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「イェルナも来なさい」
騒いでいる3人とは対照的な物静かな1番弟子が心細そうに魔法陣が現れた場所に1人立っている。俺はすかさず片手に杖を持ったまま両手を広げイェルナも呼び寄せた。
「さぁイェルナ」
まだ痩せた身体を怯えているかのように縮こませ、黒い瞳をきょろきょろさせながらゆっくりとイェルナは俺たちの方へ歩いて来る。
イェルナはたまたま通りかかった娼館で酷く扱われていたところを見つけ買い取った子供だった。弟子の中で最年長の13歳だが、痩せているせいで身体は一番小さい。話では前のオーナーの愛人が母親だったらしいが、イェルナは可愛がられることはなかった。それはイェルナが黒い髪と瞳だったせいだ。
不幸にも昔から黒は縁起が悪いとされている。両親とも赤い髪に碧色の瞳だったこともありイェルナの母親は夫であるオーナーに浮気したのかと責められ(そもそも娼館だから浮気も糞もないのだが)、責められるうちに女もイェルナを愛せなくなったらしい。両親はイェルナをいないものと扱った。
イェルナを店から無理やり買い取ったときには彼の身体にはたくさんの傷が刻まれていた。痩せっぽちで度重なる虐待のせいか、頭を撫でようとすれば我慢したように身構え目を瞑る。虐待をされたせいで殴られると反射的に身体がそう動いてしまうのだろう。今考えてもはらわたが煮えくりかえる。
そしてイェルナは思うように喋ることが出来ない。人間を怖がり、自分の感情も表に出さなかった。
そんなイェルナがもうすぐ手を伸ばせば届く距離まで近付いたとき、彼を挟んで向こうにあった鎧が1人でに倒れたではないか。驚くよりも俺は嫌な予感に襲われていた。その予感はすぐに的中する。倒れた鎧から鞘が転がり落ちて封印を施している剣にぶつかったのだ。
キンっと甲高い金属音が鳴り響く。
すると、鞘から魔法陣が浮かび上がった。三重にも及ぶその魔法陣は俺が剣に施したような封印魔法だった。それを理解した瞬間、まずいと鞘を魔法で飛ばしたがもう遅い。
鞘に施されていた魔法が剣へ俺が施した封印魔法を封印し始めていたのだ。
ずんっと地面から突き上げるように揺れたかと思うと剣が刺さっていた床から罅がまわりにはしっていく。バリバリと音を立てながら罅は広がり、剣から封印していた暗黒力がまた溢れ出していた。
その間も地面は激しく揺れる。俺は足元にいる子供達を自分の後ろに隠し、その場に杖をたてると結界魔法を素早く構築した。青白く光ながら魔法陣が地面に浮かぶ。狭いが崩壊をその魔法陣のところだけ免れることができる。
剣のそばに揺れる地面に戸惑い、動くことができなくなったイェルナが取り残されていた。
「イェルナ!!はやく来なさい‼そこは危ない!」
イェルナは俺の大きな声にびくっと驚きながらもゆっくり歩き出した。俺も魔法陣から出てイェルナに手を伸ばす。
イェルナの手を握った瞬間再び地面が揺れ、なんと地面が崩れ始めた。剣が刺さっていた祭壇は完全に壊れ、地面の亀裂に甲冑が転がり落ちるが視界の端にうつる。
イェルナの手を引っ張るが、彼の足元の地面も崩れ俺も引っ張られてしまう。地面に膝をつき、なんとか自分ごと地割れに落ちることを阻止するが状況はよくない。背後から心配する子供達の声がする。
「ルード、クレイラス、カーツそこから動かないで!」
今にも俺の元に駆け寄って来そうな子供達に振り返らずに声をかけ、イェルナの手を引っ張る。しかし、簡単に引き上げられるはずのイェルナは何故か微動だにしない。身を乗り出してイェルナをみれば、彼の足に黒い影が巻き付いているが見えた。そしてその少し下の地面に封印が解かれた剣が刺さっている。
(あの剣が……いや暗黒力がイェルナを引き摺り込もうとしている)
使い慣れた杖は後ろの魔法陣構築に使ってしまっている。くそっと思わず悪態をつきながら、杖なしで俺は再び剣に封印を施し始める。俺の力でイェルナを引き上げるのは無理だと判断したからだ。しかし、もう一度目の封印で魔力を激しく消耗していた。
魔力の限界を久しぶりに感じる。体内に漂う魔力も消費したからか目の前が霞んできた。
「あっ………」
弱い力で俺の手を握っていたイェルナが小さく声をこぼし、目を見開いている。黒く濁った瞳に一瞬意思が宿った。
「イェルナ大丈夫です。すぐに引き上げてあげますから」
その間も地割れはひどくなり、遺跡は完全に崩壊していた。俺から後ろの魔法陣がある地面だけが崩れずに保っている。
「し……しょ………めんな…い」
イェルナの口から声が溢れる。
「イェルナ?」
聞き取れなかった。俺が聞き返した瞬間、俺が膝をついていた地面が崩れ始めた。やばいっと思ったときイェルナの手を引っ張っている手に鋭い痛みが走った。
「ッ…イェルナ?なにをしてるんだ」
見るとイェルナがナイフを俺の手に突き刺している光景が目に入る。
「やめなさい!」
叫んだ瞬間。一瞬目の前が真っ暗になった。魔力の使いすぎのせいだ。
