悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

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64 グランディスの街で③

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 ダリウス叔父様が戻ってきて、馬車は領主の館に向けて走り出した。
 館には既に兄様がいて、僕達を出迎えてくれた。
 昼食の準備は出来ているので、用意が出来たらダイニングに集まることになった。僕も自分用の部屋に行って急いで着替えをしていると小さなノックの音がした。

「入ってもいいかな?」
「あ、はい」

 着替えの途中だけど、兄様だからいいよね。そう思って返事をすると、兄様はそっとドアを開けて、さっと部屋の中に入ってきた。

「エディ、お疲れ様」
「お疲れ様です。お仕事の方は大丈夫ですか?」
「ああ、どうにか引き継いできたよ。それにしても急だったから大変だったね」
「はい、でも以前に買い物をしているところだったので、急な話にも関わらず好意的に受け入れてくれました。午後に行く予定の乳製品の店は屋敷に出入りをしているところですから、こちらも問題なく買い物が出来ると思います。何より初めての店舗での買い物に、シャマル様がとても嬉しそうでした」

 僕の答えに兄様は「それなら良かった」と笑い返してくれた。
 その後はすぐに昼食となって、お魚の料理がメインだったので、二人はこれも嬉しそうだった。
 午後はファルーク君は予定通りに館でお留守番。兄様が同行する事になったので、馬車は2台にして僕と兄様が先導してその後にシャマル様とダリウス叔父様の乗った馬車が続く事になった。
 食休みをしてから馬車に乗って予定をしていたお店に。
 元々が屋敷に出入りをしているので、大きな混乱もなく店内を見て買い物が出来た。

「へぇ、これがフィンレーのミルクジャムか。ああ、いいね。ではこれを……一ケースにはどれくらい入っているんだろう?」
「二十四瓶入っております」
「ああ、ではそうだな。頻繁に来る事は出来ないからね。十ケース」
「じゅ……」
「少ないだろうか、ダリウス」

 真顔でそう尋ねるシャマル様にダリウス叔父様も苦笑をしている。

「ああ、あとチーズも欲しいんだ。それから乳幼児が飲む、粉ミルクというものがあると聞いた。それも試してみたい。後は何かおすすめの物があればそれも見せてもらいたい」
「シャマル様、ミルクジャムはいきなり十ケースは少し難しいかもしれません。もしよろしければフィンレーから定期的にお送りするようにいたしましょう。勿論その際には何か新しい物や限定の物が出ていたらそれもお付けするように申しつけておきますよ」
「そうか。それはありがたい。では今回は二ケースでお願いしよう。他の物を見せてほしい」
「かしこまりました」

 シャマル様とダリウス叔父さんは楽しそうにチーズを選び始めた。

「十ケースはビックリしましたね」

 兄様に小声でそう言うと、兄様も小さな声で笑いながら頷いた。

「ああ。さすがに十ケースでは商売に使うと思われてもおかしくないからね。そうなると少し面倒な事になる。フィンレーから少しずつ送るようにしておけば、そういった事もないだろう」
「はい。ふふふ、アル。チーズも決まったようですね。それにしても粉ミルクというのは知りませんでした。赤ちゃんが飲めるようなものがあるというのはいいですね」
「ああ、そうだね。そう言ったものがフィンレーだけでなく他の地域や国にも広がってくれるといいなと思う」
「はい」

 僕たちはシャマル様のお買い物を待ちながら、母様が喜びそうなチーズのお菓子を買った。もちろんグリーンベリーで食べるものもいくつか買ったよ。これから寒い季節になっていくと煮込み料理に使うチーズが多く購入されるらしい。トロトロのチーズをつけて食べるチーズフォンデュっていうのも美味しいですよって言われて、それに使う何種かのチーズも買った。でもチーズにワインを混ぜるって聞いてちょっと不安になっていると兄様が「エディが酔っぱらってしまったらすぐに部屋に連れて行くから大丈夫」って綺麗な笑顔で言われて、どんな顔をしたらいいのか分からなくなってしまった。だって以前の誕生日に飲んだカクテルで失敗した事があるからね。もっともどんな失敗だったのかは本当はよく分かっていないのだけど。

「どうした、エディ? アルフレッドに虐められたのかい?」

 僕たちの様子に気付いたシャマル様がにっこり笑って口を開く。

「……ア、アルは僕の事を虐めたりはしませんよ」
「そう。それなら良かった。アルフレッド、チーズも送る事を頼めるだろうか」
「多分大丈夫だと思います。確認しますね」

 兄様はそう言うとすぐに魔法書簡を送った。そして他の物を見ている間に父様からの返事が届く。

「大丈夫だそうです」
「ありがたい。ではこちらとこちらで、また後日フィンレーから送ってもらおう」
「畏まりました。ありがとうございます」

 それからも結構な量の買い物をしてシャマル様は午前中のお店と同じように、手配と会計をダリウス叔父様に任せると先に馬車へと戻ってしまった。
 でもその時に、多分わざとシャマル様は僕にそっと「もう聞きたい事はない?」って言った。

 兄様は何も言わなかったけれど、多分、きっと、その言葉は聞こえていたと思う。
 だってね、ほんの少しだけど、空色の瞳がスッと細くなったから。


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