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童貞と一緒に

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「じゃあ」

「あぁ」

 雨が止まず、傘を持ったまま会った俺は彼女の顔もまともに見れずにフラれた。
 何がいけなかった?急になんで?
 頭の中を駆け巡るのは楽しかった時の思い出だけ。

 嫌だと縋って泣いて繋ぎ止めとけば良かったのだろうか。

 
「こんなもんか……」

 大学からの付き合いだった。

 笑った顔が好きだった。

 嘘が下手くそなのに今度は嘘じゃなかった。

 
 一人残された俺は……。


 …………

 ……

 …


「ん……いてて、頭が痛い」
 昨日はやけ酒飲んで……酒が無くなったから買いに行って……。

「えっ……」

 横には見知らぬ、いや、知ってる顔だ。昨日コンビニの帰りに……。

「……はぁ、おはよう」
「あ、おはようございます?あれ?声が」
 俺の声が高い?と言うか幼く感じる。

「あはは、ちょっと吸いすぎたね」
「吸いすぎ……あれ?なんでおっぱ…い」
 隣の女性は裸だった。
「あれ、覚えてないのかい?『俺はまだ童貞だぁ』って叫んでたのはどこの男だったっけ?」


 ……思い出して来た。

 コンビニで酒を買った俺は公園のベンチで酒に酔っていた。
「お兄さんは飲み過ぎかな?」
 俺の目の前には黒髪でつり目気味の美女、いや、美魔女かな?が俺の顔を覗き込んでいた。
「私にも頂戴よ」
「んぁ?いいよー!さぁ飲みたいだけ飲んでくれ!」
 酔った俺はそんなことを言いながら横に座った美魔女に酒を渡し、愚痴り始めたんだ。

「じゃあその女に未練はないんだね?」
 妖艶な視線で俺に語りかける美魔女。
「んなこたぁない!俺はいまだに童貞・・だぁー!」
 
 …………

 ……

 …

 と、大声で叫んだ…んだった。
「つまり俺は貴女と」
「昨日は激しかったわ」
 鳥肌が立つような仕草で裸の美魔女……じゃなく美女?
「あれ?昨日より」
「あぁ、若返ったわよ」
「ああ、やっぱり。え!なんで?」
「君の若さを貰ったからよ」

「えぇえぇぇぇ!って、俺……なんかおかしいと思ったら手が小さいし、声も、身体も」
「んー、三歳児くらいかな?」
「吸いすぎぃーーー!」
「あら、あっちの方も可愛くなっちゃって」
「見んなよ!」
 掛け布団に包まると服を探す、が着れるわけがない。
 辺りを見回すと見慣れない部屋だ。

「まぁ、こんなところで騒いでもしょうがないじゃない。コーヒーでもいれるわ、ミルクが良いかしら?」
 裸の美女は下着を着けると立ち上がる。
「ば、馬鹿にすんなよ!それよりどーすんだよこれ!」
「さぁ?コーヒーでいいのね」
 スタスタと歩いて行く女。
 俺はTシャツを探して着るが、ブカブカ。
「くそっ!これしかないか」
 Tシャツの裾をもってベッドから降りると女の後を追った。

 トテトテという足音に違和感を感じる。見るもの全てが大きく見える。
「なぁ!元に戻せよ」
 下着姿で煙草を吸い、ヤカンに火をかけている美女。
「無理よ。それより可愛いのが見えてるわよ」
「ん!」
 たくし上げていたTシャツを下ろすともう一度言う。
「戻せよ!これどーすんだよ?!」
 頭の中はハテナがいっぱいで聞きたいことだらけだが、これが一番問題だ。
「っフゥー、まぁそこに座んなさいな。まずはお互い自己紹介といこうじゃないか」
「ーーはぁ、分かった」
「そう、良い子ね」

 俺も落ち着こうと指さされた椅子によじ登り座る。周りをしっかり確認すると思ったよりデカい部屋だな?
「さて、コーヒーだよ」
「お、おう」
 テーブルに置かれたコーヒーを見ると、向かい側に自分のコーヒーを置いて座る女。

「私はルー、貴方の名前は?」
 自分の事をルーと呼ぶこの女は灰皿に煙草を押し当て、カップに口をつける。
「俺は風真小太郎カザマコタロウ、二十二歳!」
「ならコタローね」
 三歳になったとか知らんし!と言うか年齢はスルーですか、そうですか。

「コタローね。それで、あなたの身体は若返った。私も若返った。Win-Winな関係よね」
 フッと笑うルーは美しいかった。
「いやって、納得いくかよ!俺はまだ若かった!」
「フフフッ、昨日吸いすぎたからしょうがないか、コタローが一人前になるまで面倒見るわよ」
 
 一応、真面目に聞くとルーは魔女らしく、若返る為に本当は年寄りを探していたらしい。が、そんな時俺があまりにも不憫にみえてやらかしてしまったらしい。
「いや、魔女?やらかした?いやいや、現代日本で魔女とか……ないよな?」
「あるわよ」

 あるらしい。
「そなんだ。……俺はこの後どうなる?一応会社とかも」
「無理よ、だってその身体だもの。しかもここは地球と違うし」

 俺は耳を疑った。地球じゃない?

「いやいや、じゃあどこなんだ?」
「地球で言ったら異世界かな」
 異世界?アニメであるやつか。それなりに見たことはあるが、こんな形でくるとは思わなかったな。

「異世界か……。もぉ、まじかよ!お腹いっぱいだわ!頭おかしくなるぞ!」
「慣れるわよ。フフフッ」
 俺は頭を抱えてしまった。

「で?どんな世界なんだ?」
「んー、一言で言えばファンタジー?魔法もあるし、モンスターやダンジョンもあるわよ」

「はぁ?」
 俺はどうなるんだ?

 
 
 
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