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しおりを挟むゆっくりと意識が浮上する。目を覚ますと、俺に腕枕をしながらイェルナがそばで眠っていた。部屋に飾られている時計はまだ起きるのには早い時間を示している。本当の時間を指しているかは不明だが、時間がわかるのはありがたい。イェルナの若い欲望に抱かれた身体は随分と疲弊している。少なくとも5時間は眠っていたようだ。
それにしても夜の営みというのは凄まじい。虫に刺されたみたいに鬱血が散りばめられた身体を見て思う。身体の奥をイェルナの熱い欲望が何度も貫き、肌を愛撫され何度も高められた。子種が出なくなった俺の欲望を扱きながら、身体をベッドに抑えつけ自分の快楽の為に何度も求められた。これほどの快楽は生まれて初めてだ。まだ身体に彼に触られた感触が残っている気がする。
尻穴にまだ物が入ってるような違和感が若干残っているけど、はじめての営みにしては上手く身を委ねられたのでは?
彼の腕から抜け出し身体を起こす。傍で静かに眠るイェルナはすっかりあどけなさが消え、彫りの深い引き締まった顔は精悍だ。どこか色気もある。シーツにくるまりながら、腕の中から消えた俺を探す姿は玩具を探す子供の姿そのもので可愛いらしい。と思う。そしてその命を愛おしく守りたいと思う。それはきっと出会ったばかりの、今にも命の火が消えてしまいそうなほど痩せた姿を知っているが故の成長を安心する心。そして親が子を想う気持ちとは違う。
「……親の背を見て子は育つ、というが、俺より育ちやがって」
俺がさっきまで寝ていた場所を眠りながら手で探っている彼の手を握る。俺の手よりも大きく硬い手。昔とは違う、剣を握る騎士というよりは戦士の手だ。俺はこの子に何もしてあげられていない。ただただゲヘナ界にいるイェルナの話し相手になって、世界再生の旅で暗黒力に支配された彼を解放してあげただけだ。しかも、苦労の末救えたけどまたゲヘナ界へ戻ってしまった。ここでは魔法を使えないから、俺は役立たずでイェルナを頼るしかない。
今迄の旅を思い返しながら、彼の手を離し音もなく部屋から離れる。階段を下りて玄関に向かう。
無力なことに落ち込んでじっとしているわけにはいかない。とりあえずどこまで俺の家と庭を再現しているか見なければ。自分で思っているよりも俺は焦っているらしい。下穿きだけで出てきてしまった。
服がある俺の部屋に戻ればさすがにイェルナが起きてしまう。まぁ、ここに俺たち以外いないしいいか…。
なんとなく、はやくここから離れなければと俺の感が告げている。
(なんだか……嫌な予感がする………。じりじりと傍まで何かが迫っているような)
俺の予感は昔からよく当たる。音をたてないように鍵を外し、玄関のドアノブに手をかけたとき。
――――カン!
「あ!?」
杖で硬いものをついたような音がして、手がドアノブからはじかれた。
(これは…結界か?)
本来、結界魔法は自分が許したもの以外を入れないようにする魔法だ。魔法や人、あらゆる衝撃を通さない結界。そしてこの触れた感じは結界の外から結界内に入ろうとしたときのもの。
どうゆうことだ?
ここゲヘナ界は魔法が使えないからこれは結界魔法ではないし・・・。
(これはいったい誰が?)
そこまで思考が回った瞬間、背後から伸びてきた腕に思いっきり身体を抱きすくめられた。
「…………何してる?」
耳元でイェルナの声がする。
そうか、思い出した。これは、好奇心旺盛な弟子たちを屋敷から出ないようにするための結界。そして、俺が新しい魔法薬を精製するときによく暴発させてしまうから、その被害を屋敷外に出さないようにするためのものだ。
そして、夜間に屋敷から出ようとする弟子の気配に気付くことが目的のもの。
なるほどこの空間はかつて俺が屋敷にかけた魔法も再現しているらしい。
「イェルナ…?起きたのか?」
「アルに起こされた」
「あ……これはイェルナが………」
イェルナが怒っている。なぜ?
俺に起こされたということは、ここから出ようとした俺の動きがイェルナに知られたということか。
イェルナの声は掠れて低い。俺を抱き込んだ腕の力も強く、血管が浮き出ている。
「お、おはよう、この結界はなんですか?」
「おはよう」
イェルナに顎を持ち上げられ唇を奪われる。唇はすぐ離れると思ったけど、イェルナの舌がわずかに空いた隙間から入ってきた。
「イェルナ、んっ・・・質問に答え・・・」
唇が合わさる度に何とも恥ずかしい音がして顔が熱くなった。喋らせないようにしているみたいに、イェルナは俺の口を塞いで離れない。両手で顔を固定されて逃げられないし、手が耳を塞ぐようにしているせいで口内を蹂躙している音が頭の中で響いて腰が抜けてしまう。
「はぁっ・・・・・・」
ガクリと足の力が抜けたところでやっと唇が離れ、イェルナの腕に抱きとめられる。
「イェルナ、ゆっくり眠るのは久しぶりでしょう?1人で調べるので、また眠ったら?」
イェルナが結界のことを話してくれる気配がないから、ね?っとさも相手を気遣ったように装い、遠回しに「調べたいから、放っておいて」と言う。
しかし、俺の考えがお見通しだったのか、イェルナは目を細めて腰が抜けた俺の身体を担ぎ上げた。
「そうだな、時間はたっぷりあるし」
「あ、イヤ。私は放っておいてください!!」
「腰が抜けてるくせに、何言ってる」
「痛っ」
足をばたつかせ、イェルナの背中を叩いていると尻を軽く叩かれる。そのまま階段を登り、さっきまで寝ていたベッドまで連れて行かれた。
今まで魔法で敵わなかったことはないし、魔法で一時的だが筋肉を強化できるから身体は鍛えていない。近接よりも遠隔戦でやってきたおれは、こうやって抑えられると何もできない。魔法なしの自力勝負だと体格差もあってどうしてもイェルナには敵わないし。今は魔法も使えない。
俺の抵抗は赤子の手を捻るように容易く抑えられ、ベッドに降ろされた。逃げる間も無くイェルナに抱き込まれる。
「私は寝ませんよ!」
「いい子にしてくれ、明日説明してやるから」
イェルナの胸に顔を埋めるようにされる。
「んんっ・・・ぷはっ。本当ですか?!」
意外と柔らかい筋肉質な胸から顔を背けて言えば頭を撫でられる。
「あぁ・・・」
髪に口付けをおとされイェルナごとシーツに包まれた。どうやら本気らしい。
「仕方ないですね・・・今日だけ、ですから」
「あぁ・・・おやすみアルベルト」
彼の胸に押しつけた耳に、どくんどくんと心臓の鼓動が聞こえる。少しはやい、イェルナの心臓の音だ。身体が大きくなっても、これは変わらない。
「おやすみなさい・・・」
口から欠伸が溢れる。イェルナの鼓動を聞いているうちに眠くなってしまったようだ。今までこんなに眠くなったことはあるだろうか?すごく瞼が重い。後押しするかのように背中を優しく撫でられて、俺の意識はゆっくり遠のいていった。
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