悪役令嬢の心変わり

ナナスケ

文字の大きさ
上 下
86 / 115
青年編

第64話 神殿からの手紙

しおりを挟む
 4年前

 ヒナはダリアに呼び出されていた。
 いつになく真剣な面持ちでティーカップに口をつけるダリアにヒナはちょこんと向かいに座っている。

「あ、あの、、お兄様。」

「ヒナ」

 透き通ってはいるが威厳感じさせる声にヒナの方がビクリと揺れる。
 視線を上げると氷のように冷たい表情と瞳がヒナを見下ろしていた。

 そう、ダリアは年々公爵に似てきているのだ。

 冷酷無慈悲と謳われたクロウリー公爵。

 そんな彼と似た髪色に瞳、ヒナが萎縮するのも無理はなかった。

「はい、お兄様。」

「これをご覧。」

 ダリアは黒い封筒をヒナに差し出した。
 印には白百合の紋様がある。

「神殿からだ。」

「し、、神殿?」

「あぁ、聖女候補選抜のお誘いだ。勿論お前宛てだ。」

 いつになく不機嫌なダリアの様子を伺いながら封筒を開け中を読み進めていくとヒナの表情が凍りついた。

「な、なんですか?これは、、、」

「それが神殿の見解らしい。」


【ヒナ・クロウリー公爵令嬢

 この度は聖女候補選抜への参加をクロウリー公爵家の正当な後継者として是非して頂きたく、、、、】

「正当な、、、、後継者?」

 ヒナは手紙を力強く握りしめながらわなわなと震え始める。

「な、なんて無礼なっ!お兄様がどれだけ神殿への援助をなさったと!」

「構わないさ、元々こういう連中さ。それにお前を私生児だと甘く見ているからこそこのような手紙を送ってきたんだろうな。」

「なんてことを、、、」

恐る恐る顔を上げダリアの様子を伺うも当の本人は恐ろしいほど落ち着いていた。
それどころか静かな笑みを浮かべてヒナを見つめていた。

「ほ、本当に失礼な方々ですね!こんな手紙すぐに処分してしまいましょう!」

ヒナが手を出そうとした瞬間ダリアは人差しで抑えるとヒナの方へ差し出した。

「いいや、ヒナ。お前にはこの招待を受けてもらう。」

「お兄様?!」

困惑の色を隠せないヒナに対してダリアは至って冷静に話を続ける。

「いいさ、その辺の諸々の精算は後に行うとしよう。それに、この歳の子供に対して分かりやすく煽ってきたということは私が感情的になって動くことを狙ってのことだろう。そんなわかりやすい挑発に乗る義理はないよ。」

「ですが!お兄様のことをここまでバカにするなど許されるはずが。」

「そ、私も勿論許した訳では無い。だからお前にこの件は任せようと思うんだ。」

「わ、わたしに?」

「4年後、王都で選抜エントリー受付が始まる。そこにはもちろん神殿の連中の他に私たちを敵視する者がいるだろう。そう言った連中に対して我々が高尚な一族であることを示してくるんだ。聖なる政に関わるに相応しい人物なのだと。」

「わ、わたしに出来るでしょうか、、、」

「そのためにマナーも教養も身につけさせているんだ。クロウリー家として、私の妹として世間から認められるようにな。それとも、出来ないのか?」

鋭い瞳で見下ろすダリアにヒナは背中に汗を流しながら必死に肯定した。

「も、もちろん!もちろん出来ます!お兄様のお役に立てるのならなんでも致します!」

「そう、いい子だ。期待しているよ、ヒナ。」

ダリアは椅子から立ち上がりヒナの頭を人撫ですると瞳孔を光らせた。



𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹🌌

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

好きだと伝えたら、一旦保留って言われて、考えた。

さこの
恋愛
「好きなの」 とうとう告白をした。 子供の頃からずっーと好きだったから。学園に入学する前に気持ちを伝えた。 ほぼ毎日会っている私と彼。家同士も付き合いはあるし貴族の派閥も同じ。 学園に入る頃には婚約をしている子たちも増えるっていうし、両親に言う前に気持ちを伝えた。 まずは気持ちを知ってもらいたかったから。 「知ってる」 やっぱり! だってちゃんと告白したのは今日が初めてだけど、態度には出ていたと思うから、知られてて当然なのかも。 「私の事どう思っている?」 「うーん。嫌いじゃないけど、一旦保留」  保留って何?  30話程で終わります。ゆるい設定です!  ホットランキング入りありがとうございます!ペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+2021/10/22

処理中です...