1 / 49
第1章 魔導学校入学
1-1 生まれ変わり
しおりを挟む
どうやら生まれ変わりをしたらしい。そう気づいたのは、弟の怪我の治療で初めて魔導を見たときだ。
前から私には空間をふわふわと浮かぶ光る球体が見えていた。
でも、私以外誰も気づいていないから、見えちゃいけないものだと思っていた。
それを治療院にいたお姉さんは自由自在に操り、弟の損傷部位を治していた。
ああ! そうか。これはマナだったんだ。
これをきっかけに蓋を開けたように記憶が渦のように一気になだれ込んできた。
一人分の人生が、十六歳の私の頭の中にまるで押し入ってくるように。
ただの庶民の娘だったのに、私ではない誰かが生きた形跡を、私は自分のことのように確かに感じていた。
大魔導士様。
そう呼ばれていた前世を思い出したので、家に帰ってから記憶を頼りにこっそりと簡単な魔導を操ったらすぐにできた。どうやら現世でも資質があったようだ。
「私、魔導士になる!」
こう宣言しても、両親には「ミーナ、なに言っているんだ」って全然信じてもらえなかった。
なにしろ私は不器用な上にズボラなところがあり、この年になっても家事すら人並みにこなせなかったから。
料理をすればカチコチの出来栄えになり、繕いをすれば継ぎ接ぎが目立つ仕上がりになった。
それでも両親は「歯が丈夫になっていい」「斬新なデザインだな」って決して責めなかったけど。
でも、その極端な不出来のせいで、せっかく働き口が見つかっても使えないと早々に首になり、家事すらまともにできないと近所でも有名だったから年頃になっても嫁ぎ先の当てすら見つからなかった。
子どもはさっさと手に職をつけて家族の家計を支えているのが常識の世の中で。
「顔だけは良いんだから金持ちの妾にならなれるんじゃない?」
そんな風に一部の知り合いに冗談めかしてキツイ言葉を掛けられることもあった。
生活がギリギリな庶民の女子が、独身のまま生きていけるほど世の中は甘くない。
家族のお荷物。それが私の立場だった。
「魔導士は、家事ができなくてもなれると思うけど、資質がないとなれないみたいよ」
家族は小さな子供に言い聞かせるように優しく説明してくれた。
「えーと」
前世の記憶を思い出したなんて、そんな突拍子もないことを言えなかった。
下手したら頭がおかしくなったんじゃないかと心配される恐れがあった。
実際に見せれば手っ取り早いと思って、家族の目の前で魔導を使ってかまどの薪に火をつけたところ、みんなは目玉が飛び出そうなくらい驚いた。
そのまま両親は近所の人に言いふらして、あっという間に魔導士専門の学校に受験できるように手筈が整えられていた。
すごかった。ご近所の伝手と人脈。
現世でも魔導士は稀有な職業だ。まず資質がないとなれない。血で受け継がれやすいが、それでも必ずとは言えない。
稀に私みたいに庶民にも現れたら、出世街道まっしぐらで、羨望の眼差しで見られる。
魔導士の一番下の資格でも、庶民の月給に比べたら高額だ。
そもそも魔導士の家系は裕福な家庭が多いので、庶民でも優秀ならそういった人との縁組も勧められることもある。
まさに女の子なら、玉の輿を狙えるくらい憧れの職業だ。
学費も相当高いけど、学校に合格さえできれば庶民向けの奨学金や貸与制度が国から提供されているから支援もばっちり。
両親は不器用な私の将来を本気で心配していたから、素質があると分かって心から喜んでくれた。
「いやー、娘にこんな取り柄があったとは!」
「ミーナ、がんばってね!」
今日のために両親は、綺麗なベージュのジャケットと若草色のスカートまで用意してくれた。
長い髪は今日はお母さんが一つにまとめ上げてくれたから、このまま花でも飾れば結婚式に参列できちゃうよそ行きだ。
家族や地元のみんなに期待を込められて、私は受験会場に向かった。
実は私には目的がある。
私が死んでから三十年経っているけど、前世の弟子——マルクを探すことだ。
彼は私の弟子だった当時、まだ少年だった。
女の子みたいに可愛らしい顔つきだったので、本気でたまに性別を忘れて同性だと思い込んじゃうくらいだった。
口が達者でちょっと生意気だったけど、ズボラな私の身の回りを健気にも世話してくれて、とても真面目な子で、今から思うとすごくいい子だった。
でも、私は正直なところ教えるのに究極的に向いてなかった。
だから、彼が私の弟子になったのは非常に不幸なことだったと思う。
どうしても弟子をとれって、上からの圧力でイヤイヤながら引き受けてたんだよね。
どんなに冷たい態度でも、辞めない奇特な子だった。
生まれ変わってまともな両親に育ててもらって改めて思ったけど、私はあの子に対してすごく最低だった。
