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第五十五話
しおりを挟む王城に着くと公爵が顔を見せる。
さすが王弟だから顔パスだ。
馬車から降りると、大きなエントランスがあり、アイズやマリンは来た事あるらしいがやはり緊張はするんだな。
俺も少し緊張してしまう。
「こっちだ、急げ」
「はい」
やはり王弟でも王の寝所にはなかなか入れないようで、強行突破のような形だ。
「あ、アーガイル様」
と呼び止められるが、
「いい、こっちについて来い」
早歩きでグングン進んでいき、目的地に着いたのか扉をノックすると中に入っていく。
「失礼!王よ、大丈夫ですか?」
「…ぁ、あぁ」
「ルシエ!」
「『鑑定』…毒だ。マリン!」
「はい!『聖女の涙』」
マリンの魔法で王の顔色が良くなる。
「大丈夫ですか?」
「…あぁ、一体何が起こっていた?」
「はい、私もですが毒に冒されていたようです」
「なに?どのようにしてだ?」
「それは分かりかねます。ですが、王の命を狙った犯行、許せるものではございません。それで犯人を探すためにお願いがあります」
「なんだ?」
「それは…」
公爵は王に説明すると、回復してすぐだが動いてもらわなければいけない。
気休めだが回復ポーションを渡して飲んでもらう。
場所は変わり謁見の間。
「それでは入れ」
扉が開く。
「さて、準備はいいか?」
「当たり前でしょ?」
「大丈夫です」
アイズもマリンも肝が据わってる。
「行くぞ」
呼ばれたので公爵を先頭に俺たちは進んでいく。
公爵が立ち止まり膝をつくので同じように膝をつき礼をしている。
「おもてをあげよ」
ようやく顔を上げられた俺は『鑑定』をしまくる。
「…!?!」
ありえないことが起きている。
さてどうするべきか。
『どうした?指示は?』
『どうしたのです?』
小声でアイズとマリンが聞いてくるが、まだ頭が混乱している。
『公爵は王を連れてお逃げください』
『…分かった』
『今です』
「王よ。一緒に来てください!」
「なっ!?」
呆気に取られる周りの人間を置いて公爵は王を連れて退場していった。
俺は退場していった扉を閉めるとその前に立つ。
「なんだ!説明しろ!」
周りを見ながらアイズが叫ぶので、
「こいつら全員『傀儡』だ!宰相だけが違う!!」
と収納からロンギヌスを出して投げ渡す。
「分かった!」
と言ってアイズは宰相のところへ向かう。
「な!なんでバレた!?こいつらを殺せ!」
宰相が言うとここにいた全員が動き出す。
「マリンは俺の近くに!」
「はい!」
とりあえず近寄らないように刀で牽制して、様子を見るが白目がなくなり黒くなっている。
『傀儡』にされているなら解除ができないか?
「マリン、状態異常の回復はできるか?」
「はい!聖なる伊吹」
マリンの魔法は発動するが変わらずこちらに剣を向けている。
刀を抜き剣を弾くが相手は傀儡。仕方なく腕を斬って動きを止めようとしたが、斬った腕は砂になってしまう。これはもしかして?
「アイズ!気を抜くなよ!もしかしたら!」
「キャァッ!!」
「アイズ!」
「クソッ!」
こちらも大勢の人間が迫って来ている。
剣を抜いた『傀儡』なのであちらの様子を見ている暇がない!
少し時間は戻る。
宰相の所へ行ったアイズは、宰相と対峙していた。
「ゲッゲッ…なんで、分かった?まぁいい、お前も『傀儡』にしてやろう!」
「そんなものにはならない!ここでお前を刺し殺す!」
槍を構え相手を見ると宰相、ではなく狐の獣人だった。
「えっ!?エッ?」
すると狐の獣人はグニャグニャと形を変えると、アイズと瓜二つになっていた。
「ひ、人の真似なんて浅はかな!『疾風龍突』」
「ゲッゲ!『疾風龍突』」
寸分違わず同じ技を返されるアイズは、弾き飛ばされる。
「力は俺の方が上のようだな」
アイズに化けた狐人がそう喋る。声も同じで言葉遣いだけが違うようだ。
「ま、真似をするな!『無双三段』」
「真似じゃない『無双三段』」
“ガガガッッ!!”
「クッ!!」
弾き飛ばされ床に倒れる。
「ゲッゲッ!後少しでこの国を乗っ取れたのに!まぁいいか、死ね!『無双三段』」
女言葉のアイズは技を繰り出す。
「クッ『無双三段』」
アイズもすぐに起き上がり技を出す。
“ガガガッッ!!”
「キャァッ!!」
「アイズ!」
遠くからルシエの声が聞こえて、振り返るとルシエも大勢の兵士や貴族に囲まれている。
目の前の敵に視線を移し、
「クッ!なんなんだ!お前は!」
「あ?俺は『グリード』、覚えなくていいぞ?どうせ死ぬんだからな!『疾風龍突』」
「なっ!『疾風龍突』グハッ!!」
『グリード』の槍が肩に刺さる。
『グリード』は槍が刺さったままグリグリと動かす。
「グガぁぁガァァ!!」
「ゲッゲッ!馬鹿の一つ覚えみたいに同じ技を繰り出すなんてアホだな?『SOD』だったか?変な組織作ってるよな?」
「グガぁぁ!ば、馬鹿にするな!」
「ゲッゲッ!馬鹿にするさ。お前たち人間は群れを作る。だから無駄な組織なんてのは解散させるのが一番なんだよ!」
『グリード』は槍を抜くと、アイズの言葉を待つ。
「…人間は弱い!群れ?上等じゃないか!」
立ちあがろうとするアイズを蹴り上げ倒す。
「結局は大勢でなにかを成し遂げられても1人になれば弱い弱い!ゲッゲッ、だから毒を使って徐々に弱らせて食ってやった!ゲッゲッ!」
「ちっ!お前は許さない!!」
立ち上がり槍を構える。
「当ててやろうか?行くぞ!『運命の槍』」
「『運命の槍!』」
「ウガァァァァ!!」
アイズの脇腹には穴が開き血が吹き出している。
「グガッ!ガハッ」
「弱い弱い!ゲッゲッ!んじゃもう一度行くぞ?」
構えを取る『グリード』
「『癒しの風』!アイズは1人じゃありません!!」
マリンの回復魔法がアイズを癒す。
「…ッ!ウォォオォォ!!」
アイズの身体をオーラが包む。
まだ完全に回復していないようで血が流れているが、槍は『グリード』に突き刺さる。
「グガッ!なんだ?そんな技!スキルにないぞ!」
「当たり前だ!ただの突きだからなぁぁぁ!!」
『グリード』に刺さった突きはオーラを纏い回転する。
「いだぁぁぁぁぁいぃぃ!!」
『グリード』はなんとか抜こうと持ってある槍を捨て、アイズの槍を掴むが手が巻き込まれ千切れていく。
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
「オラアァァァァぁぁ!!」
アイズはお構いなしに槍を回転させ、引き抜く。
「お前は1人だから負けたんだよ」
「ふ、ふざけろ!…こんな傷!ん?なんで回復しない?え!?」
『グリード』が『再生』をしようとするが、
「終わりだ!『絶間無槍』」
「ウバババババ…」
槍の連続突きで穴だらけになった『グリード』は砂になり消えていく。
アイズもまた血を流しすぎたようで倒れてしまうのをマリンが駆けつけて抱き止める。
「『癒しの風』…本当にウチの団長は…私が支えなくちゃ」
とひとりごちる。
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