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1.こいごころ

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生徒と先生って、やっぱり、禁断のコイ?
って、先生に聞いたら、
「さあな、」
って言って全然、ボクの話しを気にとめたふうもなく、タバコをふかした。
むぅ。
「タバコ、嫌いって言ってるだろ!」
「なら、お前が、出て行けよ」
ここは俺の家だからな、ってエラそうに!
カチンときて、ベッドをとびだした。
手早く、脱ぎ捨ててた下着や高校の制服を着ながら、
・・・・・・・呼び止めてくれるのを待ったけど、
背後から、タバコの煙がながれてくるばかりで――――。
さっきまでの、濃密な空間がウソみたいに寒々しい。
アっそう。
ヤっちゃって、スッキリしたから、もう、ボクは用ナシってことかよ。
いーけど、ボクも、欲求をカイショーできたからサ!!
ヒタイの両端あたりがキリキリ痛みだした。いつもの、偏頭痛だ。
学校指定のネクタイは結ばずにブレザーのポケットにつっこんだ。
この部屋の戸口に投げ捨てていたカバンをひろって、乱暴にドアノブをひっつかんだとき、
「凛一」
ようやく、先生がボクの名を呼んだから、
おもいっきり、ツンとすました顔をつくって、振り向いてやった。
もう、ボクこそ、アンタには用がナイけど、
みたいな表情。
けれど、
先生は、
「たまったら、また連絡しろよ」
ぷはーって、大きな煙といっしょにそんな台詞を吐き出した。








これでもか、ってぐらいに大きな音をたてて、ドアを閉めてやった。
マンションの隣の部屋の人から文句がきても、知るもんか!
・・・けど、全然、気持ちはスッキリしない。
歩道と車道の間の、ブロックの上を歩く。
このまんま、次の交差点まで歩けたら、本当は先生もあんなふうに言ったのを後悔してて、ゴメンの電話をしてくる。
と、心の中で賭けをして、バランスを取りながら、ぽちぽち歩いた。
けれど、
あと、数歩でゴールってときに、
歩道ぎりぎりを猛スピードで走ってきたダンプの音にびっくりして、
ブロックの上から歩道側に飛び降りた。
「あーあ、もう少しだったのにナ」
からっと明るく、ひとりごとをつぶやいてみたけれど、
心はずしん、と重いまんま。
自分が、すごい、短気なのはわかっている。
よくないと、思う。
いつも、もうよそう、と反省する。
けれど、いつも・・・、気がついたときには、イラっとした気分のまんまを先生にぶつけてたりする――――。
うつむいて、歩いてたら、ハナミズがでてきて、
ぽつり、と歩道に水滴がたれた。
ありり? 風邪ひいた? って思って、鼻をすすったら、
ちがってた。
目から出た涙が鼻の横をスリンと通ってったのだ。
いーじゃんか、いーじゃんか、
『禁断のコイ』で。
コイ、だよね、ボクと先生?
恋、じゃないのかよっ、てムカっとしたけど、実は実はそこが先生の本音の部分だったのかも、
とか、想像して、
また、ガンガンと頭痛がしてきた。
水滴もぽたぽたと落ちてゆく。
とにかく、涙をふこうと、ポケットの中からハンカチを出そうとして、
さっき、ブレザーのポケットの中に入れたまんまだったネクタイに指がふれた。
先生の部屋に入ったときには、すごくやーらしくほどかれたネクタイ・・・。
ボクより七つも年上の先生は、断然、大人で、
だから、きっとボクの子どもっぽいトコなんか、うんざりなんだろうなあ、
とか、考えてしまって、
自分で自分の胸の痛みを深くした。
先生は、ボクが通う高校に今年の4月から赴任してきたばかりで、
そうして、
その2週間後にはもう、ボクと先生はセックスをしていた。
あれから半年たつけれど、ちっとも甘い関係にはならなくて、
ボクはいっつも先生につっかかってばかりで、
先生は、あきれたり、苦笑したりで、
口癖にように「ガキ」ってボクのことをからかってくる。
けど、今日は、そんなことなくて、
なんだか、甘くて、熱くて、のぼせるような時間だったから、
つい、聞いてみたくなったんだよ。
ボクと先生のこの関係って、
恋、
だよね?
って。








