上を目指して再び階段をのぼり始めた。
その怒りの空気に声をかけあぐねて、おろおろしながら先生のあとをついていった。
細い路地を抜けると、大通りにでた。
「・・・・・・修平、」
ちゃんと説明しなきゃ思って、声をかけると、
「俺と別れたいのか」
冷たく先生が言った。
怖くて、身体がすくんだ。
「ち、ちが―――― 」
ちがう、って言うおうとしたけど、うまく言葉がでない。
そうこうしているうちに、手を挙げた先生の元に、タクシーがやってきて、停車すると、
スッと、後部座席の扉が開いた。
先生はフイっと、まるでボクを見捨てるみたいにして、タクシーに乗り込んだから、
ボクもあわてて、つづいた。
先生が、タクシーの運転手さんに落ち着いた声で、先生のマンションの住所を教えていた。
ここにきてようやく、先生が、ボクと剛にいちゃんのことを誤解してるんだって、ことに気づいた。
いきなり現れた先生にびっくりして、そこまで頭がまわっていなかった。
だから、
「あ、あの」
こんなに怒りにそまっている先生を見たことがなくて、舌がもつれそうになりながらも、先生がクラブで見たことの誤解を解こうとした。剛にいちゃんとはなんでもないこと。それから、週末の本当の理由 ―――― こんなにおおごとになるんだったら、ちゃんと先生に言えばよかった、と激しく後悔した。
でも、修平は、ちゃんと話せばわかってくれる、と思って、なんとか口を開いた。
「ちがうんだ。そんなんじゃないんだ」
「藤原」
落ち着いてる声で、でも、咎めるような低い声で返された。
学校以外で、苗字で呼ばれるのは、すごい久しぶりだ。
タクシーの運転手さんの手前、大人しくしてろ、みたいな感じだった。
はっとしてボクは口を閉じた。
そのまま、
先生は、ボクとは反対の方向を、窓の外に顔を向けたままで、
とうとう車が止まるまで、ボクのほうを振り向きもしなかった。
ボクは、心がいたくてしようがなかった。
20分ほどして、タクシーが先生のマンションの前に止まった。
先生は、お金を払うと、ボクに声をかけるとことなく、タクシーを降りた。
ボクも後を追った、けど。
先生はマンションのエントランスのガラス戸を押し開けると、
ボクを待つことなく、扉から手をはなした。
ガチャン、って金属の音がした。
先生がボクを拒絶する音に聞こえた。
早く先生のあとを追わないと、きっと、エレベーターが来たら、ボクを待つことなく乗っていってしまう。
先に部屋に行った先生は、そのままいつもの習慣で、部屋に入ったら鍵をかけてしまうかもしれない。
先生の部屋の鍵は持っているけど、チェーンをかけられてるかもしれない。
ちゃんと話せばわかってくれる、
だから、早く・・・・・・。
早く足を動かさないと、と気持ちばかりが焦っていたけど、
ボクは、一歩も動けなかった。
振り向いてくれなかった先生の背中が、ボクを拒絶してた背中が、あんまり、哀しくて、
涙ばかりが流れて、
身体が地面に縫いつけられたように、身動きができなかった。
どのくらいそこに立っていただろう。
夜中なせいか、マンションに来る人は誰もいなかった。
窓に電気がついている部屋もほとんどないし。
シンとした夜だった。
マンションの入り口の上部にとりつけられている電気だけがボウっと明るくて、星も月もない夜で、薄暗い空は、まるで、ボクの気持ちそのままだった。
「いつまで、そこにいるんだ」
気がついたら、さっきまで夜の空をながめていたはずなのに、膝をかかえてしゃがんでいた。
顔を上げたら、怖い顔をしてる先生がいた。
「・・・修平」
帰れって言いにきた?
