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65 秘密なんかじゃない
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兄様はその後ダリウス叔父様と、お店の人を交えて今後の購入の事について話をしてから、馬車に戻って来た。
「待たせてごめんね」
「いえ、あの……アル……あの……」
聞こえていたよね。絶対に聞こえていたよね?
うまく言葉出来ない僕に兄様はふわりと笑った。
「うん。大丈夫だよ。でもエディもきっと気になるだろうし、私も気になっている事もあるから、後できちんと話をしよう。私たちはそういう約束をしているからね」
そう言われて僕はホッとして「はい」と返事をした。うん、僕達はきちんと話をするって約束をしているからね。
だけどシャマル様ったらどうしてこうかき回すような事をしちゃうのかな。そう考えるとまた眉が八の字になっていく。
「エディ」
は! いけない、いけない。だって兄様はちゃんと話をしようって言っているんだから。
「気になっちゃうみたいだねぇ。う~んそうだな。じゃあ、エディが何か不安に思ってしまうなら、口づけをしてもいいかな?」
「…………え?」
「ちゃんと話をする約束の口づけ。屋敷に着く前に」
「えっと……えっと……」
顔が熱くなっていく。何で? えっと、えっと……どうして??
「ふふふ、約束なんて言っているけど、本当は何だか無性にエディに触れたくなってしまったんだ。でも、さすがにそれ以上の事は出来ないでしょう?」
爽やかな顔をして、そんな事を言う兄様がかっこよすぎて困ります!
「……ちゃんとお話します」
「うん」
「で……でも、く、口づけてもいいですよ」
「うん」
お店から屋敷まではそれほど離れてはいない。石畳の上を走る馬車の震動。でもそれよりももっと、ずっとドキドキとする胸をギュッと押えて……
「愛してる、エディ」
甘い囁きと一緒に重ねられた唇に、「僕も」という返事は出来なかった。
◇ ◇ ◇
お二人の夕食はフィンレーで用意をする事になっていて、僕達は館でシャマル様達と別れると、グリーンベリーに帰ってきた。後は明後日、帰る日の前日にグリーンベリーに来る事になっている。
「エディも疲れただろう? とにかく夕食までは少し休みなさい。私は買い物の件を父上にきちんと報告をしておかないといけないからね。何しろミルクジャムだけでなくその他にも色々と増えてしまったから」
兄様の言葉に僕は思わず笑ってしまった。うん。だいぶ増えてしまったものね。
「分かりました。では少し休みます」
「うん。夕食は一緒にとろう。話はエディの調子が良ければその後で。まだ疲れているようなら今日は止めて明日にしよう。叔父上たちがいらっしゃるのは明後日だからね」
「はい。分かりました」
「うん。ではエディ、夕食で」
「はい、アル。夕食で」
こうして僕たちは頬に掠めるような口づけをして、それぞれの部屋へ移動した。
言われた通りに自室で休んだ僕はマリーに「お食事ですがいかがされますか?」と声をかけられた。自分で思っていたよりも疲れていたみたいでしっかり眠っていたみたい。
勿論すぐに支度をしてダイニングに向かった。
兄様から「よく休めた? 顔色が良くなったね」って言われて「ありがとうございます」って返事をする。自分では分からなかったけど、顔色が悪かったのかなって、申し訳ないような気持ちになった。
そして、ゆっくりと食事をした後、兄様がそっと口を開いた。
「さて、エディの体調はどうかな?」
「大丈夫です」
「そう。それなら話は出来そうかな?」
「はい」
うん。ちゃんと話をしよう。兄様なら大丈夫。だって隠す事なんて何もないもの。秘密にする事なんて一つもない。
僕たちは兄様の部屋で話をする事にした。
兄様の専属メイドがお茶を用意してくれて部屋を出て行くと、僕はそっと口を開いた。
「今日の事をお話します。僕は以前お話した事と気持ちは変わっていません」
「うん。分かった」
僕は今回聞く事が出来たら出産についてどういったものなのかを聞けたらいいなとは思っていたと話し始めた。
僕は女性の出産自体もよく分かっていないけれど、男性の出産というものがどういうものなのか全く想像がつかなくてマルリカの実を使う事よりも、シャマル様やマリー、そしてルシルを見ていると『産む』という事への不安が出てき始めてしまったと言うと、兄様が少しだけへにょって、情けないような、辛いような、困ったような、そんな珍しい顔をした。
「アル?」
「……ごめんね。エディがそんな事を考えているなんて気づかなかった」
「! いえ、僕こそすみません。ちゃんとお話しなくて。でも自分でも何だかどこがどう気になっているのか分からなくなってきている感じがして……赤ちゃんは可愛いなって思うけど、どこかでやっぱり怖いなって思っているのかなって。だからどんな風なのかを聞いたら、また少し違う風に考えられるのかもしれないなって。でも僕がそれを尋ねる前にシャマル様の方からお話があったんです」
「どんな風に?」
「えっと、馬車で僕とシャマル様とファルーク君と三人だけで、ダリウス叔父様が戻るのを待っていた時に、何か自分に聞きたい事があるんじゃないかって言われて。それからマルリカの実の事だろう? って」
「なるほど。それで?」
「つ……使い方については叔父様がアルにきちんと説明するから使うつもりがあるなら尋ねるようにって。僕は……ア……アルに任せなさいって」
言いながら恥ずかしくなって兄様の顔が見られなくなってしまうと、兄様はクスリと笑って「そうだね。使う事になったら任せて」っていつの間にか向かい側から隣のソファに座ってギュッと抱きしめてきた。
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「待たせてごめんね」
「いえ、あの……アル……あの……」
聞こえていたよね。絶対に聞こえていたよね?
