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72 トーマス君とのお茶会①
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トーマス君の話は僕にとっては衝撃だった。
初めてのお茶会の時からずっと、ずっと仲良くしてきて、背丈も同じ位だったし、興味を持つものも同じような感じだったし、お誕生日も近いし、そして結婚をしたのもそんなに大きく変わらない時で、お相手はお嫁さんではなく旦那様だった。
だから兄弟とはまた少し違うけど、トーマス君は僕にとってとてもとても近しい友人以上の存在だったんだ。
そのトーマス君がマルリカの実をいただいたっていうのは、一瞬息をするのも忘れちゃうくらいびっくりした。
「詳しい事は会って話すね」と言って終わった声の魔法書簡に僕はすぐに返事をした。
とても驚いた事、でもすごいなって思った事、話を聞きたいって思っている事。自分が行ってもいいし、来てもらうのもいつでも大丈夫って返事を出すと「週末に伺ってもいいかな」って。
こうして僕は週末にミニミニお茶会をする事になった。
「時間を取ってくれてありがとう」
少し恥ずかしそうにそう言ってトーマス君はお持たせのお菓子を差し出した。
「オルウェンのイチジクをね、ドライフルーツにしてパウンドケーキにしたんだよ。あとナッツも少し混ぜているんだ。街の定番のお菓子になっているの。少しだけお酒が入っているから注意してね。街で販売しているのはもっと沢山入っているんだけどこれは香り付け位って言っていた。同じように作ってもらったものを試食したら僕はちょっと顔が火照ったよ」
「ありがとう。」
お酒を飲む時は兄様が一緒の時にしてねって言われているから聞いておいて良かったって思いながらマリーに渡した。本当は一緒に食べられたら良かったんだけど、トーマス君も顔が火照るなら違うものがいいものね。
「あ、フィンレーのクリ?」
「うん、お祖父様がね、クリの畑ごと公爵領の方に移してしまったんだ。だから変わらず毎年いただいているの」
「ふふふ、さすがカルロス様」
「沢山作っても前みたいにお茶会を開くわけじゃないし、領主の家から気安くお菓子を渡すのは色々と面倒な事があるみたいでね。時々作ってフィンレーで母様達とお茶会をしたり、執務室に持って行ってミッチェル達に食べてもらったり位だからなかなか減らない。沢山食べてね。それで良かったら持って帰ってジーンと食べて? シェフが張り切って五種類も作ったんだ」
「ありがとう。ふふふ、エディがいるところはフィンレーでもグリーンベリーでも変わらないね」
トーマス君はニコニコ笑ってモンブランのタルトケーキを選んだ。穏やかな休日の午後。兄様にはトーマス君が遊びに来るって伝えてある。でもどんな話をするのかは言っていない。
もしかしたら兄様ならなんとなく分かってしまっているかもしれない。だけどそれを聞き出し事はしなかったから、僕はそれに甘える事にした。
久しぶりのお茶会は楽しかった。トーマス君たちもすっかりオルウェンの街に馴染んでいるみたい。
オルウェンはロマースクに元々ある港街とは異なって、領内の漁船と入江の近くに小さな島があるから、そこを巡る観光船を出すようにしたんだって。他国からの船の出入りが二箇所になると領としての管理が難しくなるっていう理由もあるらしい。
でも観光船は結構いい感じで、オルウェンは漁港と言うよりは観光の街としてのイメージが出来てきているみたい。トーマス君が拡げている薬草の畑も、街の重要な収入源になっている。
「あのね、エディ」
タルトケーキを食べ終えてトーマス君は改まった感じで口を開いた。
「ロマースクは領土が増えて領都のラグローナの神殿だけでは受け取りが大変な人達がいるからって、オルウェンの街にある神殿でもマルリカの実を扱っているんだ」
「うん」
「それでね……オルウェンの街の実が少なくなってきて、ラグローナからいくつか送ってもらおうかって話になって」
「うん」
「実の引き渡しに同行したんだ。僕、マルリカの実を初めて見たんだよ。とても不思議で綺麗な実だった。それでね思い出したの。ルシルの所に行った時にフェリクス君がぎゅってしていた小さな手をちょんちょんって触った時、その手を開いて僕の指をぎゅーって握りこんだんだ。ドキドキしてどうやって外したらいいのか分からなくて、ルシルに普通に外して大丈夫だよって笑われながらしばらくそのままでいたんだ。可愛いなって思った。でも自分がって言う気持ちにはならなかった。怖い方が先だった」
「うん……」
僕もそうだった。赤ちゃんはとても可愛くて、マルリカの実を使ったら僕にも出来るかもしれないって思わなかったわけじゃない。でも怖かったんだ。自分がどうなっちゃうんだろうっていうのと、僕にちゃんと育てる事が出来るのかなって思って怖かったんだ。
「だけどね、実を見たら何だかすごく、すごく見たいなって思ったんだ。ジーンと僕の赤ちゃんはどんな顔をしているのかなって」
トーマス君は赤い顔をして、目にうっすらと涙を滲ませながらもう一度「見てみたいって、思ったんだ」と繰り返した。
