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58 お茶会と噂②
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沈黙を破ったのは珍しくスティーブ君だった。
「もう少し情報を集めてからと思っていたんだけどね」
「ああ、でもお茶会でこれだけの人数が集まるというのは滅多にないからね。それにルシルの出産もある。まぁ、シルヴァン様がいらっしゃるので滅多な事をわざわざ口にするとは思えないけれど、それでも気を付けるに越した事はない。現在エリックの所とユージーンの所、そして私の領と父の領、更にスタンリー家もどこが動いて居るのか調べている。もちろん何か具体的に被害はないかもだ。
昨年はマルリカの実は買取をした1059個全てが販売されたと国から知らせがあった。手に入れた者がどれくらいそれを実際に使っているのかは分からないけれど、350組ほどの者たちが子供を授かる可能性がある。今年は更に増えていくだろう。そんな中でこんなくだらない中傷や、実際に何か危害が加えられるような事があってはならない」
珍しく怒りを顕わにしているレナード君に、今度はミッチェル君が「は~」って溜め息をつく。
「僕さ~、レオンってもう少し落ち着いてるっていうか、慎重なタイプだって思っていたんだけど」
「私もそう思っていたよ」
ニッコリと笑ってそう答えたレナード君にミッチェル君がもう一度溜息をついた。
「多分、もうメイソン卿が動いていると思うよ?」
「うん。それは知っている。でも今までのメンバーではない者たちも巻き込まないとダメなんだ。せっかく『首』を封じた王国が、こんなやっかみなんて幼稚なもので再びあれを起こすような事がないようにしていかないとって思っている。まぁ、封印はしっかりしているからそんなに簡単に解ける事はないと思うけどね。それでも負の感情を大きくしていくのは危険だと思っている」
レナード君の言葉に僕はコクリと頷いた。そんなに簡単に『首』の封印が解けるとは思っていないけれど、生まれてくる命は平等だって思いたい。ううん。そうでなければいけないんだ。
これからも王国がマルリカの実を扱うというのならばこんな芽は早急に摘み取らなければいけない。
「本当に選民意識って言うのは厄介だよね。それがいつひっくり返って自分たちが落とされるかなんて考えもしないんだ。メイソンやスタンリーが動いているなら、フィンレーもレイモンドも動いていると思うけどお茶会で上がった話題として話をしてみるね。とりあえずどこが主導をしているのかって言うのは掴んだら教えてもらえるのかな? だけどこの事が王国を二分するような状態になるとまずいよね」
「ああ、そうだね。その辺りの兼ね合いが難しいかもしれないが、ただ、王国が認めて販売を主導している実に対してそう言った事を言うというのはある意味で反逆行為ととられても仕方がない事だと分かっているのかだね」
「どうなんだろうね」
皆の話を聞きながら僕は本当に悲しい気持ちになっていた。どうしてそんな事を考える人達がいるんだろう。どうして生まれてきた命におめでとうって言えないのかな。
「エディ? 大丈夫?」
トーマス君がそっと僕の肩に手を置いた。
「うん。ちょっとびっくりしただけ。僕も父様に聞いてみるよ。そして何が出来るのかを考えてみる。王国が今年もマルリカの実を販売している以上、それを貶める様な好意は明らかに反逆行為と取られても仕方がない。というか、どうしてそんな事を考えるのかが僕には理解できないよ。
「エディ、せっかくのお茶会にこんな話題を出して申し訳ない。でも生まれた子が、またはこれから生まれてくる子がそんな風に言われる事がないようにと思っている。実は従弟がマルリカの実を使って子を授かり、三の月に出産をしたばかりなんだ。少し思いつめてしまっているようで。何とかしてやりたいと思っていた」
