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82 四度目の収穫
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三の月の一日。
いよいよ四年目のマルリカの実の収穫日がやってきた。
この日に合わせてハリーとお祖父様がグリーンベリーにやってきた。もちろん兄様もいるし、家令の勉強をしているスティーブ君も立ち会う事になっている。
昨年は四千七百六十四個の実を収穫した。
でも結構シビアな個数の取り合いみたいな話し合いになって、お祖父様に新しくマルリカの温室を別に作っていただいて育てたんだ。
シェルバーネで実がほとんど実らなくなってしまったというマルリカ。
最初の収穫の時、シャマル様は実がついているマルリカの木を見て泣いてしまった。
僕は一本の木にどれ位のマルリカの実が生るものなのか知らなかったから、びっくりしてしまった。
でも、木の大きさからいえば、一本の木にもっと実が生ってもいいかなって思ってはいたんだよね。ただ、苗木から育てて成長の魔法は使ったけど、木自体はまだ若いからこれくらいなのかなって思ったんだ。
次の年、木も大きくなってきて、前の年よりも多く実がなった。もちろん苗木も増やしたから前の年よりも収穫の数は増えたけれど、一本の木から収穫できる数は限られているような気がした。
そして去年もまた苗木を増やして対応した。それでも五千個は採れなかった。
マルリカをこれからどうしていきたいのか具体的に考えていかなければならない。多分皆がそう思い始めた今年。
「新しい温室への植え替えがあったのでどうなるかなと思ったのですが、今までの木も新しく増やした苗木からのものも、それなりに実がついたと思っています」
畑を見ながらそう言うとお祖父様が「うむ。実りが確かに増えたな」と言ってくださった。
そう。温室が広くなったから、今までよりも木の間隔を広くしたんだよね。一つの部屋に植える木の本数は減るけれど、新しい温室は四つの部屋全てがマルリカの木だから、全体を考えれば、本数もかなり増えているからね。
「では例年と同じ規格に合格した実を魔法で収穫していきたいと思います。魔法陣は作成してありますので、区画ごとに発動させて一旦マジックボックスに収納します。その後、規格まで育たなかった実を【緑の手】で成熟させます」
「エディ、今までよりもかなり数が増えていると思うから、魔力量の事もしっかり考えて作業をしてほしい」
兄様からそう言われて僕は「はい」と頷いた。
大丈夫だと思うけれど、油断は禁物だからね。
「魔法陣での作業であれば、私も一区画魔力を流そう」
「では僕も」
お祖父様とハリーが声をあげてくれた。僕はチラリと兄様を見た。
もしも今後、他の誰かが作業に関わるような事になってくる可能性があるとすれば、僕以外の魔力でも同じ事が出来ると証明出来た方がいいよね。
そんな僕の気持ちが分かってくれたようで、兄様もコクリと頷いた。
「では僕が二つの温室を受け持ちます。そしてあとの二つを一部屋ずつ、お二人にお願いいたします」
「うむ。引き受けた。マジックボックスはそれぞれの温室で分けて入れてもよいかな?」
「はい。大丈夫です。いくつあるか、傷などがないかを確認する魔法陣も出来ていますので、後でそちらをかけて最終的な個数を出します」
「分かりました」
ハリーがコクリと頷いたのを見て、僕はスティーブを振り返った。
「スティーブはハロルドに付き添ってほしい。初めての作業なので、念のため立ち合いをお願いします」
「畏まりました」
「では私の立ち合いはアルフレッドかな」
お祖父様の言葉に僕と兄様は思わず笑ってしまった。
「お祖父様の立ち合いは無用です。どうぞよろしくお願いいたします。私は加護を使って木に生ったまま成熟をさせるエディの方に付き添います。数が増えているため魔力不足なった時に備えます」
「では私が二部屋を行おう。エドワードは一部屋に。樹熟はエドワードにしか出来ないからな。その方が良いだろう」
「ありがとうございます。ではそうさせていただきます」
こうして収穫の作業が始まった。
