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67 若妻たちとプラス1 ①
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五の月の始めにシャマル様達はシェルバーネに帰って行った。勿論その前にグリーンベリーに来て新しく建てたマルリカの温室を見ていったよ。
どれくらい増やしていいのか分からないからとりあえず、今の倍になるように苗木を育てている。
マルリカの今後ついてはまだ話がまとまらなかったけれど、どうなっていくのが良いのかという話し合いは続けていく事になって、今ルフェリット内に出てきている噂については、王室からきちんとお布令が出る事になった。
だって実を使って生まれた子を差別していけば、シェルバーネの人も差別の対象になってしまうからね。国同士の問題になってしまう。
実を使っても、使わなくても同じ命は命、優劣をつける事はあってはならない。でもそれは上から言うだけではなくて、シェルバーネのように教育や生活の中にきちんと伝える場を設けていかなければならないっていう話にはなったって兄様が言っていた。うん。そうやってマルリカの実が人々の中に自然に溶け込んでいけるといいな。
あるのが当り前のようになれば、きっとそんなつまらない事を言う人はいなくなっていく。そうなっていってほしいなって思うんだ。
そして兄様の27歳のお誕生日をお祝いしたり、シェルバーネの麦の生育状態を確認したりしているうちに六の月になって、そして……
「ミミミミミッチェル! 書簡が届いたよ! う、うま」
「馬?」
「違うよ! 馬じゃなくてルシルだよ! ルシルの赤ちゃんが生まれたんだって! ルシルが殿下に頼んで書簡を送らせたみたい。男の子だって!」
「え! 今日生まれたの? それで今日知らせてきたの? 生まれてすぐに? ルシルに頼まれたシルヴァン様から? 」
「う、うん、そうみたい」
そう改めて言われると何だかちょっと、感動が違う方向に向いたような気がしなくもなかったけれど、おめでたい事は間違いないし、お祝いの手配もしなきゃなって思った。
とりあえずおめでとうの書簡を送って、また改めて赤ちゃんの顔を見に行けるといいなってお返事したら二日後、ルシル本人から書簡がきた。
とても元気なんだけど当分は大人しくしようと思っている事。
案の定殿下が自分の領地に戻らずに付きっきりになっている事。
そしておそらく赤ん坊の顔を見せに行く事は叶いそうにないので、来月にでも遊びに来て色々話を聞いてほしい事が書かれていた。
聞かされる話の予想がつくような気がするね。
兄様に話をすると「一度ダニエルかマーティンから話をしてもらった方がいいのかもしれないね」って苦笑していた。
うん? どちらもまだ結婚していないんだけど、どうしてその二人なのかな?
兄様はそれに関して答える事無く笑っていたので、僕はルシルの所に行く了承だけを得た。
うん。兄様に任せておけば大丈夫だよ。多分、きっと……大丈夫。そう思いながら僕は「よろしくお願いします」と返した。
◇ ◇ ◇
七の月の半ば過ぎ、僕はトーマス君とミッチェル君と一緒にリュミエールに来ていた。三人も行って大丈夫か確かめたら、大歓迎! って返ってきたから三人で会いに行く事になったんだ。
ルシルはとても元気そうだった。領主の仕事もちゃんとしているって笑っていたよ。シルヴァン様より仕事をしているって笑って、ミッチェル君が「それはどうなの」って小さな声を出していた。
「まだ一日のほとんどを寝ているような感じだけど、顔を見てあげて」
そう言ってルシルは赤ちゃんがいる部屋に案内してくれた。
柔らかい光が入る部屋は優しいクリーム色の壁に小さな花の模様がポンポンとアクセントみたいにあって、すごく可愛い。
乳母らしい女性がお辞儀をしてそっと部屋を出て行き、ルシルが小さなベッドを覗き込む。
「フェリ、母様のお友達がお祝にいらしてくださったよ」
まだ薄く柔らかそうな髪は金色にも銀色にも見える。瞳はまだベイビーブルーなんだろうな。
「フェリ君?」
トーマス君が覗き込みながら口を開いた。
「うん。フェリクス。幸せっていう意味を持つんだ。元気で幸せに育ってほしいよ」
「フェリクス君か。はじめましてフェリクス君。ママのお友達のエディだよ。よろしくね」
「ふふふ、口がムニムニしている。トーマスだよ。よろしくフェリクス君」
「……可愛い。小さいね。赤ちゃんってこんなに小さいんだね。何だか怖いくらい小さい」
