37 / 95
第三十六話
しおりを挟む俺は次の日に1人でギルドに来ていた。
ギルドの壁に寄りかかりながら入ってくる冒険者を見ている。
「そうそういるもんでもないか…」
『鑑定』をしながら『眷属』になって操られた状態の奴がいないかを探しているが見当たらない。
「やぁ、もしかして『鑑定』してるのかい?」
ギルマスのポートが横に来て壁に寄りかかる。
「まぁ、そんなところだ」
「こちらも『鑑定』ができる人間を朝から置いているが、当たりはいない様だな」
「いない方がいいんだけどな」
「それはそうだな」
2人で眺めていると、
「…まじかよ」
2人も現れたので観察する。
「なぁ!もういいだろ?俺らはダンジョンに行くぞ?」
とこちらに歩いてくる…ゴテアラ達だ。
「まさか?…本当か」
「後ろ2人がそうだな」
ポートに告げるとカウンターにいる男に目配せをする。
「クソッ!」
やはり『鑑定』で判別が可能だったらしく目配せした男が腕を交差させていた。
「何言ってんだ?なぁ!ギルマス!俺らはダンジョンに潜りたいんだ!頼むよ!」
懇願してくるゴテアラの後ろでニヤニヤしている2人は『眷属』になっていた。
「さて…どうしたもんか」
「まぁ、捕縛するのがいいと思うが、普通じゃないぞ?」
まだ気付かれていると知らない2人は周りを見渡している。
「はぁ…お前たちはまだ訓練の途中だろ」
「そうも言ってられないだろ!俺らはダンジョンに行かないと行けないんだ!」
斥候が亡くなった時のことは俺もよく知らないが、どこかで『情欲のラスト』と出会っているはずだ。
「おい、お前たちは『蠍の化け物』に会った事ないか?」
「な、なんでそれを!?」
やはりか…何か助けられる方法は無いのか?
「クソッ!…何か手はないのか」
ポートはゴテアラ達を気に入ってたようだし、どうにか助けてやりたいが。
「なんだよゴテアラ?別にギルマスの許可なんかいいだろ?」
「そうだな。それよりメンバー募集してさっさと行こうぜ!」
「お、お前ら、ギルマスにはちゃんとして行くっていったろ?まぁ、俺に任せろ!」
ギルマスを見るが首を振る。
ゴテアラには悪いが2人を助けることは難しいな。
「分かった。3人とも訓練所に行くぞ!」
「え?あ、あぁ」
ギルマスはそう言うと3人を連れて訓練所に向かう。
俺も後を追って訓練所に行くと待っていたのは、教官のグラムとシザーレだ。
訓練所には訓練生と他にも人がいたがポートが外してくれと言って外に出て行く。
「おいおい、遅れて来るとはいい度胸してるな?」
「教官よぉ!俺らはダンジョンに向かう!それを伝えに来た!」
ゴテアラは何か勘違いをしている様だがギルマスが教官2人に伝え、2人は苦虫を噛み潰した様な顔をする。
「…ゴテアラ、お前は少し横に避けといてくれ」
「は?何言ってんだ?アルトとビッツに用があるのか?」
槍を持っているのがアルトで、盾を持っているのがビッツだ。
「そうだ、だから退いてくれるか?」
「なら、まぁ、分かった」
ゴテアラは普通に横に避けると、グラムとシザーレが斬りかかる。
「な!?」
「グォッ!!」
油断した2人だったがやはり操られた状態の様で、目が黒くなり体勢を整える。
「クッハッハ!何するんだよ!」
「おら!もっと来いよ!」
「お前ら何やってんだよ!!いきなり何してんだ!」
ゴテアラはポートに抑えられ身動きが取れない。
「はぁ、どうやっても取れないか…」
『鑑定』で状態は分かるのだが、やはり『眷属』はスキルツリーの様にはいかない。
スキルツリーを見ると2人とも狂戦士のスキルを強制的に取ったのか?すかさずこれ以上スキルを取らない様にポイントを奪う。
「オラァ!!」
グラムの『強撃』がビッツを襲うが、狂戦士のスキル『バーサク』を使ったビッツは盾を振り回しそれを逸らす。
シザーレもアルトの槍を弾き返しているが押されている。
さすがBランク冒険者なだけのことはあるな。
「これは骨が折れるな…シザーレ!いけるか?」
「久しぶりに本気でいきます!!」
と構えるシザーレとグラム。
「ふ、ふはははは!ゾクゾクするぜぇ!」
「カハハ!気分が上がってきたぁ!」
こちらは『バーサク』でハイになっている様だ。
「お、お前らどうしたんだよ!!なんで教官とやり合ってるんだ!!」
ゴテアラは訳もわからず喚いている。
勝負は一瞬で決まった。
グラムの攻撃を受け止めたビッツを横からシザーレが突き刺すと、グラムはシザーレを起点に回転しアルトの首を刎ねる。
「あ、あ、アルトォォォォ!!」
ゴテアラの声が響き渡るが、アルトは砂になり消えて行く。
「オラァ!!!」
「や、やめろぉぉぉぉ!!!」
グラムがビッツを後ろから斬りつける。
「ガッ…ゴ、テアラ、、」
「ビッツ!!」
ビッツも砂に変わりその場で崩れ去る。
「な、なんで…おい、、なんで2人とも…」
ゴテアラは2人の跡に残された『傀儡の宝石』を胸に抱き、涙を流している。
「ゴテアラ…2人は」
「なんなんだよ!ふざけんなよ!俺の仲間をよぉぉぉ!」
悲痛な叫びは俺たちの心に突き刺さる。
「2人は…残念だが助からなかった。蠍の化け物の眷属に」
ポートは言葉を紡ごうとするが、
「仲間が!…ぉ前らに何が分かる!!」
「…すまない」
仲間を失った悲しみを癒す言葉が見つからない。
泣き止むまでその場に立ち尽くし、『傀儡の宝石』を持って黙って出て行くゴテアラを見送る。
ギルマスはグラムとシザーレの肩を叩く、
「悪かったな。今日は休んでくれ」
「いえ、大丈夫です」
グラムは大剣を背中に背負うと木剣を取り、素振りを始める。
シザーレも外に出て訓練生を呼びに行ったようだ。
「ルシエもお疲れ様」
「いや、俺は何も」
「…どうにもならなかったな」
「…そうだな」
ギルマスは俺のスキルを知っている。
多分どうにかできないかと思ったのだろう。
どうにかしたかったが、俺には無理だった。
「ゴテアラも分かってくれる日が来ると思う」
「…そうだな」
そうあって欲しい。
訓練所からギルド内に入ると、ギルマスは2階に上がっていく。
俺はまたギルドの壁に寄りかかり冒険者を『鑑定』して行く。
その日は他に変わった者は見当たらなかった。
夜になり冷たい風が頬を撫でる。
「何故あんなにダンジョンに行きたがっていたか、いまなら分かるな…」
ネイルを仲間にしようとしていたあの頃にはもう操られていたのだろう。
こんなに後味の悪いことはないな。
「これ以上増えなければいいが」
50階層以降に行ける人間は少ない。
それだけがまだ救いだな。
月に照らされたダンジョンは変わらず、夜にも関わらず冒険者を飲み込んでいる。
何処かにいる『ラスト』は笑っているかもな。
427
お気に入りに追加
1,250
あなたにおすすめの小説
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる