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Dynamic
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しおりを挟む人がいないうちにクラブに行こうと考えた俺は、シリウスの家に一旦帰りクラブ向けの格好に着替えた。
動きやすくクラブに見合う服に。黒のレザージャケットとTシャツ。ジーンズに赤のハイカットスニーカー。
クラブには「ドレスコード」というルールが設けられている場合がある。人気なクラブだからカジュアル過ぎなければ問題ない筈だ。ただ、サンダルと短パンは避け、荷物は最小限に。
尻のポケットに携帯や車のキーをいれ、ジャケットの下にショルダーホルスターを付け銀の銃弾が込められた拳銃をさす。
クラブ営業時間。Dynamicの駐車場に車を停めて、中へ入る。車にあった会員カードは問題なく使えた。ドアマンにボディチェックされなかったため、拳銃も無事だ。なんだかこのクラブ、セキュリティが甘すぎる。
(ここでのクラブはこんなもんなのか?)
まだ客の少ないフロアを横目に見ながらBARに近付く。赤い髪の垂れ目で人懐っこそうな顔をしたバーテンに出迎えられる。彼の下唇についたピアスが嫌に目を引いた。
「何飲む?」
『任せる』
オッケーと言いながら楽しそうに酒を作り始めた。無理もない。BARは俺以外客がいなかった。俺に取っては都合が良い。話を聞きやすいからな。
客の数の割に、フロアはやけに煙ったい。天井を見れば白く澱んでいた。ベビースモーカーでも居るのか?
「はい、グラス・ホッパー」
目の前に緑色の酒が入ったショートグラスが置かれる。
(おまかせとは言ったが、グラス・ホッパーだと?)
『おい、これ』
「はい、文句言わなーい。おまかせしたんだから」
『はぁ・・・しょうがないな・・・』
グラス・ホッパーはカカオリキュール、ミントリキュール、生クリームをシェークしたカクテルだ。甘いカカオの香りとミントの爽やかさで、まるでチョコミントのような味がするカクテル。名前の由来は淡いペパーミントグリーンのバッタの様な色合いからだ。
グラス・ホッパーはいわば食後に飲むデザートてきなカクテル。まさか、おまかせでこれが出てくるとは。
『お前、慣れてないのか?』
「いいや?でもお兄さん初めてみる顔だし、俺のタイプだからサービス」
『サービスね・・・』
バーテンが身を乗り出してくる。にっこりと満面の笑みを浮かべ頬杖をつき、俺をじっと見つめてきた。
その視線から逃れるように甘いカクテルをちびちびと舐める様に飲みながら、フロアをみる。まだ、店内には爆音で流れるEDMに身を任せて踊る客しか見当たらない。いつ見ても変な光景だ。クラブといえば遊びに来る女と男がいるのに、ここでは女がいない。男だけが身体を寄せ合って踊っているのだ。フロアの隅、少し影になっている所では熱烈にキスをするカップルもいる。
「お兄さん名前、なんて言うの?」
『俺か?俺はニアだ』
「おれは、アラン」
咄嗟に偽名を言う。セキュリティがばがばのクラブで実名を教えるの良くなさそうだ。
「ニアか・・・今日は踊りに来たの?それとも恋人探し?」
『そんな感じだ。・・・・・・なぁ、口元に傷がある琥珀色の瞳の男を見たことないか?』
「背はどのくらい?」
『俺より少し高いくらいだ』
「んー、傷があるやつ見たことないと思うけど」
『そうか・・・』
(見たことない?まさかあの悪魔クラブには来てないのか?いや、でもそれだと会員カードがある意味がわからない)
グラスにある酒を飲み干して、ふぅと息をつく。俺はチョコミントの味が苦手だった。早く口直しをしたい。
『さっぱりめの、ロングカクテルで』
俺の空いたグラスを下げるアランに釘を指す。もう甘いカクテルは飲みたくない。
「おっけー!ねぇ傷男にナニされたの?」
『秘密だ』
「えー、ケチ」
アランが口を尖らせる。本当にコイツはクラブのバーテンだと思えないほど人懐っこい。
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