ミッチェル君の言葉にルシルが笑った。
「大丈夫だよ。ビックリするくらい大きな声で泣くし、ミルクもしっかり飲むし、僕とシルヴィーの子だもの。強い子になるよ。また後で目が覚めたら見てやって。さぁ、お茶会にしよう」
ルシルにそう促されて、僕達は少人数のお茶会用に建てたっていうサロンに通された。
そして紅茶と一緒にお持たせのお茶菓子が出てくるとルシルは嬉しそうに声を上げる。
「わぁぁぁ! グリーンベリーのお菓子だ! 七の月なのに白いイチゴのケーキってすごいよ、エディ! こっちのは何?」
「それは僕の所で育てているイチジクをケーキにしたんだよ」
「イチジク! トムもすごいね!」
久しぶりのお茶会はテンション高めのルシルのそんな声から始まった。
「なんかね、最初のうちは別に体重の制限とかはなかったんだけど、というよりはどちらからと言えば体力をつけるためにしっかり食べてくださいって言われていたんだよ。ところがさ、お腹が大きくなってきたらシルヴィーが歩く事さえさせなくなってきて、ちょっと仕事をしても大げさに心配するし、書類を運んだりするだけでも怒ったりしてさ。いくら適度な運動が必要になるんだって言っても聞かない聞かない。お陰で八カ月を過ぎたあたりで体重管理だよ! もうさぁ!……んん? 美味しい! イチジク美味しいよ。トム」
「よ、良かった。持ってきて」
「ああ、嬉しいな。屋敷内の使用人や仕事場の人たちとシルヴィー以外の人と話せるのが嬉しい」
その言葉に僕達三人の顔が引きつった。
何となくどんな話になるのか想像はついていたけれど、その想像をはるかに超えてきそうな予感に、僕は「気分転換になって良かった。色々持ってきたから好きなものをつまんで?」って、マジックバッグの中に入っていた軽食も取り出してみた。
右隣に座ったミッチェルが「出し過ぎ!」って注意をしてきて、左隣に座ったトーマス君が笑いを堪えたような顔をして俯いた。
そんな感じでリュミエールでのお茶会は進んで行く。
---------------
一旦切ります(^^♪
殿下…………
どれくらい増やしていいのか分からないからとりあえず、今の倍になるように苗木を育てている。
マルリカの今後ついてはまだ話がまとまらなかったけれど、どうなっていくのが良いのかという話し合いは続けていく事になって、今ルフェリット内に出てきている噂については、王室からきちんとお布令が出る事になった。
だって実を使って生まれた子を差別していけば、シェルバーネの人も差別の対象になってしまうからね。国同士の問題になってしまう。
実を使っても、使わなくても同じ命は命、優劣をつける事はあってはならない。でもそれは上から言うだけではなくて、シェルバーネのように教育や生活の中にきちんと伝える場を設けていかなければならないっていう話にはなったって兄様が言っていた。うん。そうやってマルリカの実が人々の中に自然に溶け込んでいけるといいな。
あるのが当り前のようになれば、きっとそんなつまらない事を言う人はいなくなっていく。そうなっていってほしいなって思うんだ。
そして兄様の27歳のお誕生日をお祝いしたり、シェルバーネの麦の生育状態を確認したりしているうちに六の月になって、そして……
「ミミミミミッチェル! 書簡が届いたよ! う、うま」
「馬?」
「違うよ! 馬じゃなくてルシルだよ! ルシルの赤ちゃんが生まれたんだって! ルシルが殿下に頼んで書簡を送らせたみたい。男の子だって!」
「え! 今日生まれたの? それで今日知らせてきたの? 生まれてすぐに? ルシルに頼まれたシルヴァン様から? 」
「う、うん、そうみたい」
そう改めて言われると何だかちょっと、感動が違う方向に向いたような気がしなくもなかったけれど、おめでたい事は間違いないし、お祝いの手配もしなきゃなって思った。
とりあえずおめでとうの書簡を送って、また改めて赤ちゃんの顔を見に行けるといいなってお返事したら二日後、ルシル本人から書簡がきた。
とても元気なんだけど当分は大人しくしようと思っている事。
案の定殿下が自分の領地に戻らずに付きっきりになっている事。
そしておそらく赤ん坊の顔を見せに行く事は叶いそうにないので、来月にでも遊びに来て色々話を聞いてほしい事が書かれていた。
聞かされる話の予想がつくような気がするね。
兄様に話をすると「一度ダニエルかマーティンから話をしてもらった方がいいのかもしれないね」って苦笑していた。
うん? どちらもまだ結婚していないんだけど、どうしてその二人なのかな?
