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52 三度目の交渉②
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「そうですね。一昨年、昨年はシェルバーネが融通をしていただいています。ですが、2000個が販売から八カ月足らずで売り切れてしまった事もあり、言われるがままにここで頷いてしまっては名代として不甲斐ない」
「なるほど、ですが、今回も我国は半分以下の数を提示しております。ルフェリットが2040個に対し、貴国は2724個。実りの数は変わる事はございません。どのようにどこまでを譲歩していただけますか?」
皇太子殿下の言葉にニールデン公爵が表情を変えないまま問い返した。
「…………そうですね。950組分で2850個というのはいかがでしょうか。貴国が1914個638組分となり、昨年比約1.8倍となります。我国は昨年比約1.38倍です」
「ですが、今年度は我が国も周知の年。数が増えてくる事は予想されております。となれば王国全土に数が行き届くよう、せめて650組分の実を確保いたしたく存じます」
「650組…………1950個か……。となると2814個で938組」
わ~~ん。何だか今までになく細かい数のやりとりだよ。でも今更実を増やす事は出来ない。ううん。もしかしたら【緑の手】の力で木の成長を早める事は出来るかもしれない。最初の年も頂いた実から苗木にするまで力を使った。そして苗木を増やすのにも力を使った。
だけど、力を使ったのはそれだけだ。苗木になってからは無理矢理成長を早める様な事はせずに育ててきたつもりなんだ。それでも実が付くまでには本来は二年かかると言われたのに、温室の苗木は一年で実をつけた。その時にはよく分かっていなかったけれど、子供が出来る実なんだよね。苗木を作る事だけに留めて本当に良かった。
勿論温室の中にあったから、丈夫に育ちます様にとか、美味しくなります様にってお祈りはしちゃったよ。でも時計の針を進めるみたいにどんどん大きくして加護の力で実をつけさせるような事をしなくて本当に良かったって思ったんだ。だって、それでもしも普通の実と異なる事があったらどうするの?
だから今回も勿論出来た実の数は変えられない。
木の成長を早めて実を早く採るような事はしない。
だから加護の力で実に条件を付与できるかという事も、すごく慎重になっていて全然進んでいないんだけどね。
「エディ、大丈夫?」
兄様がそっと僕の耳元でそう尋ねてきた。どうやら僕の眉間の辺りがちょっと酷い感じになっていたみたい。
「大丈夫です」
「うん。ほら、どうやらまとまりそうだよ。こういうのはお互いに探り合いだからね。数が決まっているのは全員分かっている。その中でどれだけ自分たちに有利に出来るかが交渉を任された者の役目だからね」
「はい」
うん。それは分かっているんだけど、でも何だか今までの話し合いがとても穏便で、今回は息苦しくなってしまったんだ。ダメだなぁ。
「では、今年はシェルバーネ王国が940組分2820個。ルフェリット王国が648組分1944個。こちらでよろしくお願いいたします」
「良い取引をさせていただきまして有難うございました。ルフェリット国王陛下に感謝いたします」
「いや、こちらこそ。シェルバーネは有能な皇太子が居られて安泰だ」
「有難うございます」
「今年も無事に数の割り当てが終わりました。続いての話に移ってもよろしいでしょうか?」
「はい。ですが、その前に質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」
皇太子殿下の言葉に国王陛下が「どうぞ」と答えた。
「気の早い話で恐縮ですが、マルリカの実は今後も収穫量を増やしていく事は可能なのでしょうか」
「…………」
「現在マルリカの実はグリーンベリー伯爵の所で全て育てていただいております。シェルバーネにあるマルリカの木はほとんどが枯れ落ちたり、実がつかない状況は変わりません。今後ルフェリット王国国内でマルリカの実の使用がもっと普及をしてくれば、当然欲しい数も増えてきましょう。シェルバーネも安定的に実があれば使える者が増えてきましょう。それをすべてグリーンベリー伯爵にお任せをしていてもよろしいのか、ご負担になるのではないかと心配をしております」
僕は何も言えなくなってしまった。数は確かに一年ごとに苗木を増やし、収穫できる実の数はふえてはいるが、それでもいずれは限界がくるかもしれない。それならばシェルバーネの分はシェルバーネで作れるようにしていけばいいっていう話なのかな。だけど立ち枯れが起きているような所で果たして木が育ち実をつけてくれるのかな。
