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第七十四話

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「お、俺はまだ負けてない!」
 朝っぱらから腫れもまだ引いていないアムレスがリミの家に怒鳴り込んでくる。
「アムレス?どうやってもこの勝負はお前の負けだ」
 リミの父親、アランさんがそう言う。
「嫌だ嫌だ!俺の婚約者はリミエラ以外にはいないんだ!」
 と大声で駄々をこねる。

「しょうがない」
「ですです」
「ちょっ!待て!押すな!二人とも!!!」
 アイラとネイルに押されるリミは俺にしがみつく。
「んー…眠い…殺す?」
「スロウス?物騒なことは言わない。しかし困ったな」
 スロウスは背中に引っ付いてるし、右腕にはリミ、正面はアムレスがいる。

「ここは剣で勝負するか?」
「な!や、野蛮だ!そんなもので」
「受けないならお前の負けだ」
「くっ!わ、私は弓で勝負だ!」
「いいぞ?そっちが弓でも」
「お前も弓にしろ!そしたら」
「…あまり怒らせるな?」
「ひ、ひぃ!お、覚えてろ!」
 と走って逃げていくアムレス。

「なんでめげないんだ?」
「さぁ?とりあえずミード酒を作ってくるわね!」
「いってらー」
「あんた達も手伝うの!」
「「はーい」」
 アイラとネイルも行ったところで、アランが切り出す。
「うちのお転婆だが、本当にいいのか?」
「俺はリミ以外考えられないです」
「それならいい、後の二人もそうなんだろ?」
「そうです」
「そうか、なら3人とも平等に愛せ」
「はい!」
 それからはスロウスと3人でツマミとミード酒で盛り上がった。
 スロウスは子供のようだが、結構歳を食っている。封印されていた時間も入れると相当だな。
 しかし、スロウスの親が本当の『怠惰』だったようで賢者に討ち取られ、幼いスロウスが二代目になって封印されたようだ。

「うまうま!エリスおばちゃん!おかわり!」
「はいはい!よく食べるね」
「すいません、これ、少しですが」
「あら!このお肉って!」
 収納から出したのはワイバーンの肉だ。
「ワイバーンですが」
「やったわ!お肉ってここじゃ高級なのよ!ありがとうルシエくん!」

 エルフはベジタリアンってイメージだったが、普通に肉も食べる。ただこの森には動物があまりいない為、出回るのが少ないのだ。

「あー、疲れた」
「お疲れ様」
「あ!3人で宴会?」
「ズルイですよ!私達はミード酒の仕込みにいってたのに!」
 とリミ達は不満を爆発させる。
「悪い悪い、まぁ、座って一緒に飲もう」
「疲れたから唐揚げが食べたいです!」
「何なに?唐揚げって美味いの?」
 あー、スロウスが食いついた。
「ちょー美味いです!肉汁がジュワッとでてくるあの味は忘れられないですね」
「食べたーい!!」
「分かったよ、作ってくる」
 立ち上がりエリスさんの所で唐揚げを作る。

 リミ達もスロウスにも慣れたようで和気藹々と盛り上がっている。

「唐揚げできたぞー!」
「「「「やったぁ!」」」」
 奪い合いになりそうなほどの勢いで無くなる唐揚げはもう一度作らないといけないようだな。


 次の日はゆっくりしてからエルフェイムを案内してもらう。
 この街はエルフしかいないと思っていたが、人間もちらほら見かけるな。
「人間と結婚した人もいるよ?」
「そうなんだな。流通はどうしてるんだ?」
「それは『コレ』を使って仕入れなんかはしてるのよ!」
 『コレ』とは昔見せてくれたイヤーカフだ。
 やはり人間に化けないと一部の人間からは奴隷の対象だからな。

 買い物も普通と変わらず王国貨幣が使われている。まぁエルフの国と言っても小さいし、あるものは使って行ったほうがいいしな!

 スロウスの服なんかも一緒に大量の買い物袋を収納する。これだけ買ったわけだしリミ達の物欲は満たされたようだ。
 俺もエルフの錬金術の本とミード酒を大量に買い込んでおいた。ラビオン達が飲み尽くしそうだがな。

 夜はまたアムレスがきたが、折り合いがついたのかリミに別れを告げていた。

 次の日はようやくエルフの街エルフェイムを出発し、ダラーに向かう。
 またあのド派手な看板を見ないといけないのかと思い少し気が滅入るが、ラビオン達を迎えに行かないとな。
 空間拡張された荷車は随分と乗り心地がいいようでスロウスはずっと寝ているようだ。

 ようやくダラーが見えるところにやってきたら人が倒れていた。よく見ると両手足に鎖がついていて引きちぎってきたようだな。
 馬車にのせ、治療を行う。
「う…うぁ、」
「気が付いたか?」
 男は筋骨隆々で肌は黒く焼けている。多分闘技場から逃げてきたんだろう。
「なにがあった?」
「…お、俺はグレン、闘技場の奴隷だ」
「そうか、とりあえずこれを口にしろ」
 グレンは少し食べさせると落ち着き、闘技場でのことを話し始める。
「借金奴隷で買われた俺は死に物狂いで頑張って頂点に登り詰め、ようやく解放される日に殺されかけた」
「話が違うな」
「オーナーのジャイコフが仕組んだ罠だった。仲の良かった奴らもこうやって殺されたんだ」
 グレンは涙を流していた。

「だが、どうするんだ?オーナーと言えば簡単に会えないだろ?」
「あぁ、もう一度戻らなければいけない」
「ここで逃げたらどうだ?」
「今も苦しいが戦っているやつらがいる。そいつらの希望はまやかしではいけない」
 グレンは真っ直ぐ俺を見ている。
 スキルツリーを見ると拳闘士がほぼマックスだ。

「仕方ない、今日は休んで明日闘技場まで乗せて行くよ」
「悪いな…ありがとう」
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