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第1章 魔導学校入学

1-5 校長先生の評判

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「はい、ありがとうございます! 校長先生」

 生徒は泣きそうだった表情を安堵の笑みに変えて、再び受け取りカウンターに向かって行く。
 彼の瞬時の対応は、手慣れたものだった。
 校長先生として立派に勤めている彼の姿に私も感心して眺めていた。

 そういえば、昔から彼は面倒見が良かったわね。私が無理難題を言っても、彼はブツブツ文句をこぼしても結局はなんでも聞いてくれた。

「サクスヘル校長先生って、ホント優しくてカッコいいよねー」
「ねー」

 隣に座る友人たちが顔を見合わせて校長の話をしている。

 彼のすらりとした引き締まった立ち姿。洗練されたデザインのスーツは、いつも整っている。
 人目を惹く容姿。後ろ姿も束ねた美しい銀糸のような長い髪が揺れ、完璧すぎていた。

 私も伸ばした髪を束ねているが、残念ながら彼とは違って煌びやかさはなく、ただ単に地味で終わっている。

 弟子が生徒たちに尊敬されていて、私も誇らしく嬉しかった。
 私の死後、彼が真っ当に人生を歩んできたと見るからに分かる。
 今の私と比べたら雲の上のような存在だ。

「数少ない上段の魔導士だし」
「王族なのに全然鼻にかけないし」
「黒薔薇の君に一途なのも素敵よね」
「ねー」

 王族? 一途?

 友人たちの会話を聞きながら思わず固まってしまった。

 就職後には、実績や推薦で、下段、中段、上段の魔導士資格も得ることができる。
 上に行くほど厳しくて、特に上段は国内でも数人しかいない。
 優秀なマルクがその上段の魔導士っていうのは納得だけど、それ以外は全然知らなかった。

 マルクが王族だったのは初耳だ。身寄りがないと弟子本人から以前聞いていたからだ。
 でも、当時王族だと名乗れなかったのなら、よほど後ろ盾もなく、立場がない状況だったのだろう。
 国の命令で私の弟子になったのも、優秀さだけが理由かと思っていたけど、一応血筋も理由にあったのなら、さらに納得がいく。

 一途という言葉にもびっくりしたのも、私の弟子のとき彼にそんな相手はいなかったから。
 私が死んでから、黒薔薇と呼ばれる女性に恋をしたのだろう。
 私がいなくなってからのほうが、彼の人生は長いのだから。

 そう思ったら、私と彼との間に見えない距離を感じて、胸がチクリと小さく痛んだ。

 なんだろう、この寂しい気持ちは。
 泣きたくなるほどに胸が苦しくなる。

 そっか、そうだったんだ。彼にとっては、もう三十年も経っているんだ。
 生きていれば、かなり長い年月だ。
 私はそんな当たり前のことに気づいていなかった。

 現在、彼は平穏に過ごし、社会的な地位を立派に築き上げている。
 それなのに前世で散々迷惑をかけた私が名乗りを上げて彼に迷惑をかける可能性を全然考えてなかった。
 気だって遣わせるかもしれない。

 彼が師匠の偽物を感情的に怒ったのも、もう二度と触れられたくなかったからかもしれない。
 彼が忘れた過去を今さら蒸し返して良かったのだろうか。
 謝罪したかったなんて、私の自己満足なだけだった。

 そうだ。私は良い師匠ではなかったどころか、最悪な奴だった。
 そこまで嫌われていた可能性を考えるべきだったのに失念していた。

 でも、手遅れになる前に気づけてよかった。
 次に彼と話せて師匠だと分かってもらえないなら、もう謝罪は諦めよう。
 彼とは距離を置いて、なるべく関わらないでおこう。

 お互いのために。

 落ち込みそうになる自分に言い聞かせるように決心した。
 その矢先、再び彼と二人きりで会える機会が、突然やってきた。
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