40 / 55
第40話
しおりを挟む太陽がSWSを卒業し、買取屋を始めて3年ほど経ったある日、月が現れた。
「…兄さん」
「月…なんで」
あり得ない事だった。
月は記憶を消されて幸せに暮らしていたはずなのに。
「フフッ、兄さんとお婆ちゃんの為に頑張ったのに、記憶を消されてのうのうと生きてるなんてね」
月は悲しく笑みを浮かべる。
「月…それは違う、頑張ったからこそ月には未来を見てほしいんだ!」
月は痩せて髪が銀色になっていた。
「それは無理よ。私は2人のために頑張ったけど、それを忘れさせるなんてあんまりだわ」
無理矢理にでも忘れさせないと壊れてしまうのは月だった。
「俺は月が幸せになるのが一番なんだよ。それだけは分かってくれ」
月は後ろを向くと、
「もう裏切らないでね?お兄ちゃん」
「…月?」
月はその場から消えてしまう。
今度は『Drop』と名乗る機関の人間が来て月は預かっていると言う。そして買取屋の横流しをしろと言ってきた。
主なものは魔石。
それからは『Drop』の言う事は守ってきた。
一度『Drop』との関与を疑われ、捕まったが、証拠が見当たらないと言ってすぐに店に戻ることができた。
月日は流れ、現在。
「月を見ながら饅頭を食べる。風情があるねー」
「はぁ、それで?手紙にはなんて書いてあったの?」
ビルの屋上で饅頭を食べる太陽に鈴音が聞く。
「ハハッ!うちの婆ちゃんは星婆ちゃんって言うんだけどさ、太陽が輝く限り星も月も輝くんだって!だから2人とも仲良くねってさ!」
滲む月と星を見ながら饅頭を頬張る太陽は、
「俺は輝くことのない太陽だけどさ。でも、それでも、スズくんがくれたこの星の砂みたいに、月と繋がっているからさ」
その手にはピンクとブルーが混ざり合い、紫の夜の色に星の砂が散りばめられている。
「だから『Drop』の言う事は聞かない。いつか月が戻ってくるだろうし、店も開けないとね」
月と星のタトゥーの入った首元をさすり、太陽は夜空を見る。
「それはまだ無理だろ?店は」
「あはは、大丈夫だよ。あの手紙を月に届けるためにはどうせ『Drop』に渡さないといけないだろ?」
太陽はニコッと笑うと鈴音はため息をつく。
「分かったわ、護衛はつけるからね?」
「ありがとう」
紫色の夜は明けて太陽が照らす。
「さて、頑張って仕事しちゃうかな!」
店に戻った太陽は店を開けるために鍵を開ける。
「いつまで俺らが見てなきゃいけないんだ?」
「まぁ、しょうがないっすよ?」
ウドウとスバルに見守られながらシャッターを上げる。
あれからは誰も来ていないようで店は片付いている。
どうせなら月がいつ帰ってきてもいいように店の中の席は二つにしてある。
いつか月と店に立つのが太陽の夢だ。
「早速、スズ君達を呼ぼっと」
LUINで帰ってきたよとメールを送る。
『おかえりなさい!帰りに行きますね!』
とすぐに返事が返ってくる。
「ハハッ!さて忙しくなるな!」
と、色々と準備をする。と言っても大したものはないのだがな。
スバルとウドウも店の奥のバックヤードで
ゆっくりしている。
「おい、来たらすぐに鳴らせよ?」
「分かってますよ」
と鈴を受け取る太陽はスズを思い出し笑う。
「2人とも後輩は可愛いですよ?」
星の砂を大事なオモチャのように机の上で見る太陽が言う。
「ん?お前らは可愛くないけどな?」
「え?俺もっすか!?」
「当たり前だ。スバルも若い頃はヤンチャだっただろうが!」
笑いながら喋るウドウにスバルが、
「い、いつの話してんすか!もう丸くなったじゃないですか!」
と返す。
“チリン”
「ケッ!早速お出ましのようだな」
「まぁ、さっさと来てくれたからいいでしょう」
と2人して外に出る。
「『真実の瞳』!」
「『サンダーソード』!!」
『真実の瞳』で隠れている諜報員らしき人物が見え、スバルの『サンダーソード』がその人物を動けなくする。
2人はすぐに捕縛すると、手紙を渡すように指示して返してやる。
「ふん!これでいいだろ?さっさと戻るぞ?」
ウドウはそう言って外に出ようとするが、
「えー、ここで商売するんですよ!」
と駄々をこねる太陽にしょうがないと付き合って1日だけ店を開く。
18時になるとソワソワする太陽。
店の扉が開くと、
「「「「おかえりなさい!!サンちゃんさん」」」」
「はい!ただいま!!みんな」
と言って、みんなと喋り。
月、帰ってきたら一緒にここで暮らそう。
俺の後輩達が沢山いるこの街で。
とあるビルの屋上、屋敷の中で手紙を見るのは銀色の髪を靡かせる月だ。
「これを私に見せてどうしろと言うの?…影!こいつは」
「分かりました!では!」
と男を連れていく影を見送る。
「クッ………今更…もう無理なのよ。お兄ちゃん…」
月は手紙を胸に抱きしめ涙を流す。
「お婆ちゃん、私は…」
太陽と星のタトゥーに手を当てる月は夜空を見上げる。
逆の手には太陽と同じ紫色の星の砂が瓶に入ってサラサラと砂が流れていた。
17
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる