55 / 95
第五十二話
しおりを挟む「さて、どうするか」
門兵の言っていたように手紙を出すのが筋だが、少々時間がかかりすぎるな。
かと言って貴族の友人は…
考えながら貴族街を歩いていると、馬車が通り過ぎて止まった。
「ルシェ、ルシエ君!なんでここに?」
「あら、本当ですね。何をしているんです?」
馬車から顔を出したのは迷宮街で一緒にダンジョンを探索した『バディー』のサラとルージュだった。
「…あ、あぁ!サラ!」
そうだよ!ガルム男爵家の長女、サラなら話だけでも聞いて貰えるな!
「すまないがサラに頼みたい事がある」
「え?い、いいけど?私に出来る事?」
「あぁ!今はサラだけが頼りだ」
「落ち着いて。まずは馬車に乗りなさい」
ルージュに言われ、サラの馬車に乗せてもらい来た道を戻る。それとなく聞くとサラの父親は元気らしい。
そしてサラが迷宮街に来た目的の、蟹星病の薬は出来たらしく問題なかったようだが、ルックが『情欲のラスト』に操られ死んだ事は問題になったそうだ。
一時は兵士を総入れ替えすると言っていたそうだが、なんとか踏みとどまってもらったらしい。
アーガイル家に到着すると、
「ガルム男爵家長女のサラ嬢です。執事のメイベルさんを呼んでいただけるかしら?」
ルージュがそう言うと門兵は馬車の紋章を見て、
「…確かに、ガルム男爵家の紋章を確認しました。こちらにお連れすれば?」
門兵は俺の方をチラッと見たが自分の職務を遂行している。
「はい、ここで待たせていただきます」
しばらく待つと執事のメイベルの姿が見えた。
「ルシェール様!」
途中から走り出したメイベルは涙を流している。
「アーガイル公爵の事は知っている。どうにか出来るかもしれない」
「あ、あぁ、ルシェール様。私は、私の力が及ばないばっかりに」
メイベルは震える手で俺の手を握る。
「メイベルはよくやってくれてるさ。レビンはどうしてるんだ?」
「レビン様も同じ病で倒れまして」
「…そうか、まず中に入れてもらえるか?」
「はい!門を開けろ!」
「はっ!」
門兵は少し青くなっているが、自分の仕事をしたんだから気にしないようにあとでメイベルに言っておこう。
「サラ、ルージュ、ありがとう」
「こんな事で良ければいつでも、用がなくても王都に来た時は館に来てください」
「そうね、サラ様もこう言ってる。必ず来るように」
「あぁ、必ず」
サラ、ルージュと別れてメイベルの案内で屋敷に入る。
「こちらです!」
「あぁ…」
レビンまで病に罹るなんて、ミリア第二夫人は何をしているのだろう。
「メイベル、第二夫人は?」
「レビン様に付きっきりでございます」
「そうか、それならばいい」
レビンが倒れたのなら仕方がない事か。
「ルシェール様…」
「あぁ」
父の寝所に着くと、ドアをノックして入る。
「…誰だ」
「すいません。ルシエと申します」
「…そうか、入れ」
父親の寝所に入るなんて何年振りか…寝込んだ父を見るのは初めてだな。
症状は見る限り発熱、嘔吐、手に湿疹もある。
「『鑑定』…」
「…分かったのか?」
「はい、素材を調達してくるので少しお待ちください」
「ルシエ、悪いが…頼む」
これはルシエに対する依頼だ。
「ルシェール様」
「メイベル、俺はルシエだ。そして今、公爵から依頼が入ったので解毒剤を用意する」
「は、はい!え?ど、毒ですか?!」
慌てるメイベルだが、すぐに症状が急変するような毒ではない。
「あぁ、医者には見せたか?」
「はい!王宮医師様に来てもらい、薬も出してもらいました!」
「その薬を預かっていいか?」
「すぐ用意致します!お待ち下さい!」
急いで薬を取りに行くメイベル。
しかし、王宮医師が間違えるだろうか?
スキルツリーを見ると『医師』にも『簡易鑑定』のスキルがある。
「お待ちしました!これが薬になります!」
『鑑定』…これも毒だ。
「これも毒だな。レビンの薬も同じか?」
「は、はい!」
「ならすぐに辞めさせろ。解毒剤を作る」
「わ、分かりました!わ、私はどうすれば」
慌てるメイベルを落ち着かせ、
「薬をやめさせて俺を待っていろ。あと部屋を一つ空けてくれるか?ここで錬金する」
「はい!分かりました」
メイベルに見送られ貴族街を進む。
ギルストの商店へやって来た。
中に入るとギルストが目敏くこちらを見つけやって来る。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」
「ロギア石、メルク草、後は練金釜を頼む」
「はい!かしこまりました!」
ギルストは言った通りの品を用意してくれ、金を払い外に出る。
収納を使った時の顔が凄かったな。
すぐに来た道を戻り、門兵に頼んでメイベルを呼んできてもらう。
「ル、ルシエ様。こんなに早く」
「あぁ、材料はすぐに手に入るものだからな!」
「それではこちらに!」
屋敷に入り部屋に案内される。
早速作業に取り掛かる。
ロギア石は粉末になるまで擦り潰し、メルク草は煮立たせて濾しておく。
練金釜にロギア石を粉末にしたものとメルク草を液体にした物、あとは魔力を注ぎながら錬成する。
魔力で少しの間光り輝いているが、光がなくなれば解毒ポーションになる。
とりあえず多めに出来たのでストックしておいて、すぐにメイベルを呼び、解毒ポーションを飲ませに行く。
「失礼します。依頼の品をお持ちしました」
「…分かった」
薬を飲ませると落ち着いたのかすぐに寝息が聞こえて来た。
「これで大丈夫だ」
「分かりました、ありがとうございます」
「これをレビンにも飲ませてやってくれ」
「はい!直ちに!」
俺が錬金術を使えたから良かったが、作れなければポイントを使って解毒魔法を覚えるつもりだった。
しかし何故、毒に父やレビンが冒されたんだ?とりあえずポーションでなんとかなって良かった。
聖女のマリンがいれば話は別なのだが。
王も倒れたと聞いたが、、、まさかな。
とりあえず宿に戻って情報を共有しよう。
373
お気に入りに追加
1,232
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる