悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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「ファルーク・アマディ・フィンレー・エルグランドです。よろしくお願いいたします」

 シャマル様の腕に抱かれているファルーク君はスヤスヤと眠っていた。転移陣も泣かず、起きずにそのままやってきた。なかなか大物なのかもしれない。
 髪の色はダリウス叔父様と同じ金色で目の色は分からないけれど、肌の色はシャマル様と同じ小麦色。
 エルグランド家の色だと言う赤いおくるみには金、緑、青など鮮やかな色の刺繍が施されている。

「うわぁ、小さい。ふふふ、よく眠っていますね」
「はい。まだ一日の半分以上は眠っていますね。それでも大分寝ている間隔が短くなってきました。私も乳母に教えてもらいながら子育てに関わるようにしています」
「そうなんですね。お身体の方はもう大丈夫なのですか?」
「ええ。お陰様で。思っていたよりも出産自体は軽かったので助かりました。と言っても私は比べるものがないので本当はよく分からないのですけどね」

 そう言って笑ったシャマル様に僕も思わず笑ってしまった。

「抱っこしてみますか?」
「え! いいのですか?」
「もちろん」

 僕はシャマル様の隣に座ってそっとそっとファルーク君を抱っこした。勿論ウィルやハリー達も赤ちゃんの時に抱っこをさせてもらった事はあるんだけど、その時はまだ僕も子供だったし、成人してからだとマリーのシンシアは抱っこをさせてもらったけどもう少し大きくなってからだった。セオドアは見せてもらったけどまだ抱っこはしていない。
 
「小さくて、柔らかくて、ぐにゃぐにゃしてる」
「これでもだいぶ大きくなったんですよ。一の月の二十日に生まれているので丁度三カ月を過ぎた頃ですね。首も座ってきはじめたようです。ああ、目が覚めたみたいですね」

 そう言われて顔を腕の中の顔を見ると大きな紺碧の瞳がぱっちりと開くところだった。

「わぁ、綺麗なブルーの瞳だ!」
「ふふふ、丁度私の祖父と同じ色合いでね。お陰でもの凄い爺馬鹿になっています」
「爺馬鹿……。そうなんだ、ファルーク君は瞳はお祖父様に似て、髪はダリウス叔父様に、肌の色はシャマル様のお家の人皆と同じなんだね。あ、笑った。ふふふ、言われている事が分かったのかなぁ。ファルーク君は頭もいいね」 
 ニコニコと笑っているその頬にちょんと触れて、僕はそっとシャマル様にファルーク君をお返しした。
 シャマル様は「良かったな、ファルーク。ではミルクを」と乳母へと渡す。

「さて、せっかくこちらへもお披露目に来たのですから、もう一人のお祖父様の所へもお伺いをさせていただければと思っています。そして今年のマルリカの実の会議には出られなかったので、その時に上がっていた事案についてもお話をする時間を取っていただけると助かります。また、来年度のマルリカの実についてもお話を出来ればとも思っています」
「……そうですね。お互いの進捗状況の確認をする事も大事ですね。ですが、まずはゆっくり休んで、可愛らしい甥っ子の姿を満喫させていただけると嬉しいですね」

 父様の言葉にシャマル様はふわりと笑った。なんだろう。今までの表情よりもとても優しい雰囲気になったなって思う。それはやっぱりファルーク君のお陰なのかな。マリーも同じような表情をする事がある。母になるっていうのはそんな風に何かが変わってくるものなのかな。

「エディ?」

 ぼんやりとしてしまった僕に兄様が声をかけた。

「はい。せっかくいらしたのに色々とお仕事のお話もあって大変ですね。でもゆっくりとする時間もあってほしいなって思います」
「ああ、そうだね。幸いファルークが転移陣を使っても大丈夫そうだから、よければグリーンベリーにも来てもらえるといいね」
「はい。そうしたらダリウス叔父様とシャマル様にも温室を見ていただけます」
「ああ、お祖父様渾身の新しい温室も見ていただこう」
「はい!」

 笑ってそう言った兄様に、僕は元気よく返事をした。
 それにね、実はシャマル様に個人的にお聞きしたい事もあるんだ。
 しばらくして乳母が連れて帰って来たファルーク君は、お腹いっぱいで満足という顔をしてスヤスヤと眠っていた。僕はその寝顔を見つめながら、もう一度あの吸い込まれそうな紺碧の瞳が見たいなと思った。


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長らくお待たせいたしました。
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