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第3章 両親への挨拶

3-3 残り物

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「花なんて彼女から一度ももらったことがないのに」

 そうマルクが悔しそうに呟いていたので、意外だった。
 彼がそんなに花好きだとは知らなかったから。

 叱られた当人であるサムは、なぜ怒られたのか戸惑っているようだった。

「なんだよ、別に好いてくれる女の子から嫁さんを選んでもいいだろ? なにが悪いんだ?」
「あれもダメ、これもダメ、じゃあ残ったこの人でいい。そんな方法で嫁に選ばれたと知った相手の気持ちを考えたことはなかったんですか?」
「いや、そんなつもりはなかったけど……」

 サムはみるみる萎んでいった。

「ごめん。俺、調子に乗っていたみたいだ。相手の気持ちを全然考えていなかった」

 本当に反省しているみたいだから、これ以上は勘弁してあげて欲しいと、マルクの服の袖をつんつんと軽く引っ張った。

 彼は私の意図に気づいたのか、ため息をついて腰を再び下ろしてくれた。

「あのさサム、あなたのお嫁さんって、いずれはスミおばさんがしていた仕事を引き継ぐってことでしょう?」
「ああ、そうだな」
「スミおばさんがしていた仕事って、すごく大変そうだったよ? 家事全般はもちろんのこと、お店の仕事もかなり担っているでしょう? それって誰でもできる仕事じゃないと思うの。少なくとも私には無理だし」
「そ、そうなのか……?」

 私の意見にサムは初めて知ったと言わんばかりの意外そうな顔をした。

「うん、もしおばさんが帳簿をつけていたり発注したりしていたなら、算術や勘定もできないとダメってことでしょう? サムが気に入った子で、そういうのできそうな子がいた?」
「あー、分からない。でも、得意そうではないかも……」

 サムが気まずそうな顔をする。

「でも、もし嫁が苦手な仕事なら、俺がすればいいんじゃないか?」
「うーん、でもそれって言わないと分からないよね? 私に言われるまで、サムもお嫁さんの仕事はスミおばさんがやっていた仕事だと当たり前に思っていたでしょう? スミおばさんも同じじゃないかな? 自分がやって当然と思っているなら、お嫁さんにも同じ仕事をお願いするんじゃない?」
「あー、そうかも」
「なら、スミおばさんがやっている仕事をどんどんサムがこなせば、どんな人がお嫁に来ても、サムおばさんはうなずいてくれるんじゃない?」

 ちなみにシリムおじさん(サムの父親)は、いつもお店でお客さん相手にのんびり話しているくらいだった。
 一方で、常に忙しそうに動いているスミおばさんが印象的だったんだよね。
 極端だなぁって。

「そうだな。俺、やってみるよ。ミーナ、ありがとう。色々と失礼なことをしたのに、お袋の相談まで乗ってくれて助かったよ。それにしても、よくお袋がごねていた理由が分かったな」
「魔導の基本だよ。因果律は。何事も結果には、元になる原因がある法則なのよ」
「そうか。ミーナも魔導士になるために頑張っているから、俺も家の仕事を頑張ってお袋に認めてもらうよ」

 それからサムは席を立つと、マルクの方を見つめる。

「そこのミーナの連れの人にも謝るよ。ごめん、すげー喧嘩腰で悪かったな。それにミーナのことで怒らせてごめん」
「いえ、分かってくれれば問題ありません」
「今回の件で、俺のことを本当に分かってくれるのはミーナだって気づけたから、今度こそは気を付けるよ」

 サムはニヤリと挑発するように相手を見下ろしていた。
 対するマルクは、学校で常に見せている温厚な先生らしくなく、彼を険しく睨みつけている。

 再び二人で火花を散らさないで欲しいな。どうしたんだろう? いつもは二人とも、愛想がいいタイプなのに。

「じゃあ、今日は突然来て悪いし、もう帰るよ。おじさん、おばさん、お邪魔しました!」

 サムは私の両親に勢いよくお辞儀をした。

「ああ、また遊びにおいで」
「サム、またね!」

 彼が帰った後、急に家の中は静かになった。
 示し合わせたようにお互いに顔を見合わせ、苦笑いをする。

 無事に問題が解決できて良かった。
 そんな安心感を私たちは共有していた。
 たぶん。

 実は、話が拗れたらどうしようって心配していたのよね。
 魔導で過去の記憶をいじるのは難しいのよ。
 最悪呪いをかけて相手の行動を制限するしかないと思っていたけど、そんな事態にならなくて幸いだった。

 お母さんが淹れてくれたお茶が美味しいわ。
 まったり味わっていると、お父さんが意味ありげな視線を向けてきた。

「それで、ミーナの連れてきたお客様は、本日どんな用だったんだ?」
「あっ」

 サムの件があったせいで、頭からすっかり抜けていたわ。
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