「ううん。レオンが言ってくれなかったらきっと僕がこの噂を知るのはもっと後だったと思う。多分皆知っていると思うけど、マルリカの実を栽培しているのはグリーンベリーだ。この噂がもっと大きくなればグリーンベリーを責める様な動きが出てくるかもしれない。僕も起こりそうな事を予測して対策を考えて行くよ。勿論、こんな中傷が消えるようにもね」
「ああ。ありがとう。とにかくルシルは気を付けてほしい。当主がマルリカの実を使用して、子供を授かっているのは今ルシルだけなんだ」
「…………うん。多分それで余計にシルヴィーが心配性に拍車をかけているんだと思う。でも、僕の子供が生まれる事で、きっと次に繋がる事がある筈だって思うから。大丈夫。何を言われてもこの子を守るよ」
そう言って少し大きくなり始めているお腹に手を当てたルシルはとても強くて、綺麗だった。
「アル、父様とお話をしたいと思います」
お茶会が終わってそう言った僕に兄さんは一瞬だけ驚いた顔をして、それから小さくため息をついた。
「そう。私も一緒に聞いてもいいかな」
「…………アルは、王国内の噂を知っていましたか?」
どんな噂なのか、言わなくても分かっているみたいで、兄様は「うん」と短く答えた。
「父様は調べているのでしょうか?」
「おそらくね」
ああ、やっぱりそうなんだ。うん。父様がこんな噂をそのままにしておく筈がないものね。
「書簡を送ります」
「エディ」
兄様が僕を見つめた。
「大丈夫?」
「……大丈夫です。グリーンベリーも関わって来る事ですし、どういう状況なのか、僕に出来る事は何かを聞いてきたいと思っています」
僕がそう答えると兄様はふわりと笑って「分かった」って返事をした。
「どうして、そんな風に考えるのかが分からなかっただけです」
「うん。そうだね。でも人は優劣を付けたがるからね。私は、エディに悪意が向けられるような事があったら容赦はしないと決めている」
そう言ってぎゅっと抱きしめてきた兄様を、一瞬だけ遅れてギュってして僕は「よろしくお願いします」って笑った。
来週末にはシャマル様たちがフィンレーにやって来る予定になっていた。
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「もう少し情報を集めてからと思っていたんだけどね」
「ああ、でもお茶会でこれだけの人数が集まるというのは滅多にないからね。それにルシルの出産もある。まぁ、シルヴァン様がいらっしゃるので滅多な事をわざわざ口にするとは思えないけれど、それでも気を付けるに越した事はない。現在エリックの所とユージーンの所、そして私の領と父の領、更にスタンリー家もどこが動いて居るのか調べている。もちろん何か具体的に被害はないかもだ。
昨年はマルリカの実は買取をした1059個全てが販売されたと国から知らせがあった。手に入れた者がどれくらいそれを実際に使っているのかは分からないけれど、350組ほどの者たちが子供を授かる可能性がある。今年は更に増えていくだろう。そんな中でこんなくだらない中傷や、実際に何か危害が加えられるような事があってはならない」
珍しく怒りを顕わにしているレナード君に、今度はミッチェル君が「は~」って溜め息をつく。
「僕さ~、レオンってもう少し落ち着いてるっていうか、慎重なタイプだって思っていたんだけど」
「私もそう思っていたよ」
ニッコリと笑ってそう答えたレナード君にミッチェル君がもう一度溜息をついた。
「多分、もうメイソン卿が動いていると思うよ?」
「うん。それは知っている。でも今までのメンバーではない者たちも巻き込まないとダメなんだ。せっかく『首』を封じた王国が、こんなやっかみなんて幼稚なもので再びあれを起こすような事がないようにしていかないとって思っている。まぁ、封印はしっかりしているからそんなに簡単に解ける事はないと思うけどね。それでも負の感情を大きくしていくのは危険だと思っている」
レナード君の言葉に僕はコクリと頷いた。そんなに簡単に『首』の封印が解けるとは思っていないけれど、生まれてくる命は平等だって思いたい。ううん。そうでなければいけないんだ。
