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76 十二の月は忙しない
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とりあえず、国はきちんと大きな柱を決めて法も整えていくので、それを踏まえながら分かりづらい事や、困る事を出してほしい。但し、王国の未来を考えて今後もマルリカの実は使っていく前提だという書状が追加で届いた。
王国が追加で書状を出すというのは今まででは考えられない事なので、(だって前に出したものが足らない内容だったって認めるようなものだからね)反対の意見を出すにはそれなりの理由と覚悟が必要になったって兄様が笑っていた。
実は父様と兄様達は、マルリカの実を作っているのが僕だと勘づいている家もあるから、反対派の人達が過激な行動を取らないか、ものすごく注意をしていたんだって。
知らないうちに僕の屋敷の敷地内と仕事場は最大の防御陣が組まれていた。もちろんお祖父様の作られたものだ。
あの厄災の時よりもさらにグレードアップしているらしい。呪術も防ぐとか。今度術式を見せて頂こう。
そして十二の月になって、兄様もお手伝いするようになったフィンレーの冬祭りは何事もなく終わって、その後はグリーンベリーの決算に追われる。まぁ実際の数字が来るのは新しい年が始まってからなんだけどある程度まとめておかないと国に提出をするものが間に合わなくなるからね。
例によって例のごとく、兄様も週の半分くらいはグリーンベリーの仕事をしてくれている。
毎年申し訳ないなって思うけど、領の方と領主の個人資産はきちんと分けないといけないし、家の方はスティーブ達がまとめてくれているけれど、僕が目を通さなければならないものもあるからね。
この時期は仕方がないんだ。
でもバタバタしている方がいいかもしれないなんて気持ちもある。シャマル様やルシルに子供が出来て、トーマス君がマルリカの実を神殿にもらいに行ったなんて聞くと、やっぱり僕はどうしたいんだろうって考えてしまうんだ。
それに子供が出来たら僕達だけの事じゃなくて、ハリー達の将来を大きく変える可能性があるものね。
もう学園は冬の休みに入っていて、年が明けたら二人は最終学年だ。
学園を卒業したらどうするのか、二人なりに考えているだろう。
二人はどうしたいと思っているのかな。
そして、僕は…………
「エディ、ここに大きな皺が寄っているよ。疲れている時に考える事はあまり良い答えは出ない。
夜、夫婦の寝室でぼんやりとそんな事を考えていた僕に、兄様はクスリと笑って隣に腰かけた。長い指が眉間の辺りをトントンと叩く。
「そうですね。考える事は沢山あるのに、なんだかあっという間に新しい年がきてしまいそうで」
「うん。そういう時はね、新しい年になってから考えたらいいよ」
「…………アル」
「ふふふ、まだ時間があるから新しい年が来てしまうなんて思えるんだ。本当に時間がない事ならそんな事さえ浮かばない。だから大丈夫。どうしても行き詰って答えが出せないって思ったら一緒に考えよう?」
「………………そうですね。そうする方がいいのかもしれない。だってちゃんと考えて答えを出さないといけない事だから」
「うん。エディがそう思うなら、一緒に納得いくまで考えよう。一人で考えなくていい。それよりも身体を休める方が先だ。スティーブが見てほしい書類があるような事を言っていた。きっとその方が先かな」
「ふふふ、そうですね」
ああ、やっぱり兄様はすごいな。父様の「大丈夫」もすごいなぁって思ったけれど、兄様とお話しすると僕自身が「大丈夫」って自然に思えてくるんだ。
それに僕が考えなければいけないのは大切な命の事だ。
誰に迷惑をかけるとか、将来を変えてしまうとかではないと、きっと二人もそう思うだろう。
だから僕がしなければならないのは、どうしたいのかを考えて、兄様と一緒に決める事だ。
「明日もよろしくお願いします、アル」
「うん。明日も頑張ろう」
そう言って笑って、そっと口づけを交わして、僕達はベッドに入った。
◇◇◇
忙しなく十二の月が終わり、新しい年がやってきた。
ウィルとハリーは高等部の三年生になった。それぞれに専攻したものをそれぞれに伸ばしていく。小さなころから変わらずにウィルは剣を、ハリーは魔法を専攻している。
背丈もとっくに僕を超えてしまったよ。
ミッチェル君とブライアン君、そしてスティーブ君が今年も手際よくまとめ上げて一の月半分までいかないうちに王国に届け出る書類もそろった。
もっともミッチェル君からは「人手を増やそう」って真剣に言われた。
うん。募集をかけようね。色々と公に出来ない事があるから、なかなか中枢の人材が増えないんだけどさ、それでも前向きに増やしていきたい。
その間にレナード君の結婚式もあった。お相手の子爵令嬢が学園を卒業したから、忙しい時期で申し訳ないけどって招待状が届いた。もちろん出席させていただいたよ。でも今回はグリーンベリー伯爵として招待されていたので、僕はお友達と一緒に出席をした。
ユージーン君、エリック君、スティーブ君、ミッチェル君、クラウス君そしてルシル。
トーマス君は少し体調がすぐれないから休ませたってユージーン君が言っていた。残念だったけれど、とても可愛らしい子爵家の令嬢とレナード君が幸せそうで皆でお似合いだねってお祝いをした。
そして一の月が半分を過ぎた頃。
「あ……」
送られてきた書簡を見て、僕は小さな声を漏らした。
『エディ、赤ちゃんが出来ました。秋にはお母さんになります』
トーマス君からの知らせだった。
------
すみません。時系列表で管理をしていたのですが、どうしてだか双子達の卒業の年を間違えました。