--------------
すみません。続きます
初めてのお茶会の時からずっと、ずっと仲良くしてきて、背丈も同じ位だったし、興味を持つものも同じような感じだったし、お誕生日も近いし、そして結婚をしたのもそんなに大きく変わらない時で、お相手はお嫁さんではなく旦那様だった。
だから兄弟とはまた少し違うけど、トーマス君は僕にとってとてもとても近しい友人以上の存在だったんだ。
そのトーマス君がマルリカの実をいただいたっていうのは、一瞬息をするのも忘れちゃうくらいびっくりした。
「詳しい事は会って話すね」と言って終わった声の魔法書簡に僕はすぐに返事をした。
とても驚いた事、でもすごいなって思った事、話を聞きたいって思っている事。自分が行ってもいいし、来てもらうのもいつでも大丈夫って返事を出すと「週末に伺ってもいいかな」って。
こうして僕は週末にミニミニお茶会をする事になった。
「時間を取ってくれてありがとう」
少し恥ずかしそうにそう言ってトーマス君はお持たせのお菓子を差し出した。
「オルウェンのイチジクをね、ドライフルーツにしてパウンドケーキにしたんだよ。あとナッツも少し混ぜているんだ。街の定番のお菓子になっているの。少しだけお酒が入っているから注意してね。街で販売しているのはもっと沢山入っているんだけどこれは香り付け位って言っていた。同じように作ってもらったものを試食したら僕はちょっと顔が火照ったよ」
「ありがとう。」
お酒を飲む時は兄様が一緒の時にしてねって言われているから聞いておいて良かったって思いながらマリーに渡した。本当は一緒に食べられたら良かったんだけど、トーマス君も顔が火照るなら違うものがいいものね。
「あ、フィンレーのクリ?」
「うん、お祖父様がね、クリの畑ごと公爵領の方に移してしまったんだ。だから変わらず毎年いただいているの」
「ふふふ、さすがカルロス様」
「沢山作っても前みたいにお茶会を開くわけじゃないし、領主の家から気安くお菓子を渡すのは色々と面倒な事があるみたいでね。時々作ってフィンレーで母様達とお茶会をしたり、執務室に持って行ってミッチェル達に食べてもらったり位だからなかなか減らない。沢山食べてね。それで良かったら持って帰ってジーンと食べて? シェフが張り切って五種類も作ったんだ」
「ありがとう。ふふふ、エディがいるところはフィンレーでもグリーンベリーでも変わらないね」
トーマス君はニコニコ笑ってモンブランのタルトケーキを選んだ。穏やかな休日の午後。兄様にはトーマス君が遊びに来るって伝えてある。でもどんな話をするのかは言っていない。
もしかしたら兄様ならなんとなく分かってしまっているかもしれない。だけどそれを聞き出し事はしなかったから、僕はそれに甘える事にした。
久しぶりのお茶会は楽しかった。トーマス君たちもすっかりオルウェンの街に馴染んでいるみたい。
オルウェンはロマースクに元々ある港街とは異なって、領内の漁船と入江の近くに小さな島があるから、そこを巡る観光船を出すようにしたんだって。他国からの船の出入りが二箇所になると領としての管理が難しくなるっていう理由もあるらしい。
でも観光船は結構いい感じで、オルウェンは漁港と言うよりは観光の街としてのイメージが出来てきているみたい。トーマス君が拡げている薬草の畑も、街の重要な収入源になっている。
「あのね、エディ」
タルトケーキを食べ終えてトーマス君は改まった感じで口を開いた。
「ロマースクは領土が増えて領都のラグローナの神殿だけでは受け取りが大変な人達がいるからって、オルウェンの街にある神殿でもマルリカの実を扱っているんだ」
「うん」
「それでね……オルウェンの街の実が少なくなってきて、ラグローナからいくつか送ってもらおうかって話になって」
「うん」
「実の引き渡しに同行したんだ。僕、マルリカの実を初めて見たんだよ。とても不思議で綺麗な実だった。それでね思い出したの。ルシルの所に行った時にフェリクス君がぎゅってしていた小さな手をちょんちょんって触った時、その手を開いて僕の指をぎゅーって握りこんだんだ。ドキドキしてどうやって外したらいいのか分からなくて、ルシルに普通に外して大丈夫だよって笑われながらしばらくそのままでいたんだ。可愛いなって思った。でも自分がって言う気持ちにはならなかった。怖い方が先だった」
「うん……」
僕もそうだった。赤ちゃんはとても可愛くて、マルリカの実を使ったら僕にも出来るかもしれないって思わなかったわけじゃない。でも怖かったんだ。自分がどうなっちゃうんだろうっていうのと、僕にちゃんと育てる事が出来るのかなって思って怖かったんだ。
「だけどね、実を見たら何だかすごく、すごく見たいなって思ったんだ。ジーンと僕の赤ちゃんはどんな顔をしているのかなって」
トーマス君は赤い顔をして、目にうっすらと涙を滲ませながらもう一度「見てみたいって、思ったんだ」と繰り返した。
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すみません。続きます
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