騒いでいる3人とは対照的な物静かな1番弟子が心細そうに魔法陣が現れた場所に1人立っている。俺はすかさず片手に杖を持ったまま両手を広げイェルナも呼び寄せた。
「さぁイェルナ」
まだ痩せた身体を怯えているかのように縮こませ、黒い瞳をきょろきょろさせながらゆっくりとイェルナは俺たちの方へ歩いて来る。
イェルナはたまたま通りかかった娼館で酷く扱われていたところを見つけ買い取った子供だった。弟子の中で最年長の13歳だが、痩せているせいで身体は一番小さい。話では前のオーナーの愛人が母親だったらしいが、イェルナは可愛がられることはなかった。それはイェルナが黒い髪と瞳だったせいだ。
不幸にも昔から黒は縁起が悪いとされている。両親とも赤い髪に碧色の瞳だったこともありイェルナの母親は夫であるオーナーに浮気したのかと責められ(そもそも娼館だから浮気も糞もないのだが)、責められるうちに女もイェルナを愛せなくなったらしい。両親はイェルナをいないものと扱った。
イェルナを店から無理やり買い取ったときには彼の身体にはたくさんの傷が刻まれていた。痩せっぽちで度重なる虐待のせいか、頭を撫でようとすれば我慢したように身構え目を瞑る。虐待をされたせいで殴られると反射的に身体がそう動いてしまうのだろう。今考えてもはらわたが煮えくりかえる。
そしてイェルナは思うように喋ることが出来ない。人間を怖がり、自分の感情も表に出さなかった。
そんなイェルナがもうすぐ手を伸ばせば届く距離まで近付いたとき、彼を挟んで向こうにあった鎧が1人でに倒れたではないか。驚くよりも俺は嫌な予感に襲われていた。その予感はすぐに的中する。倒れた鎧から鞘が転がり落ちて封印を施している剣にぶつかったのだ。
キンっと甲高い金属音が鳴り響く。
すると、鞘から魔法陣が浮かび上がった。三重にも及ぶその魔法陣は俺が剣に施したような封印魔法だった。それを理解した瞬間、まずいと鞘を魔法で飛ばしたがもう遅い。
鞘に施されていた魔法が剣へ俺が施した封印魔法を封印し始めていたのだ。
ずんっと地面から突き上げるように揺れたかと思うと剣が刺さっていた床から罅がまわりにはしっていく。バリバリと音を立てながら罅は広がり、剣から封印していた暗黒力がまた溢れ出していた。
その間も地面は激しく揺れる。俺は足元にいる子供達を自分の後ろに隠し、その場に杖をたてると結界魔法を素早く構築した。青白く光ながら魔法陣が地面に浮かぶ。狭いが崩壊をその魔法陣のところだけ免れることができる。
剣のそばに揺れる地面に戸惑い、動くことができなくなったイェルナが取り残されていた。
「イェルナ!!はやく来なさい‼そこは危ない!」
イェルナは俺の大きな声にびくっと驚きながらもゆっくり歩き出した。俺も魔法陣から出てイェルナに手を伸ばす。
イェルナの手を握った瞬間再び地面が揺れ、なんと地面が崩れ始めた。剣が刺さっていた祭壇は完全に壊れ、地面の亀裂に甲冑が転がり落ちるが視界の端にうつる。
イェルナの手を引っ張るが、彼の足元の地面も崩れ俺も引っ張られてしまう。地面に膝をつき、なんとか自分ごと地割れに落ちることを阻止するが状況はよくない。背後から心配する子供達の声がする。
「ルード、クレイラス、カーツそこから動かないで!」
今にも俺の元に駆け寄って来そうな子供達に振り返らずに声をかけ、イェルナの手を引っ張る。しかし、簡単に引き上げられるはずのイェルナは何故か微動だにしない。身を乗り出してイェルナをみれば、彼の足に黒い影が巻き付いているが見えた。そしてその少し下の地面に封印が解かれた剣が刺さっている。
(あの剣が……いや暗黒力がイェルナを引き摺り込もうとしている)
使い慣れた杖は後ろの魔法陣構築に使ってしまっている。くそっと思わず悪態をつきながら、杖なしで俺は再び剣に封印を施し始める。俺の力でイェルナを引き上げるのは無理だと判断したからだ。しかし、もう一度目の封印で魔力を激しく消耗していた。
魔力の限界を久しぶりに感じる。体内に漂う魔力も消費したからか目の前が霞んできた。
「あっ………」
弱い力で俺の手を握っていたイェルナが小さく声をこぼし、目を見開いている。黒く濁った瞳に一瞬意思が宿った。
「イェルナ大丈夫です。すぐに引き上げてあげますから」
その間も地割れはひどくなり、遺跡は完全に崩壊していた。俺から後ろの魔法陣がある地面だけが崩れずに保っている。
「し……しょ………めんな…い」
イェルナの口から声が溢れる。
「イェルナ?」
聞き取れなかった。俺が聞き返した瞬間、俺が膝をついていた地面が崩れ始めた。やばいっと思ったときイェルナの手を引っ張っている手に鋭い痛みが走った。
「ッ…イェルナ?なにをしてるんだ」
見るとイェルナがナイフを俺の手に突き刺している光景が目に入る。
「やめなさい!」
叫んだ瞬間。一瞬目の前が真っ暗になった。魔力の使いすぎのせいだ。
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