これからも王国がマルリカの実を扱うというのならばこんな芽は早急に摘み取らなければいけない。
「本当に選民意識って言うのは厄介だよね。それがいつひっくり返って自分たちが落とされるかなんて考えもしないんだ。メイソンやスタンリーが動いているなら、フィンレーもレイモンドも動いていると思うけどお茶会で上がった話題として話をしてみるね。とりあえずどこが主導をしているのかって言うのは掴んだら教えてもらえるのかな? だけどこの事が王国を二分するような状態になるとまずいよね」
「ああ、そうだね。その辺りの兼ね合いが難しいかもしれないが、ただ、王国が認めて販売を主導している実に対してそう言った事を言うというのはある意味で反逆行為ととられても仕方がない事だと分かっているのかだね」
「どうなんだろうね」
皆の話を聞きながら僕は本当に悲しい気持ちになっていた。どうしてそんな事を考える人達がいるんだろう。どうして生まれてきた命におめでとうって言えないのかな。
「エディ? 大丈夫?」
トーマス君がそっと僕の肩に手を置いた。
「うん。ちょっとびっくりしただけ。僕も父様に聞いてみるよ。そして何が出来るのかを考えてみる。王国が今年もマルリカの実を販売している以上、それを貶める様な好意は明らかに反逆行為と取られても仕方がない。というか、どうしてそんな事を考えるのかが僕には理解できないよ。
「エディ、せっかくのお茶会にこんな話題を出して申し訳ない。でも生まれた子が、またはこれから生まれてくる子がそんな風に言われる事がないようにと思っている。実は従弟がマルリカの実を使って子を授かり、三の月に出産をしたばかりなんだ。少し思いつめてしまっているようで。何とかしてやりたいと思っていた」
「ううん。レオンが言ってくれなかったらきっと僕がこの噂を知るのはもっと後だったと思う。多分皆知っていると思うけど、マルリカの実を栽培しているのはグリーンベリーだ。この噂がもっと大きくなればグリーンベリーを責める様な動きが出てくるかもしれない。僕も起こりそうな事を予測して対策を考えて行くよ。勿論、こんな中傷が消えるようにもね」
「ああ。ありがとう。とにかくルシルは気を付けてほしい。当主がマルリカの実を使用して、子供を授かっているのは今ルシルだけなんだ」
「…………うん。多分それで余計にシルヴィーが心配性に拍車をかけているんだと思う。でも、僕の子供が生まれる事で、きっと次に繋がる事がある筈だって思うから。大丈夫。何を言われてもこの子を守るよ」
そう言って少し大きくなり始めているお腹に手を当てたルシルはとても強くて、綺麗だった。
「アル、父様とお話をしたいと思います」
お茶会が終わってそう言った僕に兄さんは一瞬だけ驚いた顔をして、それから小さくため息をついた。
「そう。私も一緒に聞いてもいいかな」
「…………アルは、王国内の噂を知っていましたか?」
どんな噂なのか、言わなくても分かっているみたいで、兄様は「うん」と短く答えた。
「父様は調べているのでしょうか?」
「おそらくね」
ああ、やっぱりそうなんだ。うん。父様がこんな噂をそのままにしておく筈がないものね。
「書簡を送ります」
「エディ」
兄様が僕を見つめた。
「大丈夫?」
「……大丈夫です。グリーンベリーも関わって来る事ですし、どういう状況なのか、僕に出来る事は何かを聞いてきたいと思っています」
僕がそう答えると兄様はふわりと笑って「分かった」って返事をした。
「どうして、そんな風に考えるのかが分からなかっただけです」
「うん。そうだね。でも人は優劣を付けたがるからね。私は、エディに悪意が向けられるような事があったら容赦はしないと決めている」
そう言ってぎゅっと抱きしめてきた兄様を、一瞬だけ遅れてギュってして僕は「よろしくお願いします」って笑った。
来週末にはシャマル様たちがフィンレーにやって来る予定になっていた。
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