彼、まともに生きているんだろうか。
弟子なんて辞めれば?って聞いたらマルクは身寄りがなくて帰るところがないって言っていたんだよね。
前世の私は「ふーん」って興味ない感じで冷たく返しただけだけど。
他に頼る人がいないから、彼は最悪な師匠の私から離れられなかっただけだったのに。
なんてことなの。
もうちょっと人として誠実に優しく対応すれば良かった。
前世の悪行がとても悔やまれた。
だから、彼が生きていて、辛い人生を歩んでいるなら、助けてあげたかった。
もし、前世の私を恨んでいるなら、土下座してでも謝りたかった。
そのためには、まずは彼と再会しなくちゃいけない。
魔導士になって彼を探そうと計画を立てた。
前から私には空間をふわふわと浮かぶ光る球体が見えていた。
でも、私以外誰も気づいていないから、見えちゃいけないものだと思っていた。
それを治療院にいたお姉さんは自由自在に操り、弟の損傷部位を治していた。
ああ! そうか。これはマナだったんだ。
これをきっかけに蓋を開けたように記憶が渦のように一気になだれ込んできた。
一人分の人生が、十六歳の私の頭の中にまるで押し入ってくるように。
ただの庶民の娘だったのに、私ではない誰かが生きた形跡を、私は自分のことのように確かに感じていた。
大魔導士様。
そう呼ばれていた前世を思い出したので、家に帰ってから記憶を頼りにこっそりと簡単な魔導を操ったらすぐにできた。どうやら現世でも資質があったようだ。
「私、魔導士になる!」
こう宣言しても、両親には「ミーナ、なに言っているんだ」って全然信じてもらえなかった。
なにしろ私は不器用な上にズボラなところがあり、この年になっても家事すら人並みにこなせなかったから。
料理をすればカチコチの出来栄えになり、繕いをすれば継ぎ接ぎが目立つ仕上がりになった。
それでも両親は「歯が丈夫になっていい」「斬新なデザインだな」って決して責めなかったけど。
でも、その極端な不出来のせいで、せっかく働き口が見つかっても使えないと早々に首になり、家事すらまともにできないと近所でも有名だったから年頃になっても嫁ぎ先の当てすら見つからなかった。
子どもはさっさと手に職をつけて家族の家計を支えているのが常識の世の中で。
「顔だけは良いんだから金持ちの妾にならなれるんじゃない?」
そんな風に一部の知り合いに冗談めかしてキツイ言葉を掛けられることもあった。
生活がギリギリな庶民の女子が、独身のまま生きていけるほど世の中は甘くない。
家族のお荷物。それが私の立場だった。
「魔導士は、家事ができなくてもなれると思うけど、資質がないとなれないみたいよ」
家族は小さな子供に言い聞かせるように優しく説明してくれた。
「えーと」
前世の記憶を思い出したなんて、そんな突拍子もないことを言えなかった。
下手したら頭がおかしくなったんじゃないかと心配される恐れがあった。
実際に見せれば手っ取り早いと思って、家族の目の前で魔導を使ってかまどの薪に火をつけたところ、みんなは目玉が飛び出そうなくらい驚いた。
そのまま両親は近所の人に言いふらして、あっという間に魔導士専門の学校に受験できるように手筈が整えられていた。
すごかった。ご近所の伝手と人脈。
現世でも魔導士は稀有な職業だ。まず資質がないとなれない。血で受け継がれやすいが、それでも必ずとは言えない。
稀に私みたいに庶民にも現れたら、出世街道まっしぐらで、羨望の眼差しで見られる。
魔導士の一番下の資格でも、庶民の月給に比べたら高額だ。
そもそも魔導士の家系は裕福な家庭が多いので、庶民でも優秀ならそういった人との縁組も勧められることもある。
まさに女の子なら、玉の輿を狙えるくらい憧れの職業だ。
学費も相当高いけど、学校に合格さえできれば庶民向けの奨学金や貸与制度が国から提供されているから支援もばっちり。
両親は不器用な私の将来を本気で心配していたから、素質があると分かって心から喜んでくれた。
「いやー、娘にこんな取り柄があったとは!」
「ミーナ、がんばってね!」
今日のために両親は、綺麗なベージュのジャケットと若草色のスカートまで用意してくれた。
長い髪は今日はお母さんが一つにまとめ上げてくれたから、このまま花でも飾れば結婚式に参列できちゃうよそ行きだ。
家族や地元のみんなに期待を込められて、私は受験会場に向かった。
実は私には目的がある。
私が死んでから三十年経っているけど、前世の弟子——マルクを探すことだ。
彼は私の弟子だった当時、まだ少年だった。
女の子みたいに可愛らしい顔つきだったので、本気でたまに性別を忘れて同性だと思い込んじゃうくらいだった。