一つ一つ確かめて手で収穫をしていったらとても一日でなんて終わらないけれど、魔法でやればそれが可能になる。同じ規格になるものを採って、集め、保存をして、さらに育たなかったものも規格の大きさや成熟までもっていく。その成熟にしても加護を使った魔法で一気に行ってしまうので、一つ一つの実をきちんと成熟出来たかの確認はしない。そのままもう一度収穫の魔法をかけるだけだ。
ただ部屋数が多くなったから兄様が心配しているような事が起こらないように、僕も力を過信せずに作業をしようって思ったよ。
朝から行った収穫の作業は、いったん昼食の時間を挟んで行われ、三時には無事終了となった。
四年目のマルリカの実は一万個を超えて一万八百六十五個になった。
三個が一セットなので、三千六百二十一セットであまりが二個。まぁ自然のものだからぴったりの数にはならないよね。
「昨年の倍以上だ。エドワード、よく頑張ったな」
「ありがとうございます。温室を作ってくださったお祖父様のお陰です。土の改良も色々とアドバイスをいただきました。感謝いたします」
そうなんだ。加護の力に頼らなくても育っていかれるように、温室を新しくした時に僕は土に『豊穣の魔法』をかけなかったんだ。
『豊穣の魔法』を使わずに出来る方がこれから先の事を考えるといいのかなって思って、お祖父様やマークと一緒に沢山考えたんだよ。
不安はあったけど一本の木の実りも増えたし、規格を外れて成熟の魔法を使う個数も思っていたよりは少なかったと思うんだ。
「ハリーもスティーブもお疲れ様でした」
「お疲れさまでした、エディ兄様。豊作、おめでとうございます」
「うん。ありがとう」
それから皆でお茶を飲んで、シェフが用意をしておいてくれたお菓子を食べた。
「無事に今年の実も収穫が出来ました。また来年の収穫に備えていきます。これ以上苗木を増やすかどうかは今度の会議以降に決めるつもりです。出来れば、マルリカの実が欲しいと思う人たちに行き渡るようにしていきたいと思っています。また来年もよろしくお願いいたします」
こうして四度目の収穫が終わった。
------------
とりあえず実をいつ使うのかはちょっとだけ棚上げwww
いよいよ四年目のマルリカの実の収穫日がやってきた。
この日に合わせてハリーとお祖父様がグリーンベリーにやってきた。もちろん兄様もいるし、家令の勉強をしているスティーブ君も立ち会う事になっている。
昨年は四千七百六十四個の実を収穫した。
でも結構シビアな個数の取り合いみたいな話し合いになって、お祖父様に新しくマルリカの温室を別に作っていただいて育てたんだ。
シェルバーネで実がほとんど実らなくなってしまったというマルリカ。
最初の収穫の時、シャマル様は実がついているマルリカの木を見て泣いてしまった。
僕は一本の木にどれ位のマルリカの実が生るものなのか知らなかったから、びっくりしてしまった。
でも、木の大きさからいえば、一本の木にもっと実が生ってもいいかなって思ってはいたんだよね。ただ、苗木から育てて成長の魔法は使ったけど、木自体はまだ若いからこれくらいなのかなって思ったんだ。
次の年、木も大きくなってきて、前の年よりも多く実がなった。もちろん苗木も増やしたから前の年よりも収穫の数は増えたけれど、一本の木から収穫できる数は限られているような気がした。
そして去年もまた苗木を増やして対応した。それでも五千個は採れなかった。
マルリカをこれからどうしていきたいのか具体的に考えていかなければならない。多分皆がそう思い始めた今年。
「新しい温室への植え替えがあったのでどうなるかなと思ったのですが、今までの木も新しく増やした苗木からのものも、それなりに実がついたと思っています」
畑を見ながらそう言うとお祖父様が「うむ。実りが確かに増えたな」と言ってくださった。
そう。温室が広くなったから、今までよりも木の間隔を広くしたんだよね。一つの部屋に植える木の本数は減るけれど、新しい温室は四つの部屋全てがマルリカの木だから、全体を考えれば、本数もかなり増えているからね。
