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73 トーマス君とのお茶会②
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「家に帰ってからもしばらく悩んでいたんだけど、誕生日の二日前にジーンに言ったんだ。まだオルウェンの神殿にマルリカの実があるなら取りに行きたいって」
「…………ジーンはなんて言ったのか聞いてもいい?」
僕がそう言うとトーマス君は微かに笑ってコクリと頷いた。
「一番はじめは無理をしているんじゃないかって。その後はどうしてそう思ったのか、元々同性同士の結婚だし子供はどうしても必要なわけじゃないんだとか、僕に何かあったら困るって」
「うん…………」
「それを聞いていたらなんだかとても悲しくなってきてしまったんだ」
「トム?」
「だからね、ジーンは僕との子が欲しくないの?って聞いてみた」
トーマス君は目の前の事から絶対に逃げないしなやかな強さがある。僕はトーマス君のそんな強さが好きだった。
「だって望まれない子供なんて悲しいでしょう?」
「うん……」
そう。そんな子供はいてはいけない。理想だと言われてしまうかもしれないけれど、全ての子供が望まれて愛される子供であってほしいって思ってしまうんだ。
「ジーンはものすごく慌てていたよ。笑ってしまうくらいに。それを見て良かったって思った。でもね、そんな事を言っても僕自身があの実をいつ「使おう」って思えるのか分からないんだよね。だから覚悟が出来てから取りに行けばいいって言われたんだけど、怖さが無くなる日なんてないのかもしれないじゃない? それに覚悟って言われるとなんだかちょとね」
少し赤い顔をしてクスクスと笑ったトーマス君に僕も思わず笑ってしまった。
「手元にあって、何かのタイミングがあって使ってみようかなって思えるのが一番自分の中でしっくりくるっていうか、自然でいられるような気がしたんだ。あの日、あの小さな手が愛おしいって思った気持ちと、神殿で初めてマルリカの実を見て僕にも出来るかなって思った気持ちは確かに僕自身のもので、そう感じたものに一番近いかなって。だからそんな風に思った日に使えるようにしておきたいなって。覚悟とか、構えた感じになるんじゃなくてお互いにそうしようかって思った時に使えるといいなって思っている。だから本当はこんな風に大袈裟にもらってきたよっていうほどの事でもないんだけどね、でもエディには言っておきたかったんだ。僕は一歩だけ踏み出したって」
照れたように笑うトーマス君はとても綺麗で、可愛らしかった。
未だに背丈も同じくらいで、後で知ったんだけど学生時代は僕達は『可愛い枠』なんて言われていたらしい。
「話をしてくれてありがとうトム。トムの話が聞けて良かった。同じように怖いって思う人がいるって変な言い方だけど心強い。ルシルははじめから子供を産む気があったから、どちらかって言うと殿下の説得みたいな感じだったでしょう? すごいなって思う気持ちと僕には出来ないなっていう気持ちもあったんだ。それに……」
僕は一度言葉を切って、息を吸って、吐いた。
「エディ?」
「うん。あのね、僕は、自分に子供が出来たらちゃんと育てられるのかなって怖い気持ちもあったんだ。フィンレーの父様と母様ではない、僕の……ハーヴィンの……両親みたい事をしてしまったらどうしようって」
その言葉にトーマス君は顔を強張らせて、次の瞬間飛びつくようにして僕にしがみついてきた。
「大丈夫だよ! だってエディは誰よりも強くて、優しくて、可愛くて、双子の弟さんたちの事もものすごく大事にしていたでしょう? それにエディは前にハーヴィンの事はよく覚えていないって言っていたよ。それならエディの中にあるご両親はフィンレーのご両親だけだよ! エディの事を愛してくれたお二方だけだ! だからそんな心配はしなくてもいいんだよ!」
「トム……ごめん、泣かないで」
「泣いていないよ。でもそんな風に思ったら、フィンレーのご両親が悲しくなる。あのねエディ。ロマースクにはどこかの国から伝わってきた不思議な諺みたいなものがあってね、その中に『古く錆びた鎖は断ち切れ』っていうのがあるんだ。鎖を切るのは自分自身なんだよ、エディ。それにエディの傍にはアルフレッド様がいらっしゃるじゃない。だからエディがどうしようって思うような事は起こらないよ。大丈夫」
「うん……そうだね。そうだよね」
僕はトーマス君にハーヴィンの両親がした事を話した事はなかった。それでもトーマス君は何があったのか、僕が何を恐れているのかを瞬時に気づいたようだった。
頷く僕にトーマス君は少し照れたように笑いながら離れて「僕ね、エディの大丈夫って大好きなんだ」と言った。
「だから僕にももう一度言わせて、エディは大丈夫」
うっすらと涙をにじませながらトーマス君は笑顔でそう言った。だから僕も笑顔で「ありがとう」って言った。
その後は少しだけ生まれてくるかもしれない子供の話もした。
トーマス君はどうやらジーンに似た子が欲しいなって思っているみたいだった。
「だって、僕に似た子をジーンがものすごく可愛がっていたら焼きもち焼いちゃうかもしれないでしょう?」
「ええ? じゃあジーンに似た子をトムがすごく可愛がっていたらジーンも焼きもち焼くんじゃない?」
「……それなら、まぁ、その方がいいかな」
僕はやっぱりトーマス君が大好きだって思った。
-------------------
今も昔も『可愛い枠』の二人でした♪
「…………ジーンはなんて言ったのか聞いてもいい?」
僕がそう言うとトーマス君は微かに笑ってコクリと頷いた。
「一番はじめは無理をしているんじゃないかって。その後はどうしてそう思ったのか、元々同性同士の結婚だし子供はどうしても必要なわけじゃないんだとか、僕に何かあったら困るって」
「うん…………」
「それを聞いていたらなんだかとても悲しくなってきてしまったんだ」
「トム?」
「だからね、ジーンは僕との子が欲しくないの?って聞いてみた」
トーマス君は目の前の事から絶対に逃げないしなやかな強さがある。僕はトーマス君のそんな強さが好きだった。
「だって望まれない子供なんて悲しいでしょう?」
「うん……」
そう。そんな子供はいてはいけない。理想だと言われてしまうかもしれないけれど、全ての子供が望まれて愛される子供であってほしいって思ってしまうんだ。
「ジーンはものすごく慌てていたよ。笑ってしまうくらいに。それを見て良かったって思った。でもね、そんな事を言っても僕自身があの実をいつ「使おう」って思えるのか分からないんだよね。だから覚悟が出来てから取りに行けばいいって言われたんだけど、怖さが無くなる日なんてないのかもしれないじゃない? それに覚悟って言われるとなんだかちょとね」
少し赤い顔をしてクスクスと笑ったトーマス君に僕も思わず笑ってしまった。
「手元にあって、何かのタイミングがあって使ってみようかなって思えるのが一番自分の中でしっくりくるっていうか、自然でいられるような気がしたんだ。あの日、あの小さな手が愛おしいって思った気持ちと、神殿で初めてマルリカの実を見て僕にも出来るかなって思った気持ちは確かに僕自身のもので、そう感じたものに一番近いかなって。だからそんな風に思った日に使えるようにしておきたいなって。覚悟とか、構えた感じになるんじゃなくてお互いにそうしようかって思った時に使えるといいなって思っている。だから本当はこんな風に大袈裟にもらってきたよっていうほどの事でもないんだけどね、でもエディには言っておきたかったんだ。僕は一歩だけ踏み出したって」
照れたように笑うトーマス君はとても綺麗で、可愛らしかった。
未だに背丈も同じくらいで、後で知ったんだけど学生時代は僕達は『可愛い枠』なんて言われていたらしい。
「話をしてくれてありがとうトム。トムの話が聞けて良かった。同じように怖いって思う人がいるって変な言い方だけど心強い。ルシルははじめから子供を産む気があったから、どちらかって言うと殿下の説得みたいな感じだったでしょう? すごいなって思う気持ちと僕には出来ないなっていう気持ちもあったんだ。それに……」
僕は一度言葉を切って、息を吸って、吐いた。
「エディ?」
「うん。あのね、僕は、自分に子供が出来たらちゃんと育てられるのかなって怖い気持ちもあったんだ。フィンレーの父様と母様ではない、僕の……ハーヴィンの……両親みたい事をしてしまったらどうしようって」
その言葉にトーマス君は顔を強張らせて、次の瞬間飛びつくようにして僕にしがみついてきた。
「大丈夫だよ! だってエディは誰よりも強くて、優しくて、可愛くて、双子の弟さんたちの事もものすごく大事にしていたでしょう? それにエディは前にハーヴィンの事はよく覚えていないって言っていたよ。それならエディの中にあるご両親はフィンレーのご両親だけだよ! エディの事を愛してくれたお二方だけだ! だからそんな心配はしなくてもいいんだよ!」
「トム……ごめん、泣かないで」
「泣いていないよ。でもそんな風に思ったら、フィンレーのご両親が悲しくなる。あのねエディ。ロマースクにはどこかの国から伝わってきた不思議な諺みたいなものがあってね、その中に『古く錆びた鎖は断ち切れ』っていうのがあるんだ。鎖を切るのは自分自身なんだよ、エディ。それにエディの傍にはアルフレッド様がいらっしゃるじゃない。だからエディがどうしようって思うような事は起こらないよ。大丈夫」
「うん……そうだね。そうだよね」
僕はトーマス君にハーヴィンの両親がした事を話した事はなかった。それでもトーマス君は何があったのか、僕が何を恐れているのかを瞬時に気づいたようだった。
頷く僕にトーマス君は少し照れたように笑いながら離れて「僕ね、エディの大丈夫って大好きなんだ」と言った。
「だから僕にももう一度言わせて、エディは大丈夫」
うっすらと涙をにじませながらトーマス君は笑顔でそう言った。だから僕も笑顔で「ありがとう」って言った。
その後は少しだけ生まれてくるかもしれない子供の話もした。
トーマス君はどうやらジーンに似た子が欲しいなって思っているみたいだった。
「だって、僕に似た子をジーンがものすごく可愛がっていたら焼きもち焼いちゃうかもしれないでしょう?」
「ええ? じゃあジーンに似た子をトムがすごく可愛がっていたらジーンも焼きもち焼くんじゃない?」
「……それなら、まぁ、その方がいいかな」
僕はやっぱりトーマス君が大好きだって思った。
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