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友愛は憎悪へ
02
しおりを挟む「愛している。心から」
指先、その瞳を通してウィリアムは俺に気持ちを伝えようとしていた。
『俺がもし、ここから出たいって言ったらどうする?』
「もし受け入れてもらえなくても、私のやることは変わらない。君をたすける」
俺を愛しているというウィリアムの目は本気だった。なにより、ずっと俺に触れてきたウィリアムの手から身体から痛いほど伝わっていた。俺はウィリアムと同じぐらい気持ちを返せるのか?
でも愛欲を向けてくるウィリアムにたいして嫌ではないし、その手が俺とは違う誰かに触れていたらと考えると居ても立っても居られなくなる。その手を掴んで俺以外に触れないようにしたい。そう思った。それだけで十分だった。
『俺はその…セックスも嫌じゃないし、ウィリアムのこともす…き、だから…俺が結婚しないで済むように力を貸してほしい』
抱き合っていたウィリアムから離れ、目をじっと見て言う。小恥ずかしかったけれど、一度好きと言うとウィリアムに対する気持ちがはっきりと自覚できた。彼といると安心できる。そばにいてほしい。
「嬉しいよ」
照れ隠しに笑えばウィリアムに再び強く抱き付かれた。
「ずっと、ずっと好きだったんだ。手に入らないと思っていた」
耳元で聞こえる嬉しそうなウィリアムの声に優しく背中を撫でてやる。その子供のように喜ぶ様子に一瞬決断を早まったかと思ったが、すぐにその考えを打ち消す。きっと大丈夫だ、今はリンジーとの結婚のことがあるから不安なだけだ。その話がなくなればウィリアムの気持ちに同じくらい応えられる。自分にそう言い聞かせながら。
「とりあえず、弁護士に強要罪で立件できないか調べてもらってる。当事者はもう亡くなっているが、取引のことが明るみになれば結婚どころじゃなくなる。それでもし君の会社で退職したい社員がいたら、出来るだけ私の会社で面倒見るから心配しないで」
『ありがとう…』
ウィリアムの言葉に胸をなでおろす。落ち着いてくるとなんだか恥ずかしくなってきた。俺はソファに座るウィリアムに所謂膝抱っこされた状態で、泣いて赤くなった目元を撫でる彼の手つきは酷く優しい。
「今日はもう休もう、疲れただろう?」
『んー……精神的にはね、身体はピンピンしてるよ。起きるの遅かったし』
「へぇ…それは、いいことをきいたな」
あ、藪蛇だったか。俺を見つめるウィリアムの目の奥が光ったように見えた。すっとお互いの鼻先が触れるくらい顔が近づく。近すぎて表情はわからないが、唇にあたたかい吐息を感じた。
ウィリアムはムードを作るのが本当に上手い。いつも、スーツを着て私服は肌を見せない服を好み禁欲的な雰囲気を醸し出しているのにスイッチが入ると瞳に甘さを含み口元を緩め俺をいとも簡単に捕まえるのだ。
ウィリアムの手は俺のうなじを撫で、耳輪を指で掠めるよう触れ後頭部を優しく撫でる。その間も唇は今にも触れそうなのに触れない。お互いの吐息が唇を撫でるだけだ。近すぎて見えないけれど、ウィリアムがじっと俺を見ているのがわかる。肉食獣が獲物にとびかかる瞬間を見定めるように、彼は俺をじっと見てどこから食べようか見定めながら舌なめずりしているのだ。
ここ数日で俺はウィリアムとの行為に慣れ切っていたし、お互いの気持ちがはっきりした今ウィリアムの手をとめようとは考えられなかった。
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