「それは、どのように受け取るべきお話なのでしょうか?」
口を開いたのはハワード先生だった。
---------------
逆鱗一号(;^ω^)
「なるほど、ですが、今回も我国は半分以下の数を提示しております。ルフェリットが2040個に対し、貴国は2724個。実りの数は変わる事はございません。どのようにどこまでを譲歩していただけますか?」
皇太子殿下の言葉にニールデン公爵が表情を変えないまま問い返した。
「…………そうですね。950組分で2850個というのはいかがでしょうか。貴国が1914個638組分となり、昨年比約1.8倍となります。我国は昨年比約1.38倍です」
「ですが、今年度は我が国も周知の年。数が増えてくる事は予想されております。となれば王国全土に数が行き届くよう、せめて650組分の実を確保いたしたく存じます」
「650組…………1950個か……。となると2814個で938組」
わ~~ん。何だか今までになく細かい数のやりとりだよ。でも今更実を増やす事は出来ない。ううん。もしかしたら【緑の手】の力で木の成長を早める事は出来るかもしれない。最初の年も頂いた実から苗木にするまで力を使った。そして苗木を増やすのにも力を使った。
だけど、力を使ったのはそれだけだ。苗木になってからは無理矢理成長を早める様な事はせずに育ててきたつもりなんだ。それでも実が付くまでには本来は二年かかると言われたのに、温室の苗木は一年で実をつけた。その時にはよく分かっていなかったけれど、子供が出来る実なんだよね。苗木を作る事だけに留めて本当に良かった。
勿論温室の中にあったから、丈夫に育ちます様にとか、美味しくなります様にってお祈りはしちゃったよ。でも時計の針を進めるみたいにどんどん大きくして加護の力で実をつけさせるような事をしなくて本当に良かったって思ったんだ。だって、それでもしも普通の実と異なる事があったらどうするの?
だから今回も勿論出来た実の数は変えられない。
木の成長を早めて実を早く採るような事はしない。
だから加護の力で実に条件を付与できるかという事も、すごく慎重になっていて全然進んでいないんだけどね。
「エディ、大丈夫?」
兄様がそっと僕の耳元でそう尋ねてきた。どうやら僕の眉間の辺りがちょっと酷い感じになっていたみたい。
「大丈夫です」
「うん。ほら、どうやらまとまりそうだよ。こういうのはお互いに探り合いだからね。数が決まっているのは全員分かっている。その中でどれだけ自分たちに有利に出来るかが交渉を任された者の役目だからね」
「はい」
うん。それは分かっているんだけど、でも何だか今までの話し合いがとても穏便で、今回は息苦しくなってしまったんだ。ダメだなぁ。
「では、今年はシェルバーネ王国が940組分2820個。ルフェリット王国が648組分1944個。こちらでよろしくお願いいたします」
「良い取引をさせていただきまして有難うございました。ルフェリット国王陛下に感謝いたします」
「いや、こちらこそ。シェルバーネは有能な皇太子が居られて安泰だ」
「有難うございます」
「今年も無事に数の割り当てが終わりました。続いての話に移ってもよろしいでしょうか?」
「はい。ですが、その前に質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」
皇太子殿下の言葉に国王陛下が「どうぞ」と答えた。
「気の早い話で恐縮ですが、マルリカの実は今後も収穫量を増やしていく事は可能なのでしょうか」
「…………」
「現在マルリカの実はグリーンベリー伯爵の所で全て育てていただいております。シェルバーネにあるマルリカの木はほとんどが枯れ落ちたり、実がつかない状況は変わりません。今後ルフェリット王国国内でマルリカの実の使用がもっと普及をしてくれば、当然欲しい数も増えてきましょう。シェルバーネも安定的に実があれば使える者が増えてきましょう。それをすべてグリーンベリー伯爵にお任せをしていてもよろしいのか、ご負担になるのではないかと心配をしております」
僕は何も言えなくなってしまった。数は確かに一年ごとに苗木を増やし、収穫できる実の数はふえてはいるが、それでもいずれは限界がくるかもしれない。それならばシェルバーネの分はシェルバーネで作れるようにしていけばいいっていう話なのかな。だけど立ち枯れが起きているような所で果たして木が育ち実をつけてくれるのかな。
「それは、どのように受け取るべきお話なのでしょうか?」
口を開いたのはハワード先生だった。
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逆鱗一号(;^ω^)
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