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序章
記憶
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遥か遠い未来の話だった。
遥か遠い過去の話だった。
たったそれだけの話だった。
この都市には市民がいて、魔術師がいて、超能力者がいて、平等に皆、生まれたはずで。
他人と無差別に比べられることも、人に理不尽な優劣を決めることも、全くなかったはずなのに。
それなのにどうして―――。
「異端者には、制裁を」
騎士のような服を身にまとったその男は、そう呟いた。その男だけではない。そのほか、男と同じ騎士の服に身を包んだ男女も呪文のようにその言葉を繰り返していた。白が基調の上等そうな騎士の服に、真っ赤な血がべっとりとついている。
その血はいったい誰の血だろうか。
誰もそんなことは気にしていない。
幾人もの死体がそこら中に転がっている。
壊れた人形のように。
壊された人形のように。
その死体は動かない。
あたりは炎と人の血で紅に染まり、光の消えたその場所に闇が広がる。
後ずさる視界に、ゆらりと入るその男の騎士は無造作に持っていた剣を振り上げた。
「反逆者には、制裁を……っ!」
地球の中心に隔離されたその都市の中でその少年は、ただ振り下ろされる剣先を見ていた。その奥に広がる騎士の顔を見ていた。その顔は怯えきり、もう人を殺すことなんて、できない顔をしていた。
幼い少年は、哀れに思った。
この騎士にも、この世界にも。
そう、思った。
平和なんて続くはずがないと知っているのに、それでもその希望を夢見ながら一人の少年を殺そうとする哀れな騎士に。
ただその少年は、一言、こう告げたのだ。
「もう、大丈夫だよ」
遥か遠い過去の話だった。
たったそれだけの話だった。
この都市には市民がいて、魔術師がいて、超能力者がいて、平等に皆、生まれたはずで。
他人と無差別に比べられることも、人に理不尽な優劣を決めることも、全くなかったはずなのに。
それなのにどうして―――。
「異端者には、制裁を」
騎士のような服を身にまとったその男は、そう呟いた。その男だけではない。そのほか、男と同じ騎士の服に身を包んだ男女も呪文のようにその言葉を繰り返していた。白が基調の上等そうな騎士の服に、真っ赤な血がべっとりとついている。
その血はいったい誰の血だろうか。
誰もそんなことは気にしていない。
幾人もの死体がそこら中に転がっている。
壊れた人形のように。
壊された人形のように。
その死体は動かない。
あたりは炎と人の血で紅に染まり、光の消えたその場所に闇が広がる。
後ずさる視界に、ゆらりと入るその男の騎士は無造作に持っていた剣を振り上げた。
「反逆者には、制裁を……っ!」
地球の中心に隔離されたその都市の中でその少年は、ただ振り下ろされる剣先を見ていた。その奥に広がる騎士の顔を見ていた。その顔は怯えきり、もう人を殺すことなんて、できない顔をしていた。
幼い少年は、哀れに思った。
この騎士にも、この世界にも。
そう、思った。
平和なんて続くはずがないと知っているのに、それでもその希望を夢見ながら一人の少年を殺そうとする哀れな騎士に。
ただその少年は、一言、こう告げたのだ。
「もう、大丈夫だよ」
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