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53 三度目の交渉③
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「いずれはシェルバーネで育てるので、実ではなく苗木が欲しいというお話しでしょうか?」
ハワード先生に問い返されて皇太子殿下がハッとした顔をした。
「ああ、すみません! 言葉が足りませんでした。いえ、今のまま育てていただき、収穫したものを販売していただく事で結構です。が、数はどうしても多くなっていく予想がある。グリーンベリー伯爵の負担がどうなのかと。すみません。率直にお聞きします。今後も収穫量を増やしていく事は可能でしょうか」
向けられた問いかけに僕は息を吸って、吐いて、口を開いて……
「それにつきましてはグリーンベリー伯爵から相談を受けておりますので、私からお話をさせていただきます。お許しを」
僕よりも早く父様が話し出していた。
「許す」
国王陛下がすぐに答えて、父様は一礼をしてから皇太子殿下に向き直った。
「私がグリーンベリー伯爵から相談を受けたのは、マルリカの実を今後どのくらい作って行くのかという事でした。今年で三年目、三回の収穫が終わり、伯爵が苗木を年々増やしているお陰で収穫は年々上がってきています。これは伯爵の努力であり、好意です。ルフェリットは勿論、シェルバーネ王国からも収穫量を増やしてほしいという打診はございませんでした。勿論収穫を増やす事で伯爵が儲けているわけでもありません。元々はエルグランド家のご子息から頂いた実をここまでにした。まずはそれを認めていただきたい」
「勿論です! それは十分にシェルバーネの国王も宰相も皆、感謝をしております! 元々こうして毎年マルリカの実が手に入る事自体が奇跡なのです!」
宰相府の役人の人が慌てて口を開き、次いで皇太子殿下がシュンとしたような顔をして頭を下げた。
「私の言い方が悪かったのです。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
「いえ……どうぞ下位の者に頭を下げる事はなさりませんように。では先ほどの件ですが、努力については申し上げた通りですが、伯爵からはこれ以上マルリカの実の収穫を増やしていくのならば、専用の温室を作る方が良いのかという相談を受けております。現在は伯爵家の温室で栽培をしており、今年は温室を一棟増やして対応をいたしました。地植えも考えましたが、温室に比べ品質に差が出る可能性があるのではないかという懸念があるようです。となるとやはり新たな温室を建てるという事になるのですが、最終的にはどのような姿が望ましいのかと相談を受けたのです」
「……最終的にはですか」
「ああ、確かにそうですね。実がある事が前提としての始まりだったので、今後どのようにしていきたいのかを考えていなかった。全てグリーンベリー伯爵にお任せしてしまっていました。これでは伯爵も困ってしまいますね」
「今までは伯爵家の温室で育てていただいていましたが、さすがにこれ以上の数を望むのであれば確かに新たに専用の温室を建てた方が良いでしょう。それに色々な地でマルリカの実を育てるよりはグリーンベリーで栽培を一括に行った方がいい。無論それなりに警護が必要になりますが、かなり強い防護結界が張られているので他領よりも安全でしょう」
「ただ、ずっとこうしてグリーンベリー伯爵に任せきりというわけにはいかないだろう。今後の事をきちんと考えていかなければ、確かに伯爵も困ってしまうな」
ええっと、僕が何も言わない間に何だか話がどんどん進んで、国王陛下自らがそう言って僕を見た。そして。
「グリーンベリー伯爵、前回に引き続き今回も大きく収穫量を増やしてくれた事を感謝する。マルリカの実は今後、使ってみようと思う者が増えていくだろう。王国としてもどのようにあれば良いかを考えていく。それまでは無理のない範囲内でその数を増やしてもらえると有難い」
「………もったいないお言葉です。命の実として、大事にしていきたいと思っております。その取扱いにつきましても、子を欲しいと望む者に届くよう願っております」
「そうであるよう、必要な手を国としてしっかりと考えていく事を約束しよう」
「シェルバーネも、そうであるよう努力をしてまいります」
王族の人達にそう言われて僕はアワアワとしながらも礼をとった。
その後、事件の事や移住の事、そして今後の対策などの話があり、収穫した実はいつも通り父様からそれぞれの国に分けて販売をしてもらうから、これで完全に今年の実の管理は僕の手を離れる事になった。
来年の事についてはまた改めてそれぞれの国でどのような形になって行くのが望ましいのかを相談をしていく事が決まった。
◇ ◇ ◇
「エドワード」
会議が終わって兄様と一緒に部屋を出ると、後から父様の声が聞こえてきた。
「父様、お疲れさまでした」
「ああ、うん。色々とすまなかったね」
「いえ、大丈夫です。私も父様にご相談した通りにどうしていけばいいのか思っていましたので。これではっきりとした見通しが出ればそれに向かって整えて行きます」
「ああ、今までその話が出なかったのがおかしかった。少し話せるかな? このままグリーンベリーに帰してしまったらパティに叱られそうだ。本当ならフィンレーへと言いたいところだが、父上にも話を聞いておいてほしいと思ってね。温室の事もあるし。アルフレッドもあの場では発言できなかった事で気付いた事などを出してほしい」
「分かりました。エディ、何か感じた事や、引っかかっているようなものがあれば、ここできちんと話をしていこう」
「はい。分かりました。よろしくお願いいたします」
