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第六章 龍と解放と中年冒険者

生物と中年

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 ……ん……またか……寝、
『ーーかせないよ! ほら、起きて起きて!』

 リンリンは相変わらずだな。

「なぁ、こんなにこっち来て大丈夫なのか?」
 起き上がり、聞くと。

『んー? まぁいいんじゃない? ていうか、無理しすぎ! あんだけ言ったのに』
 
「……お前は見過ぎだろ? 俺の本体は?」
 ちゃぶ台の方へリンリンと歩いて行く。

『寝てるね。あの子がホテルの従業員と部屋まで運んでたよ』
 
 ……帰ったらリズムに謝らないとな。

「そうか、で? なんで呼んだんだ?」

『あのねー!』
『久しぶりだな、また会うとは思ってなかったよ』

「あぁ、ち、チリツカ?」

『そうだ、お前の名はカズトだったな。そこのチビが迷惑かけるな』
 前会った時よりは元気そうだな。

『あのねー、チリ君? 僕が説明しようとしてるのに、なんで、ヒサシブリダナ! なんだよ!』

『……リンリン、俺の真似か? 似てないぞ?』
 似てないな。

『うっさいなー! カズトが来てるんだから、お茶ぐらい出しなさいよ!』

「お前が出せよ」

『あ! カズトまで! ……いじけるぞ』
 しまった、声に出てたか。

「悪かったよ、リンリン。話を進めよう」

『ふん! まぁ許してあげるよ! で、話だけど、認識出来ないあれ、分かったよ』

「早いな、で、なんだったんだ?」

『……U・M・Aぇー』
 ……は?

『あぁ、未確認生物だな』
 ……は?

『だからチカ君は黙って、どしたの?』

「あぁ、……俺からしてみれば、いま戦ってるのも、守護者も、全てが未確認生物なんだが」

『『あぁ』』

『いや、そうだけど、そんだな。……じゃあ、認識されていない生物ってこと』
 ん? あぁ。

「分からないようで、分かった。見た事も聞いた事も想像すらした事もない生物ってことか?」

『それだ! でも聞いた事はあるはず、ゴースト』
 は?……幽霊?

「……それは、なんとも……」
 また凄いとこが出て来たな。

『リンリンはカズトの分かりやすい言葉で言っただけだ。ファントム、幽霊、ともに同じ言葉だな』
 分かりやすく?

『そう、次元が違うって言えば分かるかな? れっきとした生物であり、交わることのなかった生物』
 ……頭が痛くなりそうだ。

「なら、何故認識できたんだ? たしかに鬼のような奴だったが」

『それは纏いだろうな。死んだのは鬼、纏っていたのがそいつなんだろう』
 チリツカが説明するが、

「とりあえずファントムとしよう。それが憑依のように、鬼に憑いていて、喋りすぎたから殺して、死体を持っていった?」

『たぶんそうだね。何をしてるのかは』

『おい、そこまでは』
 言えないのか。

「あぁ、ありがとう。認識出来ないから解析出来ないって事は、認識出来たら」

『解析出来るし、触ったりも出来る』
 ……それが分かれば十分だ。

「ふぅ、なら認識できるようにならないとな」
 スキルであるかな?

『お茶どうぞ。まぁじっくり探してみるといいよ。ただ無理はダメだよ?』
 
 ……リンリンの頭を撫でて、
「あぁ、心配かけたな。ありがとう」

『俺からも一つ。カズトは強い。……が、心は大事にしろ』

 いや、心を大事にって……

『カズトの心は古傷でボロボロ。……僕達は見える、心は癒えることはない。……前にも言ったけど、君の手は二つ』

 ……何を掴む……か。

「あぁ! 俺は俺の仲間を掴む! だぁーいじょうぶだ! 俺は面倒くさがりだからな!」
 大丈夫……もう病気は治った。

『……カズト』
『ーーリンリン』

「心配すんなって!」
 俺は茶を飲み干して、

「ここの茶は旨いな、ごっつぉさん!」

『うん、それじゃまたね』
 リンリンの頭を撫でて、

「おう! チリツカもありがとな」

『あぁ、またな』


『チリ君、カズトは無理をするよ?』
 畳に座ったままのリンリン。

『あぁ、そうだろうな。……じゃないと、あんなに傷付かないだろう』

『……無理しないで』

 リンリンの声は細くなり消えていく。
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