うまく言葉出来ない僕に兄様はふわりと笑った。
「うん。大丈夫だよ。でもエディもきっと気になるだろうし、私も気になっている事もあるから、後できちんと話をしよう。私たちはそういう約束をしているからね」
そう言われて僕はホッとして「はい」と返事をした。うん、僕達はきちんと話をするって約束をしているからね。
だけどシャマル様ったらどうしてこうかき回すような事をしちゃうのかな。そう考えるとまた眉が八の字になっていく。
「エディ」
は! いけない、いけない。だって兄様はちゃんと話をしようって言っているんだから。
「気になっちゃうみたいだねぇ。う~んそうだな。じゃあ、エディが何か不安に思ってしまうなら、口づけをしてもいいかな?」
「…………え?」
「ちゃんと話をする約束の口づけ。屋敷に着く前に」
「えっと……えっと……」
顔が熱くなっていく。何で? えっと、えっと……どうして??
「ふふふ、約束なんて言っているけど、本当は何だか無性にエディに触れたくなってしまったんだ。でも、さすがにそれ以上の事は出来ないでしょう?」
爽やかな顔をして、そんな事を言う兄様がかっこよすぎて困ります!
「……ちゃんとお話します」
「うん」
「で……でも、く、口づけてもいいですよ」
「うん」
お店から屋敷まではそれほど離れてはいない。石畳の上を走る馬車の震動。でもそれよりももっと、ずっとドキドキとする胸をギュッと押えて……
「愛してる、エディ」
甘い囁きと一緒に重ねられた唇に、「僕も」という返事は出来なかった。
◇ ◇ ◇
お二人の夕食はフィンレーで用意をする事になっていて、僕達は館でシャマル様達と別れると、グリーンベリーに帰ってきた。後は明後日、帰る日の前日にグリーンベリーに来る事になっている。
「エディも疲れただろう? とにかく夕食までは少し休みなさい。私は買い物の件を父上にきちんと報告をしておかないといけないからね。何しろミルクジャムだけでなくその他にも色々と増えてしまったから」
兄様の言葉に僕は思わず笑ってしまった。うん。だいぶ増えてしまったものね。
「分かりました。では少し休みます」
「うん。夕食は一緒にとろう。話はエディの調子が良ければその後で。まだ疲れているようなら今日は止めて明日にしよう。叔父上たちがいらっしゃるのは明後日だからね」
「はい。分かりました」
「うん。ではエディ、夕食で」
「はい、アル。夕食で」
こうして僕たちは頬に掠めるような口づけをして、それぞれの部屋へ移動した。
言われた通りに自室で休んだ僕はマリーに「お食事ですがいかがされますか?」と声をかけられた。自分で思っていたよりも疲れていたみたいでしっかり眠っていたみたい。
勿論すぐに支度をしてダイニングに向かった。
兄様から「よく休めた? 顔色が良くなったね」って言われて「ありがとうございます」って返事をする。自分では分からなかったけど、顔色が悪かったのかなって、申し訳ないような気持ちになった。
そして、ゆっくりと食事をした後、兄様がそっと口を開いた。
「さて、エディの体調はどうかな?」
「大丈夫です」
「そう。それなら話は出来そうかな?」
「はい」
うん。ちゃんと話をしよう。兄様なら大丈夫。だって隠す事なんて何もないもの。秘密にする事なんて一つもない。
僕たちは兄様の部屋で話をする事にした。
兄様の専属メイドがお茶を用意してくれて部屋を出て行くと、僕はそっと口を開いた。
「今日の事をお話します。僕は以前お話した事と気持ちは変わっていません」
「うん。分かった」
僕は今回聞く事が出来たら出産についてどういったものなのかを聞けたらいいなとは思っていたと話し始めた。
僕は女性の出産自体もよく分かっていないけれど、男性の出産というものがどういうものなのか全く想像がつかなくてマルリカの実を使う事よりも、シャマル様やマリー、そしてルシルを見ていると『産む』という事への不安が出てき始めてしまったと言うと、兄様が少しだけへにょって、情けないような、辛いような、困ったような、そんな珍しい顔をした。
「アル?」
「……ごめんね。エディがそんな事を考えているなんて気づかなかった」
「! いえ、僕こそすみません。ちゃんとお話しなくて。でも自分でも何だかどこがどう気になっているのか分からなくなってきている感じがして……赤ちゃんは可愛いなって思うけど、どこかでやっぱり怖いなって思っているのかなって。だからどんな風なのかを聞いたら、また少し違う風に考えられるのかもしれないなって。でも僕がそれを尋ねる前にシャマル様の方からお話があったんです」
「どんな風に?」
「えっと、馬車で僕とシャマル様とファルーク君と三人だけで、ダリウス叔父様が戻るのを待っていた時に、何か自分に聞きたい事があるんじゃないかって言われて。それからマルリカの実の事だろう? って」
「なるほど。それで?」
「つ……使い方については叔父様がアルにきちんと説明するから使うつもりがあるなら尋ねるようにって。僕は……ア……アルに任せなさいって」
言いながら恥ずかしくなって兄様の顔が見られなくなってしまうと、兄様はクスリと笑って「そうだね。使う事になったら任せて」っていつの間にか向かい側から隣のソファに座ってギュッと抱きしめてきた。
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