口が達者でちょっと生意気だったけど、ズボラな私の身の回りを健気にも世話してくれて、とても真面目な子で、今から思うとすごくいい子だった。
でも、私は正直なところ教えるのに究極的に向いてなかった。
だから、彼が私の弟子になったのは非常に不幸なことだったと思う。
どうしても弟子をとれって、上からの圧力でイヤイヤながら引き受けてたんだよね。
どんなに冷たい態度でも、辞めない奇特な子だった。
生まれ変わってまともな両親に育ててもらって改めて思ったけど、私はあの子に対してすごく最低だった。
彼、まともに生きているんだろうか。
弟子なんて辞めれば?って聞いたらマルクは身寄りがなくて帰るところがないって言っていたんだよね。
前世の私は「ふーん」って興味ない感じで冷たく返しただけだけど。
他に頼る人がいないから、彼は最悪な師匠の私から離れられなかっただけだったのに。
なんてことなの。
もうちょっと人として誠実に優しく対応すれば良かった。
前世の悪行がとても悔やまれた。
だから、彼が生きていて、辛い人生を歩んでいるなら、助けてあげたかった。
もし、前世の私を恨んでいるなら、土下座してでも謝りたかった。
そのためには、まずは彼と再会しなくちゃいけない。
魔導士になって彼を探そうと計画を立てた。
1
お気に入りに追加
1,277
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
愛されたくて、飲んだ毒
細木あすか(休止中)
恋愛
私の前世は、毒で死んだ令嬢。……いえ、世間的には、悪役令嬢と呼ばれていたらしいわ。
領民を虐げるグロスター伯爵家に生まれ、死に物狂いになって伯爵のお仕事をしたのだけれど。結局、私は死んでからもずっと悪役令嬢と呼ばれていたみたい。
必死になって説得を繰り返し、領主の仕事を全うするよう言っても聞き入れなかった家族たち。金遣いが荒く、見栄っ張りな、でも、私にとっては愛する家族。
なのに、私はその家族に毒を飲まされて死ぬの。笑えるでしょう?
そこで全て終わりだったら良かったのに。
私は、目覚めてしまった。……爵位を剥奪されそうな、とある子爵家の娘に。
自殺を試みたその娘に、私は生まれ変わったみたい。目が覚めると、ベッドの上に居たの。
聞けば、私が死んだ年から5年後だって言うじゃない。
窓を覗くと、見慣れた街、そして、見慣れたグロスター伯爵家の城が見えた。
私は、なぜ目覚めたの?
これからどうすれば良いの?
これは、前世での行いが今世で報われる物語。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※保険でR15をつけています。
※この物語は、幻想交響曲を土台に進行を作成しています。そのため、進みが遅いです。
※Copyright 2021 しゅんせ竣瀬(@SHUNSEIRASUTO)
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
【完結】隣国にスパイとして乗り込み故郷の敵である騎士団長様へ復讐をしようとしたのにうっかり恋をしてしまいました
るあか
恋愛
ルカ・エマーソン18歳は12年前に滅びた『魔女の森』の唯一の生き残り。
彼女は当時のことを今でも頻繁に夢に見る。
彼女の国『メドナ王国』の“クリスティア女王陛下”は、隣国『ヴァルトーマ帝国』へ彼女をスパイとして送り込む。
彼女の任務は帝国の騎士団へ所属して“皇帝セシル・ヴァルトーマ”が戦争を仕掛けようとしている事実を掴むこと。
しかしルカには個人的に果たしたいことがあった。それは、帝国の白狼騎士団のヴァレンタイン騎士団長を暗殺すること。
彼は若いながらに公爵の身分であり、騎士の称号は大将。
12年前に『魔女の森』を滅ぼした首謀者だと彼女は考えていて、その確たる証拠を掴むためにもどうしても白狼騎士団へと入団する必要があった。
しかし、白狼騎士団の団長は女嫌いで団員は全員男だと言う情報を得る。
そこで彼女は髪を切り、男装をして入団試験へと挑むのであった。
⸺⸺
根は真面目で素直な少し抜けたところのある、とても暗殺者には向かないルカ。
これは、彼女が復讐すべきである騎士団長へ恋をして当時の事件の真実を知り、愛する彼と共に両国の平和のため尽力して幸せになる、異世界ラブコメファンタジーである。
※後半シリアス展開が続き、戦いによる流血表現もありますのでご注意下さい。
※タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる