番と出会ったからって婚約破棄されましたけど、超エリートで美貌の彼から求婚されました。元婚約者から今さら勘違いだったと言われても修羅場です。

藤谷 要

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氷解

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 座席に正面衝突しそうになり、衝撃の痛みを覚悟したけど、いつまで経っても痛みはこなかった。

「大丈夫か?」

 なんとセラフィム様が私を抱きかかえて助けてくれていた。
 どういうわけか、ちょうど彼の膝の上に乗せられている。

 うっとり幸せそうな顔で、私のことを見下ろしていた。
 そんな彼の健気な様子を見たら、また胸の奥できゅんきゅん甘酸っぱい気持ちが溢れてくる。

 やだ、本当に可愛い。
 顔が急に熱くなってきた。

「助けてくださり、ありがとうございます……」

 私が礼を言うと、彼はますます嬉しそうに微笑んだ。
 ジュウと音を立てて彼の体にこびりついていた氷が一瞬でとけていく。

 彼の美貌が、一際輝いた気がする。
 彼の体と密着しているので、否応なしに鼓動がさらに激しくなっていく。

「どこか痛いところはあるか?」
「いいえ、ありません。大丈夫です。セラフィム様、下ろしていただけますか?」

 彼の膝の上にお姫様抱っこのままではとても恥ずかしいので、さっさと退きたかった。
 顔から湯気が出そうなほどだ。
 ところが、彼は私の申し出を聞いた途端、にっこり笑った。

「嫌だ」
「え?」

 駄々っ子のような拒否が返ってくるとは思わなくて、目が点になった。

「ルシアン、私は気がついた。あなたに触れていたら、番の症状があまり苦しくないんだ。このまま私と一緒にいてほしい。拒否されたら、また悲しみのあまりに周囲を凍らせてしまうかもしれない」
「凍らせるって……」

 先ほどの凍ったセラフィム様を思い出して、彼の提案が嘘でも冗談でもないとすぐに悟る。
 今でさえ、周囲に多大な迷惑をかけているので、彼の要求をのむしかないと思った。

「し、仕方がありません。車内がまた凍っては大変なので、あなたの指示に従いたいと思います」

 べ、別に、嬉しいとか、彼に絆されたわけじゃないんだからね!

「良かった」

 彼は少し安堵したように息を吐くと、ぎゅっと私を抱きしめてくる。
 先ほど似たような状況でキスされたので警戒するが、彼はそれ以上は私に何かする気配はないようだ。
 ずっと私が腕の中にいるだけで、本当に満足しているみたいだ。
 ひとまず彼は落ち着いたみたいだけど、一方で私は全然休まらない。
 ずっと恥ずかしいし、緊張してドキドキしっぱなしだ。
 しばらくじっと座っていたが、気を遣って彼を背もたれにできないので、姿勢を保つのに疲れてきた。

「あの、重くないですか?」

 彼の様子を窺い、隙があれば膝から降りたいと願って声を掛けたが、彼は残念ながら首を横に振る。

「いいや、全然。それよりも逆にもっと体を私に預けたまえ。それじゃあ疲れるだろう?」
「で、でも」

 それをすれば、ますます彼と密着するはめになる。

「いいんだ。私のことはただの椅子だと思ってくれて構わない。気にする必要はないから」

 そんなとろけるような笑顔で言われても、出会ったばかりの人に甘えられるわけなかった。

「あの、でも、やっぱり、下ろしてくれませんか……?」

 意を決してお願いしてみたら、セラフィム様は返事をする代わりにみるみる凍っていく。
 冷たい刺すような風が急に吹いて、私の肌から熱をみるみる奪い去っていく。
 ひぇぇぇ! ヤバイ!

「あの、横にいても、ずっとあなたの手を握っていますから!」

 そう叫ぶように言うと、ピタリと風が止んだ。

 結局、私とセラフィム様は仲良く並んで座り、到着するまで彼と手をつないでいた。
 いわゆる恋人繋ぎっていう、あの恥ずかしい方法で。

「セラフィム様は、本当に私でいいんですか? 実は私、先日まで別の男と婚約していたんですよ。彼に番が見つかったって振られちゃいましたけど」
「そんなこと、全然気にするものか。今、私の目の前にあなたがいることが全てだから」

 セラフィム様は甘い言葉をささやきながら、私の肩にも手を回していた。
 それからすぐに横から覆いかぶさるように抱きつかれて、「いい匂いだ」って言われながら私の髪に頬ずりもされている。

 本当にこの人は、私のことが好きなんだよね。
 正気を失うくらいに。
 ここまでくると、しょうがないなぁって思い始めていた。
 残念ながら前言撤回する。本当に絆され始めている。

 私とセラフィム様の様子が落ち着いたと感じたのか、マリカは率先して兵士たちに話しかけて、私たちを放っておいて魔法省の派遣メンバーと兵士たちが和やかに自己紹介を始めている。

「ええー! キルトさんってば、出身地はあそこだったんですか!? 私の実家、昔そこの隣町だったんですよ! わー、奇遇!」

 マリカの明るい声のおかげで車内の雰囲気はとても良くなっていた。
 ほんと、マリカありがとうー。

 うん、私は諦めの境地に達していた。
 慣れというのは恐ろしいもので、防護壁に到着までの最後の一時間くらいは、彼の温もりで眠くなってウトウトしていた。
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