上 下
71 / 95

第六十八話

しおりを挟む

「悪いなウリン、付き合わせちまって」
「今さらだろ。それよりこっちで合ってるのか?」
「あぁ!ラムザの飴の匂いがするからな」
「お前は犬か!だが、わかる。さすがにこんな森の中で甘い匂いがこれだけするからな」
 ラビオンとウリンは森の中、臭いを辿ってラムザの後を追う。

「ラムザが持っててよかったぜ!闇雲に探すのはしんどいからな」
「あぁ、さっさと連れ戻してみんなのところに帰ろう」
 飴は子供の高い体温で溶けてラビオン達を導く。

 迷わず真っ直ぐに突き進む先に大樹が見える。
「嫌な予感がする」
「だー!言うなよ!そんなこと分かってるっつーの!」
 ウリンの言うことにわざと明るく振る舞っても冷や汗を流しながら先に進んでいく。

 突然視界が広くなり、森を抜け開けた場所に躍り出る。
「おっと!ら、ラムザ!!」
「ら、ラビオン!!」
 飛び出してきたラビオンを見て叫ぶラムザは大樹に手足を杭で打ち付けられていた。
「おい!お前か?…お前がやったのか…」
 ラムザの前に鎮座する男がいた。

「お前は誰だ?ここに来ていいのは純潔を守りし者だけだ」
 男が顔を上げ立ち上がりながらそう呟く。

 肌は白く死人のような顔色だが、身体つきはがっしりとしている。髪は長くボロを着ていて特徴的なのは一本の角が額から生えていた。

「ウリン…これはちとやばいぞ」
「分かってる、だがここで逃げるのは無しだ」
「あぁ、仲間を、ラムザを連れ戻す」

 武器を構える二人に対し、男はダランと両腕を放り出して立っている。

「なっ!!グハッ!」
「ラビオン!ウガッ!!」
 気付くと目の前に移動していた男に殴り飛ばされる二人。

「クッ!」
「カハッ!はぁ、はぁ」
 二人を見つめ、
「お前たちは弱い…いまなら痛みを感じる前に殺してやろう」
 そう言って手を伸ばしてくる男の手を『パリィ』で弾く。
「ふざけるな!『ストライクブレード』!!」
 振り下ろされる大剣を木の葉でも払うようにもう片方の手で弾く。
「『死神の一撃デスブロウ』!!」
 背後からのウリンの攻撃は男の首に刺さり血が吹き出る。

「『一刀両断』!!」
 ラビオンが男の右の肩口から縦に切り裂く。
「おらぁぁ!!ウリン!」
「ウォォオォォ!!」
 ラビオンが叫ぶ前にもう走り出しているウリンは大樹まで後一息だった。

『…』
「ガッ!ァァァァアァァアァァ!!」
 突然目の前に出てきた男に片腕で頭を掴まれ叫ぶウリン。
「どこから出てきやがったオラァアァァ!!」
 走って大剣で斬りつけ男の腕からなんとかウリンを助けるとウリンを抱えて後ろに飛び退く。

「グァッ!頭が割れそうにいてぇ…」
「あいつ斬ったはずなのに…なんだ?化け物か!?」
 男を見ると肉が蠢いて斬り裂いた部分が繋がっている。
『…この大樹に触れる者は…誰であろうが死ぃあぁルゥのぉみイィィィィィィィィィ!!!』
“ドォン”

「ガッ!!」
「グァッ!!」
 ラビオンとウリンは気付くと森の木にぶつかり肺の空気を一気に押し出される痛みに倒れる。
『ウルァァアァァァァ!!!』
 ウリンの足を持ち木に打ちつける男の下半身は馬のようになっていて半人半獣の獣と化している。

「ヴリィン!!やめろぉぉぉ!!!」
 力を振り絞り大剣を男の顔面にぶち当て止めるとウリンを引っ張り後ろの茂みに放り投げる。
“ドサッ”
 茂みの音を確認すると、
「お前の相手はこの俺ダァ!こっからは俺以外に手を出すな!!」
 鼻血を流している男は指で拭うと、
『よかろう!相手をしてやる!!我は『ユニオン』!!貴様を塵芥にしてやろう!!』
「うるせぇよ、俺はラビオンだ!テメェをぶっ殺してラムザを助ける!!」
 二人は睨み合いから一転、高速でぶつかるユニオンとラビオンの姿が中央に現れる!

“ギイィィィィン!!”
 ユニオンのツノにラビオンの大剣がぶつかり金属音があたりに響き渡る。
“ガッッ!!”
「グッ!!まだ、まだ負けてねぇ!!」
『ウルァァアァァァァ!!生き汚い哀れなお前には死を!!』
「グハッ!ガァッ!グッ!!」
『弱い!!何故死なんのだ!!ガッッ!』
 殴られていたラビオンだったが大剣をユニオンの顔面にぶち当てる。

「ゴボッ…お、おじゃべりがずぎるだ…ろ。」
 満身創痍のラビオンはいつ倒れてもおかしくない。
『『モノケロース』』
 ユニオンの額から伸びた角がラビオンに突き刺さろうとするが、
「グァァアァア!!!」
「ヴリン…」
「腰についたポーション飲み干せぇ!!」
 角を二つのダガーで抑えているウリンの腰からポーションを取ると飲み干すラビオン。

「おまえこれ大事にしてたポーションだろ?!」
「だぁぁぁあぁ!!う、うっせぇ!早くしろォォ!!」
「オラァアァァ!!」
 ウリンのダガーが砕け散る瞬間、ラビオンの大剣が角に当たりユニオンは横に吹き飛ぶ。

「ウリン!急いげ!」
 ユニオンが吹き飛んだ方に剣を構え、大樹に向かうウリンを守るように立つラビオン。
「わぁってる!!ラビオンも急『オラァ!!』」
 ラビオンの背後を何かが横切る。
 ラビオンが振り向くと角に刺さったウリンを放り投げるユニオンの姿があった。

「…う、ウリン!!」
 倒れて動かないウリンからは血が流れている。
『怒らせたのはお前らだ、決闘の最中に他人が入ることは許さん』
 静かにそう言い放つユニオンは全身が赤くなり湯気のようなものが身体から出ている。
『それよりも許せないのは大樹に近づく事』
 ユニオンはウリンの足を蹄で踏み力を入れて行く。
『ヴァルゴの園を荒らす者は死で償う』
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...