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第三十六話

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 俺は次の日に1人でギルドに来ていた。
 ギルドの壁に寄りかかりながら入ってくる冒険者を見ている。
「そうそういるもんでもないか…」
『鑑定』をしながら『眷属』になって操られた状態の奴がいないかを探しているが見当たらない。

「やぁ、もしかして『鑑定』してるのかい?」
 ギルマスのポートが横に来て壁に寄りかかる。
「まぁ、そんなところだ」
「こちらも『鑑定』ができる人間を朝から置いているが、当たりはいない様だな」
「いない方がいいんだけどな」
「それはそうだな」
 2人で眺めていると、
「…まじかよ」
 2人も現れたので観察する。

「なぁ!もういいだろ?俺らはダンジョンに行くぞ?」
 とこちらに歩いてくる…ゴテアラ達だ。
「まさか?…本当か」
「後ろ2人がそうだな」
 ポートに告げるとカウンターにいる男に目配せをする。
「クソッ!」
 やはり『鑑定』で判別が可能だったらしく目配せした男が腕を交差させていた。

「何言ってんだ?なぁ!ギルマス!俺らはダンジョンに潜りたいんだ!頼むよ!」
 懇願してくるゴテアラの後ろでニヤニヤしている2人は『眷属』になっていた。

「さて…どうしたもんか」
「まぁ、捕縛するのがいいと思うが、普通じゃないぞ?」
 まだ気付かれていると知らない2人は周りを見渡している。

「はぁ…お前たちはまだ訓練の途中だろ」
「そうも言ってられないだろ!俺らはダンジョンに行かないと行けないんだ!」
 斥候が亡くなった時のことは俺もよく知らないが、どこかで『情欲のラスト』と出会っているはずだ。

「おい、お前たちは『蠍の化け物』に会った事ないか?」
「な、なんでそれを!?」
 やはりか…何か助けられる方法は無いのか?
「クソッ!…何か手はないのか」
 ポートはゴテアラ達を気に入ってたようだし、どうにか助けてやりたいが。

「なんだよゴテアラ?別にギルマスの許可なんかいいだろ?」
「そうだな。それよりメンバー募集してさっさと行こうぜ!」
「お、お前ら、ギルマスにはちゃんとして行くっていったろ?まぁ、俺に任せろ!」
 ギルマスを見るが首を振る。
 ゴテアラには悪いが2人を助けることは難しいな。

「分かった。3人とも訓練所に行くぞ!」
「え?あ、あぁ」
 ギルマスはそう言うと3人を連れて訓練所に向かう。

 俺も後を追って訓練所に行くと待っていたのは、教官のグラムとシザーレだ。
 訓練所には訓練生と他にも人がいたがポートが外してくれと言って外に出て行く。
「おいおい、遅れて来るとはいい度胸してるな?」
「教官よぉ!俺らはダンジョンに向かう!それを伝えに来た!」
 ゴテアラは何か勘違いをしている様だがギルマスが教官2人に伝え、2人は苦虫を噛み潰した様な顔をする。

「…ゴテアラ、お前は少し横に避けといてくれ」
「は?何言ってんだ?アルトとビッツに用があるのか?」
 槍を持っているのがアルトで、盾を持っているのがビッツだ。
「そうだ、だから退いてくれるか?」
「なら、まぁ、分かった」
 ゴテアラは普通に横に避けると、グラムとシザーレが斬りかかる。

「な!?」
「グォッ!!」
 油断した2人だったがやはり操られた状態の様で、目が黒くなり体勢を整える。
「クッハッハ!何するんだよ!」
「おら!もっと来いよ!」
 
「お前ら何やってんだよ!!いきなり何してんだ!」
 ゴテアラはポートに抑えられ身動きが取れない。
「はぁ、どうやっても取れないか…」
『鑑定』で状態は分かるのだが、やはり『眷属』はスキルツリーの様にはいかない。
 スキルツリーを見ると2人とも狂戦士バーサーカーのスキルを強制的に取ったのか?すかさずこれ以上スキルを取らない様にポイントを奪う。

「オラァ!!」
 グラムの『強撃』がビッツを襲うが、狂戦士のスキル『バーサク』を使ったビッツは盾を振り回しそれを逸らす。
 シザーレもアルトの槍を弾き返しているが押されている。
 さすがBランク冒険者なだけのことはあるな。

「これは骨が折れるな…シザーレ!いけるか?」
「久しぶりに本気でいきます!!」
 と構えるシザーレとグラム。
「ふ、ふはははは!ゾクゾクするぜぇ!」
「カハハ!気分が上がってきたぁ!」
 こちらは『バーサク』でハイになっている様だ。
「お、お前らどうしたんだよ!!なんで教官とやり合ってるんだ!!」
 ゴテアラは訳もわからず喚いている。

 勝負は一瞬で決まった。
 
 グラムの攻撃を受け止めたビッツを横からシザーレが突き刺すと、グラムはシザーレを起点に回転しアルトの首を刎ねる。

「あ、あ、アルトォォォォ!!」
 ゴテアラの声が響き渡るが、アルトは砂になり消えて行く。
「オラァ!!!」
「や、やめろぉぉぉぉ!!!」
 グラムがビッツを後ろから斬りつける。

「ガッ…ゴ、テアラ、、」
「ビッツ!!」
 ビッツも砂に変わりその場で崩れ去る。

「な、なんで…おい、、なんで2人とも…」
 ゴテアラは2人の跡に残された『傀儡の宝石』を胸に抱き、涙を流している。
「ゴテアラ…2人は」
「なんなんだよ!ふざけんなよ!俺の仲間をよぉぉぉ!」
 悲痛な叫びは俺たちの心に突き刺さる。
「2人は…残念だが助からなかった。蠍の化け物の眷属に」
 ポートは言葉を紡ごうとするが、
「仲間が!…ぉ前らに何が分かる!!」
「…すまない」
 仲間を失った悲しみを癒す言葉が見つからない。

 泣き止むまでその場に立ち尽くし、『傀儡の宝石』を持って黙って出て行くゴテアラを見送る。

 ギルマスはグラムとシザーレの肩を叩く、
「悪かったな。今日は休んでくれ」
「いえ、大丈夫です」
 グラムは大剣を背中に背負うと木剣を取り、素振りを始める。
 シザーレも外に出て訓練生を呼びに行ったようだ。

「ルシエもお疲れ様」
「いや、俺は何も」
「…どうにもならなかったな」
「…そうだな」
 ギルマスは俺のスキルを知っている。
 多分どうにかできないかと思ったのだろう。
 どうにかしたかったが、俺には無理だった。

「ゴテアラも分かってくれる日が来ると思う」
「…そうだな」
 そうあって欲しい。

 訓練所からギルド内に入ると、ギルマスは2階に上がっていく。
 俺はまたギルドの壁に寄りかかり冒険者を『鑑定』して行く。

 その日は他に変わった者は見当たらなかった。

 夜になり冷たい風が頬を撫でる。

「何故あんなにダンジョンに行きたがっていたか、いまなら分かるな…」
 ネイルを仲間にしようとしていたあの頃にはもう操られていたのだろう。

 こんなに後味の悪いことはないな。
「これ以上増えなければいいが」

 50階層以降に行ける人間は少ない。
 それだけがまだ救いだな。

 月に照らされたダンジョンは変わらず、夜にも関わらず冒険者を飲み込んでいる。

 何処かにいる『ラスト』は笑っているかもな。

 
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