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57 お茶会と噂①

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 久しぶりのお茶会は何だかあっという間に時間を遡らせてしまう。
 確かに皆自分の道を見つけて、大人として過ごしているのに、それでも話をしていると学生の時に沢山話して、色々な事を考えたあの時みたいな顔をしている。

 それぞれの領の話。
 今の状況の話。
 既婚者たちの伴侶の話……

「ええ、じゃあ自分の領はどうなっているのさ」
「チェックはしているし、顔を出すところは出しているみたいだけど。周りから何か言われないかってそっちの方が怖いよ」
「でもあのシルヴァン殿下がそんな風になるなんてね」
「いや、元々執着とか固執する感じだったような。ああ、でも俺様系の所もあったよね」
「ミッチェル……。お前な」

 クラウス君がやれやれって感じで声を出すと、ミッチェル君が「僕は正直なだけ」としれっとした顔をしてブラッディオレンジのケーキを口に入れた。ミッチェル君はもうデザートになっているんだね。

「うん。まぁ、でも多少うざ……過保護すぎかもしれないけれど、それだけ愛されているって事だよね、ルチル」

 あ、今トーマス君がうざって言いかけた。ふふふ、トーマス君って時々ポロって口に出ちゃうんだよね。でも今日はそれをフォローするユージーン君が居ないからスティーブ君が少し笑いながら口を開いた。

「案外シルヴァン様は子煩悩な父親になるかもしれないね」
「子煩悩と子供甘やかすのは違うって言い合いする未来が見える気がするよ」
「うん。頑張れ。なんならたまにならウザイと嫌われますよって言いに行ってあげるよ」
「ミッチェル! ぜひ!」

 そんな会話を聞きながら、皆がデザートに移行し始めた頃、レナード君がゆっくりと口を開いた。

「それにしてもマルリカの実か……うちの領はあまり出なかったな。まぁ小さな領だしね」
「そうなんだ?」

 僕はどうしてレナード君がそんな話を始めたのかよく分からなかった。

「ああ、エリックの所はそこそこ出たようだが、領によってばらつきはあったみたいだね」
「初めてのものに対してはやはり根付くまでにはそれなりに時間がかかるものなのかもしれない」

 スティーブ君がそれに答えて、トーマス君がコクリと頷く。

「ロマースクは最初の三十が終わって追加をしたって。領が大きくなったから領都と僕たちの方と2か所の神殿で販売をしたっていうのもあるのかもしれないけど」
「モーガンは最初の三十も少し残って足りないっていう領に回したって聞いたな」

 ああ、みんな色々なんだなって思った。
 それでも王国は、今年はもっと数が出ると予想をしていた。

「久しぶりのお茶会で、どうしようかと思ったんだけど、色々な話をしてきた私たちだから話しておきたい事があるんだ」
「レオン?」
「うん。嫌な噂が流れている。多分そのうちに広がっていく可能性があると思う。おそらくは、王室も掴んでいるんじゃないかって思うし、今年の販売にも関わって来るだろう。その前に知らせておきたいって思った」
「………うん。そうだね。その方がいいかもしれない」

 レナード君の言葉に、先ほどまでのストレス発散モードから、表情を少し硬いものに切り替えたルシルも頷いた。え? 何? どういう事? 嫌な噂って何?
 思わずトーマス君を見たら、トーマス君も表情を硬くして小さく首を横に振った。

「実は今年の一の月の後半からマルリカの実を使って授かった子供が生まれている」

 ああ、それはそうだろう。シャマル様もそうだった。去年のマルリカの実の販売が始まってすぐに手に入れて使った人達の出産は大体それくらいだ。
 この世界では子を宿すと大体266日から280日くらいで生まれてくる事が多い。
 ひと月は30日だから大体9カ月前後くらいだろうか。
 
「その子供たちを祝福する者も勿論いるんだけど、そうじゃない者も一定数いるらしい」
「え? どういう事?」

 僕はわけが分からずに思わず聞き返してしまった。

「嫌な噂、というか中傷の類だよ。わけの分からない実から出来た子供よりも、普通に出来た子供の方が上だっていう差別だ」
「…………そんな」

 ルシルの呆れたような声に僕は言葉を失っていた。


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出ると思っていた方もいらしたかな。

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