他も見返したのですが、つじつまが合わないところがあったら教えてください( ;∀;)
ひ~~~~~
そして、またしても改稿。うううう。レナード君ごめんよ。でも書いたから。ちょっとだけだけど書いたから。。。
王国が追加で書状を出すというのは今まででは考えられない事なので、(だって前に出したものが足らない内容だったって認めるようなものだからね)反対の意見を出すにはそれなりの理由と覚悟が必要になったって兄様が笑っていた。
実は父様と兄様達は、マルリカの実を作っているのが僕だと勘づいている家もあるから、反対派の人達が過激な行動を取らないか、ものすごく注意をしていたんだって。
知らないうちに僕の屋敷の敷地内と仕事場は最大の防御陣が組まれていた。もちろんお祖父様の作られたものだ。
あの厄災の時よりもさらにグレードアップしているらしい。呪術も防ぐとか。今度術式を見せて頂こう。
そして十二の月になって、兄様もお手伝いするようになったフィンレーの冬祭りは何事もなく終わって、その後はグリーンベリーの決算に追われる。まぁ実際の数字が来るのは新しい年が始まってからなんだけどある程度まとめておかないと国に提出をするものが間に合わなくなるからね。
例によって例のごとく、兄様も週の半分くらいはグリーンベリーの仕事をしてくれている。
毎年申し訳ないなって思うけど、領の方と領主の個人資産はきちんと分けないといけないし、家の方はスティーブ達がまとめてくれているけれど、僕が目を通さなければならないものもあるからね。
この時期は仕方がないんだ。
でもバタバタしている方がいいかもしれないなんて気持ちもある。シャマル様やルシルに子供が出来て、トーマス君がマルリカの実を神殿にもらいに行ったなんて聞くと、やっぱり僕はどうしたいんだろうって考えてしまうんだ。
それに子供が出来たら僕達だけの事じゃなくて、ハリー達の将来を大きく変える可能性があるものね。
もう学園は冬の休みに入っていて、年が明けたら二人は最終学年だ。
学園を卒業したらどうするのか、二人なりに考えているだろう。
二人はどうしたいと思っているのかな。
そして、僕は…………
「エディ、ここに大きな皺が寄っているよ。疲れている時に考える事はあまり良い答えは出ない。
夜、夫婦の寝室でぼんやりとそんな事を考えていた僕に、兄様はクスリと笑って隣に腰かけた。長い指が眉間の辺りをトントンと叩く。
「そうですね。考える事は沢山あるのに、なんだかあっという間に新しい年がきてしまいそうで」
「うん。そういう時はね、新しい年になってから考えたらいいよ」
「…………アル」
「ふふふ、まだ時間があるから新しい年が来てしまうなんて思えるんだ。本当に時間がない事ならそんな事さえ浮かばない。だから大丈夫。どうしても行き詰って答えが出せないって思ったら一緒に考えよう?」
「………………そうですね。そうする方がいいのかもしれない。だってちゃんと考えて答えを出さないといけない事だから」
「うん。エディがそう思うなら、一緒に納得いくまで考えよう。一人で考えなくていい。それよりも身体を休める方が先だ。スティーブが見てほしい書類があるような事を言っていた。きっとその方が先かな」
「ふふふ、そうですね」
ああ、やっぱり兄様はすごいな。父様の「大丈夫」もすごいなぁって思ったけれど、兄様とお話しすると僕自身が「大丈夫」って自然に思えてくるんだ。
それに僕が考えなければいけないのは大切な命の事だ。
誰に迷惑をかけるとか、将来を変えてしまうとかではないと、きっと二人もそう思うだろう。
だから僕がしなければならないのは、どうしたいのかを考えて、兄様と一緒に決める事だ。
「明日もよろしくお願いします、アル」
「うん。明日も頑張ろう」
そう言って笑って、そっと口づけを交わして、僕達はベッドに入った。
◇◇◇
忙しなく十二の月が終わり、新しい年がやってきた。
ウィルとハリーは高等部の三年生になった。それぞれに専攻したものをそれぞれに伸ばしていく。小さなころから変わらずにウィルは剣を、ハリーは魔法を専攻している。
背丈もとっくに僕を超えてしまったよ。
ミッチェル君とブライアン君、そしてスティーブ君が今年も手際よくまとめ上げて一の月半分までいかないうちに王国に届け出る書類もそろった。
もっともミッチェル君からは「人手を増やそう」って真剣に言われた。
うん。募集をかけようね。色々と公に出来ない事があるから、なかなか中枢の人材が増えないんだけどさ、それでも前向きに増やしていきたい。
その間にレナード君の結婚式もあった。お相手の子爵令嬢が学園を卒業したから、忙しい時期で申し訳ないけどって招待状が届いた。もちろん出席させていただいたよ。でも今回はグリーンベリー伯爵として招待されていたので、僕はお友達と一緒に出席をした。
ユージーン君、エリック君、スティーブ君、ミッチェル君、クラウス君そしてルシル。
トーマス君は少し体調がすぐれないから休ませたってユージーン君が言っていた。残念だったけれど、とても可愛らしい子爵家の令嬢とレナード君が幸せそうで皆でお似合いだねってお祝いをした。
そして一の月が半分を過ぎた頃。
「あ……」
送られてきた書簡を見て、僕は小さな声を漏らした。
『エディ、赤ちゃんが出来ました。秋にはお母さんになります』
トーマス君からの知らせだった。
------
すみません。時系列表で管理をしていたのですが、どうしてだか双子達の卒業の年を間違えました。
他も見返したのですが、つじつまが合わないところがあったら教えてください( ;∀;)
ひ~~~~~
そして、またしても改稿。うううう。レナード君ごめんよ。でも書いたから。ちょっとだけだけど書いたから。。。
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