兄様はそれに関して答える事無く笑っていたので、僕はルシルの所に行く了承だけを得た。
うん。兄様に任せておけば大丈夫だよ。多分、きっと……大丈夫。そう思いながら僕は「よろしくお願いします」と返した。
◇ ◇ ◇
七の月の半ば過ぎ、僕はトーマス君とミッチェル君と一緒にリュミエールに来ていた。三人も行って大丈夫か確かめたら、大歓迎! って返ってきたから三人で会いに行く事になったんだ。
ルシルはとても元気そうだった。領主の仕事もちゃんとしているって笑っていたよ。シルヴァン様より仕事をしているって笑って、ミッチェル君が「それはどうなの」って小さな声を出していた。
「まだ一日のほとんどを寝ているような感じだけど、顔を見てあげて」
そう言ってルシルは赤ちゃんがいる部屋に案内してくれた。
柔らかい光が入る部屋は優しいクリーム色の壁に小さな花の模様がポンポンとアクセントみたいにあって、すごく可愛い。
乳母らしい女性がお辞儀をしてそっと部屋を出て行き、ルシルが小さなベッドを覗き込む。
「フェリ、母様のお友達がお祝にいらしてくださったよ」
まだ薄く柔らかそうな髪は金色にも銀色にも見える。瞳はまだベイビーブルーなんだろうな。
「フェリ君?」
トーマス君が覗き込みながら口を開いた。
「うん。フェリクス。幸せっていう意味を持つんだ。元気で幸せに育ってほしいよ」
「フェリクス君か。はじめましてフェリクス君。ママのお友達のエディだよ。よろしくね」
「ふふふ、口がムニムニしている。トーマスだよ。よろしくフェリクス君」
「……可愛い。小さいね。赤ちゃんってこんなに小さいんだね。何だか怖いくらい小さい」
ミッチェル君の言葉にルシルが笑った。
「大丈夫だよ。ビックリするくらい大きな声で泣くし、ミルクもしっかり飲むし、僕とシルヴィーの子だもの。強い子になるよ。また後で目が覚めたら見てやって。さぁ、お茶会にしよう」
ルシルにそう促されて、僕達は少人数のお茶会用に建てたっていうサロンに通された。
そして紅茶と一緒にお持たせのお茶菓子が出てくるとルシルは嬉しそうに声を上げる。
「わぁぁぁ! グリーンベリーのお菓子だ! 七の月なのに白いイチゴのケーキってすごいよ、エディ! こっちのは何?」
「それは僕の所で育てているイチジクをケーキにしたんだよ」
「イチジク! トムもすごいね!」
久しぶりのお茶会はテンション高めのルシルのそんな声から始まった。
「なんかね、最初のうちは別に体重の制限とかはなかったんだけど、というよりはどちらからと言えば体力をつけるためにしっかり食べてくださいって言われていたんだよ。ところがさ、お腹が大きくなってきたらシルヴィーが歩く事さえさせなくなってきて、ちょっと仕事をしても大げさに心配するし、書類を運んだりするだけでも怒ったりしてさ。いくら適度な運動が必要になるんだって言っても聞かない聞かない。お陰で八カ月を過ぎたあたりで体重管理だよ! もうさぁ!……んん? 美味しい! イチジク美味しいよ。トム」
「よ、良かった。持ってきて」
「ああ、嬉しいな。屋敷内の使用人や仕事場の人たちとシルヴィー以外の人と話せるのが嬉しい」
その言葉に僕達三人の顔が引きつった。
何となくどんな話になるのか想像はついていたけれど、その想像をはるかに超えてきそうな予感に、僕は「気分転換になって良かった。色々持ってきたから好きなものをつまんで?」って、マジックバッグの中に入っていた軽食も取り出してみた。
右隣に座ったミッチェルが「出し過ぎ!」って注意をしてきて、左隣に座ったトーマス君が笑いを堪えたような顔をして俯いた。
そんな感じでリュミエールでのお茶会は進んで行く。
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一旦切ります(^^♪
殿下…………
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