たしかに、こんなとこに居たら、すごい不審者だ。
そう思って、バっと立ち上がったら、クラっと立ちくらみがした。足もしびれていた。
うわっ、って思ったら、
先生が腕をつかんで支えてくれた。
また、涙がだーだーとこぼれてきた。
「わ、別れない!」
そのまんま、先生に抱きついた。
頭の上で、大きなため息がして、ビクってなったけど、振り払われないようにしっかりとしがみついた。
先生が歩き出したけど、そのまましがみついて歩いた。
ガラス戸を開ける音がして、マンションの中に入っていった。
先生の部屋に入るまで、ボクはそのまんまの体勢で先生についていった。
「―――― ってことだったんだ」
いつものこげ茶色のソファに座って、クラブでの剛にいちゃんとのことを先生に説明した。
先生は、いつもみたいにボクの隣には座らなくて、フローリングに敷いてるラグの上に座っていた。
「そうか、今晩のことはは判った」
あいかわらず、厳しい声だったから、
一瞬、本当に判ってくれたのかなって思った。
「俺がいちばん、聞きたいのは、家族と用事があるからとウソまでついて、俺の誘いを断っていたのは、どうしてだ、ってことだ。
俺をイヤがっているとしか思えないだろう」
「違うよ。修平のことがイヤじゃないよ。全然、違うよ。ホントだよ」
先生のそばに行きたかった。
行って、いつもみたいに抱きしめて欲しかった。
でも、なんか、ふれたら切れそうな険悪な空気が、先生のまわりに漂っていて、近づくことができなかった。
「だって、でも、ぼ、ボク、修平に嫌われたくないし」
「お前が俺を嫌っているように思えるが?」
「そうじゃないって!」
ボクは思わず叫んだ。
「だって、だって、修平が言ったんじゃん。
ぼ、ボクがイビキかくって」
とうとう言ってしまった――――。
「はあ?」
先生が間の抜けたような声をだした。
「だ、だから、泊まったりしたら、修平眠れなくなるんだろう?」
ママさんとパパさんから、快速列車なみのイビキって言われたし。
「だから、あの、イビキをかかなくなるまで、泊まるのやめようと思ったんだ」
でも、そんなこと言ったら、先生のことだから、ガマンして「気にするな」って言ってくれそうだったから、そんな、あんまりガマンさせて、そのうち嫌気を差されるかも、って思って、それよりは、ちゃんと治してから、って思ったんだ。
「はああああ?」
また、先生が言った。
先生が、あぐらをかいていた足の上に肘をついて、頭を抱え込んだ。
「し、修平?」
それが、あんまり、深く深くだったから、心配になった。
それに、なんとなく、もう、そばに行ってもいいかなってぐらいに、
先生の空気のこわばりはとけていたから、
だから、思い切って、立ち上がって、先生のそばに行った。
先生の肩に手をおいて、すぐ隣にボクも座った。
「あの、だからだから。修平と別れたいとか全然思ってないから」
「俺は激しく落ち込んでいる」
先生が言った。
「そんなくだらない理由でやきもきさせられたことや」
・・・くだらない、?
「凛一がそんなに悩むほどとは思っていなかったから、からかうみたいに言ったことや」
か、からかって・・・って?!
「お前の従兄弟の猿芝居を見抜けなかった自分の眼力に」
猿芝居・・・・・・・、剛にいちゃんはあんなにおいつめられた感じだったのに――――。
しん、と気まずい沈黙がボクと先生の間に、流れた。
そうして、
先生の台詞を頭の中で反芻していると、突然、何かが一気に目が覚めた気がした。
ボクはすっくと立ち上がった。
「ボクのくだらない悩みや、剛にいちゃんの真剣な猿芝居につきあわせて悪かったね」
「凛一・・・、」
先生が顔をあげた。驚いた顔をしている。
自分の顔がすごい、無表情になってるのがわかる。
「もう、金輪際、こういうことないから。安心して、先生」
ボクは先生、と強調して言った。
「別れヨ」
あったまきたから、そう言った。マジで。
「わー、待て待て、凛一。話せばわかるから」
部屋を出て行こうとしたボクの身体をうしろから先生が抱いてきた。
「わかるか、バカ!」
先生を振り切ろうとしても、もとから、筋肉量が違う。
思いっきりあばれて、手足をばかすか、先生にぶつけても、
先生の腕の中から抜け出すことができなかった。
それが、くやしくて、バカバカ叫んでいたら、
また、涙がでてきて ―――― 、
しゃくりあげた。
「・・・・・・凛一?」
先生が少しだけ腕をゆるめると、素早くボクの正面にまわってきて、前からボクを拘束した。
「なに、泣いてるんだ?」
あんまり、やさしく言うから、こころのこわばっていたとこが、溶けてしまった。
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先生が、手で頬に流れる涙をぬぐってくれたけど、全然、追いつかなかった。
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修平が、ボクの背中にまわしていた腕をといて、ボクの頬を両手でつつんだ。
あったかくて、おっきな手のひらの感触に、