「では例年と同じ規格に合格した実を魔法で収穫していきたいと思います。魔法陣は作成してありますので、区画ごとに発動させて一旦マジックボックスに収納します。その後、規格まで育たなかった実を【緑の手】で成熟させます」
「エディ、今までよりもかなり数が増えていると思うから、魔力量の事もしっかり考えて作業をしてほしい」
兄様からそう言われて僕は「はい」と頷いた。
大丈夫だと思うけれど、油断は禁物だからね。
「魔法陣での作業であれば、私も一区画魔力を流そう」
「では僕も」
お祖父様とハリーが声をあげてくれた。僕はチラリと兄様を見た。
もしも今後、他の誰かが作業に関わるような事になってくる可能性があるとすれば、僕以外の魔力でも同じ事が出来ると証明出来た方がいいよね。
そんな僕の気持ちが分かってくれたようで、兄様もコクリと頷いた。
「では僕が二つの温室を受け持ちます。そしてあとの二つを一部屋ずつ、お二人にお願いいたします」
「うむ。引き受けた。マジックボックスはそれぞれの温室で分けて入れてもよいかな?」
「はい。大丈夫です。いくつあるか、傷などがないかを確認する魔法陣も出来ていますので、後でそちらをかけて最終的な個数を出します」
「分かりました」
ハリーがコクリと頷いたのを見て、僕はスティーブを振り返った。
「スティーブはハロルドに付き添ってほしい。初めての作業なので、念のため立ち合いをお願いします」
「畏まりました」
「では私の立ち合いはアルフレッドかな」
お祖父様の言葉に僕と兄様は思わず笑ってしまった。
「お祖父様の立ち合いは無用です。どうぞよろしくお願いいたします。私は加護を使って木に生ったまま成熟をさせるエディの方に付き添います。数が増えているため魔力不足なった時に備えます」
「では私が二部屋を行おう。エドワードは一部屋に。樹熟はエドワードにしか出来ないからな。その方が良いだろう」
「ありがとうございます。ではそうさせていただきます」
こうして収穫の作業が始まった。
一つ一つ確かめて手で収穫をしていったらとても一日でなんて終わらないけれど、魔法でやればそれが可能になる。同じ規格になるものを採って、集め、保存をして、さらに育たなかったものも規格の大きさや成熟までもっていく。その成熟にしても加護を使った魔法で一気に行ってしまうので、一つ一つの実をきちんと成熟出来たかの確認はしない。そのままもう一度収穫の魔法をかけるだけだ。
ただ部屋数が多くなったから兄様が心配しているような事が起こらないように、僕も力を過信せずに作業をしようって思ったよ。
朝から行った収穫の作業は、いったん昼食の時間を挟んで行われ、三時には無事終了となった。
四年目のマルリカの実は一万個を超えて一万八百六十五個になった。
三個が一セットなので、三千六百二十一セットであまりが二個。まぁ自然のものだからぴったりの数にはならないよね。
「昨年の倍以上だ。エドワード、よく頑張ったな」
「ありがとうございます。温室を作ってくださったお祖父様のお陰です。土の改良も色々とアドバイスをいただきました。感謝いたします」
そうなんだ。加護の力に頼らなくても育っていかれるように、温室を新しくした時に僕は土に『豊穣の魔法』をかけなかったんだ。
『豊穣の魔法』を使わずに出来る方がこれから先の事を考えるといいのかなって思って、お祖父様やマークと一緒に沢山考えたんだよ。
不安はあったけど一本の木の実りも増えたし、規格を外れて成熟の魔法を使う個数も思っていたよりは少なかったと思うんだ。
「ハリーもスティーブもお疲れ様でした」
「お疲れさまでした、エディ兄様。豊作、おめでとうございます」
「うん。ありがとう」
それから皆でお茶を飲んで、シェフが用意をしておいてくれたお菓子を食べた。
「無事に今年の実も収穫が出来ました。また来年の収穫に備えていきます。これ以上苗木を増やすかどうかは今度の会議以降に決めるつもりです。出来れば、マルリカの実が欲しいと思う人たちに行き渡るようにしていきたいと思っています。また来年もよろしくお願いいたします」
こうして四度目の収穫が終わった。
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