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メイアス様へのお願い

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 だから、ちょっと強引だったけど、聖女だと知りながら私を求めたのね。

 でも、私はメイアス様のことを何とも思っていなかったけど、彼に抱かれたあとも癒しの力を失わなかった。その理由がよく分からない。

 愛のない交わりだと、聖女は加護を失ってしまう。それが昔から伝えられている教えだ。

 お互いに愛がないといけないと思っていた。
 もしかして、一方通行な想いでも大丈夫なの?
 いいえ、そんなことはないはず。

 じゃあ、なぜ私の力は失われなかったの?
 まさか、彼がレイに似ていたから?
 それとも――。
 あぁでも、色々考えても、今はまだ推測に過ぎない。

 そう、大事なのは、客観的に見て、聖女が抱かれて癒しの力を失っていない状況を納得させることだ。

 なぜなら、他の聖女の貞操を守れなくなるから。

 どうしようかと対応を迷っていたけど、これで決心できた。
 そうよ。彼が私を好きなら、私も彼のことを好きならいいじゃない!

 私とメイアス様は、実は両想いだったのよ。
 そうと決まれば、私がこれから言うべき台詞は決まった。

「わ、私もメイアス様をお慕いしておりました。あの国王に殺されそうになったとき、私を助けてくださった方ですから」

 私は恥ずかしそうにメイアス様の目を見つめた。
 すると、彼はとても嬉しそうに破顔した。すぐに私を両腕で抱きしめてくれる。

「そうか、だからか。昨晩、あんな不思議なことがあったのか」

 またメイアス様がとんでもないことを言い出した気がする。

「どういうことですか?」
「昨日の交わりでは、癒しの力を失くさなかっただろう? 私は見たんだ」

 彼から確信しきった発言をされて、私は言葉を失う。
 メイアス様は真剣な目で私を見つめていた。

「……何をご覧になったんですか?」

 不安に思いながら尋ねたが、逆にメイアス様は照れくさそうに頬を赤らめた気がした。

「その、夜の営みの最中にあなたの体がほのかに光った気がしたんだ。あなたも喜んでいると思って嬉しかった」
「……まぁ!」

 自分の体が光っていたのも驚きだけど、今度は演技ではなく本気で恥ずかしくなる。

「その、とても素敵な夜でしたわ」

 メイアス様があまりにもレイに似ていたから、まるで彼に抱かれているみたいだった。
 久しぶりだったけど、優しくしてくれたおかげで、痛くもなく、彼に対して嫌悪感もなかった。

 でも、メイアス様はレイではないのに――。
 一抹の罪悪感が胸の奥をかすめていく。

 私が心の底では偽っているのを知らず、彼はますます愛おしそうにぎゅっと抱きしめてくれる。

 メイアス様だけではなく、神様までも私は騙しているのかもしれない。
 でも、他の聖女を守るためにも、私は愛で結ばれた男女を演じるつもりだ。

 私は仮面を貼り付けてメリアス様を見つめる。

「でも、私は心配なんです」

 顔色をわざと曇らせると、彼はすぐに異変に気が付いてくれた。

「どうしたんだい? 愛しい妻よ」
「私たちが愛し合っていることは私たち自身がよく理解していますが、他の方はどうでしょうか」
「どういうことだ?」

 メイアス様が怪訝な表情をする。

「愛し合っているおかげで、あなたに処女を捧げても私は癒しの力を失いませんでした。でも、出会ったばかりの私たちが愛し合っていると、他の人には信じづらいと思うのです。私が大丈夫だったせいで、他の聖女が貞操を狙われでもしたら恐ろしくて」

 私はいかにも不安で仕方がないといった顔をしていた。

「だから、お願いがあるんです。外では白い結婚を続けているフリをしてほしいのです」

 メイアス様は考え込むように私を見つめて、やがて安心させるように微笑んだ。

「ああ、分かったとも。あなたがそう願うなら、しばらくはそうしよう。私も都合がいいからな。ジン、いるか」
「はっ、ここに」

 メイアス様が誰か呼んだ瞬間、打てば響くような速さで知らない男の声が返ってきた。
 驚いて振り返れば、寝台の脇に気配なく男が跪いて控えていた。闇に溶け込むような黒髪だ。

「私とルミネラとの仲は清いままだと情報を調整してほしい」
「分かりました」

 ジンと呼ばれた男は返事をすると、あっという間に部屋から姿を消した。

 メイアス様は私を安心させるように見つめる。

「大丈夫。彼らは優秀だから、希望どおりの結果をもたらしてくれるだろう」
「ありがとうございます、メイアス様」

 彼も納得してくれて一安心――と思っていた。

「でも、夜には仕事をしっかりしてもらうから」

 そう言って彼はほくそ笑んでいる。これは一体どういうこと? 何か身の危険を感じるのは、気のせいかしら。
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