こうして僕達は国同士の会議の後に、家族会議を行う事になったんだ。
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ハワード先生に問い返されて皇太子殿下がハッとした顔をした。
「ああ、すみません! 言葉が足りませんでした。いえ、今のまま育てていただき、収穫したものを販売していただく事で結構です。が、数はどうしても多くなっていく予想がある。グリーンベリー伯爵の負担がどうなのかと。すみません。率直にお聞きします。今後も収穫量を増やしていく事は可能でしょうか」
向けられた問いかけに僕は息を吸って、吐いて、口を開いて……
「それにつきましてはグリーンベリー伯爵から相談を受けておりますので、私からお話をさせていただきます。お許しを」
僕よりも早く父様が話し出していた。
「許す」
国王陛下がすぐに答えて、父様は一礼をしてから皇太子殿下に向き直った。
「私がグリーンベリー伯爵から相談を受けたのは、マルリカの実を今後どのくらい作って行くのかという事でした。今年で三年目、三回の収穫が終わり、伯爵が苗木を年々増やしているお陰で収穫は年々上がってきています。これは伯爵の努力であり、好意です。ルフェリットは勿論、シェルバーネ王国からも収穫量を増やしてほしいという打診はございませんでした。勿論収穫を増やす事で伯爵が儲けているわけでもありません。元々はエルグランド家のご子息から頂いた実をここまでにした。まずはそれを認めていただきたい」
「勿論です! それは十分にシェルバーネの国王も宰相も皆、感謝をしております! 元々こうして毎年マルリカの実が手に入る事自体が奇跡なのです!」
宰相府の役人の人が慌てて口を開き、次いで皇太子殿下がシュンとしたような顔をして頭を下げた。
「私の言い方が悪かったのです。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
「いえ……どうぞ下位の者に頭を下げる事はなさりませんように。では先ほどの件ですが、努力については申し上げた通りですが、伯爵からはこれ以上マルリカの実の収穫を増やしていくのならば、専用の温室を作る方が良いのかという相談を受けております。現在は伯爵家の温室で栽培をしており、今年は温室を一棟増やして対応をいたしました。地植えも考えましたが、温室に比べ品質に差が出る可能性があるのではないかという懸念があるようです。となるとやはり新たな温室を建てるという事になるのですが、最終的にはどのような姿が望ましいのかと相談を受けたのです」
「……最終的にはですか」
「ああ、確かにそうですね。実がある事が前提としての始まりだったので、今後どのようにしていきたいのかを考えていなかった。全てグリーンベリー伯爵にお任せしてしまっていました。これでは伯爵も困ってしまいますね」
「今までは伯爵家の温室で育てていただいていましたが、さすがにこれ以上の数を望むのであれば確かに新たに専用の温室を建てた方が良いでしょう。それに色々な地でマルリカの実を育てるよりはグリーンベリーで栽培を一括に行った方がいい。無論それなりに警護が必要になりますが、かなり強い防護結界が張られているので他領よりも安全でしょう」
「ただ、ずっとこうしてグリーンベリー伯爵に任せきりというわけにはいかないだろう。今後の事をきちんと考えていかなければ、確かに伯爵も困ってしまうな」
ええっと、僕が何も言わない間に何だか話がどんどん進んで、国王陛下自らがそう言って僕を見た。そして。
「グリーンベリー伯爵、前回に引き続き今回も大きく収穫量を増やしてくれた事を感謝する。マルリカの実は今後、使ってみようと思う者が増えていくだろう。王国としてもどのようにあれば良いかを考えていく。それまでは無理のない範囲内でその数を増やしてもらえると有難い」
「………もったいないお言葉です。命の実として、大事にしていきたいと思っております。その取扱いにつきましても、子を欲しいと望む者に届くよう願っております」
「そうであるよう、必要な手を国としてしっかりと考えていく事を約束しよう」
「シェルバーネも、そうであるよう努力をしてまいります」
王族の人達にそう言われて僕はアワアワとしながらも礼をとった。
その後、事件の事や移住の事、そして今後の対策などの話があり、収穫した実はいつも通り父様からそれぞれの国に分けて販売をしてもらうから、これで完全に今年の実の管理は僕の手を離れる事になった。
来年の事についてはまた改めてそれぞれの国でどのような形になって行くのが望ましいのかを相談をしていく事が決まった。
◇ ◇ ◇
「エドワード」
会議が終わって兄様と一緒に部屋を出ると、後から父様の声が聞こえてきた。
「父様、お疲れさまでした」
「ああ、うん。色々とすまなかったね」
「いえ、大丈夫です。私も父様にご相談した通りにどうしていけばいいのか思っていましたので。これではっきりとした見通しが出ればそれに向かって整えて行きます」
「ああ、今までその話が出なかったのがおかしかった。少し話せるかな? このままグリーンベリーに帰してしまったらパティに叱られそうだ。本当ならフィンレーへと言いたいところだが、父上にも話を聞いておいてほしいと思ってね。温室の事もあるし。アルフレッドもあの場では発言できなかった事で気付いた事などを出してほしい」
「分かりました。エディ、何か感じた事や、引っかかっているようなものがあれば、ここできちんと話をしていこう」
「はい。分かりました。よろしくお願いいたします」
こうして僕達は国同士の会議の後に、家族会議を行う事になったんだ。
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