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79 残っていたら……
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グリーンベリーの神殿に残っているマルリカの実は二組分。
どうしてか分からないけれど、それがとても頭に残った。
そして同じように頭の中に浮かんでは消えてを繰り返しているのがトーマス君の言葉だ。
僕はどうしたいのかな。
トーマス君のように、いつ使うかは分からないけれど手元に置いておきたいって思っているのかな。
見慣れた、けれど詳しい事は何も知らない不思議な実。
二組なら二の月の間には無くなってしまうよね? きっと僕みたいに色々考えていた人が取りに来る。
だけどもしも、三月まで残っていたら。
そうしたら、僕は……
「エディ」
兄様に呼ばれてハッとした。いけない、食事の最中だった。
「何か気になっている事があるなら話して? いつでも話を聞くよ?」
今までにも繰り返し言われてきた言葉を聞きながら、僕は声を出せずにいた。そんな僕を見て兄様は無理に聞き出そうとはせずに「話せるようになったら話してね、でも食事はちゃんととらないといけないよ」
と笑みを浮かべる。
まとまっていない気持ちだった。
自分でもどうしたらいいのか分からないはずの気持ちだった。それなのに食事の事だけを口にした兄様を見ていたら自然に口が開いていた。
「あの……」
「うん?」
「今、グリーンベリーの神殿にはマルリカの実が二組あって、神殿から追加希望を出すか判断をして欲しいって連絡がきて」
「ああ、そうなんだね。どこも残りは少なくなってきているみたいだね。追加の申請は出すの?」
「はい。でも個別の領間での申請じゃなくて、王国への譲渡願い申請だけにしたんです。もう少しで次の実の収穫だし。それにさっきアルも言っていた通りどこの領も残りは少ないみたいだから」
「そうだね。二の月の数字は出ていないけれど、譲渡可能の届け出を出しているところも少ないだろうし、どうしても足りないところは多分年内に申請をしている可能性が高いような気がするね」
「そうなんです。だから難しいかなって思って、無理に領間にする事もないかなって……思ったんだけど」
「エディ?」
そっとフォークを置いて、僕は兄様の顔を見た。
「もしも……」
「もしも?」
「もしも、二の月の終わりまで、グリーンベリーのマルリカの実が残っていたら……」
「…………」
「取りに、行こうかなって……」
どんどん小さくなっていく声。ちゃんと兄様を見ていたのに、いつの間にか俯いていて、僕の視界は食べかけの料理のお皿になっていた。
ちゃんと話をしないといけないって思うほど顔を上げられなくなるのは、僕の気持ちが中途半端なままこんな事を言い出した証拠だって思った。
どうしよう。
兄様はどう思ったかな。
二の月の終わりまで二組しかないマルリカの実が残っている可能性は低い。
だからそんな事を言い出したのかなって思われたかな。
言わなければ良かった。
もっともっと、ちゃんと自分の気持ちが固まってから話をすれば良かった。
ユージーン君みたいに「無理をしているんじゃない?」って心配されるのも、残っている可能性が低いからそんな事を言ってみたって思われるのも嫌なんだ。
だって、だって……
「分かった。じゃあ、二の月の終わりに取りに行こう。手元にあればいつ使ってもいいしね。沢山考えてくれてありがとう、エディ」
「………………」
顔を上げたらそこにはいつもと同じ顔をした兄様がいた。
優しい笑顔。
兄様はいつだって僕が考えている事が分かって、僕が欲しい言葉をくれるんだ。
ずっと、ずっと、変わらずに。
「大丈夫だよ。エディが沢山考えていた事を、私はちゃんと知っているよ。怖い気持ちも、ドキドキするような気持ちもね。私も同じだよ、エディ。だから何かのタイミングで、使おうかなって思った時にそうしたらいい。私もちゃんと使い方をおさらいしておこう」
向けられた笑顔に、小さな声で「はい」って言って笑い返した。
それでいいんだって思えた。
もしも残っていたら、僕達たちを待っていてくれたという事かもしれない。
そんな事を思いながら僕は兄様の笑顔に微笑み返して食事を再開した。
だけど、二の月終わる前に、残っていた二組のマルリカの実はそれぞれの行き先が決まった。
