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第四十三話
しおりを挟む「ウォォオォォ!!!」
巨大な戦斧がモンスターを真っ二つに斬り裂く。第二部隊隊長のヴァンが鼻をこすりながら胸を張っている。
「『ゲイルストーム』」
竜巻が生まれ、モンスターを飲み込み切り裂いていく。第一部隊隊長のダイスは可愛らしくお辞儀をする。
「ウォォオォ!」
「さすが隊長達!」
「凄いっす!!」
『運命の槍』のマークのついた様々な防具に身を包んだ者達が口々に賞賛の声を上げる。
「ったく、こんなんじゃウォーミングアップにもならんぜ」
「入って何時間経ってると思ってるんです?言葉の意味も知らないなんて馬鹿ですね」
「テメェ!」
「爆ぜ殺す!」
ヴァンとダイスが喧嘩を始めようと近寄って行く。
「やめろ!今は早くここを抜け、ルシエを探すんだ!」
「「はい!」」
戦乙女のような美しい鎧に身を包んだアイズがマントを翻し2人に告げる。
ここはダンジョン25階層。
人海戦術でマップを埋めて、正解の道を突き進んでいる『SOD』の主要メンバー達。
「まだ見つからんのか?」
「はい。報告には上がって来てませんわ」
黒いスーツで秘書の格好をしたマリンが報告する。
『SOD』のメンバーはざっと100を超えている。その人数でダンジョンを攻略しているのだ。モンスター1匹も逃しはしない。
野営の準備の整った大きなテントに入って行くアイズとマリンは椅子に腰掛けると、マップを広げて現在地の確認をする。
「25階層か…もっと早くならないか?」
「それはヴァン達、第二部隊次第ですね。あの隊には『マッピング』などのスキルを持つ者や斥候のジョブを持つ者がいますから」
マリンは手帳を持ちながらそう答える。
「そうか、まぁ、この調子で行けば追いつけるだろう」
1日で5階層移動して来たのだ。ルシエ達に追いつけないなんてことはないだろう。
「ダンジョンのドロップ品は第一部隊に配属されている収納持ちが数人いるのでそちらが管理してます」
「ドロップは取り忘れがないように連絡しておいてくれ」
大事な資金源だ。
「それはもちろんです」
アイズは鎧を外すと女戦士に渡し、その鎧は拭かれて鎧櫃に収納されていく。
「団長!!」
ヴァンの声がテントの外から聞こえてくる。
「ヴァン!今着替えの最中です!何事ですか!」
マリンが声を荒げ外に出る。
「す、すまん!だが、冒険者からルシエを見たと聞いたんだ」
「何処にいたのです?」
「なんでも入り口付近で30階層からと喋っていたのを聞いたらしい」
「…ふぅぅ。ここから30階層まで無駄足になりますが、できるだけ早く通過できるようにして下さい」
大きく息を吐き、冷静に話す。
「わ、分かった」
と言ってヴァンはテントから離れて行った。
「どうした?」
テントに入ってきたマリンはこの事をアイズに話す。
「はぁ、これはしょうがないな」
「そうですね。まぁ、訓練だと思ってメンバーの育成に充てましょう」
「そうだな」
着替え終わったアイズはマリンを連れ外に出て行く。
「あ、団長!お疲れ様です」
「やぁ、ケビン。頑張ってるな」
「はい!」
「ソクラ!サボるんじゃないぞ?」
「分かってますよ!団長!」
アイズはメンバー一人一人に声をかけていく。
100を超えるメンバーの名前を覚えているのだ。
「今日はここで食べようか」
「はい!ミランダ、食事を」
「はい!今すぐに」
そしてマリンも同じく覚えている。
2人が覚えているのは信頼とメンバーの士気が下がらないようにするためだ。
毎日いろんなメンバーと話す事で情報収集も兼ねている。
いつでも同じ目線で話ができるよう、メンバーとの間に溝は作らない。
そう簡単にできる芸当ではない。
「おお、ここにいたんだな」
「ヴァンか、お前もここで食べろ」
「あ、団長!って、野蛮人も一緒ですか」
「なんだとダイス!そろそろ決着を」
「やめろ!飯時くらいは静かにしろ!」
「「はい」」
ヴァンとダイスが加わりメンバーも集まって来て騒がしくなる。
「団長、ルシエとか言う奴はそんなに大事なのか?」
「あんたは!分かってないのですか!」
「ダイスは分かってるのか!コラ!」
「そ、そりゃ戦力ですよね?」
とダイスが聞く。
「それもあるが、あいつには大事な役割がある」
「ほら見ろ!ほんと野蛮人は脳筋で困る」
「く、クソっ!」
ヴァンは悔しそうに持っていたエールを流し込む。
「あまり飲み過ぎるなよ?」
「はい!こんなもの水と変わりませんから」
「は?だったら水で酔えるんですか?安上がりですね?」
「お前はうるせーな!」
「やめなさい!ヴァンはその格好もどうにかしなさい!」
マリンが言うと、
「そ、そんなぁ、マリンまで酷いぞ!」
「あははは!泣け!泣け!」
と半泣きのヴァンをいじるダイス。
騒がしいダンジョンでの夜は過ぎていく。
次の日も、人海戦術でマップを埋めていく。
「必ずルシエに追いついて見せる」
アイズはそう口にすると先に進んでいく。
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