先生の住むマンションから歩いて5分の地下鉄駅から、ボクの住む町まで、駅5つ。そこから住宅街を10分ほど早足すれば、ボクんちに到着。
ほんとは、今日は、親には「友だちの家に泊まってくる」って言ってたのになー。
今週末は、先生の部屋で過ごそうねって、話してたのに・・・。
なんだか、このまま、家に帰ってしまうのもいやで、
地下鉄の駅からの帰り道にあるコンビニの明かりが見えてきたから、寄って行こうかな、と店の前まで来たときに、コンビニの駐車場に、見慣れた車がとまっているのに、気づいた。
アレレっと思っていると、
見慣れたシルエットが視界のはじっこに入ってきて、
そこに視線を向けたら、
先生がコンビニの前に立っていた。
空色の綿シャツとブラックジーンズというカジュアルな服に着替えてて、
出入り口のドアの横に備え付けてある、ゴミ箱の前でタバコを吸っていた・・・。
びっくりした。心臓がとまるくらい。
なにの、
ボクは、
ばたばたって駆けてそばまでいったのに、
「―――― 何してんだよ?」
口がオートマティカリーに悪態をついてしまう・・・。
誰かボクのイカれた口を修理してくれないかな・・・。
「買い物だけど」
タバコをぷかぷか吸いながら、そっぽ向いたまんま、で先生がこたえた。
全然、ボクのほうを見てくれない。
歩数にして約5歩分の距離が、すごく遠くに感じる。
傷がウズクような感じで、胸が痛んだ。
どうしよう、このまま通り過ぎようかな。
けど、そうしたら、もう、
ただのフツーの生徒と先生になってしまう気がして、
すごい、勇気をふりしぼって、先生に近づいた。
きっと、ここでこんなふうに逢えたのには、イミがあるはず、と思いたい。
だって、先生んちの近くにもコンビ二はいっぱいあるもん。
震えそうな足を前に進ませる。こんなときには、さっきみたいな「すました顔」ができなくて、自分が情けなくなってくる。
「何、買いに来たの?」
「タバコ」
「わざわざ、こんなトコまで ―――― ?」
先生がジロリとボクを睨む。
ああ、どうしよう、嫌味っぽく聞こえたのかも―――― 。
「―――― ドライブがてらにな。もう、タバコも買ったし帰ることにするか」
そう言って、背を向けるから、
ボクは慌てて、先生に走り寄って、先生が着ているシャツの端をつかんだ。
「なんだ?」
先生は、立ち止まってくれなくて、車のトコまで歩いていきながら、ボクを振り向かずに言った。
ボクはつかんだ洋服の端をはなしたくなくて、先生についていきながら、
「・・・い、いっしょに帰る」
と小さく言った。
けど、
なんにもこたえてくれなくて、
先生は、車の手前で鍵を取り出して、ピとロックをはずした。
―――― ダメなのかナ。
全然、気の利いたこと一つも言えないし・・・。
また、さっき無理やりとめた筈の涙が、ぱたぱたっと流れてきた。
こんな顔、見せたくなくて、
やっぱり、家に帰ろう、と思って、シャツの端をつかんでいた指をひらこうとしたとき、
「さっさと、乗れよ」
って、先生が言った。








先生のマンションに戻る車の中で、
「あのな、お前、急に帰るなよ」
って、何を考えてんだ、みたいに言われて、
「だって、『連絡しろよ』って言ったじゃん」
つい、また、フンって感じでかえしてしまった・・・。
けど、先生はそれを気にしたふうもなく、
「いつもは、それでも帰んないでリビングに居るだろう」
と言った。
―――― そうなのだ、
ベッドのある部屋でケンカしたりすると、ボクは1LKの先生んちのリビングとかキッチンでふてくされてる。
リビングでテレビを観てたり、
台所でインスタントラーメンをつくったり、
そうこうしているうちに先生がベッドルーム兼仕事場にしてる部屋からでてきて、
いつのまにか一緒にならんでソファに座ってたり、
ボクがつくったラーメンを食べてたりする。
そんなことをしてると、「絶対に、許さない」って思ってたのが、
なんのことだったか、忘れてしまって、
気がつけば先生とフツーに会話してたりして・・・・・・。
だけど、今日は、
あんまり、本当に、ムカついて、哀しくなったから、
本当に、あの時は、もう二度と先生の顔を見るのがイヤだと思ったんだ。本当に。
「・・・・・・心配した?」
ちょっとだけ、甘えた声をだしてみた。
「したよ」
ここで、スルリと期待した言葉をくれるのが、
なんだか、「大人な手管」なような気がしないでもないのだけれど、
心配してくれたのが嬉しくて、
「ごめん」
と素直に、あやまった。




「キンダン、じゃないだろ」
ちゅ、って、
まぶたにキスされた。
信号待ちで、止まってる時に。
今度は、くちびるに降りてくるのを迎えるために、かるく舌でくちびるを湿らした。
そして、
ふれあわせるだけの、かるいキスのあとで、
先生が、
「少なくとも、俺とお前の二人からは禁じられてないだろう?」
ボクが先生の部屋を出てったきっかけになった話しを、
こんなふうに、
あんまり、やさしく言うから、
それが、恥ずかしくて、
「なんだよ、ソレ」
って、誤魔化すように、強気に言うと、
「俺は国語教師だから、言葉には厳しいんだよ」
と先生が真面目な声でこたえた。






( おわり )




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