-------------
遅くなりました。
どうしてか分からないけれど、それがとても頭に残った。
そして同じように頭の中に浮かんでは消えてを繰り返しているのがトーマス君の言葉だ。
僕はどうしたいのかな。
トーマス君のように、いつ使うかは分からないけれど手元に置いておきたいって思っているのかな。
見慣れた、けれど詳しい事は何も知らない不思議な実。
二組なら二の月の間には無くなってしまうよね? きっと僕みたいに色々考えていた人が取りに来る。
だけどもしも、三月まで残っていたら。
そうしたら、僕は……
「エディ」
兄様に呼ばれてハッとした。いけない、食事の最中だった。
「何か気になっている事があるなら話して? いつでも話を聞くよ?」
今までにも繰り返し言われてきた言葉を聞きながら、僕は声を出せずにいた。そんな僕を見て兄様は無理に聞き出そうとはせずに「話せるようになったら話してね、でも食事はちゃんととらないといけないよ」
と笑みを浮かべる。
まとまっていない気持ちだった。
自分でもどうしたらいいのか分からないはずの気持ちだった。それなのに食事の事だけを口にした兄様を見ていたら自然に口が開いていた。
「あの……」
「うん?」
「今、グリーンベリーの神殿にはマルリカの実が二組あって、神殿から追加希望を出すか判断をして欲しいって連絡がきて」
「ああ、そうなんだね。どこも残りは少なくなってきているみたいだね。追加の申請は出すの?」
「はい。でも個別の領間での申請じゃなくて、王国への譲渡願い申請だけにしたんです。もう少しで次の実の収穫だし。それにさっきアルも言っていた通りどこの領も残りは少ないみたいだから」
「そうだね。二の月の数字は出ていないけれど、譲渡可能の届け出を出しているところも少ないだろうし、どうしても足りないところは多分年内に申請をしている可能性が高いような気がするね」
「そうなんです。だから難しいかなって思って、無理に領間にする事もないかなって……思ったんだけど」
「エディ?」
そっとフォークを置いて、僕は兄様の顔を見た。
「もしも……」
「もしも?」
「もしも、二の月の終わりまで、グリーンベリーのマルリカの実が残っていたら……」
「…………」
「取りに、行こうかなって……」
どんどん小さくなっていく声。ちゃんと兄様を見ていたのに、いつの間にか俯いていて、僕の視界は食べかけの料理のお皿になっていた。
ちゃんと話をしないといけないって思うほど顔を上げられなくなるのは、僕の気持ちが中途半端なままこんな事を言い出した証拠だって思った。
どうしよう。
兄様はどう思ったかな。
二の月の終わりまで二組しかないマルリカの実が残っている可能性は低い。
だからそんな事を言い出したのかなって思われたかな。
言わなければ良かった。
もっともっと、ちゃんと自分の気持ちが固まってから話をすれば良かった。
ユージーン君みたいに「無理をしているんじゃない?」って心配されるのも、残っている可能性が低いからそんな事を言ってみたって思われるのも嫌なんだ。
だって、だって……
「分かった。じゃあ、二の月の終わりに取りに行こう。手元にあればいつ使ってもいいしね。沢山考えてくれてありがとう、エディ」
「………………」
顔を上げたらそこにはいつもと同じ顔をした兄様がいた。
優しい笑顔。
兄様はいつだって僕が考えている事が分かって、僕が欲しい言葉をくれるんだ。
ずっと、ずっと、変わらずに。
「大丈夫だよ。エディが沢山考えていた事を、私はちゃんと知っているよ。怖い気持ちも、ドキドキするような気持ちもね。私も同じだよ、エディ。だから何かのタイミングで、使おうかなって思った時にそうしたらいい。私もちゃんと使い方をおさらいしておこう」
向けられた笑顔に、小さな声で「はい」って言って笑い返した。
それでいいんだって思えた。
もしも残っていたら、僕達たちを待っていてくれたという事かもしれない。
そんな事を思いながら僕は兄様の笑顔に微笑み返して食事を再開した。
だけど、二の月終わる前に、残っていた二組のマルリカの実はそれぞれの行き先が決まった。
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遅くなりました。
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