うっとりと目を閉じてると。
まぶたんとこにキス、された。
くすぐったいから、
「修平のばか」
って言ったら、
今度は反対側の目じりに。
「うん、俺がばかだったよ」
うるっと修平を見上げると、困ったような顔をしてボクを見ていた。
「―――― くちびるにも、して」
言ったら、軽く、ちょこんとキスしてくれて、
それから、
「もっと、いいか?」
と聞かれた。ボクもそう思ってたから、うん、とうなずいた。
修平はいつも魔法みたいにボクの身体をかき鳴らして、ボクに甘い声をださせる。
身体が泡になって消えてしまうんじゃないかと思ってしまうくらい、気持ちよくて。
修平と一緒だったら、そんなふうに溶けあって消えてしまってもいいって思えるぐらい修平が好きでしようがなくなる。
修平が、いない世界なんて考えられない。
修平が寝入っていたのを見届けてから、ボクはそれソレをこっそりはめた。
剛にいちゃんちに泊まるって決めて、落ちあう前にコンビニで買っておいたんだ。
ぜったいに、こんな顔を修平には見せられないけど、
修平が起きだす前に、先に起きてはずせばいいや、と思ったから。
毎晩してれば、効果があがるみたいに説明書には書いてあるし。
修平は平気だって言ったけど、やっぱり、ボクのせいで起こすのは忍びないから、
その、
イビキ防止の鼻クリップをはめた。
翌朝。
携帯で目覚ましの設定をしておいて、いつも修平が起きる時間より早めに、起きた。
となりを見ると修平はまだぐっすり眠っている。
よかった。
ボクは、なんとか、寝ぼけた頭をクリアにして、鼻クリップを取り外した。あとでこっそり回収することにして、ベッドのスプレッドの下に隠して、それから、また、眠りの中に入っていった。
2人とも昼近くまで眠っていて、
11時くらいに、起きだした。
パンとコーヒーだけの簡単なブランチを取っているときに、
修平が、俺は昔から、夜中に一度はトイレに起きる習性があるんだって言って、だから、別に、ボクのイビキで起こされてるわけじゃないから、って言ってくれて、
ちょっと、安心したけど、
でもっっ!!
「お前の鼻輪顔、笑えたなーー。口からはヨダレたれてたし、おもしろ過ぎて、腹かかえて笑ったよ」
って、ぷぷぷって思い出し笑いをしながら、
「写メ、見るか?」
って言うから、
100年の恋もいっぺんに冷めるいきおいで、
「ばか修平っ!!! 絶対に、別れてやるっっ」
って叫んだ。
( おわり )
またもや「犬も食わない」話し、でした。
めでたしめでたし。
【 おまけ話 】
ある日のこと、またもや、
「いつか、ゼッタイ別れてやるから!」
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今も、ソファに横になったまんまで、足ははみ出していて、
ボクの上には今も修平がおおいかぶさっていて、
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びっくりするほど修平は準備万端で、
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この前は、玄関のキーケースの奥に見つけて、びっくりした。
玄関って・・・。
そんなケダモノな修平の意外な発言、
繊細と、ハートと、えぐる・・・、どこからつっこんでいいか、すごい迷う。
とりあえず、
「ごめん」
あやまってみました。
そうか「別れてやる」ってのは、修平の繊細なハートをえぐってたんだ ―――― ちょっと、かわいーじゃん、とかって思った。
「今度言ったら、ヒドイからな」
真剣に言うから、おかしくて、
「ヒドイって?」
不安なふりして聞いてみた。
すると、
修平が、にやって笑って、ボクの耳元で、
とても、ボクの口では言えないようなヤらしいことを言うから、
なんだよ、また、ボクを恥ずかしがらせようと、からかって! って思って、
「―――― それ、今、して」
って、おもいっきり甘えた口調で、
からかいかえした。
ギョっとした修平の顔をみて、
笑ってやるつもりだったのに。
速攻、ベッドの上に運ばれて、
・・・・・・・本当に、されてしまいました。
ひどく残酷な愛撫で、高みに昇る寸前でずっと引き止められて、
息も絶え絶えになっても、いっくら頼んでもやめてくれなくて、
やっぱり、
いつか絶対、別れてやる!!
って、心の中で叫んでた。
( おわり )
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※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
男の子